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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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GPS-GPF編  第9章  ロシア大会  第4幕

公開練習を終えた俺は、いつものように数馬と食事を摂ろうと思っていたが、せっかく亜里沙と(とおる)が着たのだから、2人にも食事に同席するよう勧めてみた。

 だが生徒会にて報告を受けるといって、亜里沙たちは瞬く間に姿を消した。


「つまんねーの、せっかく会うのに」

 俺のボヤキに、数馬は恐縮したような素振りを見せて手を思い切り振った。

「山桜さんと長谷部さんの前では何も食べられないよ。緊張しちゃって」

「あいつら、偉いんだっけ」

「そりゃもう。一介の高校生が近づける人たちじゃない」

「ああ、そういえば・・・」


 俺は亜里沙が逍遥(しょうよう)に暴力を振るった場面を思い返していた。

 亜里沙、暴力で事は解決しないんだ。

 なんであのとき逍遥(しょうよう)に暴力をふるったか、俺には分らない。暴力絶対反対主義者の俺には、永遠に分らないと思う。

 でも、亜里沙には亜里沙のけじめってものがあったんだろう。それだけは理解できるような気がした。

 

 亜里沙たちが消えたので、俺はいつもどおり数馬と食事を共にする。

 食堂に入り、2人で主食から始まり、副食、サラダ、ジュースと選んでいく。

 俺は少し食が細いので、数馬がメニューを考えてくれて、ちょっとずつ量を増やすように工夫している所だ。


 数馬は上から目線でもなく、かといって媚びるような態度でもなく、俺を一般人、ただの男子として扱ってくれる。

 俺の喜び、悲しみを自分のことのように思ってくれる。

 それが他のサポーターとの一番の違い。

 競技で上位に入ることを目的とする以前に、俺が人間的に成長できるように助けてくれる。


 ん?それは前にも聞いたって?

 何回でも自慢したくなるんだよ、数馬のことを。

 こんな欠点らしい欠点を持たない人間には初めて会ったから、俺は途轍(とてつ)もなく嬉しくて、皆に知らせたくなる。

 聖人(まさと)さんも欠点ないけど、もう大人だし。

 譲司やサトルも出来た人間だけど、数馬と比較すると凡人に思えてしまうから不思議だ。

 ごめん、譲司、サトル。決して君らに欠点があるわけでもなく、数馬が俺に合っているだけなんだと思う。


 でも、数馬のサポートがどれだけ俺の人間性及び競技人生に明るい光をくれたのかは、俺が明日の本選で良い成績を残さなければ皆に伝わらない。

 

 アメリカ大会では亜里沙と明がベンチにいてくれて35枚という数字を叩き出したが、今回はどうか。

 今回は40枚が分岐点となる、と数馬は言った。

 アメリカ大会は今季の初戦ということで、実力があっても、緊張した挙句目標枚数に届かなかった人間もいたはずだ。

 それを考慮に入れれば、アメリカ大会の結果は一概に信用できるものではなく、このロシア大会の結果がGPFに絡んでくるだろう。


 そう俺に告げて目標設定を掲げたのは数馬だ。食事を終え一旦は立ち上がったのだが、俺はちょっと心配気味で食堂の椅子にまた座った。

「5枚も目標上げて大丈夫かな」

するといつものように、数馬は膝を折って俺の目線まで下がり俺の目を見つめた。

「大丈夫、君ならできるさ。明日も思い切り力を解放しよう」

 段々やる気が増してくる俺。


 周囲を見渡すと、いつの間にか遠くに亜里沙と(とおる)が立っていた。俺を励ましにきたのか、単に食事に来たのかは分らなかったが、数馬の言葉と態度だけで大丈夫と思ったのだろう、何も言わず微笑んでいる。

俺は椅子から立ち上がり、食器を片づけるためにトレイを持った。近づいてきた亜里沙たちに一言告げた。

「じゃ、お先に。亜里沙、(とおる)。明日もベンチに入ってくれよ」

 そういうと、(とおる)が求めてくるハイタッチに応じながら、俺は数馬の腕を引っ張って食堂を出た。



 部屋に戻る途中、ロシアのアレクセイとサーシャに出会った。アメリカ大会では堂々の1位発進を決めたアレクセイ。毅然とした態度で俺たちに英語で挨拶してきた。

「やあ、カイト。明日の本選、楽しみにしてるよ、お互い頑張ろう」

 数馬は方々を旅した人間なので、英語は話せるはずだったが何も語ろうとはしなかった。

「こちらこそ、お互い頑張ろう」

 俺はにこやかに微笑みつつも、英語は聞くだけしかできない。仕方ないので今回も日本語で返事をした。不思議な会話風景がここにある。

 

 アレクセイたちと別れてから、数馬の真正面に回り、聞いた。

「数馬、何か国くらい回ったの」

「10ヵ国ではきかないくらい」

「英語は覚えなかったの」

「あ、ああ、スペイン語中心に覚えたから」

「すげー、スペイン語とか」

「南米に行くときはスペイン・ポルトガル語が便利だね」

「俺なんて日本語オンリー」

「海斗だって修業に出ればすぐに覚えるよ」


思い出した。

俺の母は英語の教師なのに英会話は教えてくれなかった。けど、テストの点数が悪いと必ずキーキー叫んでた。お蔭様で、テストの点数だけは悪くなかったよ。

でもキーキー叫ぶくらいなら、ホームステイとか、何でもやりようがあったと思うのだが。

やはり俺の両親は子どもファーストでは無かったんだな。


俺がリアル世界のことを考えている時は、何か顔つきが変わるらしい。

「また、ご両親のこと考えてたの?」

数馬の質問にちょっと驚き、聞き直す。

「どうしてわかった?」

「海斗は向こうの世界を考える時、いつも決まって気難しい顔になるから。今はそれより、明日の策戦を練ろうよ。君の部屋でマッサージがてら」

「ありがとう、数馬のマッサージは天にも昇る勢いなんだよね」

「そのまま昇天しないでくれよ」

 あはは、と笑って、俺たちは数馬の部屋に向かった。



 俺の部屋でうつ伏せになり、肩甲骨を中心に肩周りや腰など、要所要所をマッサージしてもらいながら解していく。

 少し炎症気味の場合はマッサージをしないで冷やしたり、足湯に浸かって身体全体が温まるように工夫したり。

 雑談ともいえるような会話でプレーヤーを深く知る。その中で、現在の状況を見極め今後の目標を立てていくのが俺たちのやり方だ。


 マッサージしてもらいながら、明日の策戦について再確認する。


 数馬は2戦目で参加者の身体が慣れてくるので、40枚という、ちょっと高い目標を設定したい、このマッサージが終わったら、生徒会役員部屋に行って策戦を申し出てくるという。

 それに対し俺は、ロシアは気候が寒い地方にあり、どんなに調整しても身体が思ったように動かないはずで、フランス以降は気候がロシアに比べれば温暖であることから、次回のフランス大会以降、調整を行いながら目標を40枚以上にした方がいいのではないかと思い、そう数馬に伝えた。

そう、今回だけは身体に負荷をかけないよう35枚、というのが俺自身の戦略だ。


 俺も数馬も相手の案を頭ごなしに否定するわけではないのだが、数馬は、参加している他の選手に置いていかれる可能性もあるという、俺にとっては、ある意味情けない現状が暴露された。そうなんだよ、35枚は楽だけど、他の選手が40枚平均なら、俺はGPFレースから脱落することになる。


 数馬は、ここが正念場で、次からはこれまでに比べずっと身体が楽になる分、ここ、ロシア大会から目標枚数を上げていこうという。

 しかし、俺にはその自信がなかった。

 平行線を辿るかにみえた俺たちの目標枚数だが、間の38枚を取ることで直ぐに一致した。俺たちは互いに自己を譲らず自分が主導権を握りたい自分ファーストタイプでもない。ああ、数馬と組んで良かった・・・。


 全日本前の練習の時、3年の先輩方の誰かに聞いたことがある。

「自分の意見を押しとおそうとするサポーターはやめておけ」と。

 そりゃそうだ。全部こちらの言いなりでも困るが、試合をするのはプレーヤーだ。プレーヤーに対するリスペクトも無しに策戦を立てられても、その通りに動けないことはままあるものだ。

 

 数馬は絶対にそういうことはしない。芯が強いのは目を見ればわかるのだが、まずもって、プレーヤーに対するリスペクトが先にあって、それから理論武装した策戦を提案してくれる。

 聖人(まさと)さんも同じだが、あの人は口が悪い分損してるかもしれない。理論武装も得意じゃなさそう。プレーヤーが逍遥(しょうよう)だからそう見えるだけかもしれないが。


 そういえば、聖人(まさと)さんも逍遥(しょうよう)もどうしてるかな。

 昨日の公開練習、俺は自分が終わってからすぐホテルに戻ったので逍遥(しょうよう)の様子を見ないでしまった。

 亜里沙との約束、絶対に果たしてくれよな、逍遥(しょうよう)。君ならできるさ。


 

◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・◇


 翌朝、ちょうど朝6時。

 俺はちょいと早起きした。俺のストレッチ&数馬のマッサージの時間が朝6時半なのでそれに合わせて。

 昨夜は公開練習で疲れたのか夜10時半には眠ってしまったようだ。数馬は部屋からいなくなっていたが鍵だけは自分でかけたらしい。

数馬との約束時間まで30分あるのだが、もうこれ以上ベッドに戻って寝てはいけないというシグナルが頭の中で鳴っている。寝たら起きられないに決まってる。


 この頃はストレッチについてもマッサージについても、全て数馬に任せる方式を採っていた。最初の頃は俺なりにストレッチをしながら数馬に手助けをお願いしたものだが、数馬から言われたところを伸ばすと気持ちも良いし試合でもテンポよく動くことができる。

 

 アメリカ大会の時は亜里沙と(とおる)がベンチに入ってくれてずっと俺の手を握っていてくれた。もちろん今日も亜里沙と(とおる)には念地に入っててほしいが、数馬がいないことにはちょっと心配になる。

 それほど、俺の中で大前数馬(おおさきかずま)という人間への信頼度はぐんぐんと上がっていたのだった。


 今日の試合に向けて、数馬からの注意事項はほとんどなかった。

 亜里沙と(とおる)が俺の部屋に来て、俺たちは4人で競技場までタクシーを使って移動した。

「今日の策戦はどうなってるの」

 亜里沙が車内で助手席に乗った俺に問う。

「一応38枚目標に行こうかなと」

「大丈夫?身体」

「身体は大丈夫。40枚目標だとビビるような気がして」

「あんた昔からビビリだもんねえ」

 (とおる)は隣に座った数馬に話しかけていた。

「海斗の調子はどう?」

「身体も何もかも好調です」

「目標設定、低くない?」

「はい、一般的には40枚程度まで上げた方が今後の策戦が立て易いのですが、40を物差しにしてしまうと万が一の時、せっかく良いイメージできているところに悪いイメージが重なってしまいますので目標を下げました」

「そう、じゃ海斗は38以上を目標にしていくんだよ」

 俺は後部座席に向かって手を振りながら答える。

「へーい。りょーかーい」


 その時の数馬の顔は引き攣っていたらしい。

 あの山桜さんと長谷部さんに対して不作法な人間がこの世にいるなんて・・・ということのようだ。

 そうだな、確かに無作法と言われても仕方のない行動だった。

 数馬の心臓に悪いことは、金輪際しないよ。

 許してくれ。


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