GPS-GPF編 第9章 日本大会 第7幕
22番がコールされた。
俺の演武が始まる。
足を進め、定位置に就く俺。隣ではロシアのアレクセイが最初に演武を始めていて、続けざまの命中にアリーナ内は歓声が凄い。
それでもアレクセイは、俺の競技開始時に合わせて射撃を止め、唇に人さし指を当てて周囲に静かにしてね、というゼスチャーを見せている。
これこそがアレクセイのメンタルの強さというべきか。いや、自信の表れか。
「On your mark.」
「Get it – Set」
俺はいつにもまして気力が充実していた。
周りから聞こえるのが日本語だったというのも大きい。やっぱりホーム戦はアウェーとは違う。空気からして違うように感じられてしまう。
50m先に的が現れた。
その瞬間、シュッ、っと俺の人さし指から出た矢はドン!と的の真ん中を射抜いた。
肩への刺激もない。
好調な証拠だ。
そのまま俺は射撃を続けた。隣のアレクセイが射撃を終了し皆から拍手を受けているのがわかった。相当枚数撃ち抜いたのだろう。
でも、俺は俺。
自分の出来る精一杯を今、ここに。
いつもは30枚近くなると姿勢が崩れ右掌が下がる傾向にあるのだが、今日はメンタルがいつも以上に充実しているからか、疲れも感じない。
俺は48枚を命中させ、演武を終了した。
アリーナの壁中央に設置された順位表を見る。
アレクセイが53枚で1位。ホセが50枚で2位。
今のままで進行すれば、俺は3位に食い込める。
どうかみんな、47枚以下でありますように・・・。
最後の最後で、俺を抜くかと思われたカナダのアルベールだったが、47枚と氷一枚分俺が勝ってたようで。
やった!!
3位だ!
日本大会では、俺、八朔海斗が3位という成績を残した。
プレス対応するための広場が設けられていたのだが、今までのどの試合よりも嬉しさがこみあげていたのが顔に出ていたようで、カメラのフラッシュだけが記憶の片隅に残っている。何を話したかは、全く覚えていない。数馬が脇で突くのだが、お構いなしに話していたらしい。
夜、TVのニュース放映を見て皆愕然とするに違いないと数馬がいう。
一旦休憩のため競技場を離れたんだが、俺は恥ずかしい気持ちが一杯で、真面に前を見て歩けない。数馬に導かれるまま俺が入ったのは、俺たちが住まうホテルの食堂だった。
「ここなら邪魔なマスコミは入ってこないから」
「ねえ、数馬。3位入賞って凄いの?」
「凄いことだよ。光里会長は2位だった。向こうも調子は良さそうだ」
「ぶっつけ本番なのに、すごい鍛練だよね」
「サポーターも中々のものだよ。蘇芳と言ったか。彼がチューンナップするショットガンの精度は僕も見ていて惚れ惚れした」
「あと1戦か。このままのレベルをキープできると良いんだけど」
「あとは海斗のメンタル次第さ。本当に君はメンタルが強い。噂どおりだな」
キョトン。
みんなに言われるけど、俺、メンタル強くないよ。てか、弱い部類に入ると思うんだけど。
「海斗はそう思ってるのか。驚いた。君のメンタルは充分強いと思うけどね」
「なんでみんなそういうんだろう。俺は周囲に恵まれてて、それで結果が残せただけなのに」
「周囲に恵まれるのもメンタルが強いからに他ならない。泣き出すやつだっているからね、試合中に」
「げっ、そういうときどーすんの」
「上目遣いになって下から覗きこんで、“君は大丈夫、君ならできるさ”と3回繰り返す。普通ならこれで集中してくれるんだけど、中には超軟弱モードになるやつもいるんだ。もう、そうなったら打つ手なし。試合放棄して棄権するか、無様な姿見せるか、だね」
「そういう意味ではメンタル弱くはないけど、悪い方と比べてない?例えば俺と逍遥はどっちがメンタル強いと思う?」
「君」
「え、逍遥でしょ、どう見たって」
「彼は魔法にすごく長けてるけど、一度沈んでしまったら戻れないタイプと見た。だから聖人さんがあんなに心配してサポートに就いてるんだと思う。軍のお偉方敵に回してまで、ね」
「亜里沙たちのこと?」
「そう」
「超ブラック集団、魔法部隊というやつね」
「海斗は上意下達に反対してるのか。そうだね、海斗からみたら超ブラックに思えるかも。でもあそこはあれで統率取ってるから仕方ないんだ」
「大人の事情か、やっぱり俺にはわかんない」
俺は気も漫ろにこの話題を打ち切った。
こんなことで数馬と仲違いしていられない。
次はGPS最後のイタリア大会が控えているのだから。
GPS日本大会は午前の競技が終了し、あとは午後の競技を待つばかりとなった。
午後はグラウンドで『エリミネイトオーラ』、アリーナで『スモールバドル』、周辺地域で『プレースリジット』が行われる。
もちろん応援に行くつもりだ。
『エリミネイトオーラ』と『スモールバドル』は生徒会役員連中が応援に行くはずだから、俺は沢渡元会長の出る『プレースリジット』を応援に行こうと思っていた。
しかし、数馬が『エリミネイトオーラ』を観たい見たいと隣で大騒ぎしている。
仕方なく、俺は競技が行われるグラウンドへと歩き出した。
応援席の一番隅っこに陣取る俺を、前に行こうと数馬が引っ張る。俺としてはあまり乗り気ではなかったので腰を下ろしたところから離れようとしなかったのだが・・・。
段々と数馬の目つきが鋭くなっているのに気付いたので、俺自身の意に沿う形ではなかったものの、席を探して選手やサポーターが見える場所に席をとった。
なるべく聖人さんを見ないように心掛けて。会うたびに何か思ってしまったら数馬に失礼だからさ。
数馬自身は気にしてないとはいうものの、気にならない人間いないでしょ。誰かと比べられることに対して鈍感でいられるわけがない。
試合前の逍遥を見ると聖人さんが目に入ってくるので、余所の方を向いて誤魔化して、試合開始直後から空を見上げた。
空が蒼い。
でも空気はちょっと冷たさを含んできていて、ロシアのように息が白くならないまでも頬にささる。
陽を背負った格好で飛び上がった逍遥は、今回も縦横無尽の動きで次々とオーラを攻めていく。特に背中に気を付けていて、背中に目がある、と言ったのは強ち嘘じゃないのでは?と少し興奮する俺。
空中に残った最後の1人のオーラをロックした逍遥は、悠然とした面持ちで地面に降りてきた。
やった、逍遥1位。
あとは見ない。
聖人さんがいるから。
2人が仲睦まじそうに漫才してるとこなんて、見ても辛くなるだけだ。
俺は数馬を急かして応援席を立った。
『スモールバドル』と『プレースリジット』の結果を聞くために。
『プレースリジット』は例によって沢渡元会長の一人勝ちだった。
『スモールバドル』の南園さんは惜しくも2位。でも、GPFへの出場権はほぼ確定ということで、生徒会側も胸を撫で下ろしていた。
みんな日本のプレスに囲まれてインタビューを受けている。
夜、その模様がTVニュースで放映された。
紅薔薇から出場している選手を切り取って3分の番組に仕立てていた。
俺、まさにアホっぽい受け答えしてた。
例えば、勝負飯は何ですかとか聞かれ、それに対して、パンケーキと野菜ジュースです、って真顔で答えてる。隣で数馬が手で顔を覆っているのが映ってた。
そりゃそうだ。
勝負飯なんぞ聞く方も聞く方だが、答える方も答える方だ。
こうして、俺が一番に力を入れた日本大会が終わった。
次はイタリアはローマに飛ぶ。
そして、俺にとってGPS最後の戦いが始まる。




