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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
34/201

ある記者の終わり

新世界暦1年2月8日  メキシコ合衆国キンタナ・ロー州 チェトゥマル国際空港


なんの労りもなく、乱暴に引き摺られた衝撃で、意識が戻ってくる。

見れば、服を脱がされ、2人に両腕を掴まれて引きずられていた。


最後の記憶を手繰り寄せてみるが、車が横転した以降の記憶はない。

子供たちは無事に救助されただろうか。

それだけが気がかりだった。


やがて乱暴に投げ出されたエドワードは、目の前に群衆がいることに気付いた。

ぱっと見ではここがどこで、なぜ集められているのかはわからない。


やがて、エドワードを引き摺ってきた男たちが大声で何事か話し出したが、何を言っているのかさっぱりわからない。

とりあえず、英語やスペイン語ではない。さっぱりわからないので、この2つに連なる言語体系ですらないのだろう。


「何言ってんのかわかんねぇよ!英語かスペイン語でしゃべりやがれ!」


エドワードは男に向かって怒鳴りつける。


自らの弁舌を邪魔されたのが気に障ったのか、男は何事か喚きながらエドワードを殴打した。

口の中に温かいものが広がり、同時にころころしたものがあるのに気付く。

歯が折れたようだ。

なんの手加減もなく、力一杯殴りつけられたようである。


やがて男は弁舌を再開する。

そして、エドワードの首を掴んで顔を無理矢理あげさせられた。

その時を利用して、男に向けてエドワードは唾を吐いた。


吐かれた唾は、綺麗に男の顔に着いた。

唾、というよりも半分くらいは血なのだろう、真っ赤なそれは、やがて垂れて男の白い服を汚した。


男は何をされたのかわからないかのように、ポカンとしていたが、群衆は過激に反応した。

わっと歓声をあげて、騒ぎ出したのである。


「そうだ、何言ってるかわかんねぇんだよ!」

「ふざけたことしやがって!家族をどこにやりやがった!」

「このクソ野郎!俺の子供はどこだ!」


スペイン語で一斉に群衆は騒ぎ出した。

どうやらメキシコの占領地域から集められた群衆のようだ。


やがてわっと群衆はエドワードのいる場所まで走り寄ってきて、男2人はあっという間にボコボコにリンチされた。

エドワードは助け起こされるが、自分の力では立てないようだ。


お前はガッツがあるとか、スカッとしたとか、もみくちゃにされながら褒められるのだが、そんなことより手当てしてくれ、というのがエドワードの本音だった。


やがて、誰ともなく、家族を捜しに行くぞ、とかあのクソ野郎どもをぶっ飛ばすぞ、とか声が上がり始める。

威勢がいいなぁと思ったエドワードだったが、その意識は青白い爆発の閃光とともに砕け散ったのだった。





新世界暦1年2月8日  メキシコ合衆国キンタナ・ロー州 チェトゥマル国際空港上空


「蛮族の管理もできんとは・・・」

「申し訳ございません、無能だとは思っていましたが、言葉も解さぬ蛮族に説法をするほど馬鹿だとは思ってもいませんでした」

「まあ、あのバカもこのままでは先が無い(教徒に落とされる)のはわかっていただろうから、功を焦ったのだろう」

「それにしても、言葉も解さぬ蛮族数万を神の教えで導く、など実際にできれば聖者タスマンをも越える偉業でしょうに。なぜできると思ったのやら」


男たちは話しているが、飛行艇から地上への砲撃は続いている。


「全く、蛮族の処分に砲撃を使うなど、一体本国になんと弁解すればいいのやら」


やれやれと艦長は面倒くさそうに言った。


「それにしても、言葉の通じない蛮族のくせに数だけは多いな」

「処分するのも一苦労ですよ。もっともおもちゃが多いと一部は喜んでいますが」


下卑た顔をする副長だが、神聖ダスマン教国の一般の兵隊は鉄の規律で縛られているので狼藉を働くことは無い。

そもそも命令以外のことをする脳が無いので、旧ソ連軍も真っ青な暴行や略奪を働くのは基本的に幹部連中である。


「やれやら、ただでさえ侵攻再開が遅れているんだから、皆いい加減遊ぶのは止めて真面目に準備してくれんかね」


艦長は狼藉そのものについては咎めることはなく、溜息をつくのだった。





新世界暦1年2月9日 アメリカ合衆国ニューヨーク 国連本部近隣ホテル


今日も止むことはない援助を求める各国国連大使の面会の列に嫌気が差したアメリカを中心とした国の国連大使が集まって会合を開いていた。

参加国は米国、英国、日本、ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール、カナダである。


「それで、現在メキシコまで侵攻している不明国に対応するための国連軍を編成するための決議を安保理に求めるつもりだが、各国の見解と参加の是非を問いたい」


厳密には国連憲章の定める国連軍ではなく、安保理決議に基づく多国籍軍というべきものである。

そもそも、朝鮮戦争の多国籍軍が国連軍と呼ばれたのが間違った呼称が広まった原因である。


「我が国としては、NORAD(北米防空司令部)のこともありますので、安保理決議に関係なく航空戦力は参加させると決まっております。安保理決議があれば地上兵力についても検討すると内密に政府首脳から連絡を受けています」


アメリカ国連大使の問いに、最初に応えたのはカナダ国連大使だった。

実際、事態が北米大陸に及ぼうをしているので、カナダも他人事と言うわけにはいかなくなってきているので、ある意味当然である。


我が国(日本)は憲法問題もあり、現状での参戦は難しいでしょう。ただ安保理決議が出れば、国連の活動ということですから、正面戦闘以外への参加は可能になるだろうとのことです。正面戦闘への参加をすぐに、というのは世論的にも難しいと思われます」

我が国(英国)もすぐに参戦したいところですが、自国の周辺情勢が不安定です。大規模な戦力を派遣、というのはしばらく様子見になると思います」


一方、日本とイギリスは少し引き気味の返答である。

日本は憲法問題があるのでいつも通りだが、イギリスが引き気味なのはNATOを抜けて多島海条約機構(APTO)を作ろうとしているので、お前(アメリカ)も入れという言外の要請である。


「安保理決議には賛成ですが、我が国(シンガポール)が保有する兵力は微々たるもの。周辺地域が安定するまでは正面戦力を抽出するのは困難です」

我が国(オーストラリア)は従来以上に周辺に脅威が無くなりましたので、派兵できるでしょう」


派遣する理由がねぇよ、というシンガポールと、派遣してもいいよというオーストラリア。

ニュージーランドは沈黙しているが、派遣する気は無さそう。というのが国連大使の表情を見た参加者の感想である。


「ふむ、まあ概ね想定通りと言ったところですか」


ぶっちゃけ参戦させるだけなら、食糧援助と引き換えにアフリカや南米、西欧諸国を引きずり出すことができるので、アメリカもさほど真剣には考えていない。

というか、賛成してくれればそれでいいのであって、実際に派兵してくるとなると戦線の割り振りとか、指揮権とか、装備格差とか、いろいろ面倒なのである。


「しかし、アフリカはともかく、西欧諸国まで援助を求めてくるのはどうにかならんかね」

「多少の支援は止むを得ないと思いますし、産業基盤がダメージを受けたのは事実でしょうが、アフリカと同じように支援しろというのはどうにも」

「買えよ、という話だわな」


大農業生産国であり、気候変動の影響がさほどでもなかったアメリカとオーストラリアは、大幅な減産という事態は避けられそうであり、それ故に「買えよ、タダじゃねぇんだぞ」という立場である。

日本は日和ったので世界樹島の特殊な環境は無かったことになっている。


「しかし、ひと月程度ではとても落ち着きませんね。この世界は」

「10年ぐらいは揉めるんじゃないですかね?中東見てたらそれでも短い気がしますが」


やれやれ、と言った感じに皆コーヒーを啜るのだった。





新世界暦1年2月9日 ザルツスタン連邦国 大洋艦隊


この世界が従来と全く違うものになってしまっているというのは判明しているが、一向にこの世界の全容が掴めないことに皆苛立っていた。

政府首脳もそうだし、周辺の捜索を行っている海軍の全戦力を統括する大洋艦隊もそうだった。


「それで、未知の大陸に動きはあるか?」


艦隊旗艦である(地球基準で言うと)超ド級戦艦の艦隊司令室に不機嫌そうな声が響く。


「ありません。海岸部に人の手が入っている様子が見られる場所は何か所かありましたが、船舶とは遭遇しませんし、航空機による索敵も行っていますが、特に何も」

「その航空機による索敵ですが、最近未帰還が増えています。何の無線もないので、攻撃を受けたとは考えにくいですが、遭難機種も様々なので不具合とも考え難い状況です。一度帰港して休養と整備を行うべきでは?」


実際には遭難している捜索機は全て中国軍に叩き落されているのだが、全て戦闘機による後方からAAMによる奇襲か、無線を妨害したうえでの艦隊空ミサイル(SAM)なので彼らにそれを知る由はない。

艦隊に関しては、レーダーと航空哨戒で事前に針路を避けていたので未だに全く接触がないのである。


「ええい、1隻くらい通らんのか。拿捕して情報を聞き出さねば何もできんではないか!」


いきなり拿捕とは乱暴な気もするが、常在戦場な元の世界では普通に認められていた。

基本的に独航船は密輸船か、リスクをとって(荷主にオンデマンドで)高い積み荷料をとるベンチャー的な船会社のどちらかだったためである。

普通の商船は船団を組んで、場合によっては護衛船も着くというのが常識の世界だったので、独航船=とりあえず停船というのが海軍の常識だった。


ザルツスタン連邦国の苦悩は続く。

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