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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
26/201

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新世界暦1年1月30日 ベリーズ ベリーズシティ上空 飛行艇母艦「聖アドラー」


カリブ海に突き出た半島状の土地に広がるベリーズシティ。

ベリーズの首都のような名前だが、中央銀行など一部機能があるだけで首都ではない。


とはいえ、この都市も他の中米の例に漏れず、都市上空には神聖タスマン教国の飛行船のような巨大な飛行艇が浮かんでいた。


「準備が遅れ気味ですね」


各所から送られてきた報告の映し出された魔法盤を眺めていた聖女は感情の読めない声で呟いた。

信者(兵士)の前で説法(演説)するときに見せる慈愛に満ちた表情からは、想像もできないような冷たい無表情である。


「いくつかの物資集積所で起こった謎の爆発事故の影響です。全般に遅れていますが、なんとか予定通りには侵攻を再開できそうです」

「その爆発事故の原因はわかったのですか?」


求められていない言い訳をした司教の1人に聖女の質問が突き刺さる。

もちろん、爆発事故などではなく、高高度を飛行する米空軍がレーザー誘導爆弾をぶち込んだだけなのだが、最大高度が4000mにも届かない飛行艇しか保有していない神聖タスマン教国には知る由もない。


「あ、いえ、それは・・・」

「わかっていないのなら黙っていなさい」


ぴしゃりと言い切ると、聖女は最早その司教に対する興味を失ったようだった。

その様子に、何人かの司教はしめしめと心の中でほくそ笑んだ。

この国で上に上がるには、ある程度までは(表向きは関係ないことになっている)生まれが重要だが、ある程度になってくるとあとは聖女や聖者といった上位の者、普通の国なら軍団長にあたるような者に気に入られる必要がある。


聖女や聖者というのは、「お告げ」で選ばれたことになっているが、実際には生まれた子から適当にくじ引きで選んでいるだけの、ただの人間である。

ただ、生まれてすぐに選ばれると、他の信者とは隔離され、専門の教育(洗脳)コースに乗せられ、神聖タスマン教国というイカレタ宗教国家を彩るために歯車にされる。

いわば、この国を統治するためのコンピューターとして個を潰して教育され(作られ)た存在なので、これに気に入られるというのは、すなわち国に必要な存在だ、というわけである。


「新たに我らが教えを受けた地域の様子はどうですか」

「地域内の5歳未満と見られる子供の本国教化院への輸送は順調です。それ以外については、処分を進めていますが、一部は労役で使い潰すことで遅れを取り戻すのに利用しています」


中米地域で4000万ほどの人口がいるはずなのに、その大多数を処分と言った司教は涼しい顔をしている。


「聖者タスマンの教えも理解しない蛮族を準備に使っているのですか?」

「使っているといっても、単純な労役だけです。エサも与えていませんし、処分する手間も省けて一石二鳥かと」

「まあ、それで遅れを少しでも取り戻せるなら今は良しとしましょう」


それで聖女はその話題への興味を失ったらしく、再び魔法盤に視線を戻す。


「それで、次の敵の情報は集まりましたか?」

「今のところ、敵は戦う様子を見せず、前線から逃げ出しているようです。これも聖者タスマンの御威光かと」


実際にはアメリカ参戦に備えて戦線を下げているだけなのだが、電波情報の収集も、偵察衛星ももたない彼らには知る由もない。


「侵攻再開時の投入戦力は予定通りですか?」

「はい、第1から第4までの飛行艇艦隊と、第2、第3、第6歩行戦車梯団、第1、第4、第6、第7複合歩兵梯団、後詰に35個信仰教化梯団です」


それを聞いた聖女は満足気に、準備を急ぐよう言って自室に下がった。





新世界暦1年1月30日 ホリアセ共和国プル 国民統一党本部


アズガルド神聖帝国と200年以上海外領土でドンパチを続けているホリアセ共和国。

その首都に、この国で唯一、憲法によって活動が認められている政党が国民統一党である。


一応、選挙による民主主義を謳ってはいるが、選挙の候補者は全て国民統一党の党員で、各選挙区で1人だけ。

投票用紙には投票者の身分証番号が書かれていて、それを「信任」か「不信任」の箱に入れるのである。

もちろん、それぞれの箱の前には監視員も座っており、「不信任」の箱に入れる人間はいないし、仮に入れたとしても、入れた人間がその日以降自宅に帰ることはない。


そんな国だが、国民はまあまあ裕福に暮らせていた。

一重に海外領土からの搾取によるものなのだが、それもアズガルド神聖帝国に全て奪われ、指導部は窮地に陥っていた。

別に、アズガルド神聖帝国と違って本国もかなり大きいので、飢えたりすることは無いはずなのだが、全てが海外領土の搾取が前提の社会システムなので、それを組み替えるには多大な労力と、国民の負担が必要だった。


一党独裁の常で、一定以上の負荷をかけた場合に不満を溜めた国民が一斉に暴発する危険は考えざるを得ないわけで、こうなったらアズガルド神聖帝国本国を潰してしまおう。という浅い考えで本国空爆に踏み切ったのだが、それがまさかアズガルド神聖帝国による本国侵攻を決意させたということは、まだホリアセ共和国の誰も知らない。


「それで、突如つながった陸地が、我が国がアズガルド神聖帝国に奪われたドラスト大陸だというのは間違いないのに、侵攻準備がここまで遅れた理由はなにかね?」


国民統一党の現総裁である女性は、その厳つい風貌をさらに強張らせて呼び出した男を睨みつけた。

同席しているだけで、睨みつけられた訳ではない秘書官や軍事委員長も思わずぶるっと震えてしまったほどである。

睨みつけられた本人、参謀総長は漏らさなかっただけ頑張ったと言うべきだろう。


「えー、仰る通り突如としてつながった陸地がドラスト大陸であるということは、早い段階で判明しておりました。しかし、」

「参謀総長、私はあなたの言い訳をいちいち聞いているほど暇ではない。いつ我が国の領土(モノ)を取り返すことができるのかね?」


総裁は先ほどよりも更に冷酷さと威圧感が増した声を出す。


「は、侵攻の先鋒となる第3機甲師団は編成を完結、国境にて待機しております。空軍の第2航空艦隊も基地転換を完了、いつでも支援可能な態勢をとっております」


そう告げた参謀総長に、総裁は盛大なわざとらしい溜息で応えた。


「バカだバカだとは思っていましたが、ここまでバカでしたか」


苛立たし気にトントンと机を指で叩きながら総裁は続けた。


「貴方に私は何と命じましたか?あまりにも思っていたのと違いすぎて、言ったことに自信が無くなってきたのですが、まさか海外領土の一部を取り戻せとでも言いましたか?」

「は?」


参謀総長が受けた命令は「ドラスト大陸を全て占領せよ」である。


「ですので、第3機甲師団がドラスト大陸に侵攻、一定地域を占領したのち増援を送り」

「はあ、あまりに無能だと更迭しますよ?」


さらに苛立たし気に総裁は机を蹴った。


「ドラスト大陸はどこにあるんですか?海の向こうですか?違うでしょう?陸が繋がったのでしょう?投入可能な全兵力を投入し、速やかに取り戻しなさい!なんなら総動員もかけなさい!わかったら早く行けぇ!」


怒号と共に、追い出されるように参謀総長は部屋を出た。


「やれやれ」


秘書官室を素通りし、廊下に出た参謀総長はふうと息を吐いた。


「お疲れさん。怒号が廊下まで響いてたよ」


笑いながら話しかけてきたのは、同郷の軍事委員会常務委員である。


「いつものことさ。ドラスト大陸侵攻の戦力が少ないとお冠らしい」


歩きながら参謀総長は言葉を続けた。


「補給用の軽便鉄道の敷設がまるで間に合っていないのに、第3機甲師団以外の地上戦力を投入するなど困難だよ」

「まぁ、それで納得する姫様(総裁)ではないわな」


くくくと常務委員は笑っているが、参謀総長の顔は真剣である。


「笑い事ではない。兵站の切れた軍隊が辿る道など、古今東西決まっている」

「まあ、こっちでも時間は稼いでみるけど、とにかく侵攻してしまえばあとは報告でごまかせばなんとかならないか?どうせ道も無い大森林を進むことになるんだ。しばらく戦闘もあるまい」


ホリアセ共和国でも辺境とされる南西部と、ドラスト大陸でも未開発の地域が繋がったせいで交通インフラがまるで整備されておらず、これが投入する戦力の制限に繋がっていた。


「とはいえ、補給部隊も完全自動車化できている第3機甲師団が、今敷設できている軽便鉄道1本を利用してなんとか兵站を維持できるという状況だぞ。数万人が一日で消費する食事だけでも相当な量なんだからな」


はあ、と参謀総長は力無く息を吐いた。


「まあ、急いでくれよ。総裁(ヒステリー)を抑えておくのも限界があるんだからな」


やれやれと2人はとぼとぼと廊下を歩くのであった。





新世界暦1年1月30日 アズガルド神聖帝国 帝都アガルダ 参謀本部御前会議室


最早結論が出ないことに定評のある御前会議が再び開かれていた。

もっとも、今回の会議は2つの議題があり、帝国には選択肢が存在しない状況なのだが。


「えー、では、まず本日、参謀本部情報統括課の連絡無線に無理矢理割り込む形で送られてきた、アルノルド中将、ランヴァルド少将連名の電文についてです」


兵站参謀本部長が電文を手に発言する。

「兵站」と名はついているが、その管轄は実質的に軍の正面戦力以外のほぼ全てであり、補給関係はもちろん、動員計画に諜報活動や各種調達計画まで、あらゆることを管轄する大官僚組織のトップである。


「我々が攻め込んだ国、日本国と名乗る国家とのことですが、この国は、我が国が相応の賠償を行うのであれば戦闘行動を停止し、和平しても良いとのことです」


僅かに部屋がざわつく。

それを受け入れるというのは、実質的に敗北宣言である。とはいえ、もはや勝ち筋も見えないわけだが。


「なお、これを受け入れ無い場合は、かの国は受け入れるまで空爆を続けるとのことです」

「選択肢がないではないか・・・」


皇帝がぼそりと呟いた言葉に、皆は口を噤む。


「続いてもう一点、ドラスト大陸の海外領土についてです」


兵站参謀総長はより深刻な表情で言葉を続ける。


「現地からの情報で、地続きになったホリアセ共和国が侵攻の構えを見せています。野戦軽便鉄道の敷設は完了しているようですが、物資集積が不十分なようで、今少し時間的猶予はあると思われます」


再び部屋がざわつく。


「あの国、日本国と名乗っているんだったか?との戦闘に抽出したせいで、ドラスト大陸の海上、航空戦力は従来の半分以下という状況です。かろうじて陸上戦力は残っていますが・・・」


敵制空権下での戦闘となれば圧倒的に不利である。


「日本国を・・・」


ぼそりと皇帝が呟く。


「日本国をホリアセ共和国にぶつけられないだろうか?」


言うのは簡単だが、実際にそれを行うにはかなりの困難とリスクが伴う。


「とにかく、いずれにせよ日本国は賠償で片が付くのなら、それで和平すべきではないでしょうか。このままでは二正面、彼我の戦力差を考慮しなくても悪手です」


それは皆わかっているのだが、一体誰がその「負け」を認めるのか、それができる1人の言葉を待って再び部屋には沈黙が満ちたのだった。

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