GPS-GPF編 第9章 ロシア大会 第3幕
翌日の朝、俺は見事に寝坊してしまった。
インターホンで数馬が姿を見せたので時計を確認すると、見事に朝の6時半を回っていた。
「まだ寝てた?」
「ごめん、今着替えるから少し待って」
ドアを開けて数馬を迎え入れ、急いで制服に着替える俺。
着替えは3分と掛からない。
「お待たせ」
振り向いた数馬は優しく微笑む。
ああ、アイドルがここにいる。
俺はアイドルを独り占めしたような高揚感に包まれる。
いや、ことわっておくが、俺は女子より男子が好きなわけではない。南園さんを初めとして、概ね女子は好きだ。微妙なラインにいるのは亜里沙くらいだ。あいつは女子とは違う何かを持ってる。
俺の周囲には美形が犇く。
なぜか知らないが、周りに集まってくるんだ。
サトルは文句なくカッコいい。
明も美形だが、明の場合は何て言ったらいいんだろう、お兄さん的な顔の良さだけど後光が差してる感じで近寄りがたいのもまた真実。
聖人さんは決して顔が悪いわけじゃなくて、表情美形といった感じ。さらさらの髪と相俟って、ステキなお兄さんといった風貌。
でもそのお蔭で、誰と歩いてても一緒にいて引き立て役になるのは目に見えている。明でさえ女子の皆がハートを持ってかれてた。数馬といたら、その比ではないだろう。
まったく。
逍遥くらいかな、指さしてハートマークが飛び交わないのは。こういったら逍遥に怒られそうだけど。
数馬はスケジュール帳を見て指で追い、スケジュールを確認しながら俺と話してる。
「急ぐ必要もないよ、今日は午前10時から公開練習前の練習で、午後2時から公開練習だから」
「食事とかストレッチとかマッサージ考えたらタイトなスケジュールにならない?」
「今から下に降りて食事を摂って、少しだけ肩甲骨のストレッチしてから会場入りしよう。ちょうどいいくらいの時間に会場入りできる」
「了解、数馬」
数馬の全身マッサージや肩甲骨ストレッチをするようになってから、俺の『デュークアーチェリー』の命中率は飛躍的に伸びていた。常に30枚は命中、調子がいいと40枚を超えた。
数馬の言った「力の解放」が俺の中で言霊になっているに違いない。
俺がネガティブになった時でも、いつも優しく俺をサポートしてくれる数馬には心から感謝の気持ちしかない。
その日は午後から公開練習で、30名ほどのプレーヤーが午前中から練習していた。
午前中の練習は人数を区切って10人ずつ的に向かう。練習時間は20分。
俺は早めに会場入りしなかったので、真ん中のグループに割り振られた。
1枚目の的が現れた。
姿勢を確認し、足を開く。心持ち、広めに。
左腕にも気を注入しながら右腕を頭上の高さに一度上げてゆっくりと振り下ろす。直角になったところで心持ち右腕を上げ気味にする。
スタンバイ、完了。
少しだけ右人さし指に力を入れて、50m先の的を狙う。
ドンッ!
命中。
命中するごとに出てくる的を次々と撃破する。
20枚中19枚命中。
周囲からは、何とも言い難い溜息が漏れてくるのがわかる。圧倒されて、という感嘆の溜息なのではないかと他者を分析している俺。
調子が上向いているのが自分でも認識できた。身体が軽く感じられる分、姿勢が悪くならないで済んでいるのだと思う。
前にも言ったと思うが、数馬のサポート力は一流のプレーヤーでない俺にとても合っている。数馬は椅子に座っている俺と話す時必ず膝をついて、俺の目線で話しかけてくれるんだ。
アスリートファースト。
まあ、俺たちはアスリートとは違うけど。
グラウンド内の軽食コーナーでうどんを食べた俺。ロシアに来てうどんとはこれいかに。ここでもボランティアの日本人学生がいた。聞けば、薔薇大学の魔法技術学部を休学しここにいるという。この時期に合わせて世界各地に留学する学生は多いらしい。
その学生は、数馬のことを忘れていなかったようで、数馬にも声を掛けてくれた。
やはり大学生とかそういうレベルの人たちの間では有名なんだ、と俺は思ったのだが、当人の数馬は、そういった人たちと交流を持つでなく、外に出るといつも俺の陰に隠れるというか、極力目立たないように生活していた。
俺は、数馬が人見知りなのだとばかり思っていた。
俺たちが軽食コーナーを出て練習場に向かおうとしていたところに、逍遥と聖人さんが現れた。軽食を摂ろうとしていたらしい。俺が数馬を紹介しようと思ったら、生徒会に行く用があると言って逍遥たちに挨拶もしないで駆け出していった。
2人に紹介できないのは惜しかったが、そのうち紹介できるだろう。
聖人さんが、俺の練習風景を見る限り、サポーターとしての数馬の力量は大したものだと褒めていた。
俺は言霊を思い出した。
「聖人さん、俺と数馬は「力の解放」を言霊にして戦って行きたいと思うんだ」
「力の解放?」
聖人は直後に眉間にしわを寄せ、怪訝な顔をする。
それからは黙って何も話さない聖人さんを見て俺は不思議に思った、なぜ言霊を聞いて眉間にしわが寄るんだろう。
聖人さんはちょっと怖い顔をしているので、ストレートに疑問をぶつけてみた。
「どうしたの、さっきから怖い顔してる」
はっと気づいたような素振りで、聖人さんはサラサラヘアをかき上げる。
「そんなことはないさ、前から何度も言ってるけど、健康には十分気をつけろ。大前だったか。どんなに信用していても、あいつから差し出されてもドリンクやサプリ類は飲むなよ」
「はい、解ってます」
聖人さんはいつでも俺を心配してくれる。
同じくらい、いや、それ以上に逍遥のことは心配かもしれないけど。
数馬が俺のサポートをしてくれるようになってから、逍遥を巡る亜里沙と聖人さんの攻防は鳴りを顰めた。
俺自身、聖人さんに固執する部分も今はもうない。亜里沙と明がいなくても、活力に満ち溢れてるように思うし、数馬という一個人を、俺はすごく尊敬していた。
午後の公開練習が始まった。
練習の順番は、第2グループの2番目。
いい位置に付けた。
第1グループだと準備の時間が無いし、第3グループ以降だと待ち時間が長くて飽きてしまう。これが本番なら順番は遅い方がいいのだが。
この練習をもって、実戦形式のリハーサルは終わる。
あとは明日の本選だけだ。
公開練習、俺の番がやってきた。
数馬が優しく背中を押してくれる。
場所を移動し、俺は的の真ん前に立った。
姿勢を整えて的が出てくるのを待つ。
最初の的が出てきた。
ドン!!
矢はど真ん中に突き刺さった。
ドン!!ドン!!
俺はテンポよく矢を放っていく。そのたびに矢は真ん中を貫いていく。
今日の公開練習はアメリカ大会のそれと違って38枚と大きく他の選手を引き離し、俺は圧倒的な演武を披露した。
数馬が俺の公開練習中、大会事務局に足を運び競技順を決めるくじを引き、持ってきた。
中はまだ開いてないということで、アリーナの隅に移動した俺たちは互いに身体を寄せつつ、他の人からは見えないようにくじ用紙を開く。
「やったね」
「よし」
くじの番号は25番。
俺にとってはイメージの良い数字だ。
前回のアメリカ大会も25番で、俺としてはまともなパフォーマンスを披露できたから。イメージも良ければ相性もいいように思う。
さ、今回はNo1を目指して頑張ろう。
と、俺の頭を上からゴン!と叩く不届き者がいた。
俺は思わす声を上げ、上を見た。
「いでっ、誰だよ!」
亜里沙と明が俺たちを取り囲むように下目遣いで立っている。
「何見てたの」
俺はほっとしたのが本音。ここで嵐のような展開は御免被る。
「ビックリしたあ、お前たちかよ」
「あら、ご挨拶ね。その紙、なに?」
「ロシア大会の競技順」
「何番?」
「25番」
「そう」
「それだけかよ、普通“がんばってね”くらい言うだろ」
「ベンチには入るから」
「そういう問題じゃないだろ」
亜里沙が落ち着き払った態度で数馬を指さす。
「こちらのイケメンはどなた?」
数馬を紹介していないことに気が付いた俺。数馬、ごめん。
「こちらは俺のサポーターになってくれた大前数馬。数馬、こっちが山桜亜里沙と、隣が長谷部明。俺の幼馴染だ」
「初めてお目にかかります。大前数馬です。まだまだ未熟ですが、精一杯務めさせていただきます」
亜里沙はにっこり笑って数馬に握手を求めた。
「お噂はかねがね。どうか、海斗をよろしくね」
そうか、俺のためにまた今日もシフトを変えてくれたんだ。
でも、数馬のサポートを是非見て欲しい。
ところが数馬は、朝のマッサージだけでベンチには入らないと言う。
「なんで数馬は入らないの」
「山桜さんと長谷部さんの前で、僕如きが君に策戦を授けるなんて烏滸がましいから」
「あいつらは確かに俺のパフォーマンスに対するお守りのようなもんだけど、俺のサポーターは数馬だよ。数馬とうまくやってるの見せなかったら、亜里沙も明も心配するよ」
「そうかな」
俺の説得に、ようやく納得してくれた数馬は、ベンチ入りを承諾してくれた。
亜里沙と明はアメリカ大会同様ベンチに入ってくれる。
もう、怖いものは無い。
いや、違う。もし明日へぐったら、亜里沙が怖い。
とはいいつつも、俺は最強のサポーターを有して大会に臨むことになる。
今日の良いイメージを、明日まで持っていって、上位を狙う。




