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第一次「異」世界大戦  作者: 七十八十
新世界暦1年
11/201

謎の島

新世界暦1年1月7日 日本国 東京 総理大臣官邸


官邸の主は執務室で護衛艦いずもから送られてきた速報版の報告書に目を通していた。


「なんというか、信じ難い話だなぁ」


胡散臭い物を見るような目で総理は報告書から顔を上げる。


「しかし、事実であれば食料問題は一気に解決、ついでにバイオ燃料に回してしまってもおつりが来ますし、それ以上にとんでもないものを味方に出来ます」

「だから信じ難いんだよ」


溜息を吐きながら報告書を机に置く。


「それに扱いが難しい」


総理が問題にしているのは、むしろこの報告書が事実であるかどうかよりも、事実であった場合の扱いのほうである。


「アフリカ大陸が見つかった以上、アメリカもユーラシアもどこかにあるだろう。こんなものを日本が独占することを良しとするかね?」

「だからこそ、今、独占してしまうことが重要だと考えます」


官房長官はそう強く言った。


「アメリカもユーラシアも、どこかにあるのでしょう。しかし、位置関係が全く変わってしまった以上、彼らとの関係が従来通りである可能性も必要性もないのです。それはお互いに、です」


現状の捜索範囲内に存在しない、ということは少なくとも従来の日本、オーストラリア間並には離れているということである。

つまり従来の安全保障上の懸念は全て過去のモノとなったのである。


「果たして、この状況で互いに日米安保が必要になりますか?アメリカは日本防衛を約束する代わりに、日本は西太平洋におけるアメリカの前線基地兼防波堤である。という日米安保の前提は成り立ちません。アメリカに日本を防衛するメリットが無くなったんです」

「あの島を出汁に日米安保を維持する?」

「自立してやっていけるようにしなければならないと言っているんです。そもそも今のところ中国やロシアに匹敵するほどの国が周囲にはないでしょう。日米安保が無くても自衛できるんですよ」


あくまで楽な方に行こうとする総理に、呆れたように返す官房長官。


「まぁ、実際問題、アメリカもわざわざ敵を増やすようなことはしないでしょうし、ハワイやグアムが近いということを考えれば同盟関係は維持されるでしょう。しかし、今まで通りということはあり得ません。そのことを念頭に置くべきです」


官房長官に言葉に、なんでこんなときに総理になっちゃったのかなぁと頭を抱える行政の長だった。




新世界暦1年1月6日 沖ノ鳥島北方 謎の島


ここで時間を遡って、屈強なSBUに外交官北条が無理矢理ヘリ(MCH-101)に放り込まれたところから見てみよう。


「ああああぁぁぁぁ」


離れていく護衛艦いずもを未練たらしく窓から見ている北条を、他の同行者は呆れたように見ている。


「いい加減しゃきっとしてください。みっともないです」


それを入省年次で2年後輩の武田が窘める。


「だって、行っても言葉通じないじゃん。どうすんのさ」

「男だったらそんなくだらないことでうだうだ言ってないで、当たって砕けろくらいの気持ちを持てないんですか」


女のお前の方がよっぽど男らしいな。という言葉を北条は辛うじて飲み込んだ。一応北条の方が立場が上なので、めんどくさい方にとられたら非常にめんどくさいからである。


北条は何かと強気なこの後輩が苦手であった。

実は同じ大学同じ学部の後輩である武田との付き合いは、大学在学中まで遡るのだが、そのころから何かと強気な武田にはケツを蹴り上げられていた。


「島に入ります」


パイロットの声とともに窓の外には森が見える。


「すでに中央から生えてるバカでかい木の下に入ってるんだろ?」

「その割には日陰になってないし、違和感がないな」


ただ常識外れにデカいという以外の秘密もありそうな巨木に、機内はざわつく。


「前方11時、飛行物体接近」


その言葉に緊張が走る。


「いずもに救援を」

「相手を刺激したくない。まずは様子を見よう」


ようやく腹が据わったのか、落ち着いた北条が言う。

その横で、もうちょっと早く落ち着けたら出世も早いんだろうけどなぁと思っている武田だった。


「あれは・・・ドラゴン?」

「人が乗ってますよ」

「おいおい、どこまでファンタジーなんだよ」


やがて人を乗せたドラゴンは、ヘリの周囲を一度旋回すると、先導するように前を飛び始めた。


「ついて来いってことですかね」

「とりあえず行ってみよう」


先ほどの感じからすると、飛行速度は300キロ超といったところだろうか。

現在はヘリを先導するように速度をMCH-101に合わせて250キロほどで飛行している。


「しかし、あっさりインターセプトしてきましたね」

「ああ、電子機器は見られないという話だったが、何かしらの防空システムが構築されているのかもしれない」


自衛官はあっさり迎撃が来たことが不思議だったらしい。


電波探知(ESM)に反応はないのか?」

「そうですね。電波照射は受けてなさそうです。とはいえ、SH-60のような本格的な自己防衛装置ではありませんから、確実なことは言えませんが」


哨戒ヘリとして、軍艦との対峙も想定されるSH-60系列はチャフ・フレアディスペンサーも含めた高度な自己防衛用のESM装置が搭載されているのに対し、掃海・輸送ヘリコプターであるMCH-101の能力は限定的である。

というよりも、特殊部隊であるSBUの母機としては明らかに能力不足である。

それでも今回MCH-101が使用されたのは、単純に輸送能力の問題である。


やがて、島の中央、巨大な木の根元にある城塞都市上空に入った。


「すげーファンタジーだな」

「観光地として人気出そうだな」


全ての建物が白で統一されており、森の緑や巨木の幹、そこを流れ落ちる巨大な滝と見事なコントラストを為している。


やがて、城の前にある広場の上空で、ドラゴンがぐるぐると旋回しだした。


「あそこに降りろってことですかね」

「まぁ、こうなりゃ出たとこ勝負だ。行ってみよう」


広場に降りたMCH-101を遠巻きに住人らしき集団が囲んでいる。

帯剣しているのも見受けられるが、服装がバラバラで、軍人という感じではない。


「なんでしょうね、この感じ」

「さして規模が大きな都市というわけでもなく、この島の中央から外周に向かう道も無かった。外界との交流が存在しなかったのかもな」

「その割にはドラゴンが来ましたけど」


そんなことを言っていると、ここまで先導してきたドラゴンが広場に降り立った。


「間近で見るとデカいなぁ」

「喰われませんかね」

「人が乗ってたんだし大丈夫だろ」


自衛官がわいわいと話しているが、彼らは一様に北条の方を見ていた。

あくまでも使節団の団長は北条であり、彼らは護衛である。


「とりあえず降りますか」

「武器はどうしますか」


完全武装のSBUの小隊長が北条に尋ねた。


「とりあえず刺激したくないので、皆さんは機内で待機してください。とりあえず私と武田、あと制服を着ている方だけ着いてきてください」


相手が友好的な場合でも、護衛役として同行するために第一種礼装を着ているSBU隊員もいた。

北条は、相手の様子からして彼らだけ連れて行くことにしたのである。


MCH-101のサイドドアから外に出る。

そして、北条は気付いた。どこに行けばいいのだろう?

群衆は周囲を取り巻くだけで、寄ってくる様子はない。


どうしたものかと思っていると、ドラゴンから降りてきた人がこちらに向かってきた。


「女性?」

「そのようですね」


北条と武田が小声で互いに確認する。


「日本国の皆さま、ようこそいらっしゃいました。私がこのユグドラシルの代表を仰せつかっているウルズという」


幻想的なロングのプラチナブロンドの髪を束ね、黒い鎧に身を包んだを女性が右手を差し出しながら言った。

それを見たその場の日本人全員の感想は、現実離れしたとんでもない美女というものだった。


「「言葉がわかる!?」」


手を握り返すことも忘れて、北条と武田は驚愕していた。


「立ち話もなんだし、そのあたりのことも含めて中で話そうか」


行き場を失くした右手に苦笑しながら、ウルズと名乗った女性は着いてきてくれきてくれといって歩き出した。

それに続いて使節団は歩き出す。

城門の前にいた群衆が割れて道ができる。


「気付いたんだが、彼女が話してるのは日本語と言うわけではないな。口の動きが聞こえる音と合ってない」


北条が前を行くウルズに聞こえないように小声で武田に耳打ちした。


「つまり自動翻訳機のようなものを介して会話している、と?」

「ドラゴンがいる世界なんだし、魔法もあるんじゃないか?」


北条の分析を聞きながら、一旦肝が据わって冷静になれば並以上の洞察力があるのに、その肝が据わるまでが残念過ぎるんだよなぁ、と思う武田だった。


「というか・・・」

「ああ、耳が長い人がいますね」


城門の周囲にいた群衆を見て小声でぼそぼそと話す。


「エルフってやつですかね?」

「わからんし、違うと失礼だし教えてもらうまで心の中にしまっとけ」


そして、門をくぐり城の中に入る。

外から見た通り、見事な造形であり、美しく保たれている。

が、人がいない。

広場の群衆も、街の大きさの割には少ないように感じた。

やがて正に玉座の間といったような部屋に入ったが、ウルズはその部屋を無視して、そのまま別の部屋に入った。

そこは会議室のように机といすが置かれていたが、その装飾の度合いからして、応接室とか謁見室といった類のものだと推測できた。


「改めて自己紹介しよう、この国、国といっていいのかなぁ?の代表を務めているウルズだ」


使節団に席につくように促すと、ウルズは改めて自己紹介した。


「日本国外務省の北条と申します」

「同じく外務省の武田と申します」


北条と武田がそれぞれ自己紹介する。

「管轄とかよくわかんないからとりあえず無任所ね」という雑さで送り出されたので、役職が無く締まらない。


「そちらの方たちは?」


席に着いた北条と武田の後ろで、立ったままの自衛官についてウルズが訪ねる。


「彼らは我々の護衛として同行した軍人です。今のところ杞憂でしたが」


それだけでウルズは納得したらしく、自衛官についてそれ以上の質問は無かった。


「さて、諸君らが訪ねてきてくれた理由はだいたいわかっているつもりだ。突然自国の領域内に現れた我々が友好的なのかどうか、そもそも我々が何なのか、いやそれ以前にあのデカい木は何なのか。それが知りたくて来たのだろう?」


ウルズは一気にまくし立てたが、北条と武田の疑問は増すばかりである。


「いや、それは確かにおっしゃる通りなのですが、それ以前にいろいろ聞きたいことがあるんですが」

「おっと、失礼。島の外の人と話すのが久しぶりすぎて思わずはしゃいてしまった。許してもらいたい」


失敗したと言う風にウルズは首をすくめて頬を染めた。

美女のその仕草に、北条は思わず鼻の下が伸びたが、武田に思いっきり足を踏まれた。


「では、まず何から話そうか」

「そうですね・・・それ以前に我々の国の説明は必要ですか?」

「それは基本的には不要だ。私はこの世界の全てを知ることができる。この世界、といっても厳密には3つの異なる世界が融合してできた新しい世界だが」

「待ってください、あなたは自分を全知の神だとでもいうのですか?というか3つの世界?」


北条は段々混乱してきた。

もっとも、その混乱は相手が持っている情報量が多すぎることによるものだが。


「この世界は3つの世界が融合してできた世界だ。1つは我々が来た世界。もう1つは貴方達が来た世界、そしてもう1つはアズガルド神聖帝国、あなたたちの国に突然攻め込んできた国が来た世界」


こともなげにウルズはこの世界の成り立ちを説明した。

もっとも、それが事実なのかどうか確認できないわけだが。


「ふむ、どうにも話があっちこっちに跳んでしまってよくないな。まずは私とこの国から説明しよう」


そう言ってウルズは自らと、その国について説明しだした。


「私が全知だというのは、世界樹の実を食べた結果。もっとも、最初から何でもかんでも知っているというわけではなく、知りたいと思ったことが知っていたことになる。というものだがな」

「?そこに何か違いが?」

「要は全く知らないこと、想像もつかないことは知ることが出来ない。ということだ。貴殿らが乗ってきた乗り物も、あれを見るまではあんなものがあるとは知りもしなかったが、今ではあれがヘリコプターと呼ばれるものであり、JP-5と呼ばれる燃料でRTM322ターボシャフトエンジン3基でメインローターとテールローターを回して飛行している。と知ることが出来るわけだ」

「つまり、知っていることを深く知ることはできるけども、知らないこと、というか想像もつかないことは知ることはできない?」

「まぁそんな感じだな。所詮は神ならぬ人ということだ。まぁ、私は厳密にはハーフエルフなんだがな」


さらっと人じゃないとカミングアウトするウルズに北条は思わず目を剥いた。


「エルフ、ですか」

「街にいたのも全部そうだぞ。まぁ、純粋なエルフは多分いないけどな。みんな人と混血したハーフエルフだ。そういう意味では、純粋な人もいないのかな」

「はぁ」


エルフってプライドが高くて純血とかに拘りそうだという勝手なイメージがガラガラと音を立てて崩れるのを感じて北条は気の抜けた返事をしてしまう。


「だから外観的特徴、まぁわかりやすいのは耳だよね。これが強くでるか、それほどでないか、全くでないか。この辺は遺伝だよね。私の場合は外観的には完全に人だね」


いや、人としては随分ファンタジーしてるけどな。と北条も武田も心の中で突っ込んだ。


「ただ、世界樹の実を食べたせいかもしれないけど、寿命に関してはエルフの性質がでてるみたいだね。かなり長生きだよ」

「ちなみにおいくつで?」

「永遠の17歳だよ☆」

「「あ、そういうのは結構ですので」」


2人の無表情で冷たい声がハモってウルズは半泣きになる。


「まあ、かなりながーく、それこそ生きてるのが億劫で、普段は休眠してるくらい長く生きてるってことで」

「はぁ」

「レディに歳を聞くのは失礼だと上には言っておきます」


キリッとウルズに対して言った北条だったが、武田にふとももを思いっきりつねられて悶えることになった。


「まぁ、ほんとは長生きなのは世界樹の実を食べたせいかもしれないんだけどねー」

「そこはわかんないんですか?」

「わかんない、というかどっちも有り得るって話。多分、どっちも原因なんだよ。長生きの原因知ろうとするとどっちにも辿り着くから」


知識がそこまで万能でもないということか、あくまでも本人が知ろうとする範囲でしかわからないのか。

どうも、本人が長生きの原因をそれほど気にしている様子が無いので、後者のような気がする。


「それで、あなたがこの城の主ということは国王ですか」

「まぁ、そういうことになるのかなぁ。国というほどのことは何にもしてないし、お前王様だろって言われても実感ないけどね。ただ世界樹の実を食べたってだけだから」

「王族だから世界樹の実を食べたわけじゃないんですか?」


武田のその質問に、ウルズは気まずそうに目を逸らした。


「ある日、いつものようにふらふらと散歩していると見たこともない果実が落ちておった」

「まさか・・・」

「まぁその時点で100年ほど生きておったし、島で採れる食べ物にも飽いておったし、この島で出来た果実なら毒ではなかろうということで好奇心からその禍々しい実を食べたのじゃ」

「そしたらその拾い食いで王様になったと?」

「それからは大変じゃったぞ、街に戻ったら知りたくもないのに誰と誰ができとるとか、あそこの奥さんとあそこの旦那が出来てるけど、逆の旦那と奥さんもできとるとか、全部わかってしもうたからな!もう街中大騒ぎじゃ!」

「そこは心の中に秘めとけよ!」


短い会話の中で分かったが、多分こいつは面白がってそういうのに火をつけて回ったのだろう。

碌でもない奴が世界樹の実を食ったものである。食われた世界樹のほうも浮かばれまい。


「んでまあ、危険物を隔離するかのようにこの城に押し込まれたというわけじゃ。王と言うてもこの国は管理する必要は無いからな。世界樹のおかげで飢えることは無いし、元の世界では絶海の孤島じゃったから外界から人が来ることも無い。よってまぁ、王と言ってもこの城で寝とるだけだな」


そう言って胸を張っているが、一つ疑問が浮かんだ。


「他に世界樹の実を食べた方はいないんですか?」

「おらんな」


ウルズは断言した。


「ああ、あなたはいつどこで世界樹の実が出来るか”知っている”から独占するのも容易いのか」


ぽんと膝を打って北条は納得した。


「意外と街の連中はそのことに気付いておらんがな。まぁ、そうそうできるものでもないし、食べても碌なことにならんし」


碌なことを起こさなかったのはお前じゃないのか、と2人は思ったが口には出さない。


「ちなみに、この島が飢えないというのは?」

「ああ、世界樹の下なら種まいたらなんでも1日で収穫できるのでな」

「「なにそれずるい!?」」


2人は思わず席から立ちあがって大きな声を出したのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 会話のノリが軽すぎるところが地の文の硬さと相まって違和感を感じますが、そこが癖になるかもなので、楽しく読んでいきますね。 登場人物に大人をしている大人がいないのも、不思議です。みーんな…
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