GPS-GPF編 第8章
翌日、俺と聖人さんは授業が終わるとダッシュで寮に帰りジャージに着替えて、横浜国際陸上競技場に向かった。授業は、大会に出場する以外の魔法科生はメニューが違うんだが、聖人さんは俺と一緒に試合形式の『デュークアーチェリー』で俺に指南する役割を与えられていた。
まあ、一般生徒と同じ授業内容じゃ聖人さんはつまらないと思うし、周囲だって目の前で高等魔法使われたら驚くし。自分が使えるのに敢えて使わない選択って、とても辛いと思う。
で、続きだ。
前に指南されたのは、俺は姿勢はいいものの若干右肩が下がるのと、それに伴い手のひらが下がってしまっていた。足の幅も、もう少し広げた方がいいとアドバイスを受けた。
今日は、その辺を重点的に直していく予定だ。
まず最初に、聖人さんが的を射ぬくのを見せられた。
本当に綺麗な姿勢で力も抜いて、それでいて右手から発射される矢は少しだけ弧を描いて50m飛び、的を射ぬく。結果、10分で出てきた20枚を全て射抜いた。20分換算で40枚だからちょうど計算も合う。練習もしないでこれなのだから、練習したら50枚もあり得るような気がする。さすがエリート。高等魔法の使い手だけはある。
次に俺。
最初は俺が教えられたことを実践し、その後にまたアドバイスを受けることにした。
姿勢と肩の位置と手の位置、そして足幅。全て自分でチェックしてから的の前に立つ。
次々と出てくる的に対し、俺は指先だけに力を込める。
20分で32枚。
最初はバシッとど真ん中に当たるんだが、時間が経つにつれて徐々に外れていくのが自分でもわかる。
どうすれば最低でも35枚に届くだろうか。
聖人さんは後ろから黙って俺の試射を見ていたが、徐にこちらに近づいてきた。
俺、どこが悪かったんだろう。
「左手だな」
え?試射する右手じゃなくて?
「お前、試射中の左腕がどうなってるか鏡で見たことあるか?」
「あ、ないです」
「ぶらーんと下がったままなんだよ」
「はい」
「左肩から段々猫背になってきて、それで右肩も下がっていくんだ。左肩をちゃんと開いて左腕は身体に沿うようにピンと伸ばして、胸を突きだす様な気持ちで右肩を上げて見ろ。足の幅はそのままでいい」
言われた通りにして、今度も20分撃ち続ける。
あ!凄い!35枚いった!
この姿勢をキープできれば、40枚も夢じゃないかも!
学校の体育館で練習すれば、姿勢をキープできるだろう。
1週間後には、GPS初めての試合、アメリカ大会が俺を待っている。
アメリカ大会に出掛ける3日前、学校で壮行会が開かれた。
俺を胡散臭く思う人間は結構いて、また大きな声で悪口が始まった。
そんならお前行けよ、俺は毎日別メニューで心も身体もバキバキ言ってんだよ。
と思うものの、口にはしない。なるべく穏やかな顔つきで登壇する。
登壇したのは、6名。壇上には既に生徒会役員が並んでいる。その他、1年から3年までのサポーターも選手ごとに就いて各地を回るという説明が加わった。
氏名と出場競技がマイクを通し在校生に告げられる。その他にも、巨大ホワイトボードに出場者の氏名と出場競技、サポーターの名前が明記されている。
・光里『プレースリジット』:蘇芳
・光流『バルトガンショット』:四十九院
・四月一日『エリミネイトオーラ』:八神
・南園『スモールバドル』:栗花落
・沢渡『プレースリジット』:若林
・八朔『デュークアーチェリー』:宮城
各自の出場競技が告げられるたび、講堂内には拍手が寄せられたが、俺の名前が呼ばれると、ドンドンと足を踏みならす音がそこかしこで聞こえる。
最初は生徒会でも我慢していたようだが、ついに、沢渡元会長の堪忍袋の緒が切れた。
「今、足を踏み鳴らしたやつはここに残れ」
そういって、全員に向けて壇上から手を翳し始めた。
するとドンドンした生徒の頭上でチカチカと赤い光が舞っている。もう、嘘をついて逃げられる状況ではなくなった。この分だと、足も動かないようにしているだろう。
さて、彼らには、どんな仕置きが待っているのやら。
何事もなかった一般生徒は講堂を去り、問題児だけが講堂に残った。帰りたくても沢渡元会長の魔法で足が動かないはすだ。
皆、戦々恐々といった雰囲気の中、再び沢渡元会長が登壇して、講堂に残された不埒な輩への仕置きを考えているようだった。
ピン、と閃いたのだろう。
マイクを右手に持ち、もう、取り付く島もない状態で沢渡元会長は話し始めた。
沢渡元会長が用意していた罰ゲームは、授業単位を与えないというまさかの最悪な事態だった。退学したい者は退学しろという強いメッセージ。
俺をバカにして足を踏み鳴らした連中は漏れなく単位が足りずに留年することになる。少し気の毒な気もしたが、あそこまで1人の人間の尊厳を傷つけたのだから、やむを得ない部分もあったと俺は思う。
「あんなに脚踏み鳴らしてりゃ、軍隊だったら私刑だな」
聖人さんが後ろでぼそっと口にした。
怖い。怖ーい。
俺は平和的解決が好きです。
って、みたらここに残ってる魔法科の人間、聖人さんの復帰にも鼻で笑って署名をくれなかった面々だ。こいつらがこうしてまた輪を乱していたわけか。
何もみんなが同じベクトルで進めとは言わない。俺たちの動きが鬱陶しく感じたこともあるだろう。
サトルは署名を集めてる間、嫌味を言われなかっただろうか。
生徒会役員になってからも、魔法科内で傷つけられたりしなかっただろうか。
俺は自分が足を踏みならされるより、サトルが心配だった。
生徒会役員として初めての大舞台。
サトルの様子を見ると、今まで人の陰に隠れてばかりだったサトルが、今日は背筋を伸ばし唇を結んで、皆の前で凛とした面持ちで立っている。隣には譲司がいて、サトルを支えているようだった。
よかった。
これで心置きなく海外遠征に行ける。
といっても、生徒会役員も一緒に行くんだけどね。




