GPS-GPF編 第4章
決戦の金曜日を終えた俺。
疲れたわけではないのだが、なんかこう、頭が蛻の殻というか、いつもぼーっとしていた。
寮の部屋に閉じこもり、サトルや逍遥が来ない限り人と話すこともない。
そんなある日、確か月曜日だ。
ドアをノックする人がいた。
宮城兄弟は退学したし、千代先輩にもう一度お札を書いてもらい貼り付けていたので幽霊現象ではないはずだ。
「はいぃ・・」
ドアを開けると、譲司と南園さんが立っていた。
あー良かったー。ちゃんと服着てて。
亜里沙ならまだしも、南園さんにパンツ一丁のところは見せられない。
「どうぞ・・・」
力なく招き入れる俺に、まず南園さんが反応した。
「どうしたんですか、珍しく疲弊してますね」
「うん、まあ」
譲司が俺の顔を覗き込んで目の前で手を振る。
「決戦で力使ったかな、明日からGPSの本格的な練習あるから知らせに来たんだけど」
「・・・俺、出ない・・・」
すると南園さんがすっくと立って俺に説教を始めた。
「何言ってるんですか!いけません!折角選出されたのですから、ご自分の力を思う存分出しきってください!」
「でも、競技種目わかんないし」
「それをご説明にきました」
なんか疲労感が半端なく、やる気も0%なのだが、南園さんの勢いに負けて説明を聞くことになった。
いつの間にか、俺の部屋のベッドには逍遥がちゃっかりと座っている。
「まずひとつめが『デュークアーチェリー』という競技です。一番近いのが弓道だと思ってください。違うのは、弓を使わず人さし指だけを使って50m先の的を30分に何枚射抜くか、それを競います」
「50m?こないだの5倍遠いの?」
「はい、学年が上になるとペガサスに乗りますが、1年生は立ったままです。ペガサスだと相性がありますから」
俺の頭の中では『???』マークが乱舞した。
「ペガサスって・・・実際にいるの?」
「はい・・・?」
逍遥がベッドから移動して南園さんの後ろに回り、口を出した。
「向こうの世界にはいないらしいよ」
「あら、そうでしたか」
南園さんは気を取り直したように持っていた小冊子に目を落した。
「あとは、上下左右から飛んでくる縦横5cmのクレーを、指だけで撃ち落とす『バルトガンショット』という競技です。こちらも30分で撃ち落とせる個数を競います。上限は100個になります」
これならマジックガンショットに似ている競技だと思った。
「マジックガンショットに似てるね」
「はい。違うのは、クレーが素早く出てくるということです。探して撃つ、というより反射的に撃つ感じになります」
「9月いっぱい練習に充てられるなら、なんとかなるかな」
「八朔さんの出場競技は、この2種目のうちどちらかになります」
「俺が決めていいの?」
「エントリーを両方にしてありますから、出場しない方はエントリーを外すずせばOKです」
「エントリーしたのに急に外すなんてできるの?」
「本当は1週間前までに報告が必要ですが、エントリーについては、どこの国も同じような状況だそうです。ちなみに四月一日さんは『バルトガンショット』にも出場予定ですが、結局1本に絞ると思います」
「よく御存じで」
逍遥が南園さんの後ろで答えると、部屋の中には笑いが漏れた。
小冊子を閉じる南園さんの手元をじっと見る俺。
「もっと競技があるのかな」
南園さんは小さく頷いた。
「はい。もう3種目。『スモールバドル』という競技で、小さなラケットで行うバドミントンのようなものになります。以前私が練習していたの、覚えてますか?」
「ああ、時間切れで先生に止められZた・・・」
「そうです、ポイント制で勝負を決します。3セットマッチで1セット21ポイント先取」
「そこは南園さんがエントリーされてるんだね。あとは?」
「あとは飛行魔法で空中戦を行う『エリミネイトオーラ』があります。こちらは、高度な魔法が必要になる競技です。我が校からは沢渡元会長と四月一日さんがエントリーしています。対人戦闘スキルを要求される『プレースリジット』には沢渡元会長と、もう1人、光里会長もエントリーしています。光流先輩も『バルトガンショット』にエントリーしています。
逍遥、スゲー。3年が出るような競技エントリーしているんだ。
メンバー紹介のときは色々思うところがあったから、はっきりと覚えてなかったんだわ。
南園さんによると、俺は自分が出場する競技を選ばなくてはならないらしい。
俺の場合、練習してみてできそうな方にエントリーするわけだが、2種目エントリーできないのかと聞いたら、できないことはないがGPFに出場するには2つとも6位以内に入る様調整するのは若干無理があるのだそうだ。
GPF。
競技ごとに、戦い抜いた中から6位までの人間が出場し、世界一を決める大会だ。
魔法W杯が国ごとの世界一を決める大会なら、GPFは個人の世界一を決する大会になる。
GPSで選出された6名が競うGPFは、12月に行われる。
その他にも3月には魔法大会世界選手権というビッグタイトルがあることを南園さんから聞いた。
これも個人のトップ選手が参加するわけだが、1年生は参加できないという。
種目は対人戦闘スキルを要求される『プレースリジット』と、高度な魔法が必要となる『エリミネイトオーラ』。男女ともに種目は変わらない。
1年では対人戦闘スキルを勉強しないため参加を制限しているそうだ。
逍遥みたいな魔法の使い手であれば、世界選手権にだって出場できる力はあると思うが、規程上、それは無理らしい。
たぶん、現在の段階で3年と魔法でどんな対決をしたとしても、逍遥は息も上げずに勝利してしまうだろう。そのくらい、逍遥は魔法を知り、かつ使い熟している。
前にも言ったが、紅薔薇で逍遥と対を張れるのは沢渡元会長しかいないと俺は思っている。
ビッグタイトルの話に戻ろう。
魔法大会世界選手権に出場できない代わりに、今年度から1年向けに魔法大会世界選手権新人戦というタイトルが新設されるという。世界選手権が終了した後に同じ地域で行われるため、事実上の新人王を決める戦いになる。
種目は、今のところ男子は『バルトガンショット』と『デュークアーチェリー』が有力候補らしい。女子は『デュークアーチェリー』と『スモールバトル』なのだとか。
そうそう。
3年は通常薔薇6後に引退するのだが、魔法の知識や実技に優れ、GPF等、各大会で6位入賞を果たした選手は薔薇大学に推薦入学できる道があり、3月の世界選手権を目標に掲げる選手も多いと聞く。
ちなみに、こちらの世界の大学は、世界共通で9月入学になるそうだ。日本では秋に当たるのだが、入試が暑すぎる真夏に行われるため、受験月を春に早めて欲しいとの要望が全国から寄せられていると聞いた。
俺のいたリアル世界では、春入学で入試は真冬。真夏も頭が働かず相当キツイだろうなと思うが、真冬の入試は、雪で受験校までたどり着けないかもしれないというまさかの事態が待ち受けている。都心で雪など降ろうものなら、大パニックに陥ってしまう。受験とは受難の歴史でもあるのだ。
さて。
俺は出場種目を決めるためにどちらが俺に合っているか試射しなければならない。
『バルトガンショット』と『デュークアーチェリー』。
クレー射撃と弓道を思い浮かべれば、要領はわかるだろうと譲司は言っていた。
50m先の的に当てる技術、たぶん今の俺では無理だと思う。15m先がそこそこ。
こないだの決戦は10mなので百発百中の勢いだったが、その5倍となると、全くもって、自信がない。
クレー射撃のほうがどちらかといえば練習次第で効率も上がってくると思うのだが。
まず初めに、『バルトガンショット』と『デュークアーチェリー』の設備がなされている横浜国際陸上競技場に出向いて、試射してみることにした。
勿論一人で。外野がいると、上手にできなかったとき、恥ずかしい思いをする羽目になるから。好んで恥はかきたくない。
2つのメインスタジアムに設けられた『デュークアーチェリー』で練習しようという魂胆だったのだが、これが甘かった。日本各地から集まった、施設を持たない高校の生徒が列をなしている。
『バルトガンショット』はサブスタジアムに設備が整えられているという。そちらも見に行ったが、これもまた、並んでいる高校生の数がすごい。
仕方なく、その日は施設予約だけ済ませて施設を出た。
俺が施設を使用できるのは、3日後。
どうしようか。種目選択は明後日までに提出しなければならない。
下を向き思案しながら歩いていると、ドン!と誰かにぶつかった。
「あっ、すみません」
慌てて上を向く俺。
俺がぶつかってしまったのは、沢渡元会長だった。ジャージを着て、トレーニング中なのだろうか。そのまま走り去ることをせず、俺の顔を覗き込む。
「八朔、何か悩み事でもあったか」
「沢渡会長。ぶつかってしまい申し訳ございませんでした」
「俺はもう会長ではない。それより、何を悩んでいた。GPSの種目か?」
「はい、今日は施設を予約せずにきたものですから練習できなくて。明後日には出場種目を提出しないといけないのですが」
「じゃあ、2種目に出場すればいい」
「僕の力では1種目が精一杯です」
「お前がこちらの世界に来た時に言ったな。『可能性を否定するな』と。エントリーなど、どうにでもなる」
「会長、少々アバウトな発言かと思われますが・・・」
「試合当日の朝にエントリー変更だってあるくらいだ、気にするな」
「はあ・・・」
「いい機会だ、俺の練習を見ていくか?」
沢渡元会長は施設予約を行っていたというので、結局、横浜国際陸上競技場に戻り元会長の練習を見ていくことになった。
沢渡元会長が出場するのは対人戦闘スキルを要すると言われる『プレースリジット』と、高度な魔法力がものをいう『エリミネイトオーラ』。
対人戦闘スキルって、なんだろう。
俺の周りには教えてくれる人がいなかったから、とても興味が湧いた。
『プレースリジット』は、ラナウェイに似た競技だった。
全員で行う鬼ごっこ。
ただし、魔法陣は使えず、ファシスネーターと呼ばれるスーツを着た人造人間のレプリカが合計100体も出てくるので、競技の中で生き残る確率は非常に低いとされ、最後まで残れるか否かの熾烈を極めた競技だそうだ。
ショットガンで生身の人間やファシスネーターを全部気絶させれば終了。終了時、残った人が20ポイントを獲得できる。
ただし、ファシスネーターはちょっとやそっとの魔法では倒れてくれない。ゆえに魔法も強いものになりがちだが、飛び出してくるのがファシスネーターとは限らないのでのっけから強い魔法を使うわけにはいかない。
そのさじ加減がプレースリジットの醍醐味とでもいうところか。両手撃ちを会得している選手は俄然有利になるし、その中でも有効魔法は限れらてくる。
生身の人間を魔法使用不可能にするまで撃ってはいけないからこそ、対人戦闘スキルのある者でなければ、この競技に参加する資格が無いというわけだ。
それでも、毎年大怪我をする参加者がいるらしい。にも関わらず、競技が毎年続行されるのには、よほど人気のある競技か、または何かやんごとなき理由があるのだろう。
沢渡元会長の動きを見ていると、『エリミネイトオーラ』にもエントリーされているものの、元会長としては然程興味がないらしい。飛行魔法で空中散歩のように歩いたり、上下左右への動きを確認しただけで、すぐに地面へと降りてきてしまった。
『エリミネイトオーラ』は、南園さんに聞いていた。飛行魔法で全員が飛び上がり、空中戦を繰り広げる競技になる。
特筆すべきは、この競技では全員の頭上にオーラの光が現れ、その光をロック・オンする高度な魔法が使用されることにある。程度の低い魔法では、オーラをロック・オンできない。
この場合の高度な魔法力とは、ショットガンで相手のオーラをロック・オンして相手の動きを止め、その身体を地上に戻す一連の魔法を休むことなくかけ続けることにある
その間に自分が攻撃される恐れがあるため、ショットガンの同時操作を覚えなければならない。
この競技は制限時間があり、自分が何分生き残ったかでポイントが変動する。
30分の制限時間内で、最後まで生き残れば10ポイント、30分未満~20分飛び続ければ8ポイント、20分未満~10分で6ポイント、10分未満~5分で4ポイント。5分未満は0ポイント。
考えてみれば、これも形を変えた鬼ごっこのようなものだ。
いや、乱打戦というべきか。
しかし、人間の光り輝くオーラをロック・オンするのは本当に大丈夫なのか?
オーラがまさかの傷を負ってしまったら、健康に生きていけるのか?
単純に考える俺。
そしたら沢渡元会長が教えてくれた。
オーラの光と呼んでいるが、実際のオーラではなく、画一化・統一化された20色の色を各人に振り分けそれを光り輝くオーラと呼んでいるのだと。
ゆえに、オーラを傷付けたとしても当人の健康には支障がない。
俺には半分くらいしか意味が解らなかったが、沢渡元会長が必死に説明してくれるので、思わず相槌をうちながら覚えたふりをする。
その実、俺は全然わかっていない。
理解したのは、対人戦闘スキルという用語の意味をまだ俺自身わかっていないこと、俺には対人戦闘スキルや高度な魔法力がまだ備わっていない、という客観的事実だけだった。




