GPS-GPF編 第9章 アメリカ大会 第1幕
3日後、チーム紅薔薇約20名は、アメリカ・サンフランシスコを目指し飛行機に搭乗した。
亜里沙と明は今は日本から遥か離れた国外で前線活動を指揮しているため、サンフランシスコに向け急ぎ別便でくるとのことだった。
亜里沙、俺との約束破るなよ。
あー、初めて飛行機に乗ったけど、エコノミークラスって腰が痛くなる。背伸びできないし。身体がバキバキになりそう。飛行時間は、羽田から乗ったので10時間弱。
俺の初飛行機体験は、ちょっと窮屈だったというのが本音だ。
帰りはもう少し広くなるかな、いや、無理か。
不思議と、飛行機が怖いとかそういうことは考えなかった。
昔の俺なら、落ちたらどうしようとか本気になって考えて、それだけで胸焼けしそうな勢いで皆に迷惑をかけていたかもしれない。
その一方で、この窮屈さを目の当たりにして、飛行機の旅が楽しいとも思えなかったのが事実ではあったが。
早く10時間が過ぎて空港に到着して欲しいという切なる願いを胸に秘め、眠れないのをいいことにアイマスクを二重に装備して寝たふりをし、周囲から孤立した風体でサンフランシスコへと向かう俺だった。
サンフランシスコの空港に着き、解放感も手伝って俺は思わず席から立ち上がった。すると膝の辺りでボキボキッと骨が鳴る。似たような鈍い音はそこかしこから聞こえてきた。やはりみんな窮屈な思いをしていたのだろう。
サンフランシスコは今が一番過ごしやすい気候だと、旅行雑誌に書いてある。確かに、横浜の10月と比べればそうかもしれない。秋雨前線だってそんなに活発じゃないだろうし。
たまに暑さを感じることもあるけど、横浜と比べたら全然違う。どうして最高気温は同じくらいなのにこっちは過ごしやすいんだろう。
アメリカの中でも、ここサンフランシスコは比較的安全な部類に入るらしいが、現地のホテルマン曰く、「日本語で近づいてくる外人を信用しないこと」「どこにでも危険な場所があるので、日本にいる時のような安易な行動は差し控えること」だそうだ。
ということは、むやみやたらにジョギングなどしない方がいいってことか。
観光都市であるがゆえに日本人の家族連れやカップルはとても多い。
俺も観光したい。アルカトラズ島やゴールデンゲートブリッジ、世界遺産ヨセミテ国立公園に行けたらどんなにいいか。機内で隣に座っていた聖人さんがナパを始めとする世界屈指のワイナリーでワインを浴びるほど飲みたいと妄想を始めているのが、そのエヘヘとせせら笑う表情から見て取れる。
でも、聖人さん、無理。
公開練習日まで調整で、公開練習があって、試合が終わったらすぐロシア・サンクトペテルブルクに飛んで、次はロシア大会の練習だし。
サンフランシスコのホテルはハイアット系列。レストランや飲食店があるのでホテルの外に出なくてもいい。会場との行き来はタクシーを借り上げていると聞く。交通機関は発達してるようだけど、誰か迷子になったら困るし。
はい。一番迷子になりやすいのは・・・俺です。
GPSはひとつの都市で『プレースリジット』『バルトガンショット』『エリミネイトオーラ』『スモールバドル』『デュークアーチェリー』の種目全てを行う。サンフランシスコ市や大学の建物、グラウンドなどを借り上げて、GPSが行われる。
各地で行われるGPSはポイント制で管理され、ポイントの高い順に1位から6位までがGPFに進出できる。
30人以上いる参加者の中から、1位には20ポイント、2位には15ポイント、3位には10ポイント、4位は5ポイント、5位は2ポイントを付与し、6位は1ポイントで争うらしい。7位以下はポイント無し。だから団子状態になる。
逍遥の言ってた『エリミネイトオーラ』の得点はあくまで1位から4位か5位あたりまでを決めるポイントであって、GPSの取得ポイントとは違うようだ。
なんだか、頭が混乱する。
今回のGPSでは、聖人さんが同行していて、俺の専属サポーターとして動いてくれる。元々魔法技術科にいたからサポート面はお手の物。
亜里沙と明が後から来るってのが気に入らないけど、何か事情があるんだろうから仕方ない、聖人さんに全てお任せするつもりだ。
今日は昼間に会場見学を済ませ、明日から2日間、練習場で本格的な練習に入る予定を組んでいる。
『デュークアーチェリー』は、市の国際競技場で行われるとのことで、聖人さんと一緒に会場を見学してホテルに戻った。
カードをもらってまず俺の部屋に入る。応接セットが部屋の中にあり、俺と聖人さんはミニ・ミーティングのために向かい合って応接椅子に座った。
なんか、眠い。物凄く眠い。
これが時差ってやつなのか?
「寝るなよ、今日を過ぎれば身体が慣れるから」
OH!時差って東京サンフランシスコ間で17時間もあるんじゃない。今はこちらの時間で午前10時だから・・・。また24時間起きてろと言われても無理だよ、俺。
「大丈夫だ、13時間起きれてばこっちも夜になる。たぶん」
「聖人さんは海外旅行の経験ないんですか」
「ないよ、父は魔法部隊にいたし母は俺が10歳の頃に亡くなって。新しい母が家に来たのはその直後だったから。もう海外旅行って雰囲気もへったくれもありゃしない。俺は15歳で魔法部隊にぶちこまれたから、もう海外旅行も何もあったもんじゃなかったんだよ」
「すみません、また思い出させてしまって」
「気にすんな、海斗。別にもう、あれは過去のことだから、俺にとって」
「はい・・・」
「眠気覚めないなら、散歩でもするか?」
「大丈夫なんですか、外に出ても」
「一応、生徒会の指示は仰ぐさ」
生徒会部屋があるのは俺たちの真上の部屋。今回、女子は南園さんと未だ姿を見せない亜里沙だけなので、生徒会部屋の隣に部屋をとっているらしい。生徒会役員は全員が1階上の部屋にいる。といっても選手やサポーターと兼任してる人も多いので、階下に部屋をとったのは7人になる。
俺と聖人さんが上の階に上がると、ちょうどサトルと譲司が生徒会部屋から出てきたところだった。
サトルが俺の顔を不思議そうな顔して覗き込む。
「また寝不足?海斗は長旅に向いてないのかな」
近頃モノをはっきり言うようになったな、サトル・・・。
「そうなんだよ、時差で眠くてさ」
「30分とか、少しだけ昼寝したら?」
脇から口を挟む聖人さん。
「いや、こいつの場合夜まで寝る可能性大だから。散歩でもして眠気覚まそうと思うんだけど」
「外出ですか、ちょっと先輩方に聞いてきます」
そういって、一旦生徒会部屋に戻るサトル。譲司はちょっと手持無沙汰な感がありありだった。聖人さんを前にして、どうふるまえばいいかわからなかったんだろう。
光里会長や沢渡元会長は去年もGリーグ予選やGPSで海外に出掛けているので、その辺のニュアンスを加味して俺がどうするべきか、アドバイスしてくれることだろう。
すぐにサトルは部屋から出てきた。人見知りなサトルのことだから、絶対に俺の方に近づくと思いきや、俺にではなく聖人さんに顔を向ける。
「この辺だけ歩くならOKだそうです。ただ、たまに日本人を狙った良くない輩に絡まれる事件も発生しているので気を付けるように、とのことでした」
聞いたことある。
白人にとっては、アジア系の国々の人がみな同じ顔に見えるんだそうで、服装の立派なのが日本人、うるさいのは中国人、非を認めないのが韓国人と見分けているんだとか。いや、聞いた話だから実際のところはわからないよ?中国や韓国の人で俺の話にムッとしたら、それは謝る。・・・ほらね?日本人は謝る人種なんだよ。
って、謝るとかじゃなくて、日本人はお金持ちってイメージがあるから良くない輩が寄ってくるというんだが、今の時代、中国人のほうがよほどお金持ってると思うのは俺だけか?
それはまたあとで考えるとして、財布も鍵も持たずに俺と聖人さんは普段着ジャージでホテルを出た。
なんか、空気が違う。
街並みも違うけど。
洋風!って感じもあるけど、それだけなら横浜にも中華街があるし、神戸の異人館あたりだって異国情緒が街を支配してる。
長崎と同じで少し坂が多いのかな。
東京は・・・実は俺、中学の修学旅行でしか東京にいったことがない。それも、東京いうてもTDR(=東京ディズニーリゾート)と中華街。どっちも東京違うやんか。
「どうした、急に静かになって」
「あ、俺って東京行ったことが無いなって」
「行ったこと無いのか?」
「そうなんですよー。行き先は東京のはずなのに、TDRと中華街で2泊3日。それって東京じゃなくて千葉・神奈川方面ですよね」
「ふーん、仙台の中学はそうなのか。俺は京都にいったぞ」
「いいですねえ」
「中学のガキが寺巡りして面白いと思うか?」
「・・・なるほど。TDRに軍配上がりますね」
「俺は中華街に行きたかったよ。好きな物好きなだけ食えるからな」
なんだか俺は、哀しい気持ちが先立ってしまった。魔法部隊に入隊するまでの間、実家では食べたいものすら我慢する生活を強いられてきたのだろうか。
「お前さんは優しいな」
聖人さんは俺の髪をもちゃくちゃにして、前を向いた。
俺たちは大通りだけ歩いていたのだが、運悪くパラパラと空から雨粒が落ちてきた。仕方なく店のショウウインドウに身を寄せたのだが、身を寄せた途端、俺のジャージの襟元がぐいっと後ろに引っ張られた。
一瞬のことで何が起きたのか分らなかった。
が、よく前を見るとスラム街から出てきたと思しき連中が俺を取り囲んでいた。
3~4人の若い連中が片言の日本語で「金、金」と俺に向かって叫んでいる。
もちろん俺は金も何も持っていなかったのだが、持っていないという仕草で手を振ると、連中は俺が嘘をついているもんだと思い込んだのか、俺に暴力を振るおうとした。
危ない!危険だ!!ヤバイ!!!
俺は思わず右腕を庇い、横になった体制で相手のパンチや蹴りを防ごうとした。
その時だった。
比較的暖かい日だというのに、地面が冷たくなった。上をみると、連中の全身は氷漬けになり動かなくなっていた。足ですら既に固まっている。
「海斗!」
聖人さんが声の限りに俺を呼んでいた。
「海斗、行くぞ!」
「はい!」
「走れ!」
後ろを振り向かず、ただ先程の現場に後ろ手で右手を翳す聖人さん。
たぶん、氷漬けからあの連中を溶いたのだと思う。俺としては氷漬けでも良かったけど、万が一事件にでもなったら俺たちの関与が浮かび上がらないとも限らない。
聖人さん、ありがとう。
この一件で、俺はすっかり目が覚めた。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・◇
夕食時まで、逍遥と絢人が俺の部屋に遊びに来た。
「いやあ、さっきは参った」
俺は必死にその時の情景や言葉などを駆使して話すのだが、中々上手く話せない。
「上手く説明できなくてごめん」
逍遥はこともなげに俺の頭をさする。
「聖人と一緒で良かったじゃない、SPとしても有能だ」
絢人も逍遥と聖人さんの関係に少なからず疑問を抱いたらしい。
「逍遥は宮城先輩と昔からの知り合いなの?」
「それなりにはね」
「タメ口聞いてるじゃない」
「聖人の上官が僕の父だった、それだけだよ」
「魔法部隊の上官?」
「そういうことになるね」
聖人さんは逍遥の首に手を回しながら、俺と絢人に説明する。
「初めて会った時からタメ口でさ、生意気な奴だと思ったよ」
「でも僕の魔法力は完璧だって褒めてくれたじゃない」
「俺はお前と一緒で嘘だけはつかない性分だから」
嘘、かあ。
確かに、この2人は性格的に同レベルなのかもしれない、でも、逍遥は冷たくて聖人さんは温かい人だと思うんだが。
「僕は決して冷たくないよ」
逍遥。やっぱり君は読心術を使っているとしか思えない。




