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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
27/201

ひとときの平穏

新世界暦1年2月1日 アメリカ合衆国バージニア州レストン アメリカ地質研究所


「ひまやね」


冷めてしまったコーヒーを飲みながら、ぴくりとも動かない各地の地震計の針を見つめていた研究員は言った。


「転移してからこっち、ずっとそんなだろ」


特に返事を期待して言ったわけではないのだが、同じく暇そうにしていた研究員が反応した。

この世界に転移して以降、全ての火山の活動が停止していた。

そして、続いて判明したことだが、地震も無くなった。プレートテクトニクスの動きが無くなったと考えられていたが、実際にそうなのかまでは調査が追い付いていないのが実情である。


ちなみに、どっかの島国では温泉がでなくなって阿鼻叫喚になり、海底地形もよくわかってないのに適当にあたりをつけて地球深部調査船のドリルを入れるという暴挙を行っているのだが、それはまた別のお話。


「けど、石油は従来通りでてるんだろ?どうなってんだこの惑星?」

「というか、プレートが動いてないってことは、マントルは固まってるってことだろ?この惑星もう死んでるんじゃねぇのか?」


宇宙方面にばかり予算が割かれたせいで、地質研究所の予算はお寒い限りであり、研究・調査対象が宇宙並に無数にある現状ではとても足りていない。


「とはいえ、火山も地震もないんじゃ、ここが解散する日も近いのかね?」


一度解散して知識集積が途絶えてしまうと、いざ必要になったときにそれを掘り起こすのが困難になるという理由だけで存続している状態である。

自らの専門分野の行く末を憂いながら、動かない針を眺める仕事に戻るのだった。





新世界暦1年2月1日 メキシコ合衆国メキシコシティ


通りを進むのはアメリカ陸軍のストライカー旅団戦闘団。

麻薬カルテルと繋がっていた大統領が、民衆によって失脚し(引きずり降ろされ)てすぐに臨時政権の要請を受けて、国境からここまで給油以外休まず走り抜けてきたのである。


操縦手はもちろん、乗っていた兵士たちも、皆疲労の色が濃いが、沿道はまるで戦勝記念パレードのような人出と歓声である。

米軍が来ないのなら、最早メキシコシティも捨てて逃げ出そうかという状況だったので、まさに救世主というわけである。


「このまま市街地を抜けて、南方・・・北になったんだったか?そこでメキシコ軍や中米諸国の残党と合流して防衛線の構築、か」

「残党っていう呼び方はダメですよ。特にマスコミも来ているんですから、その発言は厳禁です」

「じゃあ、なんて呼ぶんだよ」

「中米自由連合軍とか、自由なんとか軍とか、いろいろ名前ついてますよ」


副官も名前の把握がいい加減なことを知り、やっぱ適当でいいんじゃんと思うテキサス脳の旅団長。


「結局、機甲旅団戦闘団の空輸は止めたんだったか?」

「敵の侵攻よりこちらの展開が早かったから、そんなことに輸送機使うくらいなら大人しく陸送して、補給物資の輸送に回すみたいですね。アメリカ国境からメキシコシティまでの道は、アメリカに向かう避難民か、メキシコシティを目指す陸軍部隊で一杯ですから」


メキシコシティを目指す陸軍兵力は先発の5個ストライカー旅団戦闘団、後続で3個機甲旅団戦闘団と3個歩兵旅団戦闘団が続くので、避難民も合わせれば道路はすでにパンクしている。


「はてさて、敵の侵攻再開と空軍の頑張り次第だが、下手すると我々で敵正面を抑えねばならんか?」


そうならないよう望んでいるのか、そうなって欲しいのか、なんともわからないニュアンスの旅団長の言葉に、副官は出来ればそうなって欲しくないなぁと思うのだった。





新世界暦1年2月1日 アメリカ合衆国ニューヨーク 国際連合本部


民生用衛星電話の衛星が打ち上げられたことで、ようやく本国と連絡が取れるようになった各国の国連大使は、慌ただしく動き回っていた。

のんびりしている国連大使は、特に連絡で焦る必要が無かったアメリカとカナダ、メキシコ、すでに連絡がついていた日本、イギリスあたり程度で、他は衛星電話が繋がるのを今か今かと待っていたり、他国との会合に走り回っていたりと、かつてないほど国連周辺は賑わっていた。


活発に動いている国の方向性は2つに分かれていた。

1つはアフリカや南アメリカ、西欧諸国を中心とした、「転移で気候変動の致命的な影響が出ている国」

もう1つは中国、ロシアを中心とした「新たに出現した土地の実効支配を認めさせたい国」


前者は元々食料が不足していたアフリカはともかく、大規模な穀倉地帯を抱える南アメリカと西欧は農業生産に致命的な問題が発生しており、食料援助が必要になることは目に見えていた。もっとも、それ以前に深刻な社会不安も発生しており現政権が維持できるかどうかという問題が発生している国も多いのだが。


後者は中国、ロシアは言わずもがな、出遅れの挽回を目論むインド、世界樹の領有を認めさせたい日本と、共に今後得られるかもしれないアズガルド神聖帝国関係の利権を認めさせたいアメリカ、イギリスが含まれている。


まあ、要するに両者が求めるものは致命的に噛みあっていないのだが、前者の問題解決には後者の協力が必要だが、後者の問題に前者は認めるかどうかという関係しかなく、前者は交渉上圧倒的不利な立場である。


そもそも、前者に含まれる国家群と後者に含まれる国家群の力関係も考えれば、後者が一方的に押し通るのは目に見えているのだが、少しでも駆け引きで自国に利益を引き込もうというのが外交である。

欲張りすぎれば何も得られず、むしろ敵視される危険すらあるが、控えめすぎれば何も得られない。

前者の国々にはそのギリギリの駆け引きが要求されているのである。


「うちも気候変動の影響ないわけじゃないんだけどねぇ」


日本の国連大使は代表団事務所の来客応接用のソファで寛ぎながら呟いた。


従来から日本が援助を行っているアフリカ諸国は勿論、ブラジルを始めとして南米諸国、そしてかつては日本と共に援助する側であったフランスやドイツといった西欧諸国までが日参してくる状況に、いささか疲労感を感じていた。


「そもそも食料援助をうちやイギリスに頼みに来るのは間違ってると思うがなぁ」

「ほんとにねー」


国連日本大使の向かいでぐでーとしているのは、国連英国大使である。

要するに日参してくる各国が面倒だが、どこかには会ってどこかには会わない、とか居留守は角が立つ恐れがあるので、両国で会合していることにして他の面会を断っているのである。


「しかし、気候変動の影響がない地域はほぼなかろう。穀物先物価格も上昇傾向、食料援助してくれではいそうですかなんて言う国があるかね?」

「ないだろうねー。昨日はフランス大使が泣きついてきたけど、うちも余裕あるわけじゃないし、そもそももうお隣さんじゃないしねぇ」


もっとも、世界樹の島の出鱈目(植物1日成熟)のおかげで日本は食料生産に困ることはないのだが、それはまだ日本政府でも一部しか知らない秘密である。


「しかし、多島海条約機構(APTO)は難航してるみたいですね」

「難航というよりも、結局アメリカを入れないと意味が無いのと、その、なんだ、まともな軍隊を持ってる国が、ねえ・・・」


集団安全保障を目的とするからには、加盟国に安全保障上の危機があった際に駆け付けなければならないが、そもそもそれが出来るような外征能力を持っている国は諸島国家には少ない。


「まぁ、軍についてはうちも人のこと言えないからなぁ・・・」


戦略機動力と敵地攻撃能力に欠ける自衛隊の大改革。

予算も時間も足らないよなぁと国連日本大使は思うのだった。





新世界暦1年2月1日 日本国 東海道新幹線新大阪発東京行特別列車


「おお、すっごい!すっごいよ!これ!」


窓から外を見て子供のようにはしゃいでいる耳が長くない若作り(ロリBBA)エルフを見て北条は呆れたように溜息を吐いた。


「おい、お前、今すごく失礼なことを考えなかったか?」

「イエ、ベツニ?」


突然、無表情になって間近で睨みつけてくるウルズに、北条は思わず目を逸らしてしまった。

なまじ美人なだけに無表情はコワイ。


「どうせスケベなこと考えてたんですよ。セクハラですよセクハラ」


そしてお前は何を調子に乗ってんだと武田を睨みつけるが、勿論効果はない。

ウルズが日本観光をしたいと言うので、世界樹島特別措置法の国会審議出席も兼ねて各地を見て回っているのだが、なぜかお守役は外務省の北条と武田のままである。

日本の領土に組み入れるんだから、総務省あたりで対応しろよ!というのが北条の本音だが、ウルズが希望したのでそのままになっていた。


「というか、意外と人見知りというか、コミュ障ですよね。ウルズさん」

「何百年も引きこもってたんだからそんなもんじゃね?」


ウルズに聞こえないように北条と武田は小さく囁く。

結局のところ、世話役を変えないよう希望したのも、北条と武田を気に入ったというよりも、他の人とまた一から交友関係を構築するのを嫌がったせいだと2人は読んでいた。


ウルズ専用の日本観光ツアーは、まず世界樹からMCH-101で護衛艦いずもに戻り、そこで迎えのMV-22に乗り換え、一路屋久島へ。

なんでも、世界樹を崇めている関係で、巨木は全て崇拝の対象なので、縄文杉をはじめとした屋久杉を見たいということで、最初の訪問地に選ばれた。


問題は、縄文杉のある場所は、観光気分で行くには割と厳しい場所であり、丸一日山歩きする程度の準備と体力は必要であるということだ。

普段の運動不足が際立つ北条は、日常的にランニングしている武田と割と野生児なウルズにぼろかすに罵られながら登山道を歩く羽目になったのだが、それは些細なお話である。


次に向かったのは鹿児島。

温泉巡り・・・のはずだったのだが、転移後全ての火山活動が停止しており、温泉の湧出も止まっていた。

そのことを知って絶叫したのは、別にウルズだけではなかったが、そのまま焼酎蔵巡りに切り替わって一行全員が酔っ払ったのでどうでも良くなり、有耶無耶になった。


その後は九州美味いもん紀行でもやっているかのように名物を食いまくりながら福岡まで北上。

ちなみに、口ではなんで外務省が世話役なんだと文句を言っている2人も、なんだかんだ(ウルズ接待に使っている外務省の機密費で)飲み倒れ食い倒れを共にし楽しんで、東京についてからしこたま怒られることになったのは余談である。


本州に上陸してからは、中国地方を巡り、大阪へ。

ここでも飲み倒れ食い倒れで、その請求をみた東京の本省が2人に対する怒りのボルテージを一段上げたのも余談である。


東京で待つもの(大いなる怒り)を知らぬお気楽官僚2人と、実はそれを知っている(全知のバカ)ウルズを乗せて、特別列車は東京に向かうのだった。

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