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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
3/201

収拾と野心

新世界暦1年1月1日 日本国 東京 総理大臣官邸


「いやぁ、まぁなんとか落ち着いたねぇ」


のほほんと湯飲みからお茶を啜っているのは、この国の政治家で一番偉い人である。


「ちっとも落ち着いてませんよ。状況わかってますか?」


その横でカリカリしているのは内閣の女房役こと内閣官房長官。


「いや、まぁ原因不明で変なとこに転移しちゃったらしいってのはわかったけど、これまでに連絡とれたのが、イギリス、インドネシア、フィリピン、ブルネイ、パプアニューギニア、パラオ以下太平洋の諸島国家、スリランカ、グアムにハワイ、台湾とシンガポールでしょ。なんとかなるなる」

「もしほんとにこれらの国しかなければ致命的に食料が不足しますけどね」


官房長官の言葉にぐぎぎと苦痛に歪んだ表情をする総理。


「人が考えないようにしてるとこにつっこまないでよ」

「あなたがそれを考えなくてどうするんですか」


日本の食料自給率は50%を割っているうえに、イギリスも60%代、一番高そうなインドネシアでも90には届かない。


「それは短期的にどうにかなる問題じゃないでしょ。今は目先の問題だよ。自衛隊機を使った周辺海域の捜索はどうなの」

「現在までに発見できた異常をあげるとキリがありませんが、問題になりそうなのが2つ。あと国内で判断に困る事象が1つ」


そもそも各国の位置関係が滅茶苦茶になっているので、もはや連絡がついたらとりあえずオッケー、場所の問題は後から考えようという状態である。


「まず1つは北海道の北東、本来ならオホーツク海にあたる部分ですが、概ね距離で400キロの海域にかなり大きな島が出現しています」

「どこの国?」

「不明です。F-35による偵察では都市の存在は確認できますが、既知の国ではない可能性が非常に高いです」

「面倒だなそりゃ」


外交関係がない国というのはただでさえ面倒なのに、未知の国とか面倒なんてレベルではない。


「もう一つは、太平洋上、硫黄島と沖縄の間の海域、まぁ要するに沖ノ鳥島の北方ですな。ここにざっと直径300キロの円形の島が出現しています」

「200海里内か。なんとかうちの領土ってことにできない?」


そんなところに別な国なんかができてしまったら苦労して確保している沖ノ鳥島の努力が水の泡である。


「こちらが海自の哨戒で撮影した写真です」

「・・・この木なんの木?」


そこに写っていたのは、島全体を覆う巨大な、巨大すぎる1本の木であった。


「島全体が木陰・・・木陰でいいのかこれ?になってるのか」

「まぁ、その下は普通の森みたいですね。日陰になって植物の生育に問題が出そうなものですが、そうした影響は見受けられません」

「これ高さどれくらいあんの?」

「海自が上を飛んで確かめた限りでは富士山よりは高いみたいですね」


とんでもない巨木である。

当然、そんなものが地球に存在するわけがないので、これも未知の島である。


「無人島なん?」

「電波放射は確認できなかったようですが、写真を解析する限り、巨木の根元付近に街のようなものが見受けられますね。中世ファンタジー世界みたいな城と街ですが」

「というかこれ良く見たら幹から滝が流れ落ちてるの?どうなってんのこれ?もうちょっと情報欲しいなぁ」


総理の無茶ぶりに慣れている官房長官はこれを無視。


「とりあえず、この2つの島よりも緊急に対応が必要な問題がいくつか」

「まぁ、外務省と防衛省に島の監視と、接触の準備はさせといてよ」

「わかりました。では、緊急の問題ですが、まずシンガポールからの救援要請です。マレーシアとの橋が消えた、というかマレーシアが消えたせいで水道の供給が止まったようです。脱塩設備もありますが、限界もあり、支援を求めてきています」

「元宗主国のイギリスに言えばいいじゃない」

「脱塩施設の逆浸透膜を作っているのは我が国の企業ですので・・・」

「だからって、緊急でできる支援なんてミネラルウォーターの空輸くらいだろ。限界があるぞ。設備増強については協力するが民間企業の仕事だと言っとけ」


もともと小さな島で抱えられる限界を超えた都市国家なので、水供給はわりと死活問題である。


「続いて、パラオを始めとしたいくつかの国から、それぞれの国にいる観光客についてです」

「帰国させればいいんだろ。航空会社に言ってチャーター便を手配させろ」

「いえ、日本人観光客は別に問題ないそうです」


予想を外された総理はガクッとうなだれる。


「じゃあなんだよ」

「大量にいる中国、韓国の観光客が騒いでいるらしく、治安状況が悪化する恐れがあるから助けてほしい、と」

「海にでも捨てちまえばいいんじゃないか」

「それ、マスコミの前で言わないでくださいね」

「言わねーよ」


しょうもないことを言った後、総理は考え込む。


「どうしたもんかなぁ。うちも他人事じゃねぇ話だぞ」

「しかし、小国ではほんとに致命的な問題になりかねませんよ」

「そうだよなぁ。友好国だし、知らんふりってわけにもいかねぇし、かといってうちで受け入れるのもなんか違うし、自衛隊でも派遣するか?」

「冗談で言ってるんでしょうが、アメリカがいない現状、我が国がある程度リーダーシップを発揮していかないことには、各国はバラバラになってしまいます」

「そりゃわかってるんだが、国民はそんなことわかってくれないからなぁ」


溜息を吐いてうんうんと唸る総理。


「とりあえず邦人救出の名目で自衛隊出す準備させてよ。後のことはそれから考えよう」

「わかりました、防衛省には指示しておきます」

「というか、太平洋の諸島国家なら英連邦の国だってあるでしょ。うまいこと巻き込んでよ」

「それほど数はありませんし、中韓の観光客が多いのなんてグアムとパラオ、サイパンぐらいでしょう。グアムとサイパンはアメリカですから、最悪グアムと沖縄の海兵隊でどうとでもするでしょう。となると問題はパラオですから、我が国でどうにかするしかありません」


無慈悲な官房長官の回答に、再び総理は溜息を吐く。


「やっぱうちに移送するほうが穏便かなぁ・・・」


邦人救出の自衛隊に街頭警備させるっていうのは無理があるよなぁと頭を抱える。


「まぁ、アメリカの自由連合ですから最悪海兵隊がどうにかするでしょう」

「これまでの俺の悩み返して!?」

「あと、まだ確定ではありませんが、沖縄以外の地域では気温が高めかな?という状況が続いています。大陸が無くなった影響なのか、緯度が変わっているのかはまだ調査中ですが」


なんだかんだ言いながらあまり緊迫感がない2人である。


「とりあえず未知の2つの島の調査が必要かなぁ」

「太平洋のほうは護衛艦を派遣してヘリで探索がいいでしょうね。オホーツクのほうは・・・どうしましょうかほんと」


山積する問題に頭を抱えながらも、どこか元旦の穏やかな空気をまとって打合せは続くのだった。





新世界暦1年1月1日 中華人民共和国 北京 中南海


「この気温はどうにかならんのか」

「どうも南北方向が時計回りに90度回転しただけでなく、緯度も低いみたいですね」


海南島でのバカンスをキャンセルしたブーブー文句を言っていた中央委員は、すっかりバカンスモードの恰好で中海の(あずまや)で冷えた烏龍茶を飲んでいる。

ちなみに、突然冬から熱帯気候になったせいで他は皆まだ暑い暑いといいながら冬服なので、クーラーの効く室内に籠っている。

1人夏服の用意ができていた中央委員の付き合わされている秘書は堪ったものではない。


「そういえば、そろそろ空軍の偵察結果も集まってくるころですかね」


中央委員が席を立つ様子を見せ、秘書は密かに安堵の息を吐く。

やがて中央委員が集まる部屋に戻ると、すでに空軍の少将が来ていた。


「おや、遅れてしまいましたな」

「今揃ったばかりですよ」


12億人のかじ取りを行う会議だが、全てのことはこの部屋にいる7人によって決定される。

そこに議会だとか、法律だとか、人権だとか、民主主義国であれば当然介在するはずのものは存在しない。

彼ら7人が決めたことが全てであり、絶対である。


「では、報告を始めさせていただきます」


少将が緊張した面持ちでプロジェクターに接続されたタブレットを操作する。


「まず、周辺の状況ですが、大陸部に関しては気候変動以外の変化は認められません。そのような状況ですので、偵察飛行もできず、基本的には各国大使館からの情報頼みという状況にあり、これといって報告事項はございません」


それは予想の範疇だという空気が室内に流れる。


「ただ一点、ジブチ基地との連絡が途絶しており、アフリカ全土の公館とも連絡が途絶しております。アフリカ大陸は消失したものとみて間違いないかと思われます」

「なんてことだ、かなりの額を投資してるんだぞ!」

「あの業突く張りのバカ共の相手をしなくて済むと思えば清々する気もするが、確かにこれまでの投資額はバカにできんな」

「それよりジブチ保障基地だよ。あそこは2000人ほどいるんだぞ」


アフリカの安否を案ずるよりも自分達の利害にだけ視線が行っているあたり、どういう風に見ているかよく分かるが、「どんな国でも国連では1票」というのは先進国ならどこでも考えることである。


「続けさせていただきます。大陸側と異なり、海側はかなり大きな変化が起きております」


プロジェクターで2枚の写真が並んで投影される。


「こちらはどちらもアモイ市上空のほぼ同じ位置から撮影された写真です。左が以前に撮影されたもの、右が先ほど撮影されたものです」

「島が消えとるな」

「はい、金門島が無くなっています」


台湾が実効支配する金門島が消えていた。


「同様に台湾島も無くなっており、日本もまるごと消えています」

「つまり、太平洋への出入りが自由になったということだ」

「アメリカの介入もなくなったと言えるな!」

「韓国がありますので、米軍がいなくなったわけではありませんが」

「だが、在韓米軍は縮小されて空軍くらいしかおらんだろ。気にする必要は無いよ」


その空軍が問題なんだろ。と少将は思ったが口には出さない。


「そして海上を可能な範囲で捜索したところ、従来でいう第二列島線にあたる周辺に未知の大陸を発見しました」


室内は再びざわつく。


「それはどこの国でもないのかね?」

「航続距離の問題もあり、詳細は調べ切れていませんが、迎撃は無かったとのことなので、日本やアメリカでは考えられませんし、そもそもレーダーの照射は無かったとのことです」


割と24時間365日のスクランブル態勢をとれている国というのは少ない、というか、その態勢をとるには国土全てをカバーするレーダー基地と、結構な数の戦闘機が必要なので、全ての国がとれるような性質のものではない。

中でもトラウマ(太平洋戦争)のある日本のそれは、対潜作戦能力と並んで病的なほどなので各国の態勢を見るときに基準にならなかったりする。

例えばスイスだと(今は違うが)スクランブルは土日休みだったり、バルト三国だと自国では賄えないのでNATOに依頼していたり、といった具合である。


「そこがどこの国でもないのなら取ってしまってもいいのではないですかな」

「人だけはいますからな、適当に入植させるだけでもいくらでも使い道はあるでしょう」

「なぁに、アメリカがいないんならどこかの国でも楽にやれそうならやってしまえばいいのです」


アメリカという重石がなくなったことで、帝国主義という野心の塊である中国が世界に解き放たれようとしていた。

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