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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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GPS-GPF編  第9章  イタリア大会~GPF  第3幕

1日目の練習を終え、数馬にマッサージしてもらったあと俺は一旦自分の部屋に引っ込んだ。夕飯までひと眠りしててもいいと数馬が言ったからだ。

ベッドの上に寝転びながら、俺の頭の中は別の何かに引っ張られるように競技のことを忘れていた。


そういえば、数馬が俺と分れて日本に瞬間移動したときのことだけど。

本当にあのとき消えた理由はそれだけだったのかな。

生徒会室とかに行ってアレクセイの禁止魔法のことは話題にしなかったのか?

魔法身体検査、これは禁止魔法の痕跡があるかどうかを調べる検査らしいのだが、もし事務局が何か情報を掴んでいるとするならば、今の段階でアレクセイを泳がせて試合直後に魔法身体検査を行う可能性は十分にある。

2位のホセとの開きが余りに大きいところからみても、アレクセイ禁止魔法説は各国の話題に上がっていたかもしれない。


もし数馬の予想が正しいとしたら、アレクセイはGPSの結果をもってしても総合1位の称号は剥奪され、GPFには参加できない。

禁止魔法や禁止薬物を使用した場合、発覚以降3年間の対外試合禁止を申し渡されるというから、魔法科に所属する高校生なら退学を余儀なくされるだろう。魔法部隊に所属しているプロの魔法師だとしても、何らかの沙汰があるはずだ。

そこまで考えてアレクセイは禁止魔法を使用しているのか。


いや、待てよ。

国ぐるみで禁止魔法を推奨しているとしたら・・・。


充分にあり得るじゃないか。

リアル世界でもロシアは禁止薬物推奨の国として有名だった。こちらの世界で同様の動きがあってもおかしくはない。


眠るどころか俺の脳は活性化してきて、目は冴えるし身体がムズムズする。

俺はベッドから起き上がり、素早く制服を着ると自分の部屋を出た。周囲を警戒しながら(警戒する必要なんてどこにもないんだけど)向かい側にある数馬の部屋のインターホンを押した。

数馬は寝ているのか出掛けているのか、何度押しても返事が無かった。

 

諦めて、自室に戻るため自分の部屋のカードキーを探す。

ん・・ない。

制服のポケットにないと言うことは、俺はカードキーを持っていないことと同義だ。

まさか、カードキーを部屋の中に置いたままドアを閉めたのか?

あれが無けりゃ部屋に入れないじゃないか。


茫然自失。

これまで色々な国でホテルを渡り歩きながらも、カードキーを忘れて部屋を出るなんて失態は犯したことがない。

俺は脳ミソが一気に固まっていくのを感じた。

部屋に入る方法など簡単にわかりそうなものなのに、今の俺は小学生以下の脳ミソしか反応していない。


どうしよう。

数馬もいない。


暫し廊下に立ちすくんでいた俺は、何を思ったか階下に降りてフロントに向かう訳でなく、生徒会役員がいる部屋へと歩みを進めた。

フロントでドアロックを解除してもらうか、マスターキーで開けてもらうのが一番だと言うのに・・・。


生徒会役員の集う部屋は、俺たちが泊まっていた部屋の1階上にある。

本当に何を考えていたのか俺は猛ダッシュで階段を駆け上がると、その部屋の前まで廊下を走り、息を切らしながらインターホンを何回も押した。


「はい」

 サトルの声だ。

「サトル、入れて」

「どうしたの」

「ドアロックした。入れない」

 サトルは一瞬黙ったと思ったら、部屋の中から複数の人があははと笑い出したのがわかった。

「とりあえず、どうぞ」

 生徒会役員室のドアが開く。

 そこには沢渡元会長と若林先輩、サトルと譲司、そしてなぜか数馬が大きな態度で椅子に腰かけていた。

「いないと思ったら、こっちにいたのか」

 俺の言葉が誰に向けられたものなのか皆にはわかったらしい。

 若林先輩と会うのは久しぶりだった。

「ご無沙汰しています、若林先輩」

「そうだな、お前沢渡の試合見に来てないだろ」

「すみません」

「今回のは見にこいや」

俺が小さくハイ、といいながら頷くと向こう側で沢渡元会長が笑みを漏らす。表面上は強面(こわもて)の沢渡元会長だが、俺に対してはいつも優しい。

「なんだ、カードキーを失くしたのか」

「いえ、たぶん、中に置いたまま部屋から出たのだと思います」


 すると皆がまた笑う。

 一番大きな声で笑っているのは誰あろう、数馬だった。

「フロントに行ってドアロック解除できるの知らなかった?」

「うっ・・・」


 またもや数馬は大笑い。

 数馬にとって沢渡元会長は単なる同級生くらいにしか思ってないんだろう。会長時代のことを考えたら、目の前で大笑いするとか、ないから。

「知らなかった。ホテル滞在とか経験なかったし」

「正直で良いな、海斗は」

「イタリア語はさっぱりダメ、故にフロントもダメ」

「片言の英語くらいならフロントの人間は分かってくれると思うけど」

「1人で行くのは勇気がいる。このままだと試合に差し支える」


 どっと笑う生徒会の役員たち。

 サトル、お前ホントに生徒会の一員になったな。笑われるのは面白くないけど、昔のおどおどしたサトルは見てて辛かった。

 やっと笑えるようになったんだ、もう危険なことには足を踏み入れないでくれ。


 沢渡元会長だけは相変わらず口元に笑みを浮かべるだけで、大口開けて笑っていない。

大前(おおさき)、一緒に行ってやってくれ。このままだと1人で日本に帰りかねない」

こっから1人で帰れるわけあるまい、と思ったものの、帰った人間が目の前にいる。数馬、お前だよ。

「ここにいる人間は皆瞬間移動魔法使えると思うけど」

 ほら出た読心術。

 ・・・え?沢渡元会長は魔法力卓越してるしサトルだって今や逍遥に次ぐ紅薔薇NO2だから使えても不思議じゃないけど、若林先輩も譲司も使えるの?

 俺、今すぐ日本に帰れるの?


 若林先輩が傍らに置いてあったショットガンを俺の方に向けた。先輩、危ないからショットガンは止めてください。

「これは空砲用。魔法力を注入してないやつ」

 数馬が目をキラキラさせてショットガンを見つめていた。目はショットガンに、口は俺に向けている。

「若林も譲司も瞬間移動魔法できるよ。この大会が終わったら、読心術と瞬間移動魔法を伝授するから。まあ、逍遥の還元でなくてもいいだろ」


 サトルがやんわりと数馬を嗜めているように見える。

「逍遥が泣きますよ、数馬さん」

 アイドル顔で笑みを作り、サトルを見る数馬。

「教えたモン勝ち」


 俺は数馬をスルーして若林先輩に尋ねた。

「魔法技術科でもそういう魔法を教えるんですか?」

「いや、俺の場合は数馬や譲司と同じで自分から魔法技術科に入った口だから」

そうだ、譲司は魔法科からの誘いを断って魔法技術科に入学していた。

若林先輩や数馬も同じなの???


「そーだよー」

 数馬は若林先輩からショットガンを借りて、ますます目が輝いている。俺の質問に受け答えするのも上の空でやってるに違いない。

 俺がよくやれらるように耳を引っ張ってやろうかなとも考えたが、如何せん、ここには生徒会役員が揃っていて、その人たちからしたら数馬は同級生で年下の俺なんかは数馬を敬うべき存在で。

俺は一介の1年に過ぎない。もう第3Gでもないし。


発想を転換して、部屋に入れなくてもカードキーを失くしたのではないから安心しても構わない事例だし、いざとなったらサトルか譲司の部屋を借りてもいい。サトルも譲司も忙しくて、ほとんど部屋は荷物置き場くらいにしか考えていないようだから。

 サトルはひとしきり笑ったあと、急に表情を引き締めて俺に問うた。

「ほんとにカードキー部屋にあるの?まさかどこかで落としたわけじゃないよね」

 ドキリ。

 そういわれると段々自信が無くなってきた。

「100%部屋にあるとは言い切れないかも・・・」


 途端に数馬のキラキラお目目が三角になった。

「海斗!フロント行ってこい!ここのフロントは日本語が通じる!」

「あの男性しか日本語通じないかもしれない」

 ハタと黙り込む数馬。

「そりゃそうだ。1人でフロント行って、言葉が通じなかったら離話で呼んでくれ」

「俺よりそのショットガンをとるわけね」

「当たり前でしょうが。こりゃもう苦心惨憺(くしんさんたん)の為せる技よ」

 うっとりとショットガンを見つめる数馬に、何だか無性にイラつく俺。

「それでも俺のサポーター?」

「サポートにフロント業務まで混じってないと思うけど。普通は」

「うっ」

 何も言い返せないでいる俺に、数馬は尻を叩く。

「ほれ、時間が勿体無い。行ってこい」

 

背中を押されて部屋から追い出された俺は、ブツブツいいながらEVでフロントのある1階まで降りた。

そうそう、フロントが1階にないホテルも多々あるよね。階下にテナントが入ってるなら理由もわかるんだけど、何もないのにフロント2階とか。


なぜなの?

その理由がわからないでいたら、後から部屋を出てきたサトルが教えてくれた。


ゲストのプライバシーを優先するのか、ホテル側の防犯性を重要視するのかによって変わってくるようだが、土地が賃貸の場合は、フロントを何階に置きたいか、ホテル側の意見が通らないことも多いのだそうだ。

あとは、ペデストリアンデッキ沿いのホテルだと、2階がフロントになる確率がほぼほぼ高い。便利だから。俺のいたリアル世界の仙台は駅前にペデストリアンデッキがあるから駅前のホテルはフロントが2階にあったと記憶している。入ったことはないけど。


それにしてもサトル、優しいなあ、キミは。

「数馬さんがついていって、っていったんだよ。何だかんだで海斗を心配してるじゃない」

「いや、あれは絶対ショットガンに魅入られた悪魔だ」

「君たち、あっという間に仲良くなったね」

「数馬はサポーター版逍遥(しょうよう)だから」

「なるほどね」

 サトルはいかにも納得したように、笑いながら何度も頷いた。


 フロントに行くと、先日の日本語を話すお兄さんが立っていたので俺は胸を撫で下ろした。

早速、ドアロックの解除を申し出たが中々これが厄介で、名前を書かせられた上での宿泊者名簿との突合、宿泊者用防犯カメラとの突合、宿泊階にあるカメラとの突合など、ただでは開けてもらえない。

 それもそうだ、セキュリティ上、顔を覚えていたくらいで「はいどうぞ」とドアロックを開錠できる要件とイコールにはならない。


何重ものチェックを受けて初めて俺は宿泊者として認められ、お兄さんが予備のカードキーを持って俺の部屋まで先導していく。

「こちらでお間違えございませんか」

 頭にすっと入ってくる日本語。

「はい、お手数おかけしました」

 予備のカードキーで部屋を開錠すると、(うやうや)しく頭を下げたフロントのお兄さんは足早に去っていった。


「良かったね、海斗。さ、君のカードキーを探してくれ。僕も手伝うから」


 サトルの言葉を聞いて、俺は急いでカードキーを探し始めた。

 いつもどこに置いてたっけ・・・。

 ああ、キャリーケースの中にスマホと一緒に仕舞ってあるはずだ。

 大事な物は何故か皆スマホと一緒にする癖が抜けない。

リアル世界でもそうだった。


 キャリーケースをガタンと横向きにしてジッパーを開けながら、スマホケースを探す。

 あった。やっぱりスマホとカードキーが一緒に出てきた。

 電波障害にならないのかって?

 大丈夫らしい、今までの状況を鑑みるに。


 ついて来てくれたサトルに何度も深く礼を言い、俺はドア越しにサトルを見送った。

 少し疲れた、寝よう。

 ああ、どうせなら夕食時間を遅らせるんだった。

 今から深く寝入ってしまったらインターホンが聞こえるかどうか、自信がない。

 数馬は時間に超うるさいし、どちらかといえば俺はルーズだ。

  

 数馬に離話して落ち合う時間を変える腹積もりはついた。

 制服からジャージに着替え、俺は斜め上を向くと生徒会役員室の方向に顔を向けた。

 数馬はまだショットガンを触って何やら若林先輩とデバイス談義に花を咲かせている。

 将来はデバイスを作りたいと言う数馬の夢への第1歩なのかもしれない。

 このショットガンは秀逸だと絶賛している数馬。

 若林先輩が沢渡元会長用に、精巧に作製しているのだから秀抜(しゅうばつ)な出来に違いないだろう。


「数馬、数馬!」

 俺の離話にも反応しない。

 さて困った。

 サトルに離話して、数馬に伝えてもらうとするか。


「サトル、サトル」

 サトルは直ぐに気が付いたようだった。

「さっきはありがとう、サトル」

「どういたしまして」

「数馬に伝えてくれないかな。夕食、1時間延長して7時半にしたい、って」

「いいよ、本人と話さなくていいの?」

「向こうはショットガンに夢中だからいいよ」

「了解」


 サトルが数馬に何やら話しているのが見える。

 数馬は機嫌が良いようで、OKマークを手で作ると、またショットガンを弄っていた。



 俺はそのまま、ベッドに入りスマホのアラーム機能を確認してから猫のように布団に丸まった。


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