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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
35/201

GDPよりも歳出の何%かのほうが重要な気もする

新世界暦1年2月9日 アメリカ合衆国ワシントンD.C. ホワイトハウス


大手高級日刊紙ニューヨークジャーナルの一面を埋めたエドワードという記者の記名記事に目を通している家主(大統領)


「すげーなこいつ。ニューヨークジャーナルの記者(エリート)様のくせにガッツありすぎだろ!勲章でもやるか!」

「ちなみにこちらが昨日の彼の様子です」


そう言ってCIA長官が差し出したタブレットには、無人偵察機が撮影したらしい赤外線(FLIR)映像が再生されていた。


群衆の前に1人が引きずり出されている。

何事かやりとりがあったあと、群衆がわっと警備らしき者たちに襲い掛かり、引きずり出された男を助けたが、次の瞬間、画面はホワイトアウトした。

画面が回復すると、そこには吹き飛ばされた人間らしきものが散らばっていた。

白黒の赤外線映像であることに感謝である。


「つまり?」

「この記事が彼の最後の記事になりますね」


大統領は頭を抱える。

これを見殺しにしたとか言われると、非常に面倒なことになりそうだと思ったためである。


「勢いで押し切るしかないでしょう」


大統領補佐官は続けた。


「子供達をホワイトハウス(ここ)に呼んで、盛大に勲章を授与して彼の行動を称えるのです。そして敵の卑劣さを訴える。別に我々が彼を殺した訳ではありませんし、彼ら(エドワードと群衆)を助ける方法が無かったのも事実です。ごまかせますよ」

「開戦してしまえば些細な事、か」


メキシコシティを絶対防衛線として兵力の展開は完了し、SOCOMを中心に前線での情報収集もやっているものの、こちらから仕掛けることに関しては世論は未だ懐疑的であった。

結局のところ、地上戦で戦死者がでることに対する懸念が強いわけで、それを吹っ切る理由が必要だった。


最終的に向こうが侵攻を再開すれば戦わざるを得ないわけだが、先制攻撃で勢いを削いでしまうほうがいいのは明らかである。


「多国籍軍の安保理工作も、正直、中国もロシアも、拒否権を使ってまで反対はしないでしょう。中米諸国も敵に回すことになりますし、自分達の利害は絡まないわけですからね」

「新大陸とか連中が呼んでいる場所の利権は多少認めてやらねばならないでしょうがね」


これがマスコミがいないような場所なら適当にでっちあげて、米軍が攻撃を受けたことにすればいいのだが、使い古された手であり、メキシコに大量のメディアが入っている状況では即座に露見する恐れがある。

すでに展開している部隊も撤収などと言う話になれば、次の防衛線は間違いなくアメリカ・メキシコ国境であり、それはつまり「後がない」ということである。


「別に開戦に反対する世論が多数派というわけでもありません。きっかけひとつで一気に転びますよ」


最新の世論調査では米軍の参戦への賛成は半々。

きっかけさえあればどちらにも転ぶ状況故に慎重な行動が求められているのである。


「そちらは今のところその程度か。それで、日本が戦ってたなんとかって国はどうなったんだ」

「アズガルド神聖帝国ですね。実質無条件降伏で外交チャンネルを開くことに成功したようです。手なずけて国連にいれる方針のようですね」

「それなりに大きな国のようですし、かつての中国のように巨大市場として期待している面もあるのでしょう」


軍人や補佐官に代わって、国務省や商務省の関係者が口を挟む。


「中国のように、ねぇ。大丈夫か?」

「我が国以上に中国には懲りているでしょうし、同じ轍を踏むのは避けるでしょう」


楽観的な観測を口にする商務長官だが、根本的に経済関係のことはどこの国も長期的視野よりその時儲かる方に流れがちというのを忘れている。


「まぁ、そちらは日本とイギリスに任せて、美味しそうになったら乗っかればいいのです。まずはこちらのことを片付けませんと」

「中国とロシアが勝手に潰し合ってくれたら楽でいいんだがなぁ」


そう考えている国が多いことくらい中国もロシアもわかってるだろうからうまくいかないんだろうな、と皆諦めてはいるものの、適当に弱ってくれたほうが脅威を煽って予算をとりやすいのにな。と思う国防総省関係者だった。





新世界暦1年2月10日 アズガルド神聖帝国帝都アガルダ 参謀本部御前会議室


日本訪問団による外交交渉と、マスコミによる取材旅行は未だ続いていたものの、交渉状況の途中報告のために1人だけ一時帰国した二等交渉官は、内心「聞いてねぇよ!」と絶叫していた。

日本からの帰国時、外務大臣首席補佐官には


「本国の方針とすり合わせが必要だから連絡業務よろしく」


と言われて、報告書を持たされて本国から迎えに来た旅客仕様のイーム輸送機に押し込まれたのである。

帰りの機中で行きに乗った日本の飛行機と比べてしまい、自国が技術の粋を集めて造ったはずの最新輸送機の惨めさに暗澹たる気持ちになったのはまあいい。


アガルダ飛行場に降りたと思ったら迎えの車に詰め込まれて、この部屋まで連れてこられたのはどういうことだ。

そして、縦長の机の入り口側に自分。

向こう側にこの国で一番偉い人(皇帝陛下)、そして机の両側にはずらっと階級に星がいっぱい(偉い)の人。


首相以下文官がいないのは、内閣総辞職とそれに伴う皇民院の解散総選挙のせいである。

というか、しれっと軍服を着てアルノルド中将が座っているが、聞いた話では退役して選挙にでているはずなのだが。


「では、日本国との交渉経過を報告せよ」


報告書読めよ!なんて皇帝に向かって言えるわけも無く、「俺が出るような会議じゃねぇ!?」と思いながら報告を始める。

賠償として日本に譲渡する採掘権についての詳細、今後の外交関係について、通商について、アズガルド神聖帝国軍の再建について、などなど、日本との話し合いの内容は多岐にわたり、ぶっちゃけ日本訪問団は人が足りない状況である。


「えー、それでは報告を始めさせていただきます」


ガチガチに緊張した二等交渉官は報告書を見ながら報告を始める。

皆、採掘権の譲渡や外交関係の構築について黙って聞いていたが、国連の話になった際に様々な意見が出た。


「200もの国があるというのなら、他の国を利用して日本に対抗を」

「日本に対抗できる国が我が国を必要とすると?せいぜい捨て駒にされるのがオチだ」

「では今の屈辱的な状況を甘んじて受け入れると言うのか!」

「敗戦国に対する勝者としては日本は紳士的で寛大だと思いますがね」

「貴様!いま我が国を敗戦国と言ったのか!よくもそんなことが言えたな!」

「現実を見たまえ。海空戦力はほぼ全滅。我が国は負けたのだよ」


未だに負けを受け入れられない一部タカ派は、日本以外の国を利用して日本を叩くことを提案するが、それは交渉団内でも選択肢として検討されたものである。

そして、揺さぶりとして日本にそれを匂わせた結果、さらなる絶望を味わうことになった。


「アルノルド」


騒々しかった部屋が、その一言でピタリと静かになる。

そもそも退役したとはいえ、アルノルド退役中将を呼び捨てにできるのは1人しかいない。


「卿の意見を聞こう」


皇帝に促されてアルノルドが発言する。


「私もそれについては日本に仄めかしたことはあります。しかし、それに対する彼らの回答は、日本は彼らの世界で世界第3位の経済規模を持つ国であり、世界第5位までの経済規模の国のうち2位以外は同盟国で、その2位の国は共産主義国家だそうです」


その言葉を聞いた一同は沈黙する。


「さらに日本は国家予算の5~6%しか軍事費に充てていません」


その言葉に国家予算の半分近くを軍事費に充てている国家首脳の面々は、絶望的な顔になる。

ちなみに、日本にそのことを告げられた交渉団の面々も同じ顔してたなぁ、と二等交渉官は他人事のように思った。


「それでは、報告を続けさせていただきます」


最早ヤケクソ気味の二等交渉官は静かになったのを確認して報告を再開する。

その様子に、何人かがほう、と感心したように呟いたのだが二等交渉官は気付かない。

もっとも、ヤケクソの二等交渉官は、物怖じしない豪胆な奴、といろんな(偉い)人に思われたことで本当は小心者の二等交渉官は地獄を見ることになるのだが、本人がそれに気付くのはまだ先の話である。


この報告により、日本派遣交渉団の増員と交渉の加速、日本の同盟国との外交チャンネル開設準備が決定され、即座に準備が始められた。





新世界暦1年2月10日 日本国東京都市ヶ谷 防衛省


「やれやれ、英国は急ぎ過ぎじゃないかね」


護衛艦の海外派遣に関するプレスリリースを考えていた官僚は、背もたれに体を預けて大きく伸びをした。


「新世界における多国間の親善と協調、と名目は言ってるが、実際には多島海条約機構(APTO)結成の事前演習なのは見え見えだしな」


参加国は日本の他、アメリカ、イギリス、ニュージーランド、シンガポール、フィリピン。

日本からはDDH「いずも」、DDG「きりしま」、DD「ふゆづき」「まきなみ」、FFM「やはぎ」「さかわ」の6隻と補給艦が派遣予定、と言えば演習の規模が知れるだろう。

アメリカは空母1隻、強襲揚陸艦1隻、巡洋艦1隻、駆逐艦4隻、LCS2隻、イギリス海軍は空母1隻、駆逐艦2隻、フリゲート3隻、ニュージーランドとシンガポール、フィリピンはそれぞれフリゲート1隻である。


リムパック並の大演習だが、潜水艦が含まれないのは海底地形の把握が未だ不十分なためである。

さらに海自にはアズガルド神聖帝国、イギリスにはフィジー、トンガの連絡武官が参加することになっている。


「憲法改正、どうすんのかねぇ」

「さぁ?解釈変更で押し切るんじゃないの?」


最早変えないせいで、どうとでも解釈すればそれでオッケーになりつつあることが最大の問題の日本国憲法を抱えたまま、「普通の国」に突き進む国のある日のヒトコマであった。

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