表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
66/132

GPS-GPF編  第5章

出場科目エントリー変更最終日が迫っていたが、結局、エントリー申請はそのままになってしまった。


 翌々日、俺は申し込んでおいた施設の使用許可が下りたので、メイングラウンドとサブグラウンドにて『バルトガンショット』と『デュークアーチェリー』の練習をすることにした。

 誰も俺が練習に行くとは思ってないようで、学校からの帰り道、俺はダッシュで寮に走り着替えを済ませ夢中で寮を飛び出した。


 施設まで歩くのも面倒なので飛行魔法を使った。無論、下から見えないよう気を遣っているので大丈夫。

 

施設に着き、まずメインスタンドで『デュークアーチェリー』を試し、次にサブスタンドで『バルトガンショット』の撃ちこみを始めた。

 『デュークアーチェリー』は、背を真っ直ぐに伸ばしてダーツと同じような姿勢を取り、50m先の的を射ぬく。20分間の試射中、20枚命中。全部で100枚は試射したはずだから、思ったよりも命中率が高い、と思うのだが、正直、他の人がどれくらい撃つのかはよく知らない。

 次にサブグラウンドに移り『バルトガンショット』の試射を始めた。100個のクレーを撃ち落とすのにかかった時間は13分。

 俺としては、『バルトガンショット』の方が性に合ってような気がするんだが、デバイスも無い中、13分台という記録が果たして周りに比べどのような位置にいるのか、速いのか遅いのか、比べようもない。

 やっぱり誰か連れてくるんだった・・・。


 翌日、授業が終わった直後、臨時の生徒総会が開かれることになった。

 なんかあったのかと思いながら講堂に行くと逍遥が1人で立っている。

 俺は逍遥の目の前に立ち身振り手振りを交えて聞く。

「今日の生徒総会、何やるの」

「なんだろう。僕もわからない」


 亜里沙に怒られてからは、俺は開会の10分前に着くよう心掛けている。

 俺が着いた時にはまだまばらだった講堂の中も、蒸し暑さを感じるくらいまで人が集まってきた。


「これより、臨時の生徒総会を開会します」

 南園さんの綺麗な声が講堂中に響く。

 舞台のそでから出てきたのは、光里会長だった。


「8月以降空席だった2年のサポーターに、2年蘇芳(すおう)玲人(れいじ)及び2年四十九院(つるしいん)航星(こうせい)が就くことを発表します。なお、これ以降、全学年のサポーターについては生徒会役員に準じる権限を与え、各大会におけるサポートを任せることをここに決定します」

 

 3年のサポーターは若林先輩と千代(せんだい)先輩、1年は絢人(けんと)と亜里沙と(とおる)。計7名を生徒会に引きずり込む算段か。


 2年は全員変更したな。宮城先輩は強制退学になったんだった。

 もしかしたら、広瀬先輩も監視役という重大な役目が終わって退学したのかもしれない。

 宮城先輩、今頃どうしているんだろう。


 講堂での臨時生徒総会が終わり、俺たちは廊下を歩きながら魔法科の教室を目指していた。


 俺はGPSの練習もさることながら、宮城先輩が何とかして紅薔薇復帰できないかどうか考えていた。

 当てにはならないが、一応逍遥(しょうよう)にも聞いてみることにしよう。

逍遥(しょうよう)の襟を掴まえて耳元で呟く。

「あのさ、逍遥(しょうよう)。俺さ、宮城先輩を退学取り消しにして2年に紅薔薇復帰できないかどうか悩んでんだよね」

「どうして、あんな真似されたのに」

「あれは全部宮城海音(かいと)の仕業だったんだ」

「それでもやったのは宮城先輩本人だろ」

「宮城先輩を追い込んで蹴落とすために宮城海音(かいと)が仕組んだ罠だったとしたら?」


 逍遥(しょうよう)は暫しこめかみに手を当てて考えていた。

「なるほど、魔法部隊を解雇させたのと同じ方式ってわけか」

「魔法部隊のはチクったんだろ?殺人事件の重要参考人として」

「うん、エリート中のエリートで、将来を嘱望されていたからそれが気に入らなかったという筋書きは合ってる」

「今度は完膚なきまでに叩き潰すよう、俺をダシに使ったんじゃないかな」

「どうして宮城海音(かいと)の奴隷になったんだか」

「父親に強制されたらしい」

「父親ねえ」

「生徒会では沢渡元会長が自ら取り調べてたようだから、真実が暴き出されたと思ってる」


逍遥(しょうよう)はいたずらっ子のような目をして、俺の首に手をかける。

「サトルはどうしてる?」

「たぶん、弟の海音(かいと)を探してる」

「生徒会ではどう考えているんだろう」

「学校側も生徒会も、ああいう貴重な人材を失ったことは悲劇だと思ってるだろうな。宮城先輩が入学した時は、たぐい稀なる実力で魔法科が欲しがったそうだから」

「じゃあ、何とかなるかも」


 俺はまじまじと逍遥(しょうよう)を見つめる。

「正直びっくりしたよ。君なら“償え”とかいうと思ってた」

「仇は討ったから。ただ、昔の宮城聖人(まさと)を僕は知っていたんだ。エリート時代のね。それがどうして紅薔薇にいるのか、その理由が知りたかった。でも広瀬先輩がいるところでは聞けなくて」

「それも父親の差し金だった」

「余計なことは話さず、命令を実行させるための監視役か」

 逍遥(しょうよう)は理解が早い。というか、俺が考えてる事を瞬時に言ってのける。

「魔法技術科に入ったのも父親の命令だろ。父親の命令とはいうものの、実際は弟の命令なんだろうけど」

「魔法科が魔法技術科を見下すの図?馬鹿馬鹿しい」

「でもそれが真実だと思う」


 さて、どうしたものか。

 逍遥(しょうよう)は何となくやる気になってくれるような気がする。サトルは今、宮城弟を探しているはず。

 魔法科の教室に入ると、複数の生徒が俺たちに群がってきた。

 俺が宮城聖人(まさと)にされた行為に対し怒る人もいたが、それ以上に、宮城聖人(まさと)と宮城海音(かいと)の兄弟の異常さを訴える意見が多かった。

やはり、宮城海音(かいと)の異常さは皆気付いていたらしい。


宮城聖人(まさと)の前職を知っている生徒もいて、その多くが「聖人(まさと)海音(かいと)に嵌められた」「あれは冤罪だ」と、魔法部隊解雇事件そのものに対して異議を唱えていた。

 誰かが「退学を取り消して2年魔法科に転科させるよう嘆願書を出そう!」と叫ぶと、1年の魔法科クラスでは話が盛り上がり、魔法科の2年や3年、あるいは魔法技術科や普通科に兄姉がいる人は嘆願書の署名への依頼をしようとまで言い出す者までいて、クラスは授業どころではなくなり収拾がつかなくなった。


 翌日。

 今日はいくらか静かになったかに見えた1年魔法科。

 俺の考えが甘かった。

 代表発起人として名前を借りたいと言われ嘆願書を見ると、署名は3科全学年270人中、220人余りにまで及んでおり、全校生徒の3分の2を超えていた。

生徒達の、薔薇6事件や冤罪事件に対する関心の高さがうかがわれた。

 総ては宮城海音(かいと)が起こした事件である、と明記されているのがちょっと不安ではあったが、俺や逍遥(しょうよう)が薔薇6事件に関わった証として、俺は代表発起人に名を連ねることにした。逍遥(しょうよう)も同様の気持ちだという。

 サトルはその日の午後から授業に参加したが、署名の多さに驚いていた。

 宮城海音(かいと)はどこに隠れたんだろう。

 見つけたからサトルは学校に戻ってきたに違いない。

「宮城海音(かいと)、見つかったのか」

「うん、実家に逃げ込んでた。お父さんが守ってて会うことは叶わなかったけど」

「弁明の機会くらい与えないとな」

「あのぶんじゃ、出てこないと思うな」

「生徒会が行っても?」

「もう退学処分が下ってるからね、紅薔薇の生徒じゃないわけだし、今は」

「どうにかして連れ出せないかな」

「難しいと思うけど、生徒会に報告してくるよ、一緒に行ってくれる?」


 生徒会でも1年魔法科から始まった嘆願書への署名については情報を得ていたようで、俺とサトルが顔を出すと、光里(みさと)会長が半分困ったような顔をして出迎えてくれた。

「おう、1年。嘆願書の件か?」

 サトルは調べたことを光里(みさと)会長に報告していく。

「はい、それに関して宮城海音(かいと)の居場所を確認しました。今は実家にいるようです。なお、こちらの留置場から戻った宮城聖人(まさと)は、父親から勘当されて今は実母の兄にあたる伯父の家に転居していました」

 光里(みさと)会長は腕組みしてなおも困ったような表情を崩さない。

 そりゃそうだ。

 8月1日付けで強制退学の措置は取られたものの、宮城聖人(まさと)が退学になってまだ1か月余り。

 学校側に申し入れるとしても、それなりの理由が必要になる。


 うーん、うーんと唸る光里(みさと)会長。

そこに沢渡元会長と亜里沙が顔を出した。光里会長の顔を見て、俺たちの行動を察したらしい。

「嘆願書の件、か」

 沢渡元会長も、それ以上は言葉を発しない。


 亜里沙は冷たいひと言しか俺たちにくれなかった。

「退学させたのは学校だからね、生徒が嘆願書出してもその通りになるとは限らないわよ」

 俺はちょっとムッとした。

「そんなのやってみないとわかんないだろーが。学校では宮城兄に事情聞いたわけだし、弟が学校から逃げて、直後に父親が兄を勘当するなんてどう考えてもおかしいだろ」

「おかしいのはわかってるわよ。だいたいあんたたち、生徒会として何をやれっていうわけ」

 亜里沙も喧嘩腰になって俺に反論する。でもまだ三白眼になってないから大丈夫。三白眼になったら意見するのは止める。

 俺は亜里沙に立ち向かった。

「生徒会が束ねるのが筋かと思ったけど、いいよ、こっちでやるから」

「何をやるってのよ」

「父親との話し合い、弟への事情調査くらいか」

「それで?だんまり決め込まれて終わりじゃないの」

「そうなったら自殺教唆(きょうさ)で弟をあげる」

「警察沙汰にするの」

「それしかないだろ」

「宮城聖人(まさと)の将来をダメにしてもいいの、あんたたちは」

「なんでダメになるんだよ」

「警察が宮城聖人(まさと)を逮捕することだってあり得るのよ」


 亜里沙の後ろで、沢渡元会長が光里(みさと)会長になにやら耳打ちしている。

 2人は俺たちを見ることなく生徒会の扉をあけ、外に出た。

 ふん、生徒会は絡む気が無いのか。

 それなら、俺たちだけで動くしかない。

 学校、警察、裁判。

 面倒なことが多いなら、俺はGPSを降りてもいい。

逍遥(しょうよう)はどうするかわかんないけど、俺は元々GPSに興味があるわけでもなく、選出されたから仕方なく、という部分もある。


「あんた、GPS降りるつもりなのね」

 亜里沙に隠し事はできないんだった。読心術で見破られている。

「ああ、俺よりも相応しい先輩がたくさんいるから。お前だってそう思うだろ」


 亜里沙の目つきが変わってきた。

 やばっ、ここは早々に退散するか。

「行こう、サトル。これ以上の言葉は引き出せないようだから」

「うん・・・でも・・・」

 サトルとしては生徒会のお墨付きが欲しいのだろう。

 わかる、それは俺だって同じ気持ちだ。でも亜里沙が動かないなら沢渡元会長や光里(みさと)会長が動けるはずもない。


「待て、八朔(ほずみ)、岩泉」

 生徒会室に入ってきて、俺たちの肩に手を回したのは沢渡元会長だった。

「山桜さん、ここは生徒会が中心になって束ねてはいかがでしょう」

「めんどくさいことにならない?まだ退学処分から1か月しか経ってないのよ」

「だからこそです。学校側も、何か月も経ってからでは動きにくいかと思われます。今だったら、退学取り消しとまではいかなくても、編入という手が残っています」

「うーん、そうね、その手があるわね」

 光里(みさと)会長も亜里沙に遠慮しつつ、俺たちに肩入れしてくれている。

「ここは俺たちにお任せください。決してご迷惑はおかけしません」


 亜里沙はおちた。

「わかったわ。貴方たちに任せる。ただし、海斗(かいと)、あんたにはGPS出てもらうからね。それが条件よ」

「わかったよ、出りゃいいんだろ」

「腹立つ言い方ね」

「申し訳ございません、出場させていただきます」

「ますます腹立つ」


 そのまま亜里沙は1人で生徒会室を出ていった。

 みんな、一様に肩から力が抜けたという顔をしている。

八朔(ほずみ)、お前よく山桜さんにタメ口きけるなあ」

 光里(みさと)会長が大きく深呼吸する。

「すみません、12年間の時間があるんで、なかなか敬語とか使えなくて」

「ま、向こうがいいならいいだろ。で、生徒会としては各科を束ねて何すりゃいいんだ」

「なるべくなら弟の宮城海音(かいと)に会って、本当のことを喋らせたいですけど」

「父親がブロックしてんだろ?」

 その時、あの大人しいサトルが珍しく口を挟んだ。

「父親にしゃべらせてもいいかと」

「父親に?」

「はい、要は、勘当した理由から始まって、なぜ兄を弟の奴隷にしたかを喋らせて音声データに残せばいいだけですから。もちろん魔法部隊の解雇についても何かしら知っているはずです」


 沢渡元会長と光里(みさと)会長は理に適った方法だと解したのだろう。

 俄然やる気になっている。

「学校側としても、仕方なく強制退学にはしたものの人材としては超のつく人物だと知っている。早いうちに復帰できるよう、皆で動いてみよう。ただし八朔(ほずみ)、お前は競技の練習に力をいれろ。山桜さんと約束したからには、GPSで勝ち抜くことを目指せ」


 なんか俺だけ蚊帳の外状態?

 ま、でもこれで宮城先輩が学校に戻れるなら、俺は喜んで練習するよ。

 あとは任せたぞ、サトル。


 そののち、俺は日々、『バルトガンショット』と『デュークアーチェリー』の練習に励んでいた。

 どちらかを捨てねばなるまいということは十分すぎるくらいわかっているんだが、その踏ん切りが未だにつかないでいた。

 逍遥(しょうよう)に見てもらえばはっきりと言ってくれるような気もするんだが、なにせ授業も別行動。中々会う機会がない。


 俺はもう一度横浜国際陸上競技場の施設の使用許可を取り、より実践に近い形式で練習してみることにした。逍遥(しょうよう)に付いていてもらって。

 しかし逍遥(しょうよう)には会えなかった。メモも置いてきたが、読んでいる気配はない。ドアに挟んだものがそのまま。ということは、逍遥(しょうよう)、寮に帰っていないらしい。

 また一人での練習か・・・。


 とぼとぼと横浜国際陸上競技場まで歩く俺。

 と、また人にぶつかった。

 すみません、と相手を見ずに頭を下げた。

「元気か?1年坊主」

 はて、この懐かしさ満載のフレーズは・・・。


 俺がゆっくりと顔を上げると、目の前にいたのは、なんと、宮城聖人(まさと)本人だった。

「久しぶりだな」

「宮城先輩」

「俺はもう先輩じゃないよ。強制退学受けた身分さ」

「今、全校生徒の間に動きがあります、先輩の復帰をみんな待っているんです」

「岩泉から聞いたよ。でも、俺一人のことで学校側と対立するな」

「嘆願書を出すだけですから」

 本当の動きは言わなかったけど、魔法の上級者である宮城先輩にその手は通用してないかもしれない。その証拠に、宮城先輩は心配そうな顔をした。

「あの人は生半可なことでは折れないし、魔法力もまだまだ健在なんだ」

「では、沢渡元会長でも難しいと?」

「魔法部隊に属した人だからな、あの人は」

 

 あの人=父親。

 俺もいつの日か、父さんをあの人と呼ぶ日がくるのだろうか。


 でも宮城先輩はどこか吹っ切れたような表情だった。

 強制退学となり家から勘当されたことで、やっと自由を手に入れた。そんな顔だった。この何年か、本当に苦労したんだろう。

 俺には到底わかり得ない苦労。俺のリアル世界での両親との確執なんて、まだまだヒヨコのようなもんだと思う。

 

「ところでお前、どこに行くんだ?1人で」

「あ、はい。横浜国際陸上競技場で『バルトガンショット』と『デュークアーチェリー』の練習をしようと思って。でも1人だと、自分がどっちの種目に適しているかわからないんです」

「すげえな、GPSに出るのか。じゃあ、俺が少し見てやろうか」

 俺は嬉しさで飛び上がりそうになった。

 高等魔法の使い手である宮城先輩から直接指導を受けられるなんて、こんなに喜ばしいことは無い。

なぜって、宮城先輩は魔法を捨てないでいてくれたから。魔法を諦めないでいてくれたから。

「はい!あ、でも先輩はお時間大丈夫なんですか」

「俺は暇人だよ、今」


 なんか悪いことを聞いてしまった。

 頭を掻く俺に、宮城先輩は笑って返してきた。

「お前が申し訳ないと思う必要はないんだ。全て俺の責任でやったことだから。実際、長崎ではやらない、という選択肢だってあった」

「でもお父さんや弟さんに命令されたんでしょう、やらないわけにはいかなかったですよね」

「遅かれ早かれ、俺はこうなる運命だったんだよ。お前の心身に後遺症を残さなかったことだけが救いだ」

 俺はキョトンとした。

 最後はちょっと、いや、かなり辛かったけど、死ぬような首の締まり方じゃなかったから。それまでは別に命の危険はなかったし。

「そのように魔法をかけてくれたじゃないですか」

「お前が強いメンタルで向かってきたからこそさ。メンタルが弱い選手ならもう潰れていたはずだ」


 はて。俺は決してメンタルが強い方じゃないと思うんだが。亜里沙もそういうこと言ってたような気がする。

 メンタルが弱いと思っているのは俺だけなのか。

 いや、周囲の助けがあったからこそ、俺は今、ここでこうしていられるんだ。


 宮城先輩は、最後に会った時より少し長く伸びた髪をかき上げながら笑った。

「神経質細胞だっけ、お前が気にしてるやつ。あれは誰でも持ってると思うよ。上杉(かみすぎ)先輩のメンタルとお前のメンタルの違いは、周囲に対する感謝の念からきてるんだろうな。上杉(かみすぎ)先輩は元々周囲の助けは要らないというスタンスだったから」

「そうなんですか?」

「上意下達だっけ、あれは思わぬところに弊害があってな。上級生は自分で自分の首を絞めてる。自分が偉いと勘違いしてるからな。だからメンタルに問題が出てくるんだ。高校生くらいの人間がやるべきことじゃない」


 そうか。宮城先輩は昔一度高校に通ったあと魔法部隊に入隊したんだろうから、上意下達の良し悪しを肌で感じているんだ。

 去年紅薔薇に合格した時、魔法科にいれば即座に生徒会へ迎え入れられたことだろうが、魔法技術科であったばかりに自分の考えすら言える状況になかったのだろう。

 沢渡元会長は、そこで色々と間違いをおかしてきたわけだから。


 そんなことを考えながら、俺は宮城先輩と一緒に横浜国際陸上競技場の前まで歩いた。

施設の使用許可を確認し、まずメイングラウンドに足を向ける。

『デュークアーチェリー』に挑戦するために。

 真っ直ぐに姿勢を保ち、まず10枚試射する。命中がが5枚。外れも、あと少しというところだ。

 宮城先輩が俺の右肩を掴んだ。

「姿勢はいい。だけどこの肩のラインが少し下がってるな。気持ち上げるくらいで、あと10枚いってみろ」

「はい」

 肩のラインを少し気にしながらもう10枚立て続けに撃つ。今度は6本当たり。やった、少しだけど確率が上がってる。

「このまま練習していけばもっと確率が上がるぞ」

「はい!」

 メイングラウンドで20分練習して30枚命中。前に来た時よりも確実に命中率は上がった。


 次にサブグラウンドに移り、『バルトガンショット』の練習を始めた。

 マジックガンショットと変わりないと思って練習していた俺だったが、宮城先輩はちょっと不思議そうな顔をしていた。

「薔薇6の時より確率下がってないか?」

 そう言われて、一旦練習を止める。13分台で、前に練習した時と変わりないのだが。

「薔薇6の時はデバイスが優秀だったので、その違いかもしれません」

「いや、デバイスの有無でここまで命中率が変わるとは思えないな」

「やはり命中率下がってますか?」

「ああ、薔薇6では10分台ジャストに届く勢いだったよな。お前は動体視力も良いと思ってたから、魔法陣がクレーに代わってもそんなに変わりないはずなんだが」

「どこがいけないんでしょうか」

「もう一回撃ってみてくれ」


 俺はもう一度クレー射撃を開始した。

 今度は12分台。

 少しだけ確率が上がったが、宮城先輩の表情は相変わらず渋いままだ。

「うーん。姿勢もいいし動体視力にも問題なさそうだな。デバイスは関係ないから、問題があるとすればタイミングしかない」

「タイミング?」

「そう。魔法陣を見つけたときに脳から右手に「撃て!」と命令がいくだろう?で、右手はデバイスの引き金を引くわけだ。だけどクレーの出方は魔法陣とは違う。魔法陣より早いという話は聞いたか?」

「はい、聞きました」

「お前の場合、クレーが出たときに脳から右手に伝わる命令が少しずれているんだと思う。反射神経勝負なんだ、『バルトガンショット』は。今のが魔法陣なら、デバイス無しでも10分台前半に届くはずだ」

「俺、運動神経マイナスの男だからなあ。動体視力は悪くないんですけど反射神経勝負はまったくダメで」

「運動神経マイナスの男?」

 その言葉を聞いた宮城先輩は、その場で腹を抱えて笑い出した。

 あのー、そんなに笑わなくとも・・・。


 しばらく笑っていたが、ようやく笑いも堪えられるようになったらしい。

「あー、笑った笑った。悪い悪い」

「いいえ。笑われるのには慣れてますから。で。どうすれば命中率上がりますか」

「魔法陣に適した脳の命令系統をクレーに応用するのは難しいかもな。来月から試合始まるだろう?ここは、『デュークアーチェリー』一本に絞った方がいいかもしれない。『バルトガンショット』はこのまま練習を続けて、長い目でタイミングを計っていくほかないだろう。時間を気にするあまりクレーに慣れようとすると、今度は魔法陣のタイミングがずれてしまう。マジックガンショットは団体戦で必須だし、『バルトガンショット』は個人戦で必須になるだろうからな」

「個人戦で必須?」

「聞いてないか?3月の世界選手権新人戦では『デュークアーチェリー』と『バルトガンショット』が種目になる、って話」

「有力候補だとは聞いた気がします」

「そこに照準を合わせるのが賢いやり方だと思う」

 

 俺はひとつだけ懸念があった。この練習場はGPSに合わせて開設されたものだと聞く。GPSが終わったらどうなるんだろう。ああ、でも世界選手権の新人戦は3月だから、1月と2月も開設されるのだろうか。

 の前に、俺が世界選手権新人戦にエントリーされるかどうかが問題だが・・・。


 俺の心を読んだのだろう。

 宮城先輩は優しく俺の肩を叩く。

「大丈夫。今、紅薔薇の魔法技術科でGPSや世界選手権用のプログラムソフト開発を進めてるから。それにお前は伸びしろが素晴らしい。このままいけば確実にエントリーされると思う」

 亜里沙にはGPSなど興味はないと言っておきながら、俺の目はちょっと輝いたらしい。

「ホントですか?」

「俺が魔法技術科に入学した当初からプログラムソフト開発の話があったんだ。今は鋭意開発中のはずさ」


 ギクッ。

 また、宮城先輩に紅薔薇在籍中のことを思い出させてしまった。

「すみません、嫌な思い出を蒸し返させてしまって」

「謝ることじゃないさ。俺は技術開発に携わった経験が無いから、授業はすごく楽しかったよ。このデバイスはこうして作られているのか、とか、マジックガンショットのプログラムソフトには実際に関わったし」

「でも、いつも監視されている生活は苦しくなかったですか」

「どうかな」

 右目でウインクして、その話はここで終わりな、という宮城先輩。

 

 

 そういえば、あんな為体(ていたらく)でよく魔法科に受かったな、宮城海音(かいと)は。

裏口入学か?

 アホか。


 まあ、いい。

 俺は出場エントリーを『デュークアーチェリー』だけに絞り、宮城先輩に教わった箇所を気にしながら練習を続けることにした。


 宮城先輩。

 少しの間、待っていてください。

 絶対にあなたを紅薔薇に戻してみせる。

 それまで、折れずに、どうか・・・。


 翌日、朝一番に南園さんのところに行き、出場エントリーを『デュークアーチェリー』だけに絞ることを伝えた。もう変更日は過ぎていたが、毎年、当日になってエントリー変更など当然のようにあるから大丈夫だと南園さんは笑う。

 ごめん。

変更の手続きでは嫌味も言われるだろうから、南園さんには申し訳なかったが、『バルトガンショット』で良い成績を収められないなら練習の意味もないし、周りから1種目に絞れという話は前からあったし。


 宮城先輩とは、練習予約日にまた横浜国際陸上競技場の前で会うことにして競技場で別れた。先輩が今お世話になってる家と、寮は反対方向だったから。

こういうときスマホがあると便利だよなー、と思う。直前に何かあっても互いに連絡できるし。



ところで、宮城先輩の嘆願書の件は、今どうなっているんだろう。

俺は寮に戻ってサトルの部屋のドアを叩いた。

 応答がない。まだ色々動いているんだろうか。

 宮城先輩の話に寄れば、宮城父も魔法部隊出身なので沢渡元会長の魔法をもってしても真実を話してくれないだろうという。

 


どのように進めれば、学校に対して真実を明らかにできるのだろうという焦りが俺の胸の内に湧いてくる。

亜里沙も明も魔法部隊にいるくせに、てんで手伝おうともしない。

腹が立つのは俺の方だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ