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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
28/201

マスコミ

新世界暦1年2月1日 日本国東京 大手日刊新聞本社


記者たちが慌ただしく行き交うオフィスで、1人の記者がデスクに噛みついていた。


「なんで、この記事がボツなんですか!?十分スクープでしょう!?」


プリントした紙を叩きつけながら抗議の声を緩めることは無い。

そんな記者を他の記者は、「若いなぁ」とニヤニヤして眺めているベテランが半分、「俺もあんなこと言える記事を書きたい!」と憧れの目で見ている記者が半分。

要するに彼の立ち位置は中堅というわけである。


「あのなぁ、そりゃ確かに普通に考えればスクープだよ。外務省官僚の男女2人が機密費使って九州で酒蔵巡り、グルメ巡り。連日連夜数十万円の大散財!」

「だったら!」

「だがな、一緒にいた人物が問題なんだよ。接待だと言われたらそれまでだし、そもそも世界樹島の女王様に関してはノータッチってことで方々の話がついてる」


めんどくさそうにデスクは椅子を回して後ろを向く。


「じゃあ、デスクはこの大散財は全部接待だっていううんですか?」

「そもそも、お前、これ情報源どこよ?お前の実家じゃねぇの?」


そう言われて記者は黙った。

たまたま親父の誕生日だったので、久しぶりに温泉旅館をやっている実家に電話をかけて話をしていたら、外務省名で高額な領収書を切ったという話を聞いたので調べたのがきっかけである。


「図星か。やめとけやめとけ、そんなもん記事にすんのは」

「じゃあ、この散財は!」

「長生きしてんのにずっと島の中で王城に閉じこもってた女王様が、ちょっと観光にきてはしゃいじまったんだよ。大目に見てやれ」


それが日本政府の税金なのが問題なんでしょ!と記者はさらに抗議したが、デスクは手を振って彼を追い払った。

記者が去っていったのを確認して、デスクは誰にも気づかれないよう溜息を吐いた。


思い出すのは過日、役員に呼び出されて、世界樹島の女王絡みの記事でネガティブなものは全てNGにするよう命令されたことである。

何故だと抗議したが、全ての新聞社と大手出版社が合意したことだとだけ言われ、守るか守らないかは君に任せるが、その結果がどのようなものでも我々は感知しないと無表情に言われてしまえば、どうにもできずそのまま部屋を出た。


しかし、この女王様にそんな大層なもんがあんのかねぇ。そう言って、温泉旅館で外務官僚2人とバカ騒ぎするプラチナブロンドの美人の写真を不思議そうに眺めたのだった。





新世界暦1年2月1日 アメリカ合衆国ニューヨーク 高級日刊新聞本社


記者たちが慌ただしく行き交うオフィスで、1人の記者がデスクに噛みついていた。


「なんで取材許可が下りないんですか!?行けばスクープ確定ですよ!?」


出張取材の許可申請をデスクに見せながら抗議の声を緩めることは無い。

そんな記者を他の記者たちは見ていない。皆が自分の仕事で忙しく走り回っていて、記者とデスクの喧嘩なんていう日常の一コマを眺めているほどヒマではないのである。


「そうは言うが、民族浄化が続いている中米各国への出張取材なんか許可できるわけないだろ。そもそもどうやって行く気だ?民間航路は止まっているし、陸路は連合軍と謎の国がにらみ合ってるんだぞ」

「私は操縦士資格を持っています」

「飛行許可がでないだろ」

「勝手に行きますよ!」


そんなもん会社として許可するわけねぇだろ、という呆れた顔でデスクが記者を見る。


「じゃあ辞めます」


ケロッとした顔で記者は言った。


「あのなぁ」

「無事に帰ってこられたら記事を持ってきますから買ってください」


はあ、とデスクは溜息を吐いた。


「君は疲れてるようだし、長期休暇でもとったらどうかね」


デスクの精一杯の妥協である。


「ああ、休暇願は後でいいよ。そうだな、帰ってきたときに出してくれたらいいんじゃないかな」


デスクは椅子を回して記者に背を向ける。

話はこれで終わりだという意思表示である。


記者はそのまま無言で部屋を出て行った。


やれやれ、とデスクは溜息を吐く。

中米の情報は、政府の発表だけで、現地取材の報道が無く、真偽の検証ができないと問題にする向きがあるのも事実である。

とはいえ、記者の安全が全く保証されない状況で、行ってこいと言えるわけもなく、そもそも一般人の立ち入りが連邦政府によって禁止されている。


僅かでも今部屋を出て行った記者の安全を確保する方法はないだろうかと思考を巡らせる。

意味があるとは思えないが、メキシコの米軍に従軍記者として行った記者たちに一応知らせておくか、と受話器を持ち上げた。





新世界暦1年2月1日 日本国東京 首相官邸


ウルズの到着を待つ官邸で、首相はソワソワと動き回っていた。


「何をしているんですか?」


それを訝し気に見ていた官房長官が声をかける。


「いや、ウルズさんてすごい美人だからなんか緊張してきて」

「奥様に怒られますよ」


呆れたように官房長官は言うが、この首相の行動パターンがいろいろ残念なのは今に始まったことではない。


「それはそうと、マスコミは大手から零細まで、ウルズさんのネガティブな記事がないですね」


官房長官は机の上に積み上げられた新聞や週刊誌を見ながら言った。


「そりゃあんだけ抑えるネタがあったらね」


首相はウルズから大量に提供された各マスコミの醜聞(よわみ)の書かれたファイルに目をやる。


「しかし、全知ってのは恐ろしいなぁ。怒らせないようにしないと」

「いや、一番地雷踏み抜きかねないの貴方ですからね?ほんと失言とか注意してくださいね?」


誰が相手でも軽い感じなのがこの首相の良い点であり、悪い点である。

かるーく相手の気にしている話題を振ったりするので、失言騒動で失脚していないのは割と奇跡である。


「まあ、彼女があの島でのんびり暮らしたい、時々日本で遊びたいっていうだけなら利害対立することはないし、時々情報さえもらえるなら安いもんやん?」

「まあ、その通りなんで、あなたが相手を怒らせないか不安なんですが?」


なんでこんな軽い奴が総理大臣になれたんだろ?と思う長い付き合いの官房長官だが、対外的には与野党幹事長に防衛出動の承認を迫ったときの、決断したら一点突破なやり手ということになっているので、人間ごまかそうとすれば意外とごまかせるものである。





新世界暦1年2月1日 アメリカ合衆国ワシントンD.C. ホワイトハウス


「正直、マスコミが邪魔です。いろいろと」


陸軍参謀総長はばっさりと言い切った。

それを聞き、大統領は頭を抱える。


「いや、あの、それマスコミの前で言わないでね」


そんなことをド直球に言った日には揉めるのが目に見えている。


「具体的に言えば、従軍記者の申請をせずに勝手にメキシコシティに行っているマスコミが把握しきれないので安全を保障できません」

「あー」


それを「マスコミが邪魔」って端折りすぎではなかろうか。


「さすがに前線を突破して中米諸国に行こうというのはいないようですが、防衛線がメキシコシティということで、通常の取材感覚で大量の取材クルーが流入しているようです」


そもそもメキシコシティ自体が通常の取材感覚で行くには治安がアレだが、イラクやアフガンよりは行きやすかろう、ということである。


「正直、防衛線を突破されるとは思っていませんが、補給部隊が常時メキシコシティを通過する必要がある以上、住民も含めて可能な限り避難してもらったほうが良いのですが」

「だが、元々絶対防衛線をメキシコシティに設定したのは、住民が多すぎて避難が困難だからだぞ?」

「そうはいっても、交通渋滞で弾薬が届きません。というのはさすがに」


都市圏でざっと2000万と言われるメキシコシティの人口を考えれば、避難は非現実的である。

とはいえ、それが戦場に留まるというのもまた、非現実的だった。


「・・・防衛線の場所間違えてない?」

「まぁ、元々敵が進軍を続け、メキシコが援軍を拒み続けるという前提での作戦計画でしたので、最悪の場合、敵のメキシコシティ到達直前に前大統領をメキシコ軍がクーデターで引き摺り降ろして我が軍が急行する手筈でしたから」


その最悪の想定は避けられたが、作戦計画は補給線の問題もあるので、そうそう大きく引き直すわけにもいかない。


「というか、もういっそこっちから攻めたら?」

「敵の兵器が未知数ですから、まずは防衛戦で情報を十分に集めたいですね」


とりあえず高度さえとっていれば航空機が墜とされることはない、というのは偵察飛行や空爆で判明しているが、陸戦ではニカラグアのT-72Bが互角という程度しかわかっていない。


「敵の数も考えれば、乱戦になれば市街地に雪崩れ込まれるかもしれませんし、そもそも少数に別れて強襲浸透されると全てを完全に防ぎきるのは無理ですよ」

「退避勧告は出してるんだが、それで逃げ出すのは観光客とビジネス客だけだからなぁ・・・」


メキシコシティの住民2000万以上に、百人単位で入り込んでいる従軍申請をしていない記者たちに頭を悩ませるのだった。

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