北海道会戦・号砲
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思ったより話が進まない・・・
新世界暦1年1月24日 日本国北海道 枝幸町歌登地区
枝幸地区から直線距離で12キロほどしか離れておらず、敵野砲の射程内の可能性もあるエリアだが航空優勢も観測地点も押さえているので問題ない、ということで枝幸包囲部隊の宿営地の1つになっていた。
ここには主に第11旅団が第11戦車隊を主力に展開しており、枝幸から内陸方面の包囲、防衛を担当していた。
第11戦車隊の90式戦車を装備する2個戦車中隊を主軸に、第10即応機動連隊の16式機動戦闘車を装備する1個機動戦闘車中隊を加えたものが正面戦力の主軸である。
他に普通科や高射特科も展開しているが、短地対空ミサイルが81式だったり低空警戒レーダーがP9だったりと、近年の西方シフトの影響をもろに受けて装備更新が滞っているのがよくわかる構成になっていた。
住民が避難し、無人になった市街地を慌ただしく自衛官が駆けまわっている。
《こちら短SAM、射撃準備良し、指示を待つ。送れ》
「指揮所了解。本空域に民間機無し。敵味方識別装置に反応が無ければ射撃せよ。送れ」
《短SAM了解》
敵機の数が多すぎて空自と中SAMが撃ち漏らす可能性が高いとの報告に、装甲車両は隠蔽に追われ、展開はしたものの出番はないと思っていた短SAMや近SAMは大慌てで点検を行っていた。
「しかし、レシプロ機相手で短SAMや近SAMの出番があるとはな・・・」
「備えあればうれしいなということでしょう」
なんかそれおかしくね?という風に顔を見たが、言った本人は何がおかしいのかわかっていないようだったので、そっとしておくことにして、視線を短SAMに戻す。
「だが、敵の目的はなんだ?そもそも偵察もろくに出来てないんだから、ここに我々がいることもわかってないだろ?」
枝幸から少数の斥候が出されたことは何度かあったのだが、OH-1や新無人偵察機システムによって枝幸は24時間監視されているので、出てくるなり96式多目的誘導弾を撃ちこんだり、120mm迫撃砲を撃ちこんだりしていたら、そのうち全く出てこなくなった。
「なんで出てこなくなったんだ?まだ連中は何の情報も得ていないだろ?」と首を傾げていた偵察隊の隊長のサイコパスっぷりが部隊内で語り草になったのは余談である。
「海岸沿いの地域じゃないですかね。特に南側は見える位置に第7師団が展開していると聞いています」
「だがその狙いは何だ?攻勢に出られるほど上陸戦力に余裕はあるまい?」
「案外撤退戦のつもりかもしれませんね」
「大人しく降伏していれば生きて帰れたものを」
そう言って手元に落とした視線は、手に握られた作戦指示書に向かった。
そこには「北一号作戦:敵による攻勢が確認された場合に発動」と書かれていた。
新世界暦1年1月24日 日本国北海道 枝幸町枝幸地区南方
「ようやく出番だ!野郎ども、これまでの鬱憤を晴らすぞ!」
おう!という返事とともに、戦闘服の袖をまくり上げたり、ベレー帽をあみだに被ったりと、思い思いに着崩している荒くれ者集団のような搭乗員たちは、それぞれの戦車に乗り込んだ。
「しかし、ランヴァルド少将もようやく重い腰を上げたか」
「なんでも栄光の第一空母艦隊が援護に派遣されると聞いてようやく決心がついたらしい」
「アルノルドがいなくなって、ランヴァルド少将ならやってくれるだろうと思っていたらあれだもんな!」
「全くだ。斥候も出すな、相手を挑発するな、じっとしていろ、って俺達が何しにきたと思っているんだ!」
彼らはアルノルド中将が拉致されたとき、幸運にも市街地北部の警備についていたため、空爆にもAH-64Dにも遭っていない。
よって、このエリアにいるアズガルド神聖帝国の中では化石級の武闘派である。
その部隊にランヴァルド少将が先鋒を務めるよう命令を出したのは、一撃入れてその隙に撤退するという作戦を納得させる自信が無かったためである。
そして何よりも、「一撃いれる」部隊はいわば殿であり、間違いなく撤退できない。必ず死ぬと書く必死である。
よって、彼らは増援を受けて大規模攻勢に出る先鋒だと聞かされ、そのように信じていた。
少し頭が回れば有り得ないとわかるはずだが、信じたいことを目の前にぶら下げられるとそれに飛びつきたくなるものである。
もっとも、先鋒も殿も、軍の先っぽと言う点は共通しているのだが。
大排気量ガソリンエンジンの唸りを上げて、グルトップ歩兵戦車の集団が動き出す。
機甲部隊の行動に適した市街地南側への侵攻が指令されていた。
以前に偵察部隊名目でランヴァルド少将が進軍しようとして待ち伏せを受けたため、準備砲撃が十分に行われることになっていた。
海軍航空隊第一波240機に加え、野砲30門の援護射撃のもと、歩兵戦車24輌を主力にした機甲部隊が突撃する。
前線正面の狭さを考えれば史上空前と言っていい火力密度であり、これまでの鬱憤を晴らすために暴れまわってやろうという空気が機甲部隊を支配していた。
それを見つめる無人の瞳があることに気付いたものは誰もいない。
新世界暦1年1月24日 日本国北海道 枝幸町岡島地区
道の駅やキャンプ場、小学校などが集まっているエリアに陸上自衛隊第7師団は前哨拠点を置いていた。
「新無人偵察機システムの偵察では、敵機甲部隊がこちらに来る気配があるとのことです」
待機していた部隊が慌ただしく進発の準備をしている宿営地で、連隊長は偵察報告を受けていた。
「戦車を前に出し、エアカバーは87式自走高射機関砲だけだが・・・まぁ鬼士別の中SAMと後方の短SAMもある。どうにかなるだろ」
その時、けたたましい警報が響き渡る。
「砲撃!?」
「退避!」
慌てて退避壕に飛び込むと、しばらくして爆発音が聞こえてくる。
「遠い、というほどではないですが狙いはここじゃないですね」
「川岸を掃討してるつもりなんじゃないか?前回の敵の攻勢時は中多が堤防に展開してたからだろ」
こっちに砲弾が降ってくる様子が無いということで、壕から頭を出して様子を窺う。
「音が変わりましたね」
「99式自走榴弾砲の即応射だ。対砲レーダーも持たない敵さんが哀れだな」
警報が解除されたので、部隊は再び前線に向かう準備を始めるのだった。
新世界暦1年1月24日 日本国北海道 枝幸町山臼地区
岡島地区からさらに南方、陸上自衛隊第7師団第7特科連隊はここに即席の射撃陣地を設営していた。
もっとも、99式自走榴弾砲のみで構成される部隊なので、敵を射撃可能な位置であれば、陣地はどこでもいいのだが。
ここに展開している99式自走榴弾砲は計20輌。その全てが野戦特科射撃指揮装置によって統制されており、対砲レーダーと連接された野戦特科情報処理システムと組み合わせることで、敵野砲陣地への迅速な反撃を可能としていた。
「敵砲撃探知!弾着位置標定、北見幌別川右岸一帯!発射位置標定、敵火砲約30門、枝幸市街地南側に分散配置されています」
「自走15榴、射撃命令!同時弾着射撃準備!発射弾数2、指示を待て!」
敵の反撃や逃走を阻止するため、異なる砲から同時に相手に着弾するようにし、殲滅するのが同時弾着射撃である。
通常であれば10発を同時着弾させるには10門の砲が必要だが、弾道計算を行うコンピューターの発展と火砲及び自動装填装置の進歩によって、遥かに少ない砲で同等の同時弾着射撃が可能になった。
つまり、発射に使う装薬の量と砲の角度を調節することで、1発目を高仰角で撃ち出し飛翔時間を稼ぎ、それが着弾する前に次弾を装填、低仰角で発射することで飛翔時間を短縮、この2発を同時着弾させる。という芸当が可能になったのである。
これを行うことで、初撃だけとはいえ、実際の砲門数の倍以上の火力を相手に叩き込めるわけである。
今回は20門の99式自走榴弾砲が2発ずつ発射するので、都合40発の155mm榴弾が同時に相手に降り注ぐということである。
「TOT発動、20秒前!」
アズガルド神聖帝国の野砲部隊は発砲からわずか1分もたたず、全滅することになるのだった。
新世界暦1年1月24日 日本国北海道北東 旧オホーツク海上空
「くそ!くそ!くそ!」
罵声を吐きながら目を血走らせ、周囲を絶え間なく見回す。
240機を誇った第一次攻撃隊は、最初に敵機の姿も見えぬまま、一瞬で14機が撃墜された。
護衛戦闘機隊の隊長であり、アズガルド神聖帝国海軍航空隊きってのエースパイロットである彼は、自分が気付かぬうちに攻撃を受けたことにプライドを傷つけられたが、この時はまだ冷静に判断する余裕があった。
護衛戦闘機隊には上昇、攻撃隊には雲への退避を指示した。
彼が駆るリントヴルム艦上戦闘機は、元の世界において圧倒的上昇力と最高速度を誇り、それでいて平均水準の格闘能力まで有する傑作機であった。
なんせ、艦上機として造られたのに、陸軍航空隊も仕様違いを採用したほどである。
離昇出力で1900馬力を誇る空冷星形18気筒エンジンを吹かし、雲の上に出たが、敵機の姿は見当たらなかった。
どこから攻撃を受けたのかわからぬまま、とにかく上を取られないように上昇限度に近い8000m付近まで昇ってきた。
『隊長、いくらなんでも昇りすぎでは?』
バディを組んでいる部下が無線で呼びかけてくる。
ターボチャージャーを装備していない彼らの乗るリントヴルム3A型では、搭載燃料も考慮すればほぼ限界高度である。
「敵機が見当たらない。どこから攻撃を受けたんだ」
『わかりませんが、これでは攻撃隊と高度差が大きくなりすぎます』
上を取れば戦闘で有利になることは確かだが、彼らの今の任務は攻撃隊の護衛である。
その護衛対象から離れすぎるというのは、本末転倒である。
「一度高度を落とすか・・・」
そう言って、緩降下に入ろうとしたところで、突然無線が騒がしくなった。
『後方上空に敵機、数は・・』
『6番機がやられた!』
『何だあれは!?はやすぎる!』
『あぁ、11番機も落ちた!』
一斉に皆が話し出したせいで混信もおこってほとんど聞き取れない無線を諦めて、後ろを振り向くと、爆発して墜ちていく機影がいくつも見えた。
「何が起こっている!?」
そう叫んだ時、バディ機を火線が通過したと思うと、次の瞬間にはバディ機はボロクズのようになって落ちて行った。
そして、それと交差するように降下していく機影。
「くそがあぁぁあ!」
それをはっきりと視認することもなく、彼は反射的に操縦桿を動かしていた。
バディ機を撃墜したであろう、敵機の後ろに着こうとしたのだが
「な!?」
まず降下速度が違い過ぎた。
あっと言う間に遠ざかったと思うと、敵機は今度は上昇に転じた。
それなら攻撃のチャンスはあると思ったが、その時には敵機は遥か上空まで昇ってしまい、手が出せなくなった。
「この高度でまだあれだけ昇るのか!?」
ターボチャージャー装備の高高度迎撃用のリンドヴルム3D型でも足元にも及ばない上昇能力を見せつけられ、背筋が冷たくなる。
「エンジン出力が違いすぎる!水エタノール噴射も使ってるんだぞ!?」
一時的にエンジン冷却能力を大幅に上昇させ、出力を増強する水エタノール噴射装置を使用していても、まるで差が詰まった様子は無かった。
混乱していた無線は、かなり静かになって聞き取れるようになっていた。
その意味に気付き、きつく奥歯を噛みしめた。
「降下しろ!雲の中に逃げ込め!」
そう指示を出し、降下制限速度ギリギリで雲に向かって逃げる。
時速700キロを超えているのだから、高度差で数千mの雲なんてすぐのはずなのだが、それが無限にも等しい時間に感じられる。
ようやく雲の中に逃げ込めると思ったとき、その雲の中で爆発が起こっていることに気付く。
雲の中には攻撃隊が逃げ込んだはずである。
震える手で無線機の周波数を攻撃隊のものに合わせる。
すると、先ほどと同じ、各々が混乱して恐怖を叫び、混信している無線が飛び込んできた。
「降下だ!降下しろ!海面すれすれまで降りろ!」
雲の中にいても敵は攻撃できるというのであれば、わざわざ視界の利かない場所にいる必要は無い。
警戒方向を上側に限定できるという点、一撃離脱の攻撃が仕掛けにくいという点を考慮し、海面近くまで降りるのが最善だと判断し、降下を継続する。
雲の下に抜け、海が見える。
と同時に、雲から煙を引いて落ちていく攻撃隊が次々に降ってきていた。
最早、どれだけの数の攻撃隊が残っているのかもわからない。
そもそも、攻撃隊は戦闘機ではないのだから、降下制限速度も遥かに遅い。
戦闘機隊ですら無残な状態だというのに、いったいどれだけの数が生き残れたというのか。
「くそ!くそ!くそ!」
ここで話は最初の罵声に戻る。
周囲を見回せば、一方的に蹂躙を受けた割には結構な数が残っているようにも思えたが、元の数を考えれば、明らかに半分を大きく割り込む数しか残っていない。
しかも、攻撃隊は少数であり、ほとんどは護衛戦闘機隊である。
敵機とは圧倒的な性能差があるとはいえ、それでも飛行性能は攻撃隊に勝るので、多く生き残れたのだろう。
攻撃隊を守ることもできず、護衛戦闘機隊が生き残っているなど、本来なら恥知らずと罵られるところだが、今の彼にそんなことを考えている余裕はない。
「陸だ!こうなったら少しでも敵に被害を与えて仲間の無念を晴らすぞ!」
傍から見れば自暴自棄という言葉が浮かぶ指示を出し、アズガルド神聖帝国海軍第一空母艦隊第一波攻撃隊は突撃を開始したのだった。




