GPS-GPF編 第9章 アメリカ大会 第8幕
翌朝、起きたのはちょっぴり早い5時。
ストレッチとシャワーを繰り返してから、『デュークアーチェリー』の姿勢を確認するため鏡の前に立った。上半身しか見えないから、鏡に足の幅は映らなかったが、それは自分の身体が覚えている。
弓道など実際の競技で的を射る際にはどうかわからんけど、俺の場合は肩幅から拳半分ほど開くとちょうどいい。最初に聖人さんから教わった足幅だ。
こんな朝早くから絢人を起こすのも申し訳ないが、俺の場合、姿勢が段々猫背になっていく悪い癖があるので、誰かに見て欲しかった。
そんなことを考えていると、インターホンが鳴った。
誰だよ、こんな朝早くから。
「おはよ」
食い入るように画面を見る。
本当の幽霊だと困る。
しかし、そんな心配は杞憂に終わった。俺の前に、魔法部隊の仕事帰りと思われる亜里沙と明が現れたのだった。
「朝帰りか」
「失礼な物言いじゃない」
「別に深い意味は無いけど。よかったら俺の姿勢見てくれよ」
「あんたの場合は段々姿勢が悪くなって右の手のひらが下向いちゃうのよね」
「どうすれば直る?」
「気持ち手のひらを上に向けて」
「こうか?」
俺は少しだけ手のひらを上にあげる。
「最初はそれでいいけど」
明が俺の右肩から肘、そしてもう片手で手のひらを抑えてぐっとあげた。拳約2つ分。
「こんなに上げたら的から外れないか?」
「いや、大体の目安として、10枚超えたら自分で思うところの拳ひとつ、20枚以上超えたら拳2つ。そうすれば若干姿勢が悪くなっても的から外れない」
「自分では中々わかんないからなあ」
「その人の癖もあるから」
亜里沙も脇から口を出す。
「あんた猫背になる癖あるからね」
「悪かったな」
「癖はもうどうしようもないのよ。聖人さんの教えは完璧だった。猫背になることも予想してたしね」
「そのとおりにやったんだけどなあ、公開練習も。なんで当たんなかったかな」
「集中力でしょ、あんた全然集中してなかったらしいじゃない」
「今日は昨日みたいな無様な真似はしないよ。できることなら50枚すべて的を射たい気分だ」
「そういかなくちゃ。みんなで応援してるから」
あはは、と3人で笑ってると、あっという間に時間が過ぎていく。
結局俺は、こいつらが魔法部隊の人間だったとしても、上意下達を他人に強制する組織に属していたとしても、幼馴染としてのこいつらを忘れたくないんだ。
逍遥は忘れろと言ったけど、無理なモノは無理だ。
頼らないに越したことはないけど、こいつらが俺の傍に寄り沿ってくれる限り、俺はこいつらの言葉を信じたい。
明がしきりに時計を気にしている。
「どした、なんで時間気にしてんの」
「海斗、会場入りの時間から割り出すと、もう朝ご飯食べて会場行かないと。ユニフォームに着替えて」
亜里沙に後ろを向かせて、俺はユニフォームに袖を通す。
「そういえば、絢人は?聖人さんは?逍遥は?」
「絢人は生徒会の連中と一緒に行くはずで、四月一日と聖人さんは2人で一緒に。もう行ったはずだ」
「そう・・・」
一緒に行動しないというのはこういう意味だったのか。
「海斗、なに気にしてんの。聖人さんは四月一日の悪い癖を直すためにサポートに就かせたんであって、本来なら四月一日は1人でも十分戦える実力があるの。聖人さんが海斗に就くのが気に入らなくて練習サボったに過ぎないんだから」
亜里沙はそういうけど、俺には「気に入らない」という言葉が合ってないような気がする。こう、何でかは言えないけど、それは違うよ、というやつ。
昨日の逍遥を見て、俺のことを気遣ってくれてるのがわかったから。
逍遥が聖人さんに就いてもらうことに理由があろうとなかろうと、聖人さんは俺の元から離れたという事実があるだけだった。
「さ、食事終わらせて、あとは会場入りしよう」
明の言葉に従って、俺たち3人は朝の7時を迎えたところで部屋を出た。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
結構急いで食事を摂る俺たち。そのままタクシーに乗り込むために。
今日の朝食は亜里沙と明から「栄養とはなんぞや」とのキツーイお説教があり、栄養源を少量ずつ食べるという面倒な時間と変化した。
薀蓄を語りだす明こそ、全然食事に手を付けていない。それらの薀蓄は試合後に聞くとして、明にも無理矢理朝ご飯を食べさせる俺。
「ほら、行こう」
俺は席を立って後の2人に立つよう促した。
エントランスから車寄せに向かうとタクシーが1台だけ停まっていた。これを逃したら、またフロントに頼んでタクシーを手配しなければならない。
「国際競技場までお願いします」
日本語で言っても通じるのがまた嬉しい。通じないときは、英単語だけ使って国際競技場と言えばいいんだよ。話すのが苦手な俺だけど、そこまでは進歩した。
会場まで車が走る間、俺と亜里沙・明は何も話さなかったけど、2人とも俺の手を握っていてくれた。
活力注入。
今、一番俺が求めているモノ。
亜里沙と明は、何よりこれこそが俺の求めているモノだと分っている。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
午前7時30分。タクシーは無事に国際競技場に着いた。もうすぐ通勤ラッシュの始まる時間だったようで、ドライバーのおじさんは頗る機嫌が良く「GOOD LUCK」と俺たちを激励してくれた。
競技場には、ぞくぞくと選手やサポーターが集まっている。
今日はアリーナで午前に『デュークアーチェリー』、午後は南園さんの出場する『スモールバドル』が行なわれる。
外のグラウンドでは午前に光里会長の『バルトガンショット』、午後は逍遥の『エリミネイトオーラ』、競技場構内では午後から沢渡元会長の『プレースリジット』が行われる予定だ。
俺の試合は午前9時30分から。
エントリーは、公開練習で俺がコケたせいもあって30人に増えていた。
昨日絢人が俺の代わりに演武の順番をくじで引いたのが25番目。
まあまあ、俺としては満足できる。
最初に終わると楽だけど、自分を追い越されたら面白くない。25番目なら練習はそれなりに出来るし、順位もある程度の予想はつく。
そういえば、絢人がいない。俺は亜里沙を突いた。
「絢人は?」
亜里沙が右手を振ってる。なぜ?
「変に気を回しちゃって。今日は生徒会役員と一緒にライヴ中継を見るって」
「全然気にしなくていいのに」
「向こうにとっちゃ、そうはいかなかったんでしょ。聖人さんと比べられるような気もしたんじゃない」
「いや、一番はお前がクマみたいに怒るからだ」
「誰がクマよ」
俺と明が一緒に亜里沙を指さす。
亜里沙が怒って俺たちを追い掛け回す。
俺の中の無駄な緊張がほぐれ、心地よい緊張の糸だけがピンと張るような気がした。
午前9時30分を回った。
号砲とともに、GPSアメリカ大会の試合開始。
昨日までの演武の成果を出すため、1番の生徒から的に向けて矢を放つ。
1人目のモロッコの選手は、50枚中、合計27枚命中。この27という数字を基に、一喜一憂する姿が繰り広げられるわけだ。
俺は一旦アリーナを出た。中は亜里沙と明に任せて。
別に、一喜一憂しなくても自分の実力は自分がわかっているし、今日の目標枚数も決めている。
目標枚数は35枚。
特にシーズン初戦なので、満点は求めていない。ただし、ここで引き離されると後が辛い。ここで少なくとも2位か3位につけて、他の大会でも上位を狙うだけだ。
亜里沙と明は何も言わずとも、俺の考え、俺の体調、俺の全てを最優先とし、2人とも一緒にいてくれる。
軍務で忙しい中、俺だけのために今ここにいてくれる。
俺にとってはそれだけで心強くもあり、また、目標への第一歩を踏み出す勇気をもらえる存在でもあり、普通の幼馴染でもある。
俺としては聖人さんのことがちょっぴり残念ではあったけれど、逍遥は俺よりもGPFに勝ち残る確率が高いわけだから、聖人さんの教えの元、頑張って欲しいと思う。
さて。試合の方だが、今しがた、物凄い歓声が上がった。
この明るい拍手喝采を聞く限り、誰かが相当の枚数を命中させたものと考えるのが妥当だろう。
俺はアリーナに入ろうとはしなかった。誰が上に立とうが、俺は俺の魔法で的を射るしかない。
俺は姿勢に気をつけながら、自分の中で的が当たるイメージを膨らませる。そう、姿勢だけではどうにもならないタイミング。
公開練習ではこのタイミングを逃したから的に当たらなかったという自己分析もできている。
本当に、絢人には悪いことをした。
絢人、今日は俺、頑張るから。
イメージ記憶を頭の中に3D映像として蓄える。
そう、俺の究極の技(かどうかは知らないが)を駆使して本戦に臨もう。
名前を呼ばれてから位置につき、足を肩幅プラス拳ひとつに広げて、拳骨をつくったまま右腕を大きく振りかぶって定位置で止め、人さし指と親指を伸ばす。その一連の動きを何度も何度もイメージで練習していると、明が呼びに来た。
「20番の選手が今終わった。中に入ろう」
「了解」
「調子はどう?」
「上々」
「そう、よかった」
「今の状況は?」
「ロシアの選手が40枚命中で1位」
「そう」
「海斗のイメージ戦略で、思うまま、的に向かえばいい」
俺と明がアリーナの中に入り試合会場に向かうと、22番目の選手が競技を終えたところだった。
1位は変わらず、ロシアのアレクセイ。
俺は廊下に出てストレッチを始めた。身体にしなりがないと腕が上がらないから。
一応3分くらいストレッチで身体を解したあと、もう一度会場に入った。
24番目の選手が競技を始めるところだった。
俺はそちらに目を向けることなく、目を閉じイメージ記憶を呼び出す。
そして目を開けると、大きく背伸びをして息を整えた。
24番目の競技が終わり、33という枚数が電光掲示板に映されたところだった。
次は、俺の番。
出陣だ。
亜里沙が肩と背中を叩き、明が握手してくれて、俺は歩き出した。
丸で囲まれた定位置に入り、足を広げる。
一番最初の的が現れた。
「On your mark.」
「Get it – Set」
イメージしたとおりの的。
姿勢に気を付けて人さし指を伸ばす。
ドン!!
大きく矢が刺さる。
命中。
命中すると次々と的が現れる。
命中させ次の的を待ち、また命中させる。
イメージ通りにテンポよく前半戦は百発百中。
だが、後半戦になるとさすがに身体が疲れて来て、猫背になっているのが自分でもわかった。明にいわれたとおり拳ひとつ、拳2つと右掌を上に向け的を射ていく。
この時俺の脳裏は何も考えていなかった。姿勢も何もかも自動で制御されたような感覚で身体が動く。
結果、35枚命中という幸先の良いスタートで俺はプレーを終えた。現在、2位。
亜里沙も明も手放しで喜んでくれた。
だが、俺の次に出たドイツのアーデルベルトが 38枚、スペインのホセとアメリカのサラが36枚命中させ、俺は5位に落ちた。
でも俺としては、最初の試合で目標枚数を達成できたので、充分満足のいくものだった。
GPSはあと4試合。
各地でこのくらいの出来をキープし、できることなら本選のGPFに進みたいと思う。前はGPSに出るのすら嫌だったけど、ここまできたら上を目指したい。
競技場の中にある食堂で、亜里沙と明と3人で焼きそばの看板を目にした。
「OH!焼きそば!!」
なんか亜里沙が豹変してピョンピョン飛び跳ねてる。そんなに焼きそば好きだったっけ。
「違うわよ、ここで日本食が食べられることが嬉しいだけ」
「日本の焼きそばと違ったりして」
しかし、俺が危惧したような心配は要らなかった。
焼きそばを作っていたのは日本人のボランティア学生。目の前で焼いてくれるので話ができた。薔薇大学の学生だという。あれ、もう授業始まっているんじゃ・・・。彼は紅薔薇から薔薇大学に進学し2年。半年休学してアメリカ各地を回り英語を勉強しているという。
薔薇大学と英語・・・?
ああ、紅薔薇だったら普通科から薔薇大学に行く人もいるだろう。薔薇大学には文学部とか法学部もあるみたいだし。
でも、俺は紅薔薇の魔法科至上主義が嫌いなので、それ以上突っこんだ話はしなかった。
亜里沙と明も話はしない。向こうの心を読んだのだと思う。
「ご馳走様!」
俺たち3人は、満面の笑みで彼に礼を言い、食堂を出た。
そこで光里先輩と顔を合わせた。
「どうだった?」
亜里沙の問いに答える光里先輩。
「無事に1位通過です」
亜里沙は光里先輩の背中をバン、と1回叩いて喜びを表した。
「あとは『スモールバドル』と『エリミネイトオーラ』と『プレースリジット』か」
明は首を傾けながら戦評を予想している。
「『エリミネイトオーラ』と『プレースリジット』は楽勝でしょ、あの2人が出てるんだから。あとは『スモールバドル』がどれだけ世界に通用するか、だ」
南園さんの『スモールバドル』の試合にはそうそう期待していないようで、亜里沙と明は2人とも眼中に入れていないのが見て取れた。女子オンリーの試合だということもあるのかどうか、それは分からない。
沢渡元会長の『プレースリジット』は、1年の頃から目立った成績を残してきたという。だから試合を見る前から楽勝と言ってのける。俺のような緊張もないだろし。沢渡元会長の『プレースリジット』は本当に沢渡元会長のためにあるような競技だと俺も思う。
一方、午後から逍遥が出場する『エリミネイトオーラ』に関しては、聖人さんの出来事もあり亜里沙たちは注視しているように見えた。
あれだけ我儘を聞いてやったのだから、1位じゃないと認めない、と亜里沙が地下から響いてくるような恐ろしい声で俺を圧倒する。
薔薇6で現れた生霊って、お前じゃないのか、亜里沙。
「あたしが生霊ならあんな下手な手こかないわよ」
「確かに。でも、聖人さんは今でも特級な魔法が使えるのに、どうしてあんな下手な魔法使ったんだろう」
「そこは調べられずに終わっちゃった」
亜里沙。ホントにお前はクールだよ。逍遥とは全く違うけど。
亜里沙と明は、誰も来ないような場所に急ぎ歩いていく。おい、なにすんだ。じっとみている俺の前で、魔法でドローン作って飛ばし始めた。その映像をお前たちはどこで確認するんだ?
「今までは別の人がやってたけど、今日はあたしたちがいるからね」
「生徒会役員が観る映像か」
「そう。でないとこれからの策戦立てにくいじゃない」
「そりゃそうだ」
明は至極冷静で、注意点を忘れない。
「海斗、これは内緒にしといてくれよ」
「なんで」
「策戦会議の方法は、各国それぞれだから」
「なるほどね、了解」
俺たちはそのままグラウンドに出て、午後に行われる『エリミネイトオーラ』を観戦することにした。そのあとアリーナに戻り南園さんの試合を見るという。
逍遥に適う者などいないに決まっているし、ダントツで1位を獲得すると思うんだが、亜里沙たちとしては現物が観たいらしい。
30分後、俺と亜里沙と明がギャラリーの後ろの方で観戦体勢に入る。
試合開始はもうすぐだ。
「On your mark.」
「Get it – Set」
試合が始まった。空高く飛び上がる逍遥に、誰もついていけてない。これで相手のオーラ部分を止めて下に降りてくればポイントが入る。
逍遥はしばらく光の速さともいうべきスピードで何人ものオーラをその手に治めていたが、あるとき、カウンターを食らって背中を獲られてしまった。
そのまま逃げ切ることもできず、逍遥は下に降りてくる。空中での残りはあと1人しかいなかった。
その段階で逍遥は1位を逃していた。
結局逍遥はそのまま2位で試合を終えた。
悔しかっただろうなあ、と俺は純粋に逍遥を心配していたが、亜里沙と明の顔つきは違っていた。亜里沙なんぞ、三白眼にはならずとも、相当怒ってる?なぜ?
逍遥だって2位というそこそこの点数であって、俺なんて5位だよ?俺より順位いいんだよ?なんで怒るかわかんない。
逍遥たちの試合が終わりグラウンドから逍遥と聖人さんが出てきたところを、明が止めた。
「こちらに」
先程ドローンを作ってた場所。人の気配はない。
「四月一日。1位になれるからと聖人さんをサポーターにしたの、解ってるわよね」
「はい、承知しています」
「どういうこと?説明してもらえるかしら」
「まったくもって自分のミスです」
「ミスした理由を述べなさい」
「練習不足でした」
「あなたが練習するために聖人さんを欲しいと願い出たのよね。海斗から盗ってまでも」
逍遥は黙ってしまった。いつもの逍遥ではない。
「はい・・・」
「それとも聖人さんが自ら海斗を捨ててまで、あなたのサポーターを引き受けたのかしら」
「・・・」
急にバシッと音が鳴り、亜里沙は逍遥にまたも平手打ちした。
殴られた左頬はみるみる赤みを帯びていく。
俺はすぐさま逍遥の前に出て、亜里沙と相対した。
「おかしいよ、こんなの。暴力で上手くいくなんて有り得ないだろ。そもそも、亜里沙、お前、前に逍遥に言ったよな、敬語や丁寧語は要らない、って。それがなんで超ブラックの上意下達になってんだよ」
「どきなさい、海斗」
「俺が納得する答えをもらうまで動かない」
亜里沙は大きく溜息を吐いた。そして、これまで聞いたことの無いような口調で逍遥に問いかけた。
「四月一日逍遥。お前はなぜここにいる」
逍遥はしばらく返事をしなかった。
何か、逍遥と亜里沙の間に確執というか、不安定な関係性があり、それには俺も関わっているような気がする。
やっと口を開いた逍遥。
「・・・還元です・・・」
「お前は還元していないではないか。還元が進んでいるのなら、今日だってもっと良い成績が出せたはず」
亜里沙。お前は俺が5位で成績が良くなかったと言ってるのか?
それとも、逍遥が聖人さんをサポーターに就けたのだから1位を取るべきだったと、逍遥に向かって言ったのか?
誰も俺の心の問いに答える者はいなかった。
先程までポツリポツリと話していた逍遥が、やっと口を開いた。
「僕自身に話させてもらえませんか」
「よろしい」
逍遥は俺の前に進み出て、俺の右肩に手をかけた。
「僕の父が魔法部隊にいる、と話したことがあっただろう。実は僕も魔法部隊の人間で、今は少尉なんだ。「還元」とは、僕自身が学んだ魔法を君に全て譲ることだ。そのために僕自身が紅薔薇の高校生になり君に近づいたことを指している」
急に話を振られ、実のところ言葉を失くす俺。
しかし、何か喋らないことには場が持たない。
「いや、それ無理だろ、俺、別世界から来て魔法なんてちゃんと使いこなせないし」
「山桜さんと長谷部さんが見つけた人だから」
「見つけ間違いじゃないの、俺、元々運動神経も良くないし反射神経皆無だし」
亜里沙は目を吊り上げたままだったが、自分が見つけた人間だから正しい、という顔に変わった。自己満足だな。
「そうよ、本来は還元はこちらの世界で見つけるけど、たまに別世界に隠れた人材がいるの」
「僕自身は、聖人に還元してもらったんだ」
俺は納得した。
色々と教えを受け成長を見守ってくれた人に、何年経っても教えを乞いたいと思うのは当たり前だと。
聖人さんにしてみても同じこと、還元した相手の成長を見守りたいと言う心理は働いて当然だ。
「四月一日逍遥。お前は明日からサポーター無しで戦え。さもなくば、魔法部隊に戻れ」
ちょっと待った亜里沙。
「それは厳しすぎないか」
俺と聖人さんが同時に言葉を発した。まずは聖人さんが亜里沙に反論する。
「出場停止は折角の還元に水を差すだろ。こういう方法だから1位になった、2位になった、という方が教え易いぞ」
「であれば、サポーター没収」
「うっ」
と言ったまま、聖人さんは黙りこんだ。
薔薇6のような団体戦ならまだしも、個人戦でサポーターがいないのはとても寂しいというか、自分ひとりで戦うのは非常に難しい。
特に俺みたいなヒヨコは。
俺は俺で、考えていたことをこの際言っちゃえーとばかりに言葉にしようと決めた。これも言霊になるのだろうか。
「サポーターがいないとメンタル的に拙くないか」
俺の方を向いた亜里沙は、普段の口調に戻っていた。
「魔法部隊の人間がサポーターを必要とすると思う?」
「それはそうだけど・・・」
その時、号砲がけたたましく鳴った。アリーナの『スモールバドル』がいつの間にか終了していた。暗い雰囲気の皆を放り出し、俺はひとり走ってアリーナへと向かい、南園さんを笑顔で迎えた。
「ゴメン、ちょっと色々あって試合見れなかった。何位?」
「2位でした」
「おめでとう」
「ありがとうございます」
そこに、生徒会役員らが寄ってくる。
サトルに聞いたら、沢渡元会長の『プレースリジット』は、ダントツの1位だったそうだ。
俺は南園さんの接遇を生徒会役員へバトンタッチして、急いでアリーナから飛び出し亜里沙たちがいる場所へと戻る。
亜里沙と逍遥は、まだ揉めているようだった。
《しょうよう》に対するサポーターは要らないと強硬論を繰り広げる亜里沙。反対に、誰か一人だけでも逍遥に付けるべきだという聖人さん。
聖人さん的には、どうなんだ?
《しょうよう》のサポートをしたいのか?
それとも俺のサポートをする気なのか?
俺は段々面倒になってきた。
「なら、俺も逍遥もサポート無しでいいよ」
亜里沙が吠える。
今日は誰に向かって吠えているんだろう。
「海斗には誰か就かないと。海斗のパフォーマンスを最大限に引き出してくれる人」
聖人さんはなお、逍遥にもサポーターをつけるべきだと主張しているようだ。
「結局そうなると、あんたらか俺しかいないよな」
「簡単よ、四月一日はサポート無しで、海斗には聖人さんが就けばいい」
「いや、俺の言ってるのはそういうことじゃなく・・・」
辺りも段々灯りが増えてきた。陽が落ちつつあるのだ。
この話を生徒会に持ち出したところで解決を見ないことなど解りきっている。
サポーター全員が聖人さんと亜里沙たちの後輩、というか年下で、力の差など歴然としているのだから。
絢人は生徒会に逃げてしまった。もう今大会で誰かのサポートをすることはないだろう。
聖人さんはやみくもに言っているわけではなく、もうサポーターの絶対数が足りないという事実を告げているだけなのだ。
だから、逍遥は聖人さんに任せ、俺は軍務の無い日に亜里沙・明と一緒に会場入りする。
それでよくないか?
もしもだよ、もしも俺がGPFに出場が決まったら、その時にまた別の方法を考えればいいじゃないか。
俺はサポートを受ける側の選手として、それこそ強硬に自分の意見を主張した。
「この際だから言うけど、逍遥だって誰か必要だと思う。でも逍遥のサポートをできる人なんて、紅薔薇には聖人さんしかいないだろ。お前たちが時間のある時に俺のサポートに回ってくれよ、つーか、その時間を作ってほしい。また3人で試合に臨みたい」
亜里沙が苦虫を食いつぶしたような顔つきで俺たちを見まわす。
「ロシア大会の本選まで2週間あるわ。四月一日逍遥。あなたはどういったことがあろうとも、次からは1位通過で纏めなさい。GPFに進出しなさい、海斗のためにも」
俺はほっとした。いや、少し不安はあるけど、こうして喧嘩するよりよほど漸進的な考え方だと思う。
亜里沙は言いたいことをぶちまけたあと、明とともに『プレースリジット』に出場して1位通過した沢渡元会長を激励しにどこかへ行ってしまった。
その場には、俺と逍遥、聖人さんが置き去りにされた。




