GPS-GPF編 第9章 日本大会 第3幕
誰も何も話さず速攻で夕食を終えた俺たちは、また聖人さんの部屋に集まった。
逍遥は夕食を挟み、やっといつもの冷静さを取り戻していた。
「まずは、大前数馬を見つけないと」
聖人さんが逍遥の肩をコンコンと叩いた。
「魔法部隊に頼めばあらかたの人探しはできる。あいつのイケメン顔が変わってなければの話だけど」
サトルはまだ元気が出ないようだった。
「でも、見つけてそれからどうするの」
聖人さんがサトルの頭を何度も撫でてる。
「何らかの魔法で同化魔法を撃ち破ることができるはずだ。まずは、沢渡や山桜からの情報を待とう」
「隠れて出てこないんじゃ?」
「寮に来たくないだけの話だと思う。海斗が気付いたことはまだ知らないだろう。だからみんな、もし大前が目の前に現れても普段通りにしてるんだぞ。特に逍遥と海斗」
逍遥が聖人さんの頭に拳骨を落そうとして逆に拳骨を落された。
「僕は大丈夫だよ、鉄の仮面被るから。心配なのは海斗でしょ、直に接するわけだから」
俺、マジきつそう。
「そうだよなあ、もし今顔見たら同化魔法の事喋りそうだ」
「夢で見たことにするしかないだろ。夢はほんとに見たわけだから。でも、吉と出るか凶と出るかはわからん、それを聞いて同化魔法の速度をあげてくる可能性はあるからな」
その晩、俺は自分の部屋から布団を持ちだし、聖人さんの部屋に泊めてもらった。
何があるかわかんないし、1人で寝るのが怖かった。
なにより、あの夢を見るのが怖かった。
翌朝、俺が起きたのは8時。
あの夢は見なかった。良かったというか、何というか。
今日まで公欠扱いだから今日も外出の予定はない。
起きて自分の部屋に布団を戻しに行くと、亜里沙と沢渡元会長が俺の部屋の前に立っていた。
「すみません!お待たせしました!」
元気よく挨拶すると、沢渡元会長は小さく手を振る。
亜里沙は嘘をつかないので、5分ほどそこで待っていたことがわかった。
「どこにいったのかと心配したわよ、あんた1人じゃないと寝れないから」
「で、なんか情報あるの?」
また俺は亜里沙に対しタメ口になる。
「大前数馬の居場所と、対抗魔法」
「スゲー、どっちも分かったの?」
「居場所は簡単だった。魔法技術科の寮に4日間篭りっぱなしだったのを透視できたから。問題は対抗魔法よ」
「ダメだったの?」
「わかったことはわかったんだけど、並の使い手じゃ混乱起きそうで」
「混乱?みんな集めるから聖人さんの部屋で」
「了解」
俺は逍遥やサトルを起こし、聖人さんの部屋に誘った。
2人が来ないわけがない。
部屋の中はぎゅうぎゅうになったが、亜里沙と沢渡元会長がベッドに座り、あとの俺たちは床に胡坐をかいて座った。
亜里沙が手短に、と言いながら話し始めた。
「大前数馬の居場所は魔法技術科A棟301号室。この5日間、どこにも出かけてない。今日で海斗の公欠日が終わるから、明日から活動し始める公算が大きいわね。あとは、同化魔法に対する対抗魔法だけど、破壊魔法か消去魔法しかないみたい」
聖人さんはさして動じなかったが、逍遥とサトルの顔色が土気色に変わった。
俺は単純にどういう魔法か知らなかったので、亜里沙に対し手を上げた。
「それ、どういう魔法なの」
「破壊魔法は文字どおり破壊。掛けられた同化魔法をそのまま増幅して相手に掛け返すの。普通の掛け方したら人一人が死ぬわ。消去魔法も文字どおりよ、人間を一発で灰に出来る魔法」
俺は押し黙ってしまった。アメリカ大会後に数馬と出会って1ケ月ほどだったが、数馬との生活は楽しかった。
俺のことを大切にしてくれて、励ましてくれて、喜んでくれて。
それが俺の身体を欲しての演技だったとしても、俺は楽しく毎日を過ごし、聖人さんが近くから消えた哀しみを癒すことができた。
何れの魔法も、大前数馬という人間をこの世から抹殺することになるのでは・・・。
果たしてそれでいいのか?
本当の数馬ごと破壊してしまうなんて。
何か他に手はないのか?
そのとき聖人さんがすっと亜里沙の目の前で手を上げた。
「破壊魔法をアレンジして、本当の数馬を救い出すことができるような気がするが」
亜里沙は聖人さんの意見に耳を傾けた。
基本、こういう時の亜里沙は人の意見に耳を傾けることなど皆無だ。聖人さんとは、そういう地位にいた人であり、尊敬すべき人間なのだと亜里沙も認識しているのがよくわかる。
「方法論をどうぞ」
「破壊魔法を2回に分けて海斗と大前数馬に掛けるんだ、力を制御して。その後もう1回大前に破壊魔法を掛けて本当の大前数馬を救い出し、同時に黒幕に消去魔法をかける」
「時間的設定に無理があるように思うけど」
「1人では無理だ。そして、この魔法を使える人間は少ない。たぶん、魔法部隊でもそれなりの職に属した人間でないと無理だろう」
「生憎と、明は今軍務で抜けられないわ。あたしもこれから向こうに戻らなければならないし」
「逍遥がいる」
「このはなたれ小僧?」
亜里沙は鼻で笑って逍遥を指でさす。
聖人さんは亜里沙に対し、指さすなよとぶつぶつ言いながら返答した。
「逍遥は魔法力だけなら部隊のどこに属しても問題ない」
「サポートしてそれがわかったと?」
「俺が還元した時より魔法力だけなら格段に上がってる」
「魔法力だけ、ってのが気にかかるんだけど」
「気分にムラがある。それが一番のネックだ」
「じゃあ、確実性が無いじゃない」
「大丈夫だ、逍遥は海斗を好きだから。大前数馬を海斗から引き離すだけなら間違いなくやれる」
俺自身は、もうここまでくると意見を言えるような雰囲気にはない。皆が心配しているのは一義的には俺のことだったから。
聖人さんの思いは、俺が無事であることもそうなんだが、大前数馬を乗っ取った黒幕を倒したいということだったと思うし、一方の亜里沙は、大前数馬という人間の命などどうでも良かったに違いない。
俺としては数馬が同化されているとしたら本当の数馬に戻ってもらいたいけど、俺自身のことを考えたときに、別に同化も厭わないし皆に危ない真似をしてほしくは無かった。
でも、果たして俺に同化魔法をかけているとされる黒幕は、同化が済んだらそのあとどういう行動に出るつもりだったんだろう。
亜里沙に向けてサトルが恐る恐る手を上げた。
「僕はそこまでの魔法力はないけど、できることを精一杯やりたいと思っています。何か僕にできることはないですか」
「大前数馬を呼び出してちょうだい。この寮には来ないでしょうから」
「ではどこに」
「学校の中庭に。あそこなら普段人通りは少ないし、大声を上げても職員室には届かないし。何より、生徒会室の窓を開ければ真下に見えるから」
「承知しました」
俺はチラリと亜里沙に目を向けた。
亜里沙は逍遥を信じていないためか、聖人さんの意見に即、賛成はしなかった。
呼び出しすら数馬が応じるかどうかわからないから、いざとなれば自分が軍に帰るのを遅らせてでも、移動魔法を使って大前数馬を中庭に放り込む、と息巻いて吠えている。
おい、今度はどこに向かって吠えてるんだ。
「聖人さん、じゃあ、あたしと聖人さんでやりましょうか。部隊に帰るのを1日遅らせるから」
ほら、やっぱり帰るの遅らせるんだ。
聖人さんは左右に首を振る。
「いや、今まで姿を現してない山桜さんが突然いたら、黒幕がどういう行動に出るかわからない。逍遥は面識があるから、山桜さんは帰っても大丈夫だ」
「なんとも心許無い布陣だから心配なのよ」
「じゃ、生徒会室から下見てて、いざとなったら加勢するという案でどうだ?」
うーん、と考え込む亜里沙。
でも、自分が見ていられるところで皆の動きを制御できると思ったらしく、策戦にはOKが出た。
サトルが魔法技術科の寮に呼びに行く役目を仰せつかったわけだが、サトル、なんて嘘つくんだ?
「嘘なんかつかないよ、海斗が中庭でトレーニングしたいから呼んでる、っていうだけ」
そうか、俺が最初に中庭に行ってればいいのか。
あれ?サトルは読心術できるのか?
「少しならね」
俺は自分の行動を心の中でもう一度復唱した。
中庭に行って、数馬を待ち、数馬が来たら何らかの方法で聖人さんと逍遥が出てくる。そこで俺の役目は終わり。
「違う、お前に向かって破壊魔法かけるから、お前は気持ちを強く持て。くれぐれも同化してもいいなんて思うなよ。相手に取り込まれるぞ」
聖人さんは読心術に優れていらっしゃる。
皆が大変な時は同化してもいいかな、と脳内でふっと考えたのがバレバレだった。
「みんなお前が好きだから何とかしたいと考えてるんだ。みんなの意思を無駄にするな」
亜里沙も聖人さんと同じことを言う。
「そうよ、海斗。ここにいるみんながあんたのことを考えて行動しようとしてるんだから、馬鹿な真似は止めてよね。特に、大前数馬にいれあげて可哀想と思うのが一番の間違いだから」
俺が数馬を目の前にして、この策戦をおじゃんにすることを亜里沙は懸念している。
そうなんだよ、俺のいないところでやってくれるなら未だしも、俺の見てる目の前で数馬が消滅するのは心をちぎられるほど辛い。
実際に目の前にしたら、「逃げろ」といってしまいそうだ。
そう思ったら、聖人さんの拳骨が俺の後頭部に飛んできた。
「痛いよ、聖人さん」
「馬鹿野郎、みんなお前の事考えてんだぞ、元々の大前だってこのままじゃ確実に死ぬ。消滅するんだ、魂が。それでも逃げろと言えんのか?」
「わかったよ、で、何て言えばいいの?」
今度は亜里沙が拳骨ポーズで俺に迫ってきた。
「子どもじゃないんだから自分で考えなさいよ」
「いっつも俺に対して「お前は子どもだー」って言ってるのに、こんな時だけ大人扱いかよ」
「うるさいガキね。じゃ、中庭にあるベンチでマッサージしてくれ、って頼みなさい」
「ベンチなんてあったっけ」
俺は紅薔薇の校舎を知り尽くしていなかった。
サトルが呆れたように首を振りながら俺の肩を押さえる。
「僕が連れて行ってあげるよ。僕は生徒会で顔見知りではあるけど、大前の前で使ったのは他者修復魔法くらいのものだから、そんなに魔法力はないと思われてるはずだ。僕に対しては向こうも油断してるでしょ」
「というと」
「足が動かなくなる程度の魔法なら僕でも掛けられる」
「そうなの?」
サンフランシスコで聖人さんがごろつきどもに掛けた魔法だ。
サトルもそんな魔法が使えたのか、知らなかった。サトルって大人しくしてるから本当に目立たないけど、結構な魔法の使い手だよな。魔法部隊なんかに入ったら一気に昇進できるんじゃないか?
「父が反対でね、魔法部隊入りは。他の職に就いてほしいと言われてるんだ」
ほら、また読心術。
やっぱりサトルの魔法力は侮れない。
侮れないと言えば、沢渡元会長は何も言わずこの場にいるが、誰か何か言ってあげてよ。生徒会に戻ってもらった方がいいんじゃないの。
「八朔、俺は大前をお前に紹介した手前、この騒ぎを収める責務を担わなければならないと思っている。全てをこの眼で確認して、終息させる」
あ、ここにいる俺以外の人間全員、読心術マスターだ・・・。




