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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
16/201

動乱の予兆

ちょっと短いです

新世界暦1年1月21日 新大陸 人民解放軍現地司令部


「くそが!」


司令官である上将は机を叩きつけた。

そこにはかなり詳細に判明してきたこの大陸の地図があった。


「どうやら我々が上陸した場所は大陸の西端だったようですな」


それは要するに中国側が狭いということにつながる。

そして東はロシアである。


「ロシアは国境線を引くように恒久陣地と鉄条網の柵を設営しています。現在、早急に南方から迂回できるよう動かしていますが、どこまで先回りできるか」

「このままでは台湾より広いかどうかという土地を確保しただけになってしまい、おいしいところをロシアに全て持って行かれる恐れがあります」


中国側が狭くてロシア側が広大というのは想定外だったが、それは運の問題もあるのでどうしようもない。

問題になったのは


「ロシアが空挺軍を使用して遅れを挽回するとは思いませんでした。機甲部隊や船舶をシベリア方面に移動させていましたから、てっきり船舶輸送を行うものと」

「逆に言えば、その移動した機甲部隊はそのまま満州への圧力になっているということだろ。腐ってもかつてアメリカと張り合った軍事大国ということだ」

「空輸能力では我が国はロシアに大きく後れを取っています。展開速度で勝てない以上、船舶輸送の物量で押すしかないでしょう」

「近代化の号令で装備改革を進めてきたのに、結局物量か」


司令官は忌々し気にそう吐き出すと、再び地図に視線を落とす。


「とはいえ、ロシアもまだこちらの大陸に航空基地は築けていまい?」

「仮設滑走路は完成しているようですが、整備設備や、なにより燃料輸送が間に合っていないようですね。港がまだですから当然ですが」

「中南海はロシアとの衝突は避けろと言ってきているが、多少強引な手を使うことについての許可はでている。相手が国境線を引こうと言うのなら、その妨害に戦車を向かわせて工事を妨害しろ!それとその部隊に政治将校も同行させろ!現地での判断は任せる!」


その指示を受け、何人かが早速部屋を出て行く。


「あと、航空偵察で大陸の南東側に中世レベルの都市や政治機構が見つかっていたな。利用できそうならあれも利用する!中央統一戦線工作部と連携して、取り込む作戦を立案させろ!ロシア(SVR)も動いているぞ、注意しろ!」


西の端に封じ込めようとするロシアと、それをさせじと蠢く中国の競争は始まったばかりである。





新世界暦1年1月21日 ダスマン連合首長国 連合首長会議堂


複数の小国が集まってできたダスマン連合首長国は、基本的に「国家元首」と言うものが存在しない。

一応、国としての最高意思決定機関に連合首長会が存在するものの、各首長がそれぞれ自由に自分の国を運営している。

よって、連合首長会の役割は各首長国間の利益調整や、飢饉や災害等緊急時の互助、外交防衛の最終意思決定に限られる。


そして、各首長国は平等という理念と、単純に皆集まりやすいという理由で、まさに国の中心と言える場所に連合首長会議堂は作られていた。

その会議堂では現在、「不毛の大地」と呼ばれる大陸北西部に突然侵攻してきた謎の軍事勢力について話し合われていた。


「では、連中は今のところ互いに陣取合戦をしているだけだと?」

「使い魔からの情報ではそのようですね」


報告書を見ながら首長たちが話している。


「しかし、狂信者のバカ共の相手をしなくてよくなったと思ったとたんこれか」


その言葉でやれやれ、といった感じで全員が溜息を吐いた。


「神聖タスマン教国のバカ共との緩衝地帯に丁度良かった不毛の大地も、こうなってしまうと何もない分情報の収集が困難だな」


一応、ダスマン連合首長国も、聖者タスマンが広めた教えを受け継ぐ国ではあるが、その教義を歪めて国家運営の中心に据えているタスマン教国とは、戦争こそしていないものの、友好的とは言えない関係であった。

ただ、国力では神聖タスマン教国が圧倒的であったこと、一応同じ宗教を主とする国であること、間に緩衝地帯となる不毛の大地があったこと、そしてなにより、神聖タスマン教国が方々に敵を作りまくっていたせいで、武力衝突は避けられていた状況である。


そんなわけで、神聖タスマン教国を刺激しないためにも、不毛の大地には戦力と言えるようなものは配置されていなかった。

せいぜいが、偵察のために魔導士部隊が使い魔を飛ばしていた程度である。


「いずれにせよ、連中の目的がわからんじゃないか」

「陣取合戦してるってことは領土拡大では?」

「領土拡大とはいうがね、何もないとはいえ、一応あそこもうちの国土だぞ」

「だが、そっちは言葉がどうかわからんとはいえ、会って話すことが出来るしいいじゃないか、うちのほうに度々飛来している飛行機械のほうが問題だよ」

「そりゃ誰だって国の反対側で起こっていることより、自分の近所で起こっていることのほうが問題だろう」

「そんなことを言いだしたら我々連合首長国の意味がないだろう、”全ては我が事”を忘れるな」


船頭多くして、の状態にこの国がなっていないのは明確な脅威があったことと、単純に首長達による多数決を採用しているため、結論が出ないということは無いためである。


「とにかく、軍は警戒態勢を維持。陣取合戦をしている2つの勢力については、可能な限り早急にコンタクトをとれるよう努力する、ということでよろしいか」


異議なしという声とともに会議は閉会となった。

それぞれの首長が退室していくが、そのまま自分の国に帰る、というのはおらず、それぞれがそれぞれの思惑で、会合や根回しを繰り返す。

議会が機能している国ではどこでも見られる光景がここでも繰り返されるのだった。





新世界暦1年1月21日 新大陸西方海域 ザルツスタン連邦国 第3艦隊


「本来ならアズガルド神聖帝国がこのあたりだったはずだが・・・」


艦隊前方に見えた陸地を眺めて艦隊司令は言った。

軽空母2隻を有する艦隊は、周辺海域の捜索のため派遣されていたが、現在までのところ、従来の海図があてにならないことがわかっただけである。


「これまでの成果は未知の陸地が1つ、まぁ、あれがアズガルド帝国でなさそうなら2つですか」

「それに対してこちらの損害が座礁が2隻。釣り合っているとは思えませんな」


海図がないので、先に見つけた陸地で不用意な行動をとった重巡洋艦と駆逐艦が座礁していた。

幸い、満潮に合わせて曳航し脱出できたが、本国に戻してドック入りである。


「そう言うなよ。どのみち調べねばならんのだ」


苦い顔をした艦隊司令は副官に言う。


「しかし、これでアズガルドもなければ海の様子は何の共通性もないことになりますね」


そういいながらも、2人とも多分あの陸地はアズガルドではないとすでに思っていた。


「索敵機より入電、国籍不明の艦隊発見。方位064、距離120000」


艦橋内がざわつく。


「なんだ、また小型帆船か」

「いえ、全て動力艦の模様!空母と見られる艦も1隻含まれるとのことです」

「それで?」

「それ以後の通信が途絶!」





新世界暦1年1月21日  新大陸西方海域 人民解放海軍 北海艦隊


「遼寧から発艦した迎撃機が不明機を撃墜しました」

「目視距離まで接近に気付かんとは!防空艦のレーダー員は揃って昼寝でもしていたのか!」


ロシア艦隊の動きに注意を取られて誰も反対の方角を気にしていませんでした、とは誰も言い出せず嫌な沈黙がその場を支配する。


「しかし、撃墜というのは少し早まったのではないでしょうか」

「このエリアは民間機には飛行禁止空域に指定されているし、国際緊急周波数の呼び出しにも応じず艦隊上空に入った。敵対行動としては十分ではないかね?」

「せめて撃墜の前に警告射撃はしたほうが後の言い訳が立ったのでは」

「済んだことをあれやこれやいっても仕方あるまい」


それでも、元の世界であればこの司令は撃墜などという選択肢はとらなかっただろうと皆思ったが口には出さない。


「迎撃機からの報告では、レシプロ空冷星形エンジンの単葉複座機のようだったとのことです」

「そんな骨董品、訓練機でも使っている軍はなかろう」

「まぁ、今となっては維持するのも面倒な代物ですしね」


その話を聞いていた1人は、なら尚更撃墜はまずかったんじゃないのかと思ったが、やはり口には出さなかった。


「ロシア艦隊に動きは?」

「今のところは特に変化ありません。変わらず新大陸への上陸を目指すようです」

「やはりロシアとは関係なかったか」


ロシア艦隊も中国艦隊が邪魔をしない限りは何もしてこないだろうというのが大方の予想だったので、突然現れた不明機への対応が慎重さに欠いた面は否めない。


「とはいえ、不明機を飛ばしてきた存在が周囲にいるはずだ。遼寧からJ-15を発艦させて周囲を索敵させろ」


こういったときに本来なら早期警戒機を飛ばせれば手っ取り早いのだが、現状では空母に搭載可能なそれを実用化しているのはアメリカだけである。

必要なことはわかっているが、機体の性質上大型機の方が有利であり、陸上基地からの支援が望めないほど遠洋に出ない限り必要ないということもあり、ヘリコプターに簡易なシステムを搭載してお茶を濁し、金のかかる固定翼機の開発、配備は後回しになりがちである。





新世界暦1年1月21日  新大陸西方海域 ロシア海軍 極東艦隊


「中国艦隊、接近した不明機を撃墜した模様です」


CICでレーダー画面を見つめていた兵士が報告する。


「強気な対応だな。最も、トランスポンダもない機体なら墜としても事故と言い張れるか」

「遼寧から上がった迎撃機が追い回そうとしてましたので、逃げるために急降下して空中分解。という可能性もゼロではありません」

「まぁ、レーダー情報しかないからな。どう解釈するかは政治が決めることだ。記録だけ残しておけ」


艦長はそれだけ言うと、艦隊の状況が表示された大型ディスプレイに意識を移す。


「とにかく仮設港の設営と燃料備蓄設備の建設を急がねばな」

「アメリカの存在も確実視される以上、早めに既成事実を積み重ねる必要がありますからね。しばらく休みなしでしょう」


すでに周辺偵察でグアムが発見されており、取り込でんしまえと脅迫めいて接触したところ、ワシントンにロシアの意思を伝えておくと返されて慌てて引き下がった経緯があった。

ちなみに、そんな最初の接触(ファーストコンタクト)のせいで情報は何も貰えなかったらしい。


「まぁ、ロケットの打ち上げも近い。探検ごっこや陣取合戦も直に終わりだろうよ」


一時の祭りの狂乱を楽しむかのように言った艦長は冷めてしまった紅茶を口に含んだのだった。





新世界暦1年1月21日 フランス共和国 パリ 欧州宇宙機関


街は一面真っ白であり、建物の窓という窓は凍り付いてしまい、開閉できなくなっている。

観光客に溢れていたシャンゼリゼ通りも、その面影は無く、出歩く人もまばらであり、その数少ない人達もまるで高山登山か、南極観測にでも行けそうな格好である。


「かー、室内でも寒いな」


吐く息も白いという状況だが、外に比べれば格段にマシである。


「仕方ないだろ、建物がそもそも極地仕様じゃない上に、ロシアにパイプラインを閉められたんじゃ、暖房用のガスはおろか、発電だって原発任せだ。とてもエネルギーが足らんよ」

「ロシアに頼りすぎだったんだよ」

「今更それを言っても仕方あるまい?」


そんな会話をしていも口や鼻からは白い息が漏れ出している。


「しかし、これだけ寒くてもネットやマスコミは元気だぞ」

「そんなもん、ロシアにどう対処するかで揉めてるだけだろ。ロシアへの融和とか唱えたところで、肝心のロシアがもうこっち(欧州)のことなんか興味持ってないんだから、どうしようもない気がするがね」

「元のシベリアみたいな状態だもんな・・・。かといって対露強硬派の南下政策も現実的じゃないだろ」


凍り付いた窓を見て溜息を吐く。


「だがおとなり(ドイツ)じゃこのままいくと与党だろ?」

「歴史は繰り返すってか?冗談きついぜ」


などと雑談を彼らがしているのは仕事がないせいである。

欧州の主要打ち上げ施設は、南米のフランス領ギアナにあるギアナ宇宙センターであった。

赤道に近いそこからアリアンロケットを打ち上げることで、全体に緯度の高い欧州の不利を、有利に変えていたのだが、南米大陸と連絡できなくなってしまったせいで、大型のアリアンロケットに対応できるロケット射場がないのである。


「そういえば、アリアン6の製造、難航してるって?」

「緯度の上昇による気候変化で欧州内ですら流通がガタガタだ。それに、造ったところで射場がないんじゃな」

「欧州内に射場を造ったところで、前より緯度が高いんだ。ペイロードに大幅に制限かけるとして、実用的かどうか」


やれやれ、と2人は再び溜息を吐く。

と、突如、フロアがざわついていることに2人は気付いた。


「どうした?」


慌ただしく駆けて行こうとしたスタッフの1人を捕まえて声をかける。


「速報で衛星打ち上げに成功した国がでたって!」

「なんだと!?」


2人も続いてテレビのある休憩室に駆ける。


「ネットニュースか何かか?」

「わからん、俺も聞いただけなんだ。とりあえずニュースを見てみようかと。何かやるはずだ」


とにかく情報を集めるため、スマートフォンを取り出しながら休憩室へと向かうのだった。

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