GPS-GPF編 第9章 アメリカ大会 第3幕
と。聖人さんからセーブの合図が来た。
俺としてはもう少し念を入れた練習をしたかったのだが、聖人さんが逍遥の練習を見る約束をしていたというので俺の練習は早々に切り上げられ、タクシーに乗せられ別の施設に向かった。
逍遥の『エリミネイトオーラ』も明後日から始まる。競技会場は市の国際競技場なんだが、各競技で各々30人くらいかな、選手が集まっている。そのため練習場は市の至る所に整備されているという話だ。
逍遥が練習している大学のグラウンドを訪れると、逍遥がかったるい顔をして絢人から怒鳴られている。
何事だ?
「逍遥、バックも注意してよ。君は高校生など敵わないくらい高度な魔法を会得してると思うけど、背中盗られたらお終いなんだよ」
「わかってるよ」
それを見た聖人さんが2人の間に割って入る。
「どうしたどうした」
絢人は今にも泣きそうな顔をして聖人さんを見ている。逍遥、何ンか言っただろ。絢人はちょっとやそっとじゃ泣かない人間だ。
聖人さんはまず絢人に声を掛けた。
「泣いてもいいから、その前に事情話せや」
口笛を吹きながら逍遥が逃げようとしたのだが、聖人さんが見逃すはずもない。逍遥は足を魔法で固められ、その場でコケてしまった。
「僕は別に練習してたよ」
逍遥の言葉を聞いた絢人は、身体から力が空けたような素振りで聖人さんの問いに答えた。
「嘘ばっかり。飛行魔法試して空中散歩しただけじゃない」
あ、俺が沢渡元会長と一緒に横浜の国際競技場で練習した時と同じ。沢渡元会長もすごくかったるそうにしてた。あの時は出たくないんだろうなと思ったけど、もしかして逍遥も同じ?
その時の状況を、絢人の記憶から呼び覚ましたのだろう、聖人さんが逍遥を呼んだ。
逍遥が聖人さんの真ん前に立つ。
「この馬鹿タレ」
両側からこみかみあたりへの拳骨。
逍遥は頭を抱えて少し声を荒らげた。
「痛いよ、聖人。練習ったって、何もできないじゃないのさ」
すかさず聖人さんが返す。
「ソフトがあったはずだ、何でそれを使わない」
さすが元魔法技術科。それに対し、逍遥はまたもや頬っぺたを膨らましてぶつぶつ言っている。
「生徒会から使うのを制限されたらしいよ、どうやって練習すんの。僕は透明人間相手に練習できるほどの魔法力ないんだけど」
はあっ、と溜息を吐く聖人さん。
「ソフト無しでは練習に力が入らないのも理解はできるな。絢人、どうして持ち出し禁止になったんだ?」
「まだ届いてないんです。物理的に持ち出せないんですよ」
「届いてない?」
「はい、山桜さんが持ってくる予定だったんですけど、まだ到着してないから」
またもや、はあっ、と溜息を吐く聖人さん。
「そりゃまたなんでだろうな。仕方ない、俺が相手になるから。逍遥、飛べ」
思いがけず、俺は聖人さんと逍遥の『エリミネイトオーラ』を生で見ることになった。
一体、高度な魔法とはどんなものなのだろう。
逍遥も聖人さんも腰から2丁のショットガンを取り出した。
聖人さん、何が無くともショットガン持ち歩いてるんだ。でもこの間は何も持ってなかったけど。練習用に持ち歩いてるのかな。何があってもいいように、なのだろうか。それとも携行を義務付けられてるとか。わかんないけど。
「いくぞ」
2人は同時に空に向かって飛び出し飛行魔法で縦横無尽に飛びながら、逍遥が聖人さんを追う形で追いかけっこをしていたが、空中5mくらいのところで2人は一旦止った。
その後、しばらく見つめあう展開が続いた。初めに動きを見せたのは逍遥。もっと高く飛び上がり聖人さんの頭めがけて右手のショットガンを空撃ちする。
空撃ちとわかるまで、ホントにオーラ目掛けて撃つんじゃないかとハラハラしたよ。隣の絢人もそうだったと思う。
聖人さんは空撃ちのショットガン目掛けて右手のショットガンで応戦していた。
が、その後すぐに聖人さんが「とんでもなく俊敏な動き」で逍遥の後ろに回り込み、逍遥の頭に左手に持ったショットガンを当てた。
俺には一瞬、何が起きたのか分らなかったくらいだ。
2人はそのままの格好で下に降りてきた。
聖人さんのプチ説教が逍遥を襲う。ある意味、逍遥に説教できるのは聖人さんしかいないのでは、と考えざるを得ない。
「ほら、あんとき後ろに注意払わないからこうなるんだよ」
「誰も聖人のように俊敏に動けやしないね」
「それが油断だっつーの」
その時、後ろから拍手が起きた。
驚いて俺が振り向くと、サラたちや国分くん、フランスの2人まで、俺がこちらに来て出会った全員が、この練習場にも顔を出していた。
なぜ?
答えはすぐに出た。
皆、『エリミネイトオーラ』と『デュークアーチェリー』にエントリーしているということだろう。1年ではないのか、いや、少なくとも国分くんは1年。
国分くんの場合、白薔薇高校の個々人の能力から言ったら1番手なのだろう。で、高等魔法を教えてもらえる土壌が固まったとしか思えない。
うちの1年には逍遥とサトルがいる、女子には南園さんがいる。紅薔薇高校の1年メンバーの顔触れは間違いなく反則級の事実だ。
となれば、今目の前で拍手をしてくれた面々は、たぶん1年の人たち。
逍遥のように『エリミネイトオーラ』だけというならまだしも、2つ一緒に出るのは力の分散になりはしないのだろうか。
これまた、考えてみれば答えはすぐに出る。
どちらかを直前でキャンセルしエントリー変更すればいいだけだ。
その辺り、紅薔薇は正直すぎる。
GPSなど毎年のことだろうに、毎年このような解り易い布石しかできないのか、と半ば呆れ気味になった。
亜里沙や明に会ったら言わねば。GPSは実力だけで勝てる競技ではないと。
誰がどの競技に出るにせよ、今年はエントリー変更なしで臨むしかない。
1年とはいえ、聖人さんが出たら真面目に反則だと思うし。
でも、本気になった聖人さんを見て見たいとも思う。魔法部隊大佐の任にあった人が、どんな高等魔法を繰り出すのか、俺はワクワクする思いに駆られた。
この街のチンピラどもに掛けた魔法は、聖人さんにとっては簡単な魔法に入るのだろう。俺にはそれですら難しいかもしれないのに。
と、黙って拍手させておくわけにもいかない。
俺が間に入るか。
国分くんの顔を見た逍遥は、懐かしさと驚きが混じったような不思議な表情になった。
「逍遥、こちら白薔薇高校の国分くん」
「あ、ああ。国分くん、白薔薇にいたんだね」
「四月一日くん、あの時はありがとう。また魔法ができるのを両親揃って喜んでいたんだ。本当にありがとう」
「いや、総ては国分くんの努力だから」
「みんなの協力のお蔭だよ」
国分くんは逍遥に手を差し出し、固い握手をして俺たちの元から離れた。
次に逍遥に近づいたのは、フランスのルイとリュカ。
「ショウユ?」
俺は笑い出したいところを目一杯押さえながら訂正する。
「ショウヨウ、だよ」
「オウ、ショウヨウ、ヨロシク。僕、ルイ、彼、リュカ」
逍遥は醤油と間違われたのがいたくお気に召さなかったらしい。
「よろしく」
ぶっきら棒な返事、こちらからは手も差し出さない。でも、向こうは全然気にしていないようだ。
「タコ、アリガトウ」
ルイとリュカは、そういって聖人さんに会釈してから自分たちの練習に入っていた。
その他欧米チームの団体からは、サラがまた皆の言葉を代弁してくれた。
イギリスのアンドリュー、カナダのアルベール、スペインのホセ、ロシアの女子サーシャ、ロシアのアレクセイ、ドイツのアーデルベルト。
「すごいスピード感でみんなびっくりしてたわ」
逍遥は手も出さず、顔色を変えることなく答えている。女子に対する敬意もない。
おい逍遥、そんなことだと女子にモテないぞ。
「じゃ、今度は試合で逢いましょう」
そうサラがいうと、皆はそれぞれに練習体制に入ったようだった。
もちろん他の国からも選手は来ていたのだろうが、聖人さんの方針として、自分のプロフィールは明かさないよう指導された。
いつ誰が禁止薬物を飲ませたり、禁止魔法をかけるかわからないからだ。
逍遥が握手しなかったのもそういった理由からだとわかり、そこまで考えていなかった俺はちょっと自分が恥ずかしくなった。
聖人さんが逍遥に声を掛ける。
「逍遥、もう一度だけ練習するか?」
「聖人とやったらすぐ捕まるからやらない。明日までにはソフトも到着するみたいだし」
どうしてわかる。
逍遥、また生徒会役員室を覗いたな。
聖人さんが右目でウインクをしながら俺に謝る。
「ごめんな、海斗。こっちでもう少しやれると思ったけど、肝心の逍遥がこれじゃ練習にならない」
「俺、少しだけ海外勢の動き見てもいいですか」
「いいよ、色々と参考になるだろうから」
俺はまずフランスのルイとリュカに焦点を合わせた。
2人で飛行魔法で飛びながらショットガンを両手持ちし、相手に空撃ちを浴びせている。聖人さんを見て刺激を受けたのだろう、相手の背後に回ろうとしていたが、あんなに速い動きが出来る訳もなく、相対している2人の体勢が劇的に変わることは無かった。
逍遥と聖人さんを見て、高等魔法とは両手撃ちだけではなく、先読みを加速させた俊敏な動きであったり、硬い鎧のように強化魔法をかけた背中までをも透過させることなのだと俺はあらためて気づかされた。
俺はまだ両手撃ちできないし、反射神経は・・・俊敏な動きと言い難い。はっきりいって、ノロい。
GPSやGPFが終わったら『バルトガンショット』のタイミングを直し、両手撃ちにも挑戦しようと思う。世界選手権新人戦に出るために。
サラたち欧米勢は、そつなく練習を熟している。
色違いのオーラが頭上に現れ、それに向かってショットガンを発射する練習をする者もいた。国や学校から支給されたソフトがあるのだろう。国分くんも、系列の薔薇大学魔法技術学部で作製したのだろうか、試合形式のソフトを使用し練習に余念がない。
その他にも、上級生と思しき生徒たちが其々にソフトや実戦形式で練習に励んでいる。
もしかしたら、亜里沙たちは長崎にある薔薇大学の魔法技術学部まで行ったのかもしれない。紅薔薇でソフトが作れなければ、薔薇大学の魔法技術学部に早急に頼むだろうから。
少なくとも、紅薔薇の魔法技術科はソフト作製に時間を費やし、素晴らしいソフトが完成するはずだと聖人さんは言ってたが、今回のGPSに、『エリミネイトオーラ』に間に合ったかどうかはわからない。
「さあ、俺たちは帰るとするか」
逍遥も絢人も、もう帰り支度を始めていた。
全然焦りを見せない逍遥。周囲でこれだけの動きを見せつけられているというのに。
俺は本心から逍遥にアドバイス、というよりは説教に近い物言いをしてしまった。
「逍遥、君には焦りってものがないのか?みんな一生懸命に練習してるじゃないか」
「別に。試合当日にベストなパフォーマンスを見せられればそれでいいと思ってる」
「余裕だなあ」
「それより海斗、君はどれくらい的を射た?」
俺の競技に話題をふるとか、どんだけ余裕があるんだか。
「20枚中、19枚命中したよ」
「そりゃ進歩だ。このままいけばGPFも見えてくるんじゃない?」
「周りの練習見ないでこっちにきたから、どのくらいの位置にいるのかわかんないけど」
「周りなんて関係ないさ、君が君であれば、必ず扉は拓けるよ」
逍遥、俺のこと心配してる暇あるのか?
本気で説教したい気持ちに駆られるが、聖人さんが何も言わないということは、逍遥の練習はこれで良しということなんだろう。
4人で練習場を出て、会場わきに停まっているタクシーの窓を叩く。
逍遥が英語で何か話している。どうやらホテルまで戻るらしい。
聖人さんは、俺たち3人に対しボヤキにも似た口調でタクシーに乗れと指さした。俺が最初に乗り、絢人、逍遥の順に乗る。聖人さんは最後に乗って、走り出したタクシーの中で俺たちにプチお説教が始まる。
「逍遥、明日の公式練習ではサボらないでちゃんと練習しろよ。絢人、明日も逍遥がこのざまなら俺に連絡しろ。海斗、もし途中で俺がいなくなっても、お前は自分のことだけ考えて的を射ることに注力しろ、いいな」
逍遥はまたふて腐れて返事もしない。
絢人はわかりましたと答えた。
俺?もちろん頷いたよ。
海外勢がどのくらい『デュークアーチェリー』に流れてくるかわかんないけど。
今日の逍遥の様子を見て、これでは勝てないと思った連中は、即座に『デュークアーチェリー』にくるだろうから。
明日の公式練習、俺としてはちょっと不安。
ホテルに着き自室でシャワーを浴びた俺は、Tシャツにハーフパンツというルームウェアでベッドに寝転がった。
今は昼の12時。
俺は朝ご飯を食べたからそんなに腹は減ってない。
でも、聖人さんや逍遥は違うだろ。絢人だってお腹が空いてるに違いない。
仕方ないよな、お付き合いしなくちゃ。
俺は制服に着替えて、まず逍遥の部屋に突撃した。
インターホンを押し返事を待つ。
「はい、四月一日」
「こちら八朔。昼飯行かない?」
「ああ、行く。聖人は?」
「これから誘う」
「絢人はやめてね」
「どうしてそんなこと言うんだよ」
「向こうが僕に逢いたくないと思ってるはずだから」
それが真実かはさておき、俺は次に聖人さんの部屋を訪ねた。
また、インターホンを鳴らす。
「はい、宮城。おう、タコ」
「タコは止めて。昼飯食いに行かない?逍遥も誘ってるから」
「じゃあ、絢人は止めとけよ」
「どうして?」
「こういう時の逍遥は、相手に謝りたいけどプライドが邪魔して事が大きくなる傾向があるんだ」
「面倒なプライドだこと」
「察してやってくれ。今絢人は・・・栗花落や岩泉、南園と一緒にレストランにいる。少し時間ずらしてからいこう。お前も逍遥も、俺の部屋にくるといい」
さすがの透視力だ。どうやって絢人がレストランにいることを知ったんだろう。絢人が部屋にいないのは透視すればわかるけど、レストランという発想は俺には無かった。
聖人さんといると、逍遥といる時と同じくワクワクする。
どんな魔法が飛び出すのかわかんなくて、知らない魔法が出てくると妙にテンションあがるんだよね。
俺と逍遥は別々に聖人さんの部屋に入った。俺が最初だったかな。
「聖人さん、絢人がレストランにいるのどうしてわかったの?透視?」
「なに、このくらいの時間で俺たちに何の連絡もないということは、誰かと一緒に飯食いに出てるだろうという予想さ。さっきの今で逍遥に声を掛けることは無いだろうから、生徒会の1年に声掛けしたろう、とね」
「逍遥と考え方が似てる」
「逍遥のお父君がそういった考え方をしててな、少なからず影響を受けた」
「読心術とは違うの?」
「似てるようで全然似てないように思うよ、俺は」
そのうちに逍遥が聖人さんの部屋に来て、その話は立ち消えになった。
何気ない笑い話で1時間ほど聖人さんの部屋で過ごした俺たち。
聖人さんがようやく立ち上がり俺たち3人はゆっくりとした足取りでレストランのある2階に向かった。バイキング料理を中心にメニューを考案しているので、食べる量や栄養が偏らないようなメニュー選びとか、結構楽しく食事ができている。
まあ、正しく栄養が摂れているかはまた別の話なんだけど。
俺は自分に見合った量の洋食メニューを皿に並べる。
パンとサラダと野菜ジュース。今日はトマトサラダを選んだ俺。
聖人さんからはまた叱られたが、逍遥はもう慣れきっていて文句も言わない。
でも、聖人さんが立って少量の鶏肉のソテーとゆで卵を持ってきて俺のトレイに置く。仕方なく、俺は皿を空にした。うん、でもお腹には重くない。
これくらいまでなら俺でも食べられるという指標にもなる。
聖人さん、サンキュー。
レストランから出る時、ルイとリュカの2人組に会った。
向こうは食事をしにきたようだった。
何か2人とも真面目な顔つきで、俺たちの顔を見ても目を逸らすばかり。
気分屋なのか?フランス国の人間は?
頭の中で、カチン、と音がしたように聞こえた。ルイやリュカの行動に少し気を悪くした俺だったが、別に逍遥や聖人さんにいうような話でもない。俺は黙ってレストランの扉を閉めた。
午後は各自自由時間にという聖人さんの指示で、俺は暇人になってしまった。
どうしよう、安易に生徒会役員室を訪ねても邪魔なだけだし、これから寝るってのも規則正しい生活とはいえない。
でも、亜里沙たちがこちらに来たのかどうかはちょっと心配だった。俺の試合は観る、ということは今日はこちらに来ないのかもと思いつつ、制服からジャージに着替えて、持ってきた魔法大全という本を開いた。
聖人さんから貸してもらった本で、色々な魔法が載っていた。
その中で、瞬間移動の魔法があった。亜里沙やサトルがEVの中で使った魔法だ。
簡単とまでは言わないが、今の俺なら試してみる価値があるかもしれない。
おっと、外でやるにはジャージ姿ではいけない。
俺はまた制服に着替え直して、ドアを開けようとしたその時だった。
目の前が真っ暗になり、呼吸が苦しくなる。
浅くなった呼吸の中で朧げに考える、これがただの貧血なのか、何らかの禁止魔法によるものなのか、または他の理由があるのか。
俺の理路整然とした考えは段々フェードアウトしていき、その身体はドアの前に倒れ込み、記憶は遥か遠くなっていった。




