GPS-GPF編 第9章 日本大会 第4幕
「さて、そうなれば、善は急げ、よね?」
亜里沙が俄然やる気になっている。
俺は面喰って亜里沙の前で両手を振る。
「え?今日やるの?」
「もちろん。四月一日逍遥、できる?」
逍遥は勢いよく立ち上がり、亜里沙の前に進み出た。
「はい。ご期待に添えるよう全力を尽くします」
「よろしい」
策戦をたてるため、生徒会室にて緊急ミーティングが開かれることになった。
その中で一番に優先されたのは、言わずもがな、俺だった。
聖人さんは中庭に逍遥を引き連れ、数馬から見えない場所にスタンバイするという。サトルは一旦生徒会に顔を出したのち、魔法技術科の寮に行くと言っていた。
亜里沙と沢渡元会長は、生徒会に戻って、上から事の成り行きを見てるという。
なんだかんだ言って、やはり亜里沙は魔法部隊に戻るのを遅らせた。じゃあ、破壊魔法出すのが逍遥じゃなくてもできるということか。違う、面が割れてるメンバーで挑むんだった。
俺が問題児なのか、俺がこういった事件に巻き込まれやすい体質なのかは別として、なんか俺の周りでは(特に俺を狙った)事件が多いように感じる。
普通の高校生ってこんなものか?
まだ高1なのに、命にかかわるような事件に2回も遭遇してんだよ?俺。
それが俺の業だと言われればそれまでか。
俺は親すらも捨ててきた人間だ。幸せには程遠い生活を送るべき人間なのかもしれない。
「そんなことないよ」
あれ、逍遥が俺の心を読んでる・・・。
やっぱり!逍遥、君読心術できてんじゃん!
「困ったな、何て説明すればいいんだろう。君は今、自分がこの手の事件に巻き込まれやすいと感じてるよね」
「まあ、そりゃ」
「それが自分の業だと思い始めた」
「そうだな」
「そしたらもう、答えは出るさ。自分の親さえ捨てた人間は幸福から遠のいた人生を歩むべきだと君が結論付けるのが手に取るようにわかる」
「それってさ、読心術に色付けて脚色してない?」
「おや、君が考えたこと以上のモノは話してないと思うけど」
「わかったよ、俺の負けだ」
聖人さんが拳骨を2つ作って準備している。
「ほーら、2人とも。策戦を聞き漏らすなよ~」
生徒会室での緊急ミーティングは10分ほどで終わった。
サトルはこれから魔法技術科の寮に行き、数馬を紅薔薇高の中庭に呼び出す。
俺は学校用ジャージに着替え中庭ベンチにて待機。
逍遥と聖人さんは中庭と校舎の間にて待機。
亜里沙と沢渡元会長は生徒会室にて待機。
それ以降も聞こうとしたら、部屋から閉め出された。
万が一叫んだら計画がおじゃん、ということらしい。
俺もあまり聞きたくない。
数馬が悪い奴だったとしても、俺の中ではいいイメージしかないんだ。あの哀しかった俺の気持ちを上向かせてくれたんだから。
何人かが、生徒会室から出てきた。
俺は逍遥と聖人さんと一緒に魔法科に行き、畳んであるジャージに腕を通す。もう寒くなってきたので、ジャージの上にベンチコート羽織ってベンチを探してたら、聖人さんが「ついてこい!」と案内してくれた。
ありがとう、聖人さん。
やっぱりこの季節になると、寒い。
少し自分でストレッチでもして身体温めないと。
俺は人通りもほとんどない中庭でベンチコートを脱ぎ、身体を曲げたり伸ばしたりして身体を温めていた。
もし誰かがここを通ったら、たぶん驚異の目で俺を見るだろうな。
普通なら、グラウンドか体育館に行くもん。
ちょっと恥ずかしい気持ちはあったが、致し方ない。
ベンチの周辺で身体を温めていると、20分ほどで、サトルの誘いに乗った数馬が走って俺の方に寄ってきた。
「ごめんごめん、遅くなっちゃった」
「いいよ、構わない」
俺は多分、顔が引き攣っていたと思う。
「どうしたの、こんな場所で」
うっ、俺は何て嘘をつけばいいんだ?
悩んでいる暇はない。
「今日まで公欠日だろ、グラウンド使えないし。ここなら誰も来ないからいいかなって。もうすぐ日本大会だから焦ってるんだ」
「そうだね、公開練習日までできることをしておかないとね」
俺は、覚悟を決めた。
「ねえ、そこのベンチでマッサージしてくれないかな」
「いいよ、でも海斗、ベンチって硬くない?」
「今日だけだから我慢するよ。ベンチコートの上に寝転がるし。どう?お願いできる?」
「OK。じゃあ、いつもどおりうつ伏せになって」
ベンチの造りは本当に硬くて、ベンチコートを置いたくらいでは焼け石に水だ。マッサージを受けると胸の骨が痛む。それでも、一応寝たふりだけでもしなくては・・・。
肩甲骨に指が入る間、胸の痛みを我慢する必要があったがいつものように寝入る前提なので、我慢に我慢を重ねた。
「海斗?海斗?」
俺は寝たふりをして返事をしなかった。
数馬は夢のとおり、なにやら呪文のようなものを唱えているのが聞こえた。
「君のお父さんのこと、思い出せるかな」
は?いつもこんなふうに話しかけながら同化魔法って掛けるのか?
返事をするわけにもいかず、何を聞かれても俺は全てスルーしていた。
同化魔法の掛け方は、もしかしたら催眠術のようなものかもしれない。
俺が何も答えないので数馬はヘンに思ったようで、マッサージを止め、立ち上がり俺の横側に立ったようだった。日差しの陰になったことでそれがわかる。
まずい、バレる。
そこに、足音が混じって聞こえてきた。足音は1人分、きっと逍遥だ。聖人さんはまだどこかに隠れてるに違いない。俺はベンチに横になりながら、2人のバトルが見えるよう中庭側を向いて薄目を開けながら見ていた。
逍遥は俺の脇に立つ、まるで俺を守るかのように。
「なぜそのイケメン面じゃ嫌なんだ?」
「何のことかな」
「同化魔法かけてんだろ、海斗を君のものにして、あとはどうする」
「さて、どうしようか」
「海斗は魔法力強くないよ、どうして海斗なのさ」
「僕が欲しいのは君の還元なんだよ。魔法力はいささか落ちるだろうけど、想定内だ」
「還元?」
「今の姿じゃ魔法科には入れないからね」
その言葉を聞き、逍遥は一呼吸置くと、低い声で言い放った。
「お前に還元する魔法など、ただのひとつも無い」
そういうと、俺の背中と数馬の胸に対し、同時に2つのショットガンを突き付けて、間髪入れずに撃ちかまし、1回目の破壊魔法を掛けた。
いっでーーーーーーーーーーーーーっ!!
痛い!痛い!痛い!聞いてないよ、こんなに痛いなんて!
もう、痛いなんてもんじゃない。
全身を針で刺されるような物凄い痛み。かなり鋭い痛みで、どちらかというとインフルエンザに罹ったときのような全身痛だが、痛む頻度や痛みの強弱は計り知れぬほどこっちが酷い。
まるで身体を引きちぎられるような、物凄い痛みとしか表現できない。
また、亜里沙から言われた「乗っ取られた目」も眼球の奥がジンジンと痛くて、目を開けているとパチパチした光が見えてくるほどだ。
俺はたまらずベンチに座り直したり、今度は蹲って痛みを堪える。
蹲っていても痛みは増すばかりで、俺はベンチ周辺のコンクリートに身体を投げだし転げまわった。
同じように数馬も少し顔を赤くして苦しんではいたが、俺ほどではない。ベンチに座ってはいたものの転げまわっていなかったので、俺ほどの苦しみではないのかもしれない。
俺はもう数馬のことを心配する余裕などなかったのだが、一度だけ数馬の顔が見えた。顔が数馬じゃない。誰だ、あれは。
そこに、どこからともなく聖人さんが現れた。
俺にではなく、ベンチに座る数馬の額にショットガンを当てる。
「お前は誰だ」
「大前数馬だよ」
「嘘をつけ。力の開放とはあいつが好んで使っていた言葉だ」
「よく御存じで」
突然へらへらと笑いだす数馬。
俺はもう、痛みと数馬の豹変についていけず、失神する寸前。
「海斗、起きろ!」
逍遥が叫ぶ。
痛みを堪えてそのまま起きてろ?おい、逍遥、何の拷問なんだ。
目を開けると、数馬は悠然とベンチから立ち上がり、そのまま中庭をあとにしようとしていた。
「こいつだけ苦しめてれば?」
俺を指さし数馬は悠々と話してはいるが、その実、その身体はこの場から早急に逃げようとしているのがあからさまに分る。
数馬が逍遥に言ってのける。
「こんなんじゃまだまだだね。僕は失礼するよ」
中庭を出ようとする数馬。
「あらごめんなさい、そうはいかないわ」
亜里沙の声が聞こえる。軽い口調、怒ってはいないがこのシチュエーションでにこやかに、とはいかないだろう。
「逃げられないよ、どこにも」
サトルまでが中庭に来ていた。
もう俺は目の奥が痛くて目を開けていられなかったので、声の聞こえてくる方向に耳を澄ませていた。
どうやら、四方を固め数馬が逃げられないようにしているのだろう。
亜里沙が出てきたということは、逍遥に代わり亜里沙が魔法を放つのかなと思っていたら、亜里沙はどうやら今回動かないと見た。
「あとは任せたわよ、四月一日」
「了解しました」
亜里沙に返事をするや否や、逍遥は再び、コンクリートの上で動けないでいる俺と、どこにも逃げられず立ったままの数馬の間に入り込んだ。俺と数馬の胸目掛けて向けてショットガンを放つ逍遥。
「こんなんじゃまだまだ足りないんだろ?大前数馬、あと少しだけ君には苦しんでもらわないと」
俺はもう、痛みに耐えきれずがっくりと膝を折った・・・。
どのくらい経ったのか分らなかったが、俺は目を覚ました。
途中から中庭に現れたサトルに抱きかかえられながらベンチに座っていた。
もう、身体の痛みはほとんど無かった。
俺は数馬のことが気になり、起き上がろうとした。
サトルが俺を制する。
「顔は無事に元に戻ったね、まだ起きちゃだめだよ、身体が弱ってるから」
「サトル。数馬、数馬はどうなった」
サトルは何も語ろうとはしなかった。
俺は数馬のことが気になり、サトルの制止を無視して無理に起き上がった。
目の前に、逍遥にショットガンを撃ちこまれた数馬がいた。数馬は、さっきの俺以上に苦しんでいるように見えた。
俺の目は涙で溢れた。俺が何か言い出さないように、サトルが俺の口を塞ぐ。
数馬、ゴメン。
逍遥と聖人さん、そして亜里沙に囲まれた数馬は、苦しんで苦しんで、そりゃもう拷問を受けているに等しかった。
胸に手を当てているから、俺の全身の痛みとは違って、呼吸が苦しいのかもしれない。
俺はやめてくれと叫びそうになり、サトルに再び口を押さえ付けられた。
「今、本当の大前数馬を救い出そうとしてるんだから、口出ししちゃダメだ」
逍遥と聖人さんはしばらくの間数馬の様子を見ていたが、亜里沙が号令をかけると逍遥が三度ショットガンを数馬の胸目掛けて撃ち放った瞬間、数馬の胸からグレー色の人間の形をした妖魔のようなものがわらわらと出てきた。
妖魔は聖人さんに向かってすごいスピードで近づいていく。
このままでは聖人さんが危ない!!
しかし聖人さんはその瞬間を狙っていたかのように、躊躇なく手を組んで2本の人さしと中指を揃え妖魔のような物体に向けた。
一瞬間。
グレー色の妖魔のような物体は音さえ立てずにさらさらとした砂のように崩れてコンクリート上に散らばった。
何処かで見覚えのある魔法。
あ、全日本のとき青薔薇連中が出した妖獣に明が発動した魔法。
そうだよ、あの時と手の組み方も同じ。
これが消去魔法?
俺はこれが破邪の法だとばかり思っていた。
並の使い手では発動できない魔法とわかってはいても、いつ暴発するかわからない魔法だからこそ、使用する際には最新の注意を払わなければならないのだろう。
明は妖獣を見て面倒に思い消去魔法を使ったから、あの時俺たちに真似するなといったのか。
ここまできて、やっと明の発した言葉の意味が分かった。
逍遥と聖人さんは、コンクリート上に倒れた数馬の身体を二人で担ぎ上げベンチに運んできた。
数馬、息してるだろうな、死んでないよな。
俺とサトルはベンチから移動して、逍遥たちが数馬を横たえたところにそっと近づいた。
俺はある意味、ほっとした。数馬の顔は変わらずイケメンのまま。
みんな、俺の顔が変わったと言っていたとき、俺はだいぶ同化して顔そのものが変わっていたらしいから。数馬は顔まで同化していなかったからこそ、出会った時と今とで顔が同じなんだろう。
それにしても、数馬のイケメン顔では魔法科に入れないから顔を変えるのはいいとして、なんで俺まで容姿が変わったんだろう。さっき消えた黒幕の顔ではダメだったんだろうか。だから3人ひっくるめて3で割ったような容姿にしたのかな・・・。
そんなことは今考えなくてもいい。
数馬の無事を確認しなければ。
「数馬・・数馬・・」
俺の問いかけにも返答できないほど弱って眠っていた数馬だったが、俺が身体を摩ってあげるとようやく目を開いた。
「海斗・・・?」
数馬は顔色こそ悪かったが、相変わらずのアイドル顔だった。
俺と数馬は、歩けるようになるまでベンチで休み、サトルや逍遥に肩を貸してもらいながら医務室に向かった。専属ドクターの診察を受けるために。
ぽよぽよ先生は、直ぐに俺と数馬のCTを取ってくれたが、そこでは何の異常も見つからなかった。
皆がひと息ついた。
亜里沙は逍遥と聖人さんに声もかけず校舎の中に入っていった。
おい、それって酷くないか?
今回一番働いたんだから、労いの言葉一つでもいいからかけてやれよ。
数馬は破壊魔法を受け非常に疲れ果てていたので、生徒会の中にいた絢人と譲司が下まで降りてきて、数馬を連れて魔法技術科の寮まで帰っていった。
俺たちも、もう事件は解決を見たわけだから学校にいる必要はない。
逍遥が寮に帰ろうと主張する。
4人で相談して、生徒会には出向かず、そのまま帰る策戦を強行しようと話し合っていた。
亜里沙から沢渡元会長に報告があるだろうし、俺たちがこぞって生徒会に行く理由もない。
それにしても、俺には分らないことだらけだった。
「聖人さん、あのグレー色の妖魔みたいなのは何だったの」
「あれか、ありゃ広瀬翔英だ」
「広瀬先輩?なんで・・・今も監視を続けてたの?」
「違う。海音の強い希望でお前の身体を乗っ取るつもりだったんだろう。お前を憎んでいる海音のためにできることをしろ、と親父が広瀬に命令していたに違いない。大前の類い稀なるサポート力を取り込み、かつ、これから逍遥に還元を受けるお前の魔法力を自分のモノにすることで、親父の命令も遂行できるとふんだ広瀬は大前を同化させていったんだろうよ」
「聖人さん、最初から知ってたの」
「ロシア大会のときだったかな、大前がお前に「力の解放」ってフレーズ使ったのを聞いて、変だと思ったんだ。「力の解放」は広瀬が好んで使ったフレーズだったから。あの辺りから大前と広瀬の間には何らかの関係性があるとは気付いてた。だが、まさかこういうこととはね」
「それで呼び捨てにしたり舌打ちしたりしてたのか」
「俺を監視していたころもそうだったよ、呼び捨て舌打ちなんでもありよ」
「最後のが消去魔法ってのはわかったけど、破壊魔法って何だったの。苦しめるだけの魔法じゃないよね」
聖人さんに代わって逍遥が右手を上げて俺の興味を引こうとしていた。俺が必然的に逍遥の方に向き直ると、早速逍遥は早口で話し出した。
逍遥にしては珍しく饒舌だった。
「破壊魔法は軍隊用魔法なんだ。山桜さんから最初に説明があった通り、海斗が受けた同化魔法を増幅させて大前にはね返すというものでね。だから君は受けた同化魔法の分だけ苦しんだ。そして2回目で君は元に戻った。2回目に大前に向けた魔法はそれ以上に増幅されたものだったから、君と同じか、いや、それ以上に苦しんだだろう。そして3回目で大前が元に戻ったところで広瀬が身体の中から出てきた、というわけさ」
何で1回目のショットガンでは数馬は全然痛がりもしなかったのか、なんかよく解んなかったが、とにかく数馬が助かったということだけはわかった。
もう一度、逍遥の目を見て尋ねた。
「でも、広瀬に支配されてた間のことは数馬は忘れてるの?」
「いや、覚えてるはずだよ。ただ、自分の意志とは関係のない同化魔法を君に向けて掛けさせられて、かなり困惑していただろうね」
サトルが眉を八の字にしながら心配したような表情で俺の顔を覗き込む。
「海斗、日本大会は欠場したら?もう時間がないよ」
そうだった、忘れてた。
非常に疲れていたのは確かだけど、今の俺のポイントは低い。このまま欠場したら、まず間違いなくGPFへの道は断たれる。
俺としては何としてでもGPFに進みたい。始まる前はGPSさえ毛嫌いしていたというのに、なんという変わりようだと亜里沙が笑うのが目に見えている。
だが、一度その世界に身を投じた者にしかわからないこの高揚感は、俺をGPFへと突き動かしている。
数馬と組むかどうかは別として、俺は日本大会に出場したいと心から願っていた。
生徒会室から亜里沙と沢渡元会長が足早に中庭へと降りてきたのが見えた。
「大丈夫だったわね、四月一日逍遥、宮城聖人」
沢渡元会長も珍しく笑みを漏らしていた。
「よくやった、2人とも」
聖人さんが誇らしげに胸を張り、逍遥の肩を抱く。
「俺の想像以上の魔法を逍遥は発動してくれました。とどめを刺すのに十分な余裕がありましたから」
逍遥は少し頬を赤くしている。
「聖人のお蔭です。そして何より、海斗が激痛に耐えて頑張ってくれたからです」
亜里沙が俺の方を向いた。笑顔がいつもと違っていて、俺は怒られる前兆かと勘違いしたほどだ。
「海斗、よく耐えたわね、辛かったでしょうに」
「起きてろ、って言われたから。でも、何の拷問かとは思ったけど」
「あれがあったからこそ、今回の黒幕を炙り出すことができたのよ、みんな本当に頑張ったわ」
俺の顔を見る沢渡元会長の表情は、聖人さんや逍遥、サトルと同じように俺のことを心底心配しているのがよくわかった。
「大丈夫です。公開練習までは日がありますし、今日だけ休めばなんとか試合まで体調を戻せます」
聖人さんが助け船を出してくれた。
「日本大会に関しては開催国の威厳もあるし欠場したら勿体無い。俺が逍遥と海斗を見ますから、体調さえ戻れば大丈夫です。出場させてあげてください」
沢渡元会長が、うーんと首を捻っていたので、俺は亜里沙に頼みこんだ。
「亜里沙、俺、できることならGPFに出たいと思ってる。だから今度の日本大会は順位がどうあれ出場したいんだ、頼むよ」
亜里沙は溜息を吐きながらも反対はしなかった。
「サポーターの問題はあるけど、そうね、あんたがGPFまで目指してくれるなんて嬉しい限りよ。大前数馬は体調が戻り次第サポートに就けるから。安心して大会に出て」
「じゃあ、今日はこのまま寮に戻ります。寝て体調戻しますから。聖人さん、明日からマッサージ付き合って」
「了解」
俺は皆に感謝していたし個別に声を掛けたかったが、如何せん、ボキャブラリが少ない。
「みんな、本当にありがとう。俺も頑張ってGPF目指すから」
誰からともなく、パチパチと拍手が起こった。
俺にとって何よりの拍手。
明日からまた、頑張ろう。
数馬の体調が戻り次第、サポートに就けてもらえるみたいだし、もう、哀しむ必要などどこにもない。今度こそ、数馬と本当の絆を結ぼう。
皆に深く頭を下げ、俺は逍遥や聖人さんと一緒に寮を目指し、部屋に入るや否や、ベッドに転がった。
あんな激痛を体中に仕向けられるなどという経験をして疲れないと言えば嘘になるし、今日の数馬を見ているのはとても辛かった。でも、ようやく平和が訪れたという気分だった。もう、GPSとGPFでは何も起こらないでほしい。
それにしても、広瀬先輩はどこで数馬を見初めたんだろう。2人が出会ったのは数馬が復学してすぐの頃だったんだろうか。
これは数馬に聞いてみないと分らない。
いや、数馬にもわからないかもしれない。生徒会室に出入りしていた数馬を狙ってどうにかして会話する機会を有し、同化魔法を徐々に掛けていったのか、若しくは遠くから同化魔法を遠隔で掛けたのか。
聖人さんが言ってた。
魔法部隊駐留クラスになると、遠隔からでも同化魔法が使えるって。
ただし同化魔法は人一人の魂を奪うから使用が禁じられているのだという。
でも広瀬の力では実体に触れてしか魔法を使うことができなくて、ああいう形になったのだろうと言う。数馬に何らかの方法で接する機会があったに違いない。
早く数馬がサポートに復帰してくれることを願って、寮での夕飯を聖人さんや逍遥と3人で食べたあと、俺は早々に部屋に戻って布団にくるまった。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
翌朝午前6時。公欠が解禁となり、俺はダッシュで聖人さんの部屋に行き、無理矢理起こして朝のマッサージをお願いする。といっても、肩甲骨のみ。
あとのストレッチは昔のように1人で行い、学校へと向かう。もちろん、寮だから朝飯は食べない。
聖人さんは、医師の診断が必要ではないかと俺に言うんだが、もう体調は万全だった。昨夜ガッツリ寝たのが良かったらしい。
5分の道を少し駆け足気味に学校へと向かう俺。1年の魔法科教室に入ろうとしたら、なにやらドアの辺りに人だかりができていた。
なんだろう。
そう思って近づいていくと、人だかりの正体は女子で、真ん中になんと数馬が立っていた。ああ、アイドル顔だもんな、こりゃ女子が近づいてくるわけだ。
ところで、大丈夫なのか?昨日の今日で。
「数馬、大丈夫?」
「海斗。ゴメン、朝早くから」
「構わないよ、これから国際競技場に行く予定なんだ」
「今日は脳波や記憶に違えてるところがないかどうか検査するんだ。明後日以降なら付き合える。もう一回医師の診察は受けるけど、公開練習日までには間に合うと思うから」
「今回はゆっくり休んでもいいんだぞ」
「僕も日本大会を楽しみにこれまでサポートしてきたから、検査で何もなければ明後日の練習から復帰したいと思ってる」
俺は笑いながら数馬の腹に軽くパンチを入れる。
「了解。待ってる」
数馬は前と変わりなく、俺の傍に居続けてくれるんだ。
もう、俺はひとりではない。




