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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
30/201

世界は混ざる

新世界暦1年2月6日 ベリーズ ベリーズシティ近郊


カリブ海に半島状に突き出した美しい観光の町であったベリーズシティだが、最早その面影は見るも無残なものになっていた。

住民は追い立てられ、幼い子供は親と引き離されてどこかに連れていかれ、一定以上の年齢は無慈悲に殺されるか、ただ殺されるのを待っている状況である。

そして、一部の軍は欲望のままに気に入った相手に狼藉を働いているようである。


「聞いてたよりひどいじゃねぇか!」


その様子をジャングルに隠れて、カメラの望遠レンズで捉えている男が1人。

先日、ニューヨークの事務所でデスクに噛みついていた記者、エドワードである。

合衆国政府が軍事介入するために状況を誇張している。そう信じて強引に取材にきてみれば、現実は全く逆、政府の発表はかなり優しい表現を使っていたのだと思い知らされた。

というか、こんな生々しい「証拠」をおいそれと公表できるわけがない。偵察機の映像が全て非公開となっていた理由を彼は初めて知った。


そして、何よりも、見つかれば彼自身の生命も危険にさらされる。

とはいえ、脱出しようにも、乗ってきた軽飛行機はもともと片道切符の燃料でしかない。

米空軍のAWACSの交代パターンを読んで、警戒の間隙を突いて低空で侵入、ベリーズ川に着水して乗り捨てたのである。

まるで麻薬密輸業者のような飛行で、二度とやりたくないと強く思った。


写真は十分に撮れた。

ではこれからどうするべきか。


もともとはあわよくば相手の取材を、などと考えていたが、現地で見て、それを受けてくれる相手だと思うほどお気楽な頭はしていない。

そもそも、現地に来てから気付いたがスペイン語も英語も通じ無さそうである。

言語問題に気が付かなかったとは、肝心なところで我ながら抜けていると、一人苦笑した。


「さて、笑ってるわけにも行かないぞ。どうやって脱出するか・・・」


もっとも、陸路しかないわけだが。

考え事をしている彼は、自分の後ろの茂みが大きく揺れたのに気付くのが遅れたのだった。





新世界暦1年2月6日 アズガルド神聖帝国帝都アガルダ 大手日刊新聞社


皇帝がラジオ放送で直接国民に呼びかけるという前代未聞の方法で、日本と言う国に事実上敗北したことを伝えたことは、国内に大きな動揺を生んだが、それは帝国が負けたせい、というよりも、皇帝がマイクの前に立ったことへの驚きの方が大きい。

帝国が負けたことへの驚きが少なかったのは、ビフレスト軍港で着底した無様な姿を晒している戦艦群や、連日空爆を受けている空軍基地を見ていれば、勝っているとは到底思えなかったからである。


一部で徹底抗戦を叫ぶ声があるにはあったが、皇帝に「不幸な行き違いによる衝突」「帝国は存続し、今後日本国は友好国となる」と言われてしまえば「なぜ徹底抗戦する必要があるのか?」という話になり、直に鎮静化した。

賠償として、エルドフリームニル油田の採掘権が引き渡されることに関しては現地の労働者たちが抗議の声を上げていたが、大方の見方は「そんなもんか」という程度であった。


ホリアセ共和国以下複数の国と200年も海外領土で戦争を続けていれば、ほとんどの市民にとって戦争は日常(どうでもいい話)である。


そんな中、マスコミは必死になって日本という国の情報を集めようとしていた。

彼らを駆り立てたのは、純粋な興味(売るため)というのもあったが、軍から漏れ聞こえてくる話があまりに荒唐無稽だったからである。

曰く第一空母艦隊を僅か数機の攻撃で全滅させた、240機の航空機を一方的に撃破した、地上戦も含めたすべての戦闘で日本軍に戦死者はでていない、などなど。


とはいえ、軍から漏れ聞こえてくる話以外のソースが無いのも事実であり、報道としては内閣総辞職に伴う議会選挙が主となっていた。

経済界も自国を遥かに凌駕する技術を持つらしい国に、興味は抱いていたが、情報がないのと、なによりそんな国の企業が進出してくれば自分たちは駆逐されかねないという恐怖が先行していた。


「で、そんな中日本政府からマスコミ各社に招待状が届いた、と」


記者はデスクに渡された招待状を見ながら言った。


「そういうわけだから、君、カメラマン1人連れて行ってきて」


ちょっと現場行ってこいよ、くらいのかるーい感じでデスクは言った。


「いやいやいや、おかしいでしょ!?」

「大丈夫大丈夫、招待客なんだから殺されたりしないって」


デスクはボリボリとお菓子を食いながら軽い感じのまま言った。


「まあ、相互理解の第一歩なんだ。何より他社が行くんだから、うちだけ行かないという選択肢はあるまい?君が行かないなら他のに行かせるけど、どうする?」


そうデスクに言われて、じゃあ他の人にお願いします。と言うくらいなら記者などやっていない。


「わかりました。行ってきます」

「あ、出発今日だから、遅れないようにね」


招待状が今日来たわけねぇだろ、何してたんだよ!?絶対いつかぶん殴ってやる!と強く心に誓って記者は準備をするために部屋を出たのだった。


ちなみに、実際にもたもたしていたのは日本政府から大手マスコミに配るよう言われたアズガルド神聖帝国政府であって、デスクではないのだが日頃の行いは大事ということである。





新世界暦1年2月6日  アズガルド神聖帝国帝都アガルダ近郊 アガルダ飛行場


大手マスコミ各社の記者やカメラマン、そしてアズガルド神聖帝国政府の関係者が集まっていた。

日本政府が招待した訪問団の面々である。

ちなみに、ここが集合場所に指定されたのは2000mの舗装滑走路があるためである。

もっとも、英空軍の攻撃に滑走路でドでかい穴がいくつも空いていたのを慌てて修理したのだが。


これから向かう未知の国について、顔見知り同士で話し合っているが、その多くは急すぎる日程についての愚痴が混ざっており、それが漏れ聞こえてくるとアズガルド神聖帝国政府関係者は小さく縮こまっていた。


やがて3機の機影が見えてくる。

1機は空自のC-2輸送機、残りの2機は日本の大手航空会社2社のグループ会社がそれぞれ運航する国産旅客機である。

ちなみに、2機になり、しかも異なる2社からのチャーターとなった理由は、今後のアズガルド神聖帝国との間の定期便開設や、アズガルド神聖帝国での知名度向上を狙った大手2社が我が我がと国交省で取っ組み合いの喧嘩をしたせいである。

喧嘩両成敗ということで、自衛隊機を使う案もあったのだが、客を招くのにC-2は不適切だし、政府専用機が降りるには滑走路が短く、設備が狭いということで、仕方なくこのような形になった。


そして、次に問題になったのは「アズガルド神聖帝国にタラップはあるのか?」という話である。

梯子でも問題はないが、それなら運んでしまおう、ついでに荷物も貨物室に積むのは一苦労だから楽なのに積もう、といってC-2が随伴することになった。

泥縄という言葉が浮かんだ、空自と国交省の担当者だったが、「結局、C-2使うのが一番早かったのでは?」という言葉は辛うじて飲み込んだ。


整備されていて当たり前のインフラが無いと何事も大変、というのは進み過ぎた社会の欠点である。


「おい、なんだあれは」

「我が国のイーム輸送機よりでかいぞ!」


着陸進入してきたC-2を見て記者たちが騒ぎ出す。

イーム輸送機は4発重爆をベースに改造した大型輸送機であり、アズガルド神聖帝国では最大の輸送機である。

それよりもずんぐりむっくりしているとはいえ、遥かにデカい機体の出現に記者たちは驚きを隠せないでいた。


続いて、C-2よりは細く、洗練された機体が侵入してくる。

2機は同型機のようだが、1機はトリトンブルーとモヒカンブルーのラインが入っており、もう1機は垂直尾翼に赤い鶴のマークが入っている。


「おい、全部プロペラがないぞ」

「翼にぶらさげているのがエンジンか?どうなっているんだ?」


自分達の常識に当てはまらない航空機に、記者たちはこれから向かう国の底知れなさを感じた。


やがて、C-2から降りてきた自衛官によってタラップが設置され、外務省の担当者が降りてくる。


「はじめまして、日本国外務省の毛利と言います。皆さまの今回の視察旅行の案内役を担当させていただきます」

「同じく外務省の立花と言います。よろしくお願いします」


自己紹介が終わった途端、全ての記者は一斉に質問を投げかけるが、2人は手でそれを制する。


「質疑応答の時間はあとで設けておりますので、まずは日程の説明をさせていただきます」


数日に渡る日程が設けられているのだから、焦る必要は無い。

そのことを記者たちも理解したのか、黙って説明を待つ。


「まず、この後航空機で我が国の千歳基地に移動。我が国に関する簡単な説明を受けていただきます。そのまま千歳にて宿泊、翌日は陸路で枝幸に移動。慰霊祭に出席いただきます」


そこで記者たちから声が上がる。


「戦争で死者が出るのはお互いだろう!」

「なぜ我々だけが貴国の慰霊式典に参加せねばならないのだ!」


抗議の声を上げたのは、主に保守強硬派と言われる新聞社だったが、その他の各社も声こそ挙げていないが、不満が顔に出ている。


「何か勘違いされているようですが、枝幸で宣戦布告も無く、艦砲射撃で虐殺されたのは我が国の一般市民です。それを是とされると?」


毛利は笑顔を崩さないが、纏ったオーラは鬼気迫る物である。

その気迫に記者たちは気圧される。

そして、日本が何の情報も持たないはずなのに攻撃目標を軍事施設のみに絞っていたことに思い至り、ここで慰霊式への出席を拒絶した場合の影響を考え身震いする。


つまり、この外交官は笑顔で「お前らは、無差別攻撃されてもそれを受け入れるのか?」と言っているのである。


「ふむ、異論はないようですので、続けさせていただきます。慰霊祭終了後、千歳に戻り航空機で東京に移動、我が国政府が貴国向けの記者会見を予定しております。翌日からは現地で希望を聞いたうえでいくつかのコースに分かれて取材していただき、2日間の日程をこなした後、帰国、という予定になっています。なお、質疑応答は各日の夜に設けております」


このことにご質問は?という感じで毛利は記者たちを見渡すが、特に声は上がらない。


「それではご搭乗ください。良い空の旅を」


機体の割り振りはアズガルド神聖帝国側で事前に決めている。

要するに招待状を配るのが遅くなったのは、この「どこにどの新聞社を乗せて、どれだけ呼べるか、を調整するのに手間取ったせいなのだが、新聞社にしてみればいい迷惑である。


30分後、アズガルド神聖帝国の外交官と記者たちを乗せた2機の旅客機と、随伴のC-2は千歳基地に向けて飛び立ったのだった。

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