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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
21/201

北海道会戦・砲火

新世界暦1年1月24日 日本国東京都 市ヶ谷 防衛省中央指揮所


「千歳からあがった第一波4機は機関砲弾も撃ち尽くし帰投中」

「三沢の4機は搭載するAIM-120とAIM-9Xは撃ち尽くしましたが、機関砲はまだ残っています」

「米空軍の4機はAIM-120を撃ち尽くして帰投中」

「中SAM、即応弾を全て射耗し、予備弾を準備中」

「稚内のPAC-3MSEは射程外です」


次々と報告される防空戦の様子に、中央指揮所に集まった幕僚はやきもきさせられていた。


「結局、何機抜けたんだ!?」

「陸自の部隊防空で対応可能なのか?」

「そもそも、他の邀撃は間に合うのか?」


地図と展開状況を見ながら、今後の検討を行うが、なまじ過密に陸上部隊を展開させてしまっている関係で、爆弾1発でも投下された場所によっては結構な被害がでかねない。


「小松の邀撃機が戦闘空域に入りました。新田原の部隊も間もなく」

「千歳から後詰の4機が上がりました。小松からも教導隊(アグレッサー)4機あがりました」


とにかく上がれるのを全部上げろという指示はでていたが、教導隊まで上げるのかと複雑な顔をした海上幕僚長に対し、陸上幕僚長と航空幕僚長は涼しい顔だった。


これは三自衛隊における教導隊の位置づけの差によるものと言えた。

航空自衛隊航空総隊航空戦術教導団飛行教導群教導隊飛行班。

長ったらしい名前だが、いわゆるアグレッサー部隊である。仮想敵の戦術を理解、把握し、演習ではそれを実演し、敵役として一般部隊を訓練するためのエリート部隊である。

配備されているのはF-15DJが主力だが、いわゆる後期生産型、MSIP機であり、近代化改修も受けている、まさにトップパイロットと主力機を集めた精鋭部隊である。


そして、陸上自衛隊には富士教導団が存在し、教育支援部隊とは言いながらも、配属されているのはベテラン中心で、北海道以外で唯一といっていい装甲戦闘車まで有した完全編成の機甲部隊も存在しており、戦術研究や教範作成を行っている。

ちなみに、富士総合火力演習もここの担当である。


それに対して、海上自衛隊で教育、訓練を目的とした部隊と言えば、練習艦隊であり、それは主に護衛艦隊から押し出された二線級の護衛艦と、遠洋航海を目的とした練習艦で構成されている艦隊であり、主戦力としては期待されていない。

まぁ、教導艦隊ではないのだから当たり前なのだが、このあたりのせいで、海自だけ「訓練部隊」と言うと二線級戦力をプールしている場所、という認識になってしまうのである。

1人の技量によって戦力が大きく左右されることはないという船の性質が現れているともいえるので、この辺りは1人の技量が戦力に大きく関わる陸や空との違いである。


「敵機約40、領空に侵入。短SAM迎撃圏内に入ります」

「思ったより減ったか?」

「いや、多いだろ」


とはいえ、現在フルロードの8機が迎撃可能圏内にいて、短SAMもいるので、これで終わり!という雰囲気が室内を支配する。


「後は艦隊と地上だな」

「八戸から対艦装備のP-3Cが5機、百里から対艦装備のF-2が4機上がりました」


ここまで話していて、陸幕の1人が気付いた。


「あれ、航空支援(CAS)は?」

「「あ」」


一瞬やっべという顔を作戦課長がしたが、まぁ無くてもどうとでもなるやん?ということで大丈夫と結論付けられたが、陸自関係者は密かに、やっぱり攻撃ヘリいるよなぁと心の中で思ったのだった。





新世界暦1年1月24日 日本国北海道枝幸町 枝幸地区南部国道238号線


数週前に進軍しようとしたアズガルド神聖帝国戦車隊が中距離多目的誘導弾の餌食になった橋には、その残骸がそのまま放置されていた。

陸自が対戦車障害代わりにそのまま放置していたのである。

もっとも、川自体は戦車であれば(汽水域であり後が面倒ということを除けば)渡河可能なので、さして意味は無いのだが、それ故にきちんとした対戦車障害も置かれず残骸をそのまま放置しているのである。


そして、そんな橋は無視し、渡河して侵攻しようとするアズガルド神聖帝国陸軍が誇るグルトップ歩兵戦車24輌と、それに加え対戦車戦闘を主眼に据え、長砲身8センチ砲を搭載したガルム騎兵戦車が12輌も随伴している。

何が出てきても粉砕するという硬い意志の元、彼らは前進するが、それを全員が信じているわけではない。


「なあ、前にグルトップ6輌が一方的に撃破されたのに、なんか対策立てたのか?」

「さあ・・・」

「せめて目立たないように後ろから行こうぜ」


前回の侵攻時にも参加していたグルトップ歩兵戦車8号車は、何の対策も立てていないのに再侵攻が命令されたことに違和感を持っており、なるだけ前に出ないようにエンジン不調などと理由をつけて停車していた。


「対岸一帯を野砲が十分に準備砲撃するって話だったが、一回斉射して終わりじゃねぇか。どうなってんだ」


もっとも、その一斉射した野砲部隊はすでに存在しないのだが、そんなことを彼らは知る由もない。


『ゲリ8、どうなってる!?まだ動かんのか!?』


無線で指揮官が怒鳴っているのが聞こえる。


「やれやれ、そろそろ限界かね」

「履帯が外れるように細工しといたし、ちょっと走ったら止まろうぜ」


やる気無さそうに5人は戦車に乗り込むと、エンジンを再始動しようとして


「ありゃ?」

「ウソから出た誠ってか?」

「というか、こりゃ回収車コースかもしれんぞ」


うんともすんとも言わなくなったエンジンに、ありゃりゃと首を傾げるのだが、そのことが彼らの命を救うことになるとは、まだこの時の彼らは知る由も無かった。





新世界暦1年1月24日 日本国北海道枝幸町 北見幌別川河口域北岸


8輌のグルトップ歩兵戦車が横隊で少しずつ川に入っていく。


「最初からこうしていれば良かったのだ」


なまじ鉄橋があるせいで、重量を気にして2輌ずつなどと中途半端なことをしたから各個撃破されたのである。

物量と装甲に物を言わせて押し出せばよいのだ。

この侵部隊の指揮官となった連隊長は、アズガルド神聖帝国の不敗を信じる1人であった。


最初の8輌が川の半ばに進んだところで、後続の8輌が河川敷に降りてきて、川に入る。

今のところ敵の姿は影も形もない。


「間もなく航空支援が来るはずだが、接敵していないのでは目標指示が・・・」


接敵していないのはいいことなのだが、せっかく空母艦隊を出したのに敵が見つからないでは無駄になってしまう。


『正面対岸、敵戦車!』


最初に渡河を始めた車両の中の1輌が敵発見を報告する。

双眼鏡で対岸を見遣れば、ちょうど茂みから敵戦車がぬっと砲塔を出したところだった。

が、それを視認した瞬間、敵戦車が巨大な砲煙とともに主砲を発射した。

遅れて発砲音が響き渡る。


思わず驚いて双眼鏡を取り落としそうになったが、それはなんとか堪えて、改めて敵戦車を見ると、すでに後退していて、すぐに視界から消えた。


射撃位置の占位から発砲、撤退までが早すぎる!というのが正直な感想だった。

果たして味方の損害は、と思い川を見ると、最初に川に入った8輌のうち、7輌が動きを止めていた。


『こちらゲリ4、誰でもいいから小隊!応答してくれ!』


その第一陣の中で唯一動いている1輌が必死になって、一緒に川に入った僚車に呼びかけるが、どれからも応答がない。


「連隊長!指示を!指示を下さい!」


横で停車していた騎兵戦車の車長が大声で怒鳴るが、それを無視して必死に考える。

敵戦車の主砲は、無敵とされる重装甲のグルトップ歩兵戦車の正面装甲を難なく貫通してくる。

しかも命中精度も高い。

敵戦車は8輌出現し、こちらのやられた戦車は7輌。

敵は斉射後、直ちに後退し、隠れた。

そこから導き出される結論は・・・


「押せ!敵の火力は強力だが装甲は薄いぞ!すぐに隠れたのがその証拠だ!敵戦車は騎兵戦車と思われる!接近して撃破しろ!」


装甲は薄いが、対戦車火力と機動力に勝る騎兵戦車が敵の主力と結論付け、連隊長は攻勢の続行を命令する。

装甲の薄い騎兵戦車なら、グルトップ歩兵戦車の10センチ榴弾を喰らえばひとたまりもあるまい。


「騎兵戦車はただちに橋を渡って敵の側面をとれ!歩兵は降車し、騎兵戦車に続け!」


本来なら歩兵は速度の問題があるので、歩兵戦車と協同で動くのだが、歩兵に敵前で渡河しろというのは、敵に撃ってくださいといっているようなものなので、歩兵戦車が対岸を確保後に渡河する予定だったのを切り替えて、橋を渡らせることにする。


「進め!敵を殲滅するのだ!」


指揮仗を振り上げて勇ましく命令する彼だが、1つ気付いていないことがあった。

確かに対岸に出現した陸自の90式戦車は8輌であり、8輌で斉射し、すぐに引いたのだが撃破したのは8輌である。


当初の予定では渡河中の8輌を撃破する予定だったのだが、1輌が砲塔を覗かせた瞬間、対岸の堤防で警戒中だった騎兵戦車と見つめ合ってしまい、反射的にそちらを撃破したのである。

装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)を使用したので、爆発も起こらず、元々停車していたので、外観では小さな穴が2ヶ所にあいただけの変化に誰も気づかなかったのである。

そう1発で、2ヶ所に穴があいた。砲塔正面に命中した砲弾が車内を通過し、砲塔後部から抜けたのである。


最新の10式戦車の新砲弾には劣るとはいえ、単純な装甲なら460mmを超える貫通能力を持つ120mmJM33は、機動力を重視し正面でも40mm程度しかないガルム騎兵戦車はボール紙のように貫通されたのだった。





新世界暦1年1月24日 日本国北海道枝幸町 北見幌別川河口域南岸


「接近する対空目標を探知、数22」


87式自走高射機関砲の狭い車内でレーダー画面を見ていた車長は言った。


「多くないですか?」


数を聞いた砲手は思わず聞き返す。


「現在進行形で短SAMが墜としてるけどな」


レーダー画面に表示されるシンボルはぽつぽつと減っていた。


「来ますかね」

「来るだろうな」


それでも、対空機関砲の射程までに全てを墜としきることは出来ないだろう。

油断していた空自と、物量で押した相手の作戦勝ちである。

もっとも、240機出撃させて、敵を攻撃できた機体が数機で、その数機もおそらく帰還はできない、で作戦勝ちと言われても、アズガルド神聖帝国軍は憤慨するだろうが。


「5機かな?」


レーダーでは撃墜されたとしても、探知外になる、つまりレーダーが拾えない低空まで落ちるか、探知できないほど細かくバラバラにならない限り、表示され続ける。

ミサイルが命中したら標的がレーダーから消える、なんていう便利な機能はないのである。


「4機みたいだな。射撃準備、小隊でそれぞれ別の目標を追尾する」

「了解」


前線を抑えるために出動した90式戦車は12輌。

そのエアカバーのために追従した87式自走高射機関砲は4輌。

奇しくも1輌で1機の割り当てである。


「戦車隊のほうは四苦八苦してるみたいですね」

「そら無理矢理茂みかきわけて堤防の上から頭出して撃って下がる。だろ。言うのは簡単だが実際、頭出して俯角が足りるかどうかを登る前に茂みの上から見極めるって無理ゲーでは」


そんなことを言っていると、敵機が接近してくる。


「レーダー追尾中」

「砲塔連動開始」


ぐいっと砲塔が回って、砲塔両脇に装備した機関砲に仰角がかかる。

そして、そのまま敵機の動きに合わせてゆっくり動き続ける。


「距離3000で射撃する」

「了解」


じりじりと時間が過ぎる。

その間も、砲塔はゆっくりと旋回を続け、敵機を追尾していることがわかる。


「敵機、距離3000」

「撃て!」


ダンダンダンダンダンダンと毎分550発の発射速度を誇る35mm機関砲が火を噴く。

それを2門同時に射撃するので、毎分1100発の射撃速度。陸上自衛官が口をそろえて「一番撃たれたくない兵器」に名を挙げる破壊力は伊達ではない。


1門20発ずつのバースト射撃を何度も繰り返す。

まるで訓練で中々撃たせてもらえない鬱憤を晴らすかのようである。


「撃墜確認」


射撃指揮装置のカメラ映像を見ていた車長が宣言する。


「どうやら他も全部墜としたようだな」


レーダー画面はすっきりしている。

ここにアズガルド神聖帝国第一空母艦隊第一波攻撃隊240機は文字通り全滅したのである。


「俺らの仕事は終わりかね」

「そうですね」


気が抜けたような声を出す砲塔内の2人。


「あのー、なら帰りませんか。トイレ行きたいんですけどー」


さらに気が抜けたことをいう操縦手。

そこらで用を足すのは演習場ならいつものことだが、マスコミの目を気にした防衛省から、今回の作戦中はちゃんとトイレでやれとの通達が出ていた。


「しゃーねーなー、確認するからちょっと待て」


そう言って後退の許可を取ろうと車長がしたところで、戦車隊から騒がしい無線が入った。


『敵戦車、橋を突破!足が速いやつだ!』

「橋?」


地図を見遣る。


「今いるところがここだから」


地図を指差しながら橋との位置関係を見ようとする。


『87AW!直ちに退避せよ!』

「9時方向、敵戦車!」


無線の警告と、ハッチから顔を出していた砲手の大声は同時であった。


「砲塔旋回!対地射撃!」


こちらに気付いたらしい敵戦車が停車して砲塔をこちらに向けようとする。

砲塔の旋回は対空射撃を目的とするこちらのほうが圧倒的に早い。


「弾が切れるまで撃ちまくれ!」


とはいえ、87式自走高射機関砲が搭載する対地射撃用の装弾筒付徹甲弾(APDS)は、1門につき20発。一斉射分でしかない。

それも敵戦車を貫通できるかどうかは未知数である。


「撃ちます!」


砲手は叫びと共に祈るように引き金(トリガー)を引いた。

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[一言] ウクライナ戦争でM2ブラッドレーが25ミリ機関砲でロシアの戦車を撃破したニュース見てどこかで聞いたと思ったら21~22話が似てますね
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