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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
24/201

暗躍・・・?

新世界暦1年1月24日 ダスマン連合首長国ザラーン首長国 王城


連合首長国であるダスマンは、各々の首長に外交官としての代表権を認めている。

もっとも、地球で言うところの各国駐在の大使程度の権限なので、連合首長国として条約を結んだり、戦争を始めたりおわらせたりするには連合首長会の承認が必要なのだが。


各首長国の中でも、ザラーン首長国は農業のさかんな裕福な国というのが一般的な認識だったが、ここには裏の顔があった。


ザラーン首長家に伝わる秘宝「交信の宝玉」


表向きは、使用者に言語の壁を越えて意思疎通できるようにする能力を持つ宝玉だが、実際には使用者が対話相手の意志に関係なく、本音を聞きだすことが出来るという能力を持っていた。

簡単に言えば外交交渉の場で、相手が落としどころと思っているところを何の苦も無く知ることが出来るのである。


使用できるのは首長家の人間だけとはいえ、外交交渉だけでなく穀物輸出の商取引にも利用されており、ザラーン首長国が裕福な本当の理由であった。


その王城で、現当主であるメリマット・ザラーンは2人の使者と会っていた。

なんの装飾も施されていない地味な服装の2人だが、その布地がこれまで見たことのないものであるという点が彼の興味を引いていた。


この2人の使者がこの国と接触できたのはたまたまである。

どうも数十の国が集まった連合国家みたいだけど、どっか接触できる国ないかなぁと周囲を船でうろうろしていたら、たまたまザラーン首長国の交易船に遭遇し、そこにたまたま穀物卸売価格の交渉のために交信の宝珠を持つメリマットが同乗していたのである。


飛行艇で水上を走る船を誘導するのはまどろっこしかったが、外交で先手を取れるのは連合首長国内でも優位になれる。


「ほう、それでダスマン連合首長国と連携し、その不毛の大地を勝手に我が物にしようとしている国に対抗したいと?」

「はい、我が国はかの国と隣接しており、新たな大地を得て国力が増せば脅威にさらされます。ここは是非とも貴国と連携してかの国に立ち向かいたいと思っております」


交信の宝珠に触れながら、メリマットは思案するような素振りを見せる。

相手の使者からは、なんとしてでも協定を結ばなければならない。という強い思念が伝わってきていた。

このことから推測できるのは、連合首長国と連携できなければその国に対抗できない弱小国ということである。

ならば、せいぜいふかっけて搾り取ってやろう、というのがメリマットの思惑である。


「そうだなぁ、不毛の大地とはいえ我が国の領土。我が国としてもかの国には対抗せねばならぬのは事実」

「でしたら」


外交使節の顔がぱっと明るくなる。


「とはいえ、連合首長国も一枚岩というわけではない。中には使い道のない不毛の大地をくれてやることで友好関係を築けるならそれでいいじゃないかと言う奴らもいてな」

「それは・・・」


一転して慌てたような顔になる外交使節。

これだけ顔にでるようでは、外交使節として三流、こんな奴を代表にしている国も三流だろう。

これだけ扱いやすそうな国に連合首長国で最初に接触できたことに、メリマットはほくそ笑む。


「勿論、私は誇り高きダスマン連合首長国が、戦わずして領土を明け渡すような恥知らずなことをすべきではないと考えている」

「おお、さすがはメリマット王。勇敢でいらっしゃる」


目に見えるおべっかに辟易とするが、わかっていても悪い気はしない。


「とはいえ、貴国と同盟となるとなぁ、私が骨を折っても構わないのだが・・・」


ちらっと使節を意味深に見遣る。


「何をお望みで?」


ド直球に条件を聞いてきた使節に鼻白む。


「そうだなぁ、我が国は農業国で主要輸出産品も穀物だ。はっきり言って人手はいくらあっても足りないが、他所の首長国からの出稼ぎは人件費もバカにならん」

「なるほど、タダで扱き使える奴隷がお望みですか」


ふむ、とメリマットは使節のほうを改めて見遣る。

表情を表に出したり、ド直球に交渉条件を聞いてきたりとどんな無能かと思ったが、察しは悪くないようである。

とはいえ、交信の宝珠から伝わってくるのは、同盟が結べそうだという安堵感である。


「どの程度お望みでしょう」


その程度でいいのかという思いが伝わってくる。

では、せいぜいふっかけてやるか。そこで交信の宝珠から手を放し、思案顔になる。相手の内心を知るには宝珠に触れている必要があるが、翻訳だけならそばに置いているだけでいい。

ザラーン首長国の人口が約400万人。ダスマン連合首長国が合計で約5000万人。

元の世界で大国である神聖タスマン教国の人口が約3億人だが、これは別格である。


「では、200万人ほど」

「200万人ですか?」


本気かどうか計りかねているというのが、宝珠を使わなくてもわかる。


「うむ。人手はいくらいても困らないからな。余ったら不毛の大地の開拓にも使える」


見下したようにメリマットは笑いかける。


「まぁ、貴国の都合もあろう、送れるだけ送ってもらえばそれを貴国の誠意として考えよう」


この時、メリマットは宝珠で相手の本心を読まずともわかった気になる、という致命的なミスを犯したのだった。





新世界暦1年1月26日 中華人民共和国北京 中南海


「以上がダスマン連合首長国ザラーン首長国とのファーストコンタクトです」


交渉担当官としてメリマットと接触した男が政治局常務委員を前に報告を終えた。


「しかし、200万ぽっちでいいのか」

「送れるだけ送ったらそれが我が国の誠意になるのだろう?2億人くらい送ったらどうだ」


いっそ少数民族を自治区から引き剥がして送り込め、といった意見も出る。


「とはいえ、送る人員をどのように利用するかは考える必要はあるでしょう。考えられる方法はいくつかありますが、とにかく大量の人員で国を乗っ取るのか、工作員中心に編成しわざとサボタージュさせて弾圧させたところに自国民保護名目で人民解放軍を送り込むのか、反動分子を中心に送り込み騒乱を発生させて鎮圧名目で人民解放軍を送り込むのか」


どの案も中国の利益しか考えていないのは明白である。


「しかし、これで一気にロシアを巻き返せますな」

「驚くモスクワの連中の顔が目に浮かびます」


新大陸で一気にロシアを巻き返せるチャンスを手にした共産党指導部の表情は明るい。


「まあ、何人送ってもいいわけだし、オプションは多い方が良い。早急に準備を始めさせよう」


皆頷く。


「それで、無能なバカの演技は十分にしてきたのだろう?」

「ええ、それは勿論」


失敗したら田舎の共産党支部に飛ばされるからな。という言葉を交渉官は飲み込んだ。

つまるところ、メリマットが見たこの男の焦り、本心は、あくまでもこの男個人の「失敗したら未来(出世)がなくなる」というものだったわけである。


「なら、しばらく無能な外交官の振りをして時間を稼げ。奴隷は一気に送り込む。断らせる暇を与えるな。そのあとは」


パチンと手を叩く。


「力で黙らせる」


債務で縛り上げて利権を搾り取るという地球でやっていたことよりも、より直接的な手段で領土的野心を満たす。

新たな国際秩序が構築される前に既成事実を積み上げるため、巨大な人民国家は走り続けるのだった。





新世界暦1年1月26日 ロシア連邦モスクワ ヤセネヴォ


「中国の動きが不穏だな」


対外情報庁(SVR)の長官室で、北京大使館から送られてきたレポートを見ていたSVR長官は、誰も聞いていないことを承知の上で、ぼそりと呟いた。

北京からの報告には、中南海周辺の動き、つまり中国の政治中枢とその取り巻きの動きがレポートされているのだが、新大陸関連で頻繁に会合や官吏の呼び出しが行われているにも関わらず、肝心の新大陸の中国占領地域での動きがないのである。


不毛な国境線競争は、空挺軍にものを言わせて南部の海岸まで線を引ききったことで、中国軍の封じ込めに成功していた。

完全な封じ込めは無用な衝突を生む恐れがあるとの反対意見もあったのだが、SVRが「中南海はロシアとの武力衝突を望んでいない」というレポートをあげたので強行されたのだった。


実際、新大陸の西の端、ちょうど台湾と同じか少し広いくらいの範囲に閉じ込められる形になった人民解放軍は、威嚇はしてくるものの一線を越えようという気配はなく、最近はその威嚇も鳴りを潜めていた。


「政治中枢は激しく動いているのに、末端の動きが見えない・・・統一戦線工作部の動きがあるようだが・・・工作先はどこだ?」


新大陸にも国家組織があるらしいことはわかっていたが、言語が全く通用しない模様という報告で接触は棚上げになっていた。


「さすがに連中も言葉の通じない相手に政治工作はできまい。となると・・・元から接触のある国。だが、他の国からは目ぼしい報告は上がってきていないが・・・」


既存のSVR情報網をかいくぐれて、工作をされても察知できない国となると限られてくるが、そのような国が果たして今の状況で何か有効に利用できるのか?という疑問が残る。

旧ソ連圏や欧州諸国はKGB(チェーカー)時代からの蓄積があるので、かなり深くまで情報網が張り巡らされている。

そこに統一戦線工作部の新たな活動が引っかからないというのは考えにくい。


「とはいえ、東南アジアでも特に情報はないしなぁ・・・」


ベトナム戦争時代に構築された情報網から発展した東南アジアの情報網も、欧州のものほどではなくとも手広く深く広がっている。

インドやパキスタン、中東も兵器取引から食い込んだ情報網があるので、チェーカーの手は伸びている。


「そうなると、一度諜報網が破綻したカンボジアか、中国の影響が強いミャンマーあたりならこちらが察知できないのも納得できるが・・・」


そんな国に工作を仕掛けて新大陸でのあれやこれやに何か意味があるのか?という疑問が先に立つ。


「わからんなぁ。ドイツやフランスの政治的不安定も、原因は寒冷化と我が国のパイプライン供給の遮断が原因というレポートが来ているしなぁ」


欧州のレポートを手に取ってパラパラと目を通すが、別に新たな発見があるわけでもない。


「というか、パイプライン供給を絞って欧州に我が国の政策を押し付ける、っていう戦略、失敗してるよなぁ?」


欧州を不安定にして親露派の政権を立てる。という戦略だったが、不安定化させるために寒冷化した西欧へのパイプライン供給を絞った結果、確かに各国の政権は不安定化したものの、台頭してきたのは対露強硬派の民族主義者だった。


「これが中国の工作だったら見事な物なんだがなぁ・・・」


勿論、そんな形跡は無かった。


「結局、統一戦線工作部はどこを標的にしてるんだ?」


結局、謎が深まっただけで、CIAと並ぶ対外諜報工作機関のSVR長官はうんうんと唸り続けるのだった。

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