GPS-GPF編 第9章 日本大会 第6幕
目覚ましがうるさい。
消しても消してもうるさい。
なぜだ、何故なんだ。
これは夢か?
夢じゃない・・・。
俺はガバッと起き上がった。
真上に見えたのは、頬をヒクつかせた数馬。
「昨夜約束したと思うけど。今何時?」
自分のスマホを探す俺。
周りには数馬の持ってきた目覚まし時計が1個、2個・・・4個もある。
げっ、こりゃ寝過ごしたに違いない。
言い訳する機会くらい、与えてくれないだろうか。
「あのー」
「言い訳無用!!」
そう言いながら、数馬は背面に置いてた特大の目覚ましを出してきて俺の両耳元に近づけた。左右からけたたましい音がする・・・。
ジリリリリィ・・・。
ジリリリリィ・・・。
ジリリリリィ・・・。
俺は耳を押さえて・・・飛び起きた。
数馬は?
いない。
夢か・・・。
数馬の時間守れオーラに押され、現実味あるのかないのかわかんない夢を見た。
夢の中で夢見るなんて、あるんだなあ。
と、真面目に時間すぎてたりしないよな。
俺は急いでスマホを手にし、電源を入れた。
スマホのデジタル文字は、朝6時を表示していた。
二度寝したら、確実に数馬の逆鱗に触れる。
このまま起きていよう。
軽く足首を前後に伸ばしたり肩を回したり、本当に軽くストレッチを行っていると、部屋のインターホンが鳴った。
数馬だ。
俺はなぜか焦って転びそうになりながら部屋のドアにゴン!!と頭をぶつけた。
鍵を開け、ぶつけたところが痛かったので何も言わず数馬を迎え入れた。
目を点にして不思議そうな表情を隠さない数馬。
「なんか今、中でゴン!って音しなかった?」
「転んでたんこぶできた」
くくくっ、と数馬が口元に手を当てて俺を指さす。笑いたいのをぐっと堪えているように見える。
「海斗は慌てん坊だな」
「あ、子ども扱いしてない?」
「まさか。3歳しか年違わないのに」
「沢渡元会長と同級生なの?」
「そうだよ、彼に誘われて紅薔薇に来たんだけど、何となく馴染めなくてね。放浪の旅に出た」
「でも世界の魔法技術者なら知らない人はいない、って沢渡元会長が言ってたよ」
「そりゃお世辞さ」
「大人の会話みたい」
「何が?」
「謙虚だなって。外国じゃ謙虚な人いないでしょ。できなくても出来る!って大嘘吐く人多いって聞いたよ」
「沢渡はなんて言ってたの」
「世界各地の魔法技術を日本の魔法技術に応用したデバイス作製や、古典魔法のルーツを調べるなど、魔法技術における世界では有名な人間だ、って」
あはは、と大きな声を出し、顎を見せながら笑った数馬。
「伝言ゲームは面白いね」
「伝言ゲーム?」
「沢渡は魔法技術における世界では有名な人間だ、といったのに、海斗は世界の魔法技術者なら知らない人はいない、と見事に変換されてる」
「もう、どっちでも有名なことに変わりないじゃん」
「そうだね、色々な国を回って魔法技術を見聞しながら現在に至るのは事実だ。デバイスも作製していくつもりだし、古典魔法は今でも興味津々だよ」
「古典魔法なら聖人さんとか詳しいんじゃないの」
「向こうは武器としての古典魔法じゃないかな、僕は武器もそうだけど、身を守るための古典魔法を研究してる」
「千代先輩と同じかな」
「ベクトルは違うけど、そんなところ」
「じゃあ、それが融合したら古典魔法のプロになる」
「いつか融合させてみたいものだね。ほら、時間が押してる。マッサージ始めよう」
ごろん。
ベッドに仰向けになり、まず肩甲骨をマッサージしてもらう。そのあとはうつ伏せになって全身を揉み解していく。
いつにもまして丁寧な数馬のマッサージ。
日本大会に向けた意気込みが伝わってくる。
マッサージのあとは開脚して身体を前に倒す。
俺は身体が固いから数馬にぐいぐい押されるとちょっと筋がビリビリするときもあるが、続けていくうちに気にならなくなるから不思議だ。
「さ、お終い。シャワー浴びておいで」
「ありがとう」
シャワーを浴びながら汗を落して、シャワー室から出ると制服が準備してあった。
ありがとうと大きな声で礼を言いながらサササと着替え、靴下を穿き、靴を履く。
俺がシャワーを浴びている間、数馬は読書していたらしい。下を向き一生懸命に文字を指先で追っている。
「今何時?」
俺の声が聞こえないのか、数馬はなおも本を読んでいた。
少し大きい声で時間を聞く。するとようやく数馬は頭を上げて俺の顔を見上げた。
「海斗は腕時計持ってないのか」
「うん、リアル世界でも腕時計は持って歩かなかったから」
「どうやって時間判別してたの?」
俺はデスクの上に置いてたスマホを見せる。
電源を入れると、デジタルで時間が表示された。
「へえ。向こうの世界ではこれが時計と言うわけか」
「元々は携帯できる電話の役割が主だったけど、こっちでは携帯電話ないみたいだから、今は時計として使ってる」
「電話を持ち運びするの?そういう機器はこちらではないな。ねえ、分解させてくれない?」
数馬のあくなき探究心が、ポッと目覚めたらしい。
しかし、これがなくては時間を知らせるツールが無くなってしまう。時間以外にも色々使えるから。電話機能だけなんだよね、使えないの。
「これないと時間がわかんないよ」
「あとで腕時計と交換しよう」
「うーん、このスマホ、カメラ機能やビデオも撮れるんだよね。腕時計だけじゃないんだ」
「そうなの?ますます面白い」
数馬、本気?
焦った俺はスマホを握りしめた。
「ほらほら、もう食事に行く時間じゃないの?」
「おや、もうこんな時間か。惜しかったなあ。海斗、スマホの話はまたあとで」
スマホを取り上げられてはならぬとばかりに、俺は数馬の背を押して、部屋を出た。
EVを降り食堂に行く道すがら、ルイと会った。食堂を出て歩いて来たらしいルイは俺に気付いたようで、目を真ん丸にして走りよってきた。
「タコ!」
「あ、ルイ」
数馬さんがにこりと笑って紹介しろとでも言いたげに俺の手の甲を抓る。
「あ、こちらルイ。フランスの選手だよ」
「初めまして。大前数馬といいます」
と、フランス語で話しかけた数馬。
ルイは途端に顔色が明るくなり、朗らかに数馬と会話していた。
俺にはなんといったかわからなかったが、あとで数馬が会話の内容を教えてくれた。
「ロシア大会あたりからいたよね、って言われたんだ。まあ、いたっちゃーいたよね、この顔は」
「広瀬のことは言えないし、言っても信じてくれないかも」
「目が悪いから顔は覚えてなかったことにしたさ。今はコンタクトに変えたから、って言ったら納得してたよ」
「今日も1人なんだ、ルイ」
「ああ、禁止薬物事件か。きな臭いんだよなー、あれ」
「きな臭いって?リュカは無実だということ?」
「少なくとも僕はそう考えてる。もう少し詳しく事情を聴けば証拠も揃うんじゃないかな」
数馬の言葉に俺は人間味を感じてしまう。いや、数馬は決してロボット人間ではないのだけれど。
もし、もしもその機会があったら是非リュカに加勢してもらいたいものだ。
ルイと分れ食堂に入った俺たち。
いつものように朝はほとんど食べない俺。力が出ないと一喝されるんだが、腹に入らないんだよ。今朝はパンケーキとサラダに野菜ジュースだけだったが、数馬はなんとか見逃してくれた。
「試合に響かない程度に食べてればOK。食べすぎる方がこういう時は問題だから」
「夜に食べるから。それで相殺できるだろ?」
「食事に相殺はないよ、海斗。食いだめはできない」
え?そうなの?
俺はまた、1日当たりどのくらいカロリー取るかが大切であって、1回の食事ではないと思ってた。
でもまあ、今日の朝だけはこの量でも許してもらえた。
明日のことは明日考えよう。
数馬が自分の腕時計を見ながら食事を終わらせる。
食べる量に反して時間がかかる俺は数馬の調子に合わせながら速さをコントロールしていた。
よし、今日も完食!
あとは会場に行って、試合に臨むだけ。
俺は数馬と連れ立って席を立ち、トレイを返却口に返しながら周囲を見渡す。
外国から来てる選手で何人かアメリカのサラから紹介を受けた人はいたけど、挨拶するのが面倒で会釈で済ませた。
数馬ならひと言何か言うのかもしれないけど、試合前の今、俺はそういった雑多なことで頭を悩ませたくはないと言うのが本音だ。
数馬も俺の様子を横で見ていたようだが、試合前で張り詰めたものがあるし、特に口出しすることは無かったように思う。
俺は一旦部屋に帰るとユニフォームを持って数馬の部屋を訪ねた。
「着替えた方がいい?」
「タクシーで行くから、着替えてもいいよ。制服は僕が預かろう。自分の分のドリンクだけは忘れないで。僕が差し出しても君は飲まないからね」
「ごめん、疑ってるわけではないけどこれがもう癖になってるから」
「嫌味で言ったつもりじゃないよ、大事な心掛けさ」
聖人さんからの指導事項とは言えなかった。比べてるような気がして。
俺は数馬の部屋で着替えさせてもらい、ユニフォーム姿にベンチコートを羽織ってホテルを出た。
ユニフォームについて、伝えてなかったような気がする。
これがまた、弓道に似た格好で「JAPAN」を彷彿とさせる。各国それぞれにユニフォームは違うんだけど、『デュークアーチェリー』は日本が発祥の地なんだろう。似た感じで色違いのユニフォームを採用している国は多い。
日本のユニフォームは弓道そのままに、アイボリーの上衣と茄子紺の袴?を採用している。
午前8時。
市内の国立競技場まで、同じく午前中に行われる『バルトガンショット』に出場する光里会長と蘇芳サポーター、そして俺と数馬が1台のタクシーに乗り込んだ。
別便で沢渡元会長と亜里沙や明が来るということで、光里会長は少しだけ緊張しているように見える。
亜里沙は、逍遥にこそ絶対王者であれと命令してたけど他の選手にはそう言った命令はしていないようだ。
逍遥のあれだって、他の選手やサポーターは内情など知らないだろう。全部知っているのは、俺と聖人さん、明くらいのものだ。
タクシーは30分ほどで目指す国立競技場へ到着した。
出発を早めて良かった。
市内は渋滞していたから。
いつもなら車で10分とかからない道路なのに今日はなかなか車列が動かなくて、街の姿がはっきりとこの目に入ってきた。
歩道を走るほどの猛烈な速さで会社へと急ぐスーツに身を固めたサラリーマン、高校生と思しき制服姿の男子は、もう行く気が無いようにだらだらと信号を渡る。
みんな色々な生活を送っているんだなと感じる。
でも、これが日本だとも思う。
国外を3箇所回ったけど、歩道を走って会社へ行くサラリーマンも、学校へ行きたくなくてダラダラしてる高校生も見なかった。
ロシアでは寒くなってきて皆ガタイの良い身体に革製品を着込んで白い息を吐きながら歩いていたし、フランスやアメリカ大会の会場周辺ではちょっとしたお祭り騒ぎになっていて、この人たち、会社は大丈夫なのかと首を傾げたものだ。向こうの青年たちは大人っぽいから、もしかしたら高校生だったのかもしれない。
皆愉しそうにタクシーに向かって手を振ってきてた。
いや、俺たちが試合に出る選手だとわかってて手を振ったわけではないと思うんだよ。
彼らはどこに向かって手を振っていたんだろう。
そんなことを思い出しながら口角を上げる俺に気付いたのか、隣にいる数馬が咳払いをした。会長たちの前では大人しくしとけ、ということらしい。数馬も上意下達の人間なのかなあ。もしそうなら、どんなにいいやつでも俺はサポートを断ると思う。あの考えにだけはついていけないし、ついていく気もない。
数馬よ、その咳払いは、会長に対する最低限の礼儀だと言ってくれ。決して上意下達のことなど口にしないでくれ。
願わくは、数馬との邂逅が俺にとって最高の縁でありますように・・・。
ようやく着いた国立競技場。
歩いたほうが早かったりして・・・。
いや、ここでそれを言ってはいけない。
光里会長たちが折角誘ってくれてタクシーに乗ったんだから。
俺は満面の笑みを浮かべタクシーのドライバーさんと光里会長に礼をいい、車を降りた。
もう11月になるというのに、外は温かい。
俺は日本大会を目前に控え、思わず武者震いしていた。
「寒いの?」
数馬、違うよ、興奮してんだよ。
こういうとき、数馬は鈍感だ。比べて悪いけど、聖人さんなら・・・。
「武者震いってやつ?数馬はそういうとき、ない?」
俺はいつまで聖人さんに拘っているんだろう。
何をどうあがいても聖人さんが俺の隣に戻ってくることなどないというのに。
聖人さんでなければ、逍遥の本領は発揮できないと誰もが認めうるために、あの2人は頑張っているというのに。
数馬が読心術できたなら、とっくの昔に俺は見捨てられてる。
やだよね、こんな比較されたら。
俺が数馬だとしても放り投げたくなる、八朔海斗という人間を。
本選を前に何をくだらないことでイジイジと考えているんだ、俺は。
「さ、中に入ろうか。海斗」
数馬の言葉が号令のように耳に響く。
俺は黙って競技場内へと足を向けた。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
まず数馬が受付を済ませ、競技順のくじを引いて俺のところに持ってきた。
「2人で開けよう」
俺たちは頭を突き合わせ、数馬が他から見えないようにくじを開く。これも広瀬の性格なのかなと思っていたけど、こういう茶目っ気は数馬の性格だったか。
広瀬に半ば心身ともに乗っ取られていたのだから、それも仕方がない。
数馬の行いを見て、これは広瀬だ、とか、これは数馬だったんだ、とか、新しい発見というか数馬をより深く知る機会となる。
そして、俺たちのシンパシーはこれからなのだと思い知るのだった。
くじの番号は、22番。
出場者は30人弱だから、まあまあ、かな。
決して悪くは無い。25番前後が俺にとって一番やり易いから。
数馬は受付にくじを持っていくと言って足早に姿を消した。
俺は廊下に出ながら、ストレッチできる場所を探す。数馬には廊下に出るといってある。受付で競技順を確定させてから探しに来てくれるだろう。
もう競技場にはほとんどの選手が姿を見せていた。欧米のいつものメンバーの顔も見えるし、新顔か?というアジア系の面子もそこかしこにいた。
反対側の廊下の向こうに、ルイの姿も見える。
リュカの件があって以来、俺はルイとは直接そのことで話をしていない。
クロードが犯人だという証拠は見つかったんだろうか。
証拠が出ない限り、リュカの申し立ては効力を失うだろうし、選手生命すら脅かされるかもしれない。
でも、諦めないで伝えて欲しい。
自分はやっていないのだと。
もう、誤認は国分くんだけで沢山だ。
全日本の時の国分くんの顔や五月七日さんの顔、色んなことが走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
俺の表情が少し曇っていたのか、遅れて廊下に出てきた数馬が俺に追いついて、脇腹を突いた。
「海斗、どうしたの」
「ん?」
「顔が怖い」
「そう?」
「よからぬことに首を突っ込んだか」
「うん。数馬は経験ない?周囲でよからぬことが起こって、真犯人は分かっているのに、それなのに真相が究明できなかったこと」
「腐るほどあったさ。自分の無実を証明できなくて魔法から身を遠ざけた人を何人も見てきた」
「悔しいよね」
「自分たちがいかに無防備であったかを、そこで彼らは知り得たんだ。今はどうしてるかわからないけど、二の舞を踏むことだけは無くなっただろうね」
「厳しいな。数馬は」
「自分の身は自分で守る。鉄則さ。だから君は僕が準備したドリンクでさえも飲まないだろう」
「ああ、あれは・・・」
聖人さんが俺に、と言いかけて、止めた。
数馬に対して聖人さんの名前を出したくなかったからだ。
聖人さんに対する俺の今の感情を、誰にも打ち明けるつもりは無かった。
「数馬、俺は自分の身は自分で守る。でも、もし俺が道から外れそうになったら意地でも戻してくれな」
数馬は口角を嫌々そうに持ち上げた。
「了解。僕としては、そうならないことを切に願うよ」
数馬は本当に逍遥に似ている。
見た目薄情なところが。
それでいて、温かい心の持ち主だと・・・思いたい。
ルイは俺に気が付いたようだが、あえて近寄ってこようとはしなかった。リュカから話は聞いてると思うけど。
ルイのやつ、リュカの事件で真底心配しているので競技にも差し支えているんだろう。
フランス大会も、母国開催の割に順位は今一つ伸び悩んだ。
今、俺の近しい人がそうなったら・・・国分くんの時は逍遥という頼もしい助っ人がいた。数馬は一緒に助けてくれるだろうか。逍遥はいざとなったら自から囮になって動いてくれたけど、数馬はどうなんだろう。
プレーヤーじゃないから、囮にはなり得ないか。
「海斗、海斗」
何回か数馬に呼ばれたらしいのだが、俺は気付いてなかった。
「海斗、今君がすべきことはなんだ?」
そう言われ、はっとした。
俺のやるべきこと。
そうだよ、日本大会に向け、力を出し尽くすこと。
それが逍遥や、ひいては聖人さんのためにもなる。
「悪い、数馬。じゃ、向こうでストレッチするから手伝ってくれないか」
「OK」
俺たちはゆっくりと、それでいながら力強く歩き出した。
ストレッチが終わると、試合前の総合練習が行われた。
1人につき10枚ずつの的が現れ、人さし指デバイスを的に向けて発射する。
そこでサポーターが入り姿勢などを正していく。
俺の知ってる欧米組の選手たちはサポーターをギャラリーに置いて来ているようで、1人で矯正しコンディションを整えていたのがほとんどだった。
もしかしたら、俺たちに挨拶してきた欧米系の生徒たちは、各国の魔法部隊に所属している人が大多数を占めるのかもしれない。だからサポーターなど必要ないのかも。
亜里沙が逍遥に対し、サポーター没収と叫んだのが分るような気がした。
あれもどうかなと考えてはいたが、事実、こういう手法の生徒もいる。
どちらかと言えば、サポーターが脇に付いているのは実力的に残念な生徒ばかり。サポーター自身も魔法をよく解ってないような素振りに見えた。
俺、残念な魔法組に入るのかと思うと、ちょっとムッとする。ここは一発、奮い立たせねば。
そこは数馬も俺の考えをお見通しだったようで、最初に矯正に入って来ただけで、あとはずっと後ろに下がって俺の演武を見学していた。
今までなら周囲の状況も見ないで、サポーターがいないとひとり不安になっていたものだが、今日は何となく違う俺だった。
試射が終了し、急いで数馬のところに走って行く。
「どうだった?」
「下半身はOK。君の場合上半身の姿勢から崩れていくタイプだから、以前みんなに言われたことを思い出して」
「目標枚数、どうする?」
「海斗の思った通りが一番だけど」
「45から50を目標にしたいんだ。低く設定すると妙な安心感が出て、出しきれてない力を発揮できないから」
「ご存分に」
1人目の生徒の演武が始まった。
最初の演武は、香港の選手だった。
この出来如何で、試合の流れが決まる。
だからこの選手だけは見ておこうと何となく思う。
数馬が腕を引っ張るのを止めて、俺たちは演武に見入った。
ドン!という音がアリーナの中に響く。
合計で40枚。
中々の出来だが、今までの試合で見たことがない。アジア枠の中でこの試合に出たのか。それとも俺の見落としか。日本大会以降にポイントを稼いでもGPFには間に合わないだろう。
でも本人がえらく喜んでいる所を見ると、俺の見落としかもしれない。
俺は逆に数馬の腕を掴んだ。
「行こう、数馬」
廊下の片隅で、俺はストレッチを数馬に任せてまた肩甲骨だけはマッサージで温めてもらった。これだけでもずいぶん出来が変わってくる。
この方法、広瀬のモノなのか数馬が用いてるマッサージの要なのか、解っていない。聞きたいけど聞き出せない。聞いたら数馬に悪い気がして。
「これは元々僕が考案したサポート方法」
え?
俺、口に出してないよね?
もしかして読心術が使える?
「でないと外国生活はつらいからね。半島より向こうは平気で嘘吐く人間ばかりだし」
固まる俺。
今まで思ってたこと、数馬には丸わかりだった・・・。
ヤバイです。かなりヤバイです。
数馬、よく我慢したな。
ごめんよ、数馬。
「その辺は気にしてないから。魔法を使うからには読心術くらいマスターしないと」
「・・・俺、使えない」
「GPFが終わったら教えてあげるよ」
「ほんと?」
「嘘は吐かない。塗り固める嘘は苦手でね」
やっぱり逍遥みたいだ。言うことまで同じとは。
「彼との一番の違いは、僕はサポートに人生掛けようと思ってる事さ。薔薇大学卒業したらデバイスの作製一本に絞りたいと思っているんだ」
「古典魔法は?」
「永遠の研究テーマさ。大学の卒論テーマにもなるし」
「ある程度の魔法力はあるんでしょ、デバイス作製するくらいだから」
「まあ、人並みには」
「魔法科蹴って魔法技術科に入った口?」
「僕の頃は沢渡他魔法が得意な奴が多くてね。魔法技術科の希望者は少なかったんだ。若林も同じ口かな」
「魔法技術科には上意下達の考え方は広まってなかったの?若林先輩が薔薇6の時に言ってたことあるけど」
「そうだね、魔法科を中心に広まった考え方ではある。ま、もっとも、魔法を第一主義とするオピニオンは世界中で広く浸透しつつあって、懸念されてはいるんだ。物事をフラットに考える心的傾向が廃れると魔法のパブリックな性質にも影響が出かねない」
「む・・・難しい」
「今、理解する必要はない。さ、イメージ記憶を呼び覚ますために静かなところに行こう」
数馬は廊下から離れ、どこか静かになれるところを探して俺の前を歩く。
ちょうどアリーナ裏に芝生があって、そこに胡坐をかいて座った俺は静かに目を瞑った。
頭に蓄積した3Dのイメージ記憶。
数馬にイメージ記憶のことなんて話したっけ?
これも読心術で読み切ったというわけか。
読心術、か。
数馬、今まで聖人さんと比較して済まなかった。色々と文句ばかり言って済まなかった。
俺はもう、聖人さんから卒業しなくては。いや、卒業するから。
数馬に全てを任せ、今日こそ表彰台に向けて試合に臨む。
もう一度ストレッチで身体を伸ばしながら、肩甲骨が歪まないよう時折マッサージする。体力面でのサポートは十二分に受けた。
あとは気力を充実させるだけ。
「1回アリーナの中を見てくる」
そう言って、数馬はアリーナ出入口に向かって走っていく。
あの明るそうなアイドル顔の数馬が読心術マスターしてるなんて思ってもみなかった。
いやいや、今日はそんなこと考える暇はない。
俺は俺にできることをしなくては。
的を思い浮かべ、自分の姿勢を思い浮かべ、人さし指で的を射ぬく場面を思い浮かべる。
肩甲骨を温め解しているから姿勢は問題ない。命中率を上げるために必要なのは、俺自身のメンタル。他人が何枚射抜こうが、俺はその上をいく。
数馬がアリーナから走って出てきた。
「もう15番まで終わったから中に入ろう」
急かされるように俺は数馬の後をついてアリーナに入る。
「どう?イメージ記憶」
「うん、上手くいってる」
「それならOK」
「あとは自分のメンタルとの戦いかな」
「他の選手を気にする必要はない。海斗は海斗の演武をすればいい」
俺が思っていたことを数馬が繰り返してくれたのが少し嬉しかった。
廊下を通りすぎ試合場に入ると、もう20番目の選手が演武を行うところだった。
俺はユニフォームの上から羽織っていたジャージを脱ぐと、肩を回し軽いストレッチを行い、自分の順番を待つ。
ほとんどの場合ひとり20分程度の演武になるのだが、試合場では同時に4試合行われる上に、選手の射撃ペースが速いとあっという間に演武は終わる。
俺は頭を空っぽにしながら順番が来るまで身体を温めていた。




