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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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GPS-GPF編  第6章

宮城先輩の嘆願書の件でサトルの部屋を訪れた俺だったが、サトルは部屋にいる気配がない。サトルと会うのはやめて、今度は逍遥(しょうよう)の部屋をノックしてみる。

ちょうどどこかでの練習が終わったようで、逍遥は部屋に戻っていた。

逍遥の返事を聞く前に部屋の中にはいる。相変わらず綺麗な部屋だ。

俺は少し浮足立っていたのか、ペラペラと宮城先輩と逢ったことを話した。

「それは偶然だね、よかったじゃない」

「ああ、お蔭様でエントリー1本に絞れたよ」

「ところで、魔法部隊の人なんだって?宮城先輩の父親」

「そう言ってた」

「こりゃ難しそうだ」

「何が?」

「魔法部隊は訓練されているんだ。自分たちにとって都合の悪い事実を絶対話さないように。その論理で行けば、沢渡元会長の魔法は効かないと思う」


 そういえば、宮城先輩も同じようなことを言っていた。

「どうにかならないかな。先輩が主体でなかったことを証明するには、宮城父の証言が不可欠だと思うんだけど」

 逍遥は飄々としながらたまに怖いことをいう。

「あとは、脅しだね」

「脅し?」

「飛び降りの前に「海音(かいと)、この悪魔!」って叫んだらしいから、聖人(まさと)海音(かいと)を見間違えたんじゃないか。海音(かいと)を自殺教唆で警察に上げると爆弾投げ込んで、父親を揺さぶるしかないだろう。まだ時効にはなってないだろ?」

「なるほど、そう言う手があるか。時効って何年だ?」

「話し合いに応じない場合はね。君はリアル世界で何勉強したんだよ」

「刑法とか勉強するのは大学に入ってからじゃない?中学では勉強しないから」

「公訴時効は5年。自殺教唆(きょうさ)誹謗(ひぼう)中傷(ちゅうしょう)とは違うから、かなりハードル高いんだけどね、実は」

「でも間に合うだろ、まだ母親が亡くなって3年にも満たない」

「起訴まで持ってくのに5年だからますますハードルは高くなるよ。弁護士って雇ってるの?」

「サトルに聞いてないからわかんない。サトル、まだ帰ってないし」


 あの情報屋のサトルでさえ収集できる情報が少ないということか。

 別に実父の話を聞かずとも、誰か事情が分かる人がいないものだろうか。先輩がお世話になっている家の伯父さんはどうなんだろう。

でも、根掘り葉掘り聞かれたら宮城先輩を(うと)ましく思ってしまわないか、それも気になる。


 俺たちはサトルを中心とし、全校生徒から集めた嘆願書を学校側に提出した。

しかし、学校側から退学の取り消しは行わないという結論が出て、俺たちをがっかりさせた。

 やはり、それなりの証拠がないと学校では宮城聖人(まさと)への処分を取り消さないということが身に染みて理解できた。

亜里沙の言うとおり。


そこで、沢渡元会長のゲキが飛ぶ。

 宮城先輩の退学取り消しを求める運動を束ねる生徒会としては、退学そのものはやむを得ない事として受け止める一方で、何らかの証拠を集め学校側に提出し、2年に編入させる案、あるいは特例で新規に宮城先輩を受け入れる案に方向転換した。


 そのためには、証拠がいる。

 誰が見ても聞いても納得するような。


 しばらくサトルは授業終了後すぐに教室を出てしまい、話すこともできなかった。

 何をしているのかは、正直俺には見当もつかない。


 9月に入ってから初めての休日の午後、寮の自分の部屋で、居ても経っても居られなくなった俺は離話でサトルに話しかけた。なぜかちゃっかり逍遥(しょうよう)も隣にいる。

すると、返事は来なかったが、サトルがいる部屋が俺の脳裏にやけにリアルに映し出された。


どこかの部屋で、サトルの隣には年配の男性。制服らしきものを着用している。

向かい側には、宮城先輩に良く似たこれまた年配の男性が座っている。

客間か?床の間のある畳の部屋だ。

宮城先輩に良く似た年配の男性はたぶん、宮城父だろう。サトルと一緒の相手は、制服にバッジが並んでいる。警察やそういった職業。

宮城父は時折、大量の汗をタオルで拭きながら何か話しているが、サトルたちの顔を見ようとはしない。サトルはここでレコーダーのスイッチを押した。

反対に制服姿の年配男性は、宮城父の目をしっかり見て何かを質問しているように見えた。

サトルは基本的に会話には混じらず、何か聞かれたことだけに反応している。


すると、突然宮城海音(かいと)が部屋に入ってきた。

父親の隣に座った海音(かいと)。なんだか全身小刻みに震えているようにも見える。しばらくは誰も何も話していないようにみえたが、ちょっと様子が変だ。

海音(かいと)もハンカチでしょっちゅう汗をぬぐっている。

相対した男性は手を翳し魔法で海音(かいと)に手を翳し始めた。

海音(かいと)は初めのうちもがいていたが、途中から目は虚ろになり姿勢もだらりとなって、何かを話し始めた。


サトルが先程とは別の2台のレコーダーのスイッチを入れている。

そのうち、宮城父が途中で海音(かいと)の肩を掴み、今にも殴ろうとしているのが見えた。

それに対し制服姿の男性は左手を宮城父に翳した。

宮城父は動きを制限され、殴り掛かるのを止め、大人しく座った。


海音(かいと)はしばらく何か話していたが、急に海音(かいと)の目が覚醒したように見えた。

海音(かいと)が何か猛抗議している。


その時だった。

警察官と思われる制服の若い男性が2名、部屋に入ってきた。驚く宮城親子。

警察は宮城父には目もくれず、1人が海音(かいと)を立たせ、もう1人が海音(かいと)の腕を引っ張り手錠をかけた。

 海音(かいと)は部屋から姿を消し、宮城父はがっくりとうなだれた・・・。


 サトルはもう一人の訪問者と一緒に席を立ち、丁寧に挨拶し部屋を出た。


 ここで映像は途切れた。



「今の、君も見たかい」

 逍遥(しょうよう)はフフンと笑って俺の顔を見る。

「たぶん、僕たちは同じ光景を見ていたね」

 こういう会話にいちいち驚いていられない。逍遥(しょうよう)は何をするかわからない人間だから。

「そうか。サトルが一緒にいた男性って、誰?」

「魔法部隊の大将だよ」

「え!サトルってそんな人と知り合いだったの?」

 逍遥はニヤッと笑って俺を見る。

「どうかな。僕も正直今のには驚いた」

「そういえばサトルも自分のこととか話さないな」

 俺はサトルの秘密主義に今気付いた。

「人それぞれ、何かしらあるんだな」


 って、逍遥(しょうよう)。君はなんであの男性が魔法部隊の、それも大将だと知っている。

 逍遥(しょうよう)も相変わらず変な奴だ。


 

 翌日の朝。

 俺は宮城家のことが何となく気になっていたので、やはりというかなんというか。

 要は早起きしたってことなんだが・・・。


 起きたのは午前5時。

こんな朝早くからサトルを起こすわけにもいかないし、特段やることもない。それならばと、寮の周囲を歩くことにした。

季節が変わりゆくと同時に、街の景色も変わる。暑い暑い季節は少しずつ鳴りを潜め、真夏の入道雲は段々秋のうろこ雲に変化していく。

なのに珍しくセミが鳴いていた。

こちらに来てから今まで一度も聞いたことが無かったのに。

もしかして、余りに暑くて避難でもしていたのかもしれない。

何?仙台は田舎だから聞こえるだって?

確かに緑は多いと言われる、杜の都という名の由来だ。

あー、俺の話はいつも脱線する。

杜の都の話をしたいんじゃない。


授業後、サトルに会って昨日の一部始終を聞かなくちゃ。

GPS組と(俺と逍遥(しょうよう)だけ。だけど逍遥(しょうよう)とも別調整)非エントリー組は授業内容が全く違うから会う機会がほとんどない。

でも逍遥(しょうよう)に次ぐ魔法力を持ったサトルにとっては、授業の宿題でさえも簡単らしい。

 だから時間に余裕ができて、宮城親子のことにも首を突っ込めるんだが・・・。


 昨日何があったのかを、俺はサトルから詳細に聞きたい!!

 授業後、魔法科の教室前をうろうろしていると、久しぶりにサトルの姿が見えた。

 何日ぶりだろう、直接話すのは。

「サトル!サトル!」

 離話だと思ったのか、一生懸命に目を閉じる。

「違うよ、サトル。目の前見て」

 サトルはようやく目を開けて俺を認識した。

「あービックリした。軍隊の人かと・・・。久しぶりだね、海斗」

「昨日は何があったんだ?」

「おや、よく御存じで」

「ごめん、離話しようとしたらさ、話しは聞えなかったけど宮城家の様子が見えたんだ。てかさ、サトル、喋り方が逍遥(しょうよう)に似て来てない?“よく御存じで”なんてまんま逍遥(しょうよう)みたいだ」

「そんなことないよ、近頃色々な人に会うから、いつもの喋り方じゃあまりに情けないじゃない。だから少し畏まってみただけ」

「で、宮城父は何を話したんだ?結局、海音(かいと)は逮捕されたんだろ?」


 サトルは一瞬考え込んだ様子を見せたが、俺の目が余りにキラキラしていたからだろう。ひっそりと声も低めに誰もいない場所を探してそこに入り、これまでの進捗状況を教えてくれた。

「海斗が透視した時、逍遥(しょうよう)も一緒にいたの?」

「うん、君の隣にいたのが魔法部隊の大将だ、って言ってた」

「逍遥の目はごまかせないね、お見込みのとおり、魔法部隊の人間だよ」

「知り合いなの?」

「知り合いというか・・・」

 サトルの口は重い。

 何か公にしたくないことでもあるのかと推し量った俺は、バツが悪くて頭を掻いた。

「ごめん」

「いや、いいんだ。あの人はね、生き別れた僕の父なんだ」

「お父さん?」

「うん。父と母は結婚後そりが合わなくて離婚して、僕は母方の姓を名乗ってる。父とは1年に1回会うかどうかくらい」

「そうか。ごめんな、そんなことまで聞いて」

「僕の方から連絡したのは初めてだったから喜ばれたよ。でも中身が魔法絡みのことで、少しがっかりしてたようだけど」

「お父さんなら、どんな理由でも逢いたがってると思うよ」


 そこで俺は、自分の父を思いだした。

 父さんがもし遠くにいるとしたら、俺に逢いたいと思ってくれのだろうか。

 何気ない会話だけで満足してくれるのだろうか。

 俺にはわからなかった。

見当のつけようがなかった。



 サトルが俺を突いている。

「で、これが昨日の戦利品」

 そういって、手のひらに載せた3台のレコーダーを俺の前に出した。

「宮城父との会話、これでなぜ宮城聖人(まさと)を奴隷にしたか、勘当したか語ってる。もう2台は宮城海音(かいと)との会話。僕の父は強力な魔法を使用することができてね。宮城海音(かいと)が母親を自殺に追い込んだ経緯が語られたよ」

 興味があるといったら語弊があるが、俺はこの事件の全容が知りたかった。

「どうして宮城父は聖人(まさと)を遠ざけたんだ?」


 サトルは黙って1台のレコーダーを再生した。


 驚くべき事実と言って差し支えないと思う。

 なんと、宮城父は、長男である聖人(まさと)が自分を超すことを非常に危惧しており、馬鹿な弟の海音(かいと)を可愛がっていた。海音(かいと)の媚びへつらいも十分に可愛がる要素としてあったのだろうが。

 もちろん、不仲の妻や再婚した妻が可愛がった息子、という側面も聖人を遠ざけた一因ではあったらしい。

魔法部隊大佐に昇格した聖人(まさと)が、自分を追い越すとの強迫観念に捉われた父は、義母の自殺の事実を知りながらその事実を隠し、罪を聖人(まさと)になすり付け弟の奴隷になる様聖人(まさと)を陥れた。

 海音(かいと)が魔法部隊に密告するとは考えていなかったようだが、それはそれで構わなかったのだろう。実年齢に逆行して高校生に戻らせ屈辱を味わうよう画策し海音(かいと)が魔法科から魔法技術科の兄を見下す構図を指示したものと考えられた。


 聖人(まさと)勘当した理由は、海音(かいと)が紅薔薇を退学した現在、使い物にならなくなったからと、ひと言だけ証言した。

 実の息子に対し、使い物ならないなどどいうあからさまな言い方に、俺は怒りを隠しきれなかった。

 俺はレコーダーを持つ手が怒りに震えると同時に、宮城先輩の哀しみを思うと胸がつぶれそうになった。



 次にもう1台のレコーダーを再生するサトル。

 こちらは、宮城海音(かいと)に証言させた音声だった。

 魔法で口を開かせたものだったが、学校に提出するには充分な内容。


 ここにひとつの事実があった。

宮城海音(かいと)の実母は、不倫していた。これも驚いたことに、相手は紅薔薇の教師だった。

 海音(かいと)は実母の不倫の事実を知り、義父に話すと実母を脅した。当初は金が目当てだったとみえる。

 実母は海音(かいと)の要求を断った。というより、その事実を否定した。

すると海音(かいと)、探偵事務所を使って不倫の証拠を集め、実母に見せた。そして、実母が自殺すれば誰にも何も話さない、不倫相手も不幸にならないから自殺したほうが皆のためになる、と繰り返し実母に自殺を迫り、実母は不倫相手のことを心配するあまり自殺を選択した。

だから自殺の瞬間、海音(かいと)の実母は「海音(かいと)、この悪魔」と叫んだとみられる。

探偵事務所への支払いは、宮城父に嘘をついて何十万とせしめていた金の中から支払ったようだ。


 これなら自殺教唆になるのでは?それとも誹謗中傷にあたるだろうか?

少なくとも俺には、自殺することを勧め、そそのかしてその気にさせたかのように見える。


 そうか、宮城父が海音(かいと)を殴ろうとしたのはこの場面か。宮城父は再婚した妻の不倫を知らなかったのだろう。

 ある意味、海音(かいと)は実母との約束は守ったわけだ。

 相手の教師だが、今の1年が入学してすぐに一身上の都合で辞めたとサトルが言ってた。

 宮城海音(かいと)が教師に真実をぶちまけ強請(ゆす)った可能性は大いにある。

 サトルが元教師のその後の足取りを調べようとしたが、居場所は突き止められなかったという。


 魔法で事実を語っていた宮城海音(かいと)は途中で覚醒したようで、今のは幻覚魔法で、一切の効力は無いと大騒ぎした。ここが俺たちが見た猛抗議の場面だ。


 そこでサトルは、外に待機させていた警官に海音(かいと)を引き渡した。

実の母親に対する自殺教唆(きょうさ)の罪で。

 これが起訴されるかどうかは未知数だ。宮城海音(かいと)は自分の罪を認めようとはしないだろう。だが、相手の教師は警察が探せばすぐに見つかるし、宮城先輩が聞いた最期の言葉もある。

 願わくば、海音(かいと)の本当の姿に警察や検察が気付いて、自殺教唆(きょうさ)事件として立件して欲しい。

 

サトルは授業の合間をぬって生徒会とのパイプ役を果たし学校側への提出書類ともう一度、嘆願書の再度の提出も準備していた。

 自分で考え正しく行動し、その推察力や行動力、決して傲慢にならない礼儀正しい態度のサトルは生徒会や魔法科内でも一定の理解、評価を集め、過去のことは過去、という風潮が高まっているのを俺も逍遥(しょうよう)も肌で感じている。


 サトルは完全に独り立ちした。


 そして生徒会に出入りするうちに、先輩方や、特に譲司とも仲良くなったサトル。真面目な者同士、ウマが合ったんだろう。

 俺や逍遥(しょうよう)がいなくても、譲司が忙しくても、サトルは1人で頑張れる力を身に着けたように見えた。

 


◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


いよいよ沢渡元会長率いる生徒会が主体となって、宮城先輩の嘆願書を学校に再提出する日がきた。

 サトルが用意した経緯書もある。あの音声データも証拠として出す。


 嘆願書の発起人(ほっきにん)代表は俺だが、宮城先輩の退学取り消しあるいは2年への編入運動は沢渡元会長が中心となり学校側へ赴いた。

 無論、はいそうですかと学校側が動くわけもない。

1か月前に強制退学させたのだから、退学を取り消してしまったのでは学校側の責任も問われることになりかねない。

 国分事件の時以来だ、俺が知る限りの退学の取り消しなんて。

 でもあの時、国分くんは100%罪が無かった。だから今回は取り消してもらえないのだ。

 今回は、事情があるといえ、ある程度の罪を犯している。そう言われては元も子もない。


 宮城先輩が起こした事件は事件として、そこには闇のストーリーがあったこと、宮城先輩の魔法力は卓越しており、全生徒を見回してもそこに辿り着ける生徒がいないことなどを前面に押し出し、学校側と協議を重ねた。

 なぜ沢渡元会長が中心となったかと言えば、沢渡生徒会の時代が教師の助言すら必要としなかった黄金時代だからだ。

 今でも沢渡元会長の学校側への権限は絶大なものがある。


 しかし、学校側では生徒たちに対して負い目があった。宮城先輩の義母が当該校の教師と密会を重ねていたという、公にはできない、隠匿したい事実。

 その音声データが公の場に出るのは困る、と学校側はかなり譲歩してきた。

 退学取り消しと2年への編入は無理だが、数少ない古典魔法使用者の一人であることから、学科及び実技試験を受け直し1年として10月入学させるという付帯事項を付けて容認するというものだった。


 具体的に学校側から提示されたスケジュールは、9月中旬に学科と実技試験を受けて、9月下旬に臨時の職員会議及び職員理事会を開き、その上で、10月からの入学を認める、という非常にタイトなスケジュール案。

 試験の内容は、薔薇大学に行く生徒が受ける模試。


 ちょとまてーい。

 そんなん、3年でも解けないやつおるわ!


 だが、宮城先輩はその知らせを大いに喜び、退学取り消しでもなく、2年への編入でもなく、試験を受けて10月に入学する道を選んだ。

自分がやり残したことを、3年かけて学んでいきたい、と。

 やり残したことが何なのか、それは教えてくれなかったけど、もしかしたら余りにも高等魔法の使い手であるが故に高校生活すらしないまま魔法部隊に入隊したのかもしれない。

 高校を一度卒業したとも言ってなかったし。

 だとすれば、これからの3年間、俺のクラスメイトとして在籍してくれるならば、俺はまた色々なことを吸収できる。

 宮城先輩本人の気持ちは分からないが、俺としては有難いことだ。



 その後サトルの元に警察から、自殺教唆(きょうさ)事件として立件、起訴するつもりだという連絡があったらしい。

 サトルとしては書面で何か欲しかったが、取り調べ中なので何も渡せないという返事があり、諦めたという。


 スケジュール通りの9月中旬。宮城先輩は勉強する時間もないまま学科と実技試験を受験したが、結果はどちらも満点。9月下旬の臨時職員会議及び職員理事会では、(どよ)めきが起こったという噂もある。

かくして学校側は、10月からの特例入学を認めた。

 

 しかし、もうひとつ、宮城先輩の復帰に対し条件が加えられた。

 今年度行われるこれからの大会=(GPSと世界選手権新人戦)には出場を認めない、というものだった。

 沢渡元会長は自ら職員室まで出向き理由を問いただしたが、俺たちの納得いく返事は得られなかったらしい。

 俺は図らずも『デュークアーチェリー』の練習状況を報告するため生徒会に顔をだしていたんだが、沢渡元会長があんなに激高しているのは珍しい。見たことがないかもしれない。

 亜里沙も(とおる)も、偶然だろうが生徒会室に顔を出していた。

 冷たい亜里沙の言葉に、今度は俺が激高しかけた。

「宮城兄は学校に戻れただけでも御の字だと思わない?」

「しかし山桜さん、GPSは分ります、時間もないですし。でも世界選手権までは時間があるんですよ?」

「うーん。どっかで重石がかかちゃったのね。でも1ケ月前まで魔法技術科の2年にいた子が魔法科1年で出場したらかなりのアドバンテージだと思うんだけど」

「それはそうですが、宮城は選手として出場していません」

「父親や海音(かいと)から報復があるかもしれないし」

「宮城海音(かいと)は今留置場の中で、これから起訴されるようですから問題はないかと。ま、あいつは魔法力も高くないので相手にもならないでしょう」

「問題は父親よ。魔法部隊は退役したとして、その魔法力についてはほぼほぼ現役時代と同等だっていうじゃない。なのに自分を超える息子に恐怖抱いたんでしょ。じゃ、これから各大会で優勝する息子はそれこそ畏怖(いふ)の対象にもなり得るわけだ」


 俺は静かに生徒会室から出ようと、ドア目掛け後ろ向きに歩いていた。

「ところで海斗(かいと)

 地を響き渡るような亜里沙の声。

俺はこのまま逃げたい。

「はい、なんでしょう」

「丁寧語はいらない。あんた、結局どうしたの」

「どうしたと申しますと」

「GPSの競技選んだの?」

「はい、『デュークアーチェリー』にしました」

「あんたのその喋り方、腹立つ」


 俺もちょうど丁寧語に疲れていたところだ。亜里沙に対して敬語は無理。

「宮城先輩に教えてもらいながらやってるから、だいぶ命中率上がってきたよ」

「『バルトガンショット』は?あんたに合ってるような気がしたんだけど」

「タイミングが掴めないから命中率が上がらないって。徐々にタイミング掴んだ方がいいだろう、ってさ」

「あー、3月までにってことね、了解」

「でも考えてみれば3月の新人戦、俺エントリーされない可能性大きいし」

「今回の出来次第じゃない?」


まーったく。亜里沙は俺を褒めない。仕方ないけど。褒められないのも腹立つ。

「失礼しました」

 そのまま何も言わず魔法科の教室に行く。

今日は練習も休みだ。


なんか暇だけど、何もすること無いし。

早々に寮に帰ることに決めた。



寮に帰ると、サトルが食事を摂っていた。

「久しぶりだなあ、サトル」

「海斗、そうだね、あれ以来僕、寮空けてること多かったから」

 あれ、とは、嘆願書の取り(まと)めのことだ。

「でも無事に何とかなったな、サトルのお蔭だ、ありがとう」

「そんな、みんなが署名してくれたからだよ」

「君が宮城家に行かなかったら学校に提出する証拠が無かっただろ」

 サトルは恥ずかしがって下を向いた。

「ね、相談があるんだけど」

「なんだー?」

「さっき光里(みさと)会長が寮に来て、“生徒会の書記やらないか”って」


 俺は瞬間、飛び上がったらしい。サトルは周囲に人がいるので口に指をあてて騒がないよう俺に促した。

「海斗、お願いだからそんなに騒がないで」

「いやあ、すごい。良いことだ。是非受けるべきだ」

「でも、入学して間もない頃にあんなことしちゃったから・・・」

 

 サトルの言うのは「ドリンク事件」

 優秀と思われる生徒に薬物入りのドリンクを渡した事件だ。結局被害者はなく、サトルは早々に配るのを止めた。

 それが噂となり沢渡元会長に嫌われ、全日本ではサブとしてエントリーされたにも関わらず試合にでることすらできなかった。


でもね?

今はそんなことしてないし、アンフェタミンのようなスゲー薬物でもなかったし。渡してたのも風邪薬とかの簡単な薬剤だったと聞いている。軽い薬だからいいということではないけど。

俺や逍遥と仲良くなってからは、俺たちが常に目を光らせて、厚意であっても他人にドリンクを渡さないように見張っている。

薔薇6でデビューしてからは、自分に対する自信も取り戻したようで、帰郷以降、他人にドリンクを準備することすら無くなった。


もう、大丈夫だよ。

光里(みさと)会長が来たってことは、生徒会内では認められたってこと。

サトルが今回どれだけ身を粉にして働いたかは、周りで見てたみんなが知ってる。

嘆願書だって、270名からの生徒ひとりひとりの意向を聞くために最終的には1人で回って歩いたんだろう?

ああいうのはノリで書いちゃう人もいるから、全クラスを回って本当の意向を聞きながらお願いしたんだろう?


そんなサトルを皆が見てるよ。地道で日の当たらない部分でもしっかりと実務熟してる、それは皆が見てるよ。

だから、胸を張って生きて欲しい。

サトルにはそうする権利があるんだから。



 3日後の授業終了後、臨時の生徒総会が開かれた。

 講堂に集まった生徒たちに、生徒会の新しい書記が紹介された。


 もちろん、ドリンク事件を知っててサトルを「媚びへつらい」扱いするやつもいた。

 でもそれ以上に、温かい拍手がサトルを包んだ。

 

 サトルは下を向かず、前を向いて口をきゅっと結んでいた。

 そう、下を向くのはもうお終い。

 これからは前を向いて、君の青春を謳歌(おうか)して欲しい。



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