GPS-GPF編 第3章
最初の対決はダーツだった。
体育館の側面に、点数表が2つ、並んでいた。
片方は陽が当たっていて、少し見えづらい。
もう片方は日陰に入っていて、点数が良く見える。
俺は別に点数を見ながら体制を整えるわけではないのでどちらでもよかったが。
亜里沙が俺たち2人を交互に見た。
「コイントスで決めましょうか」
すぐさま、宮城海音が反論する。
「不公平です、僕が日陰になるべきです」
亜里沙は比較的冷静さを保ちながら宮城海音の言い分を聞いた。
「不公平、とはどういう意味かしら」
「あなたは八朔海斗の友人ということでした。それだけでも僕は不利だというのに、コイントスなどでいかさまをやられたのでは納得がいきません」
「いかさま?」
段々亜里沙も三白眼になってくる。怒りたいのを我慢しているのがよーく分る。
宮城海音、止めておけ。
三白眼になった亜里沙は、物凄く怖い。
俺は何度か餌食になったことがある。
だが、やつは俺の顔など見ようともしないし、この分では、俺が何を言おうが不公平の一点張りで対決の開始を長引かせることだろう。
面倒くさい。亜里沙と宮城海音の話を終わらせよう。
「亜里沙、俺は日向でいいよ。どちらでもできてこそ、パーフェクトだもんな」
宮城海音が俺を睨む。
「ふざけやがって。第3Gのくせに」
悪態をついているのはわかったが、余りに面倒なので俺はわざと無視した。
体育館中央から壁際に移動する。
その間、俺は下を向きながら右手人さし指に気力を集中していた。
「ストップ」
亜里沙が俺たちを止めた。
的から10m。
なるほど。俺が練習していた時は的から15mくらい離れていた。その5mの差がどんな結果をもたらすかはわからない。
「15m程じゃダメなのか」
俺の質問に、亜里沙は答えない。明が代わりに小声で答えてくれた。
「お前は最初から15m離れてたけど、普通は10mなんだよ。15mじゃ誰も当てられない」
亜里沙は今も三白眼だ。怒っている。とても怒っている。怒っているのは宮城海音に対してだと思う。俺は怒られる筋合いが無い。
「最初は10mにしてちょうだい。結果が同じで勝負がつかなかったら15mに伸ばすから」
俺は亜里沙の表情に少しビビッていた。もう、変な言葉を発するのは危険モードだ。
「はい、わかりました」
俺と明が話してる間に、宮城海音は日陰にある点数表の前に立った。
腕を直角にあげ、的を確認している。
亜里沙の言うことも聞かず、練習体制に入った。
「宮城海音。練習はやめなさい。もう試合に入るわ」
その耳に聞こえていたに違いないが、亜里沙を無視して練習していた。かなり亜里沙を馬鹿にしている。そうだよなあ、見かけは第3Gの1年サポーターだもんな。
万年1年サポーターなんて、留年してると思われるんじゃないのかな。
それとも前に俺が聞き違えただけで、3年まで進級するのかな。
俺は、どこかこの対決が他人事で、勝たなくちゃいけないのはわかってるし勝ちたいと思ってるんだけど、この相手を前にして、少々閉口していた。
こいつ、やっぱりおかしい。
亜里沙がショットガンを空中にぶっ放す。
号砲のような音。
亜里沙は宮城海音を無視して試合に入ると決めたらしい。
宮城海音は漸く練習を止め、亜里沙の方にあるいて来た。
「両者、こちらへ。これから試合を始める。10回勝負。この種目に関しては、対人魔法、デバイスを使った魔法は認めない。デバイスを使う、または所持していた場合試合は没収とし、勝者としては認めない」
「はい」
返事をしているのは俺だけ。向こうはまた無視している。
行儀が悪い奴は嫌いだ。
俺は日向の方に足をむけた。
なるほど、眩しい。
でも、目を細めて斜から見ることで、的をはっきりと確認できた。1度確認できれば、それで構わない。
指に力を注ぎながら、俺は腕を的の方に直角に、まっすぐに伸ばす。
そして、発射。
肩に来る圧迫感を今日はあまり感じない。
的の100点のところに矢は刺さった。
間髪入れずに10回勝負で10回100点。合計1000点獲得した。
俺は的しか見ていなかったからだが、宮城海音は俺の点数がいたく気に入らなかったらしく、デバイスを所持しているのだと言ってきかない。
亜里沙と明をもってしても、この男は扱えないようだった。
すると亜里沙が瞑想したように目を閉じる。
まさか、離話?
透視しなくても離話できるなんて、スゲー魔法力。
たぶん、沢渡元会長か光里現会長に連絡を取っているのだろう。
副会長2人がここに来たとしても、どちらも1年生だし、まして譲司は魔法技術科だ。魔法科至上主義と思われる宮城海音は、譲司を貶めるようなことをいうだろう。
八雲は媚び具合が嫌なやつだったが、宮城海音はハッキリ言って、壊れてる。
俺は明と一緒に宮城海音に近づき、宮城自ら俺の身体をチェックしてデバイスを探すよう求めたが、それに対しては“デバイスを隠した”と、訳の分けらない主張を繰り返す。
さすがの明も、眉間にしわが寄りこめかみがひくひくと動いている。
何を言ってもころっと主張をひっくり返すものだから、呆れ果てて言葉にもならないのだ。
俺の話はどうでもいいから、お前がやってみろよと俺は思うのだが、デバイスを持っている人間の前ではできないと叫ぶ。
マジ、壊れてんぞ、お前。
20分くらい体育館の中で揉めていただろうか。
体育館のドアの向こうから、沢渡元会長と光里会長、南園さんが姿を現した。
「山桜。では、俺たちが立会人を行おう」
「沢渡くん、お願いできる?」
と、亜里沙が俺を小突く。
「なんだよ」
「もう1回、10連発お願いするわ」
「えー、さっきやったのに」
「デバイス持ってやったって疑惑あるらしいわよ」
「わかった、身体検査でもなんでもやってくれ」
すると、沢渡元会長が俺の方に近づいてきて、俺の身体を触ってデバイスを隠し持っていないか検査する。
「よし、持っていない。時間も押してるし、10回立て続けにやってくれ。宮城、お前も検査する」
「どうして僕が検査されるのですか」
「八朔だけじゃ不公平だろう」
「みな八朔の肩入ればかりしています」
「そういう問題ではない。対決するというから時間をとったのだ。やるのかやらないのかはっきりしろ」
宮城海音は・・・泣き出した・・・。
嘘だろ?嘘泣きか?涙出てないぞ。
俺、20発やるんだぜ。いくらなんでもひどいじゃないのさ・・・。
ま、いい。
早く終わらせて帰りたい。こいつの馬鹿さ加減には呆れてしまって何も言う気がしない。
俺はまた的の前に立ち、準備した。先程より陽が傾いて、俺の的も日陰になっていた。
腕を身体に直角に、真っ直ぐに伸ばし立て続けに発射する。
10発とも、100点。計1000点。
これで俺の実力は皆の前で発揮できた。
一方、宮城海音はといえば・・・小さなショットガン系のデバイスが長袖のジャージから見つかった。
普通は人さし指と親指のほかは握って矢を発射するから、中指から小指までは握っている。中指か薬指で押せば発射できるミニ・ショットガンのようなデバイス。俺が初めて目にするものだった。魔法技術科在籍の兄、聖人に作ってもらったのか。授業中もこれでいい成績を残していた可能性がありそうだ。
ズルい奴。
最低だな。
結局、宮城海音のデバイスは没収された。
普通なら、この段階で没収試合となるのだが、沢渡元会長は俺たちに試合続行を申し渡した。
たぶん、宮城海音と俺の力の差を宮城本人に十分に知らしめるためだろう。
デバイスなしでダーツに挑んだ宮城海音の成績は振るわず、10発中5発しか的に当たらず、それも50点という始末。全体で400点しか取れなかった宮城海音。
それだけでも俺と600点の差がついている。
やはり、授業中の成績はミニ・デバイスを使用してのものだったんだろう。
ダーツが終わると、体育館の中に衝立が立てられた。1人につき、7枚。
本当はダーツ中に立てたかったらしいが、宮城海音が“気が散る”と文句を言ったため時間のロスが生じている。
何が“気が散る”だ。
ミニ・デバイス使っておきながら。
透視ではデバイスを使うことはできないだろう。
それでも俺たちは2人とも、再び身体検査を受けた。
衝立から10m離れて立つ。俺はもう、面倒なので最初から手のひらを衝立の方に向けて翳す。
7枚の衝立の向こうに見えたのは、光里会長だった。『OK』という紙を持っている。
「光里会長がOKという紙を持って立っていらっしゃいます」
隣では、宮城海音がまた何か文句を言っている。
どうやら、俺の方はあらかじめ人も紙も決まっていた、と言いたいらしい。
その場にいる亜里沙の目が段々三白眼になってきた。キレそうになってるのが俺にもわかる。俺だってキレそうだ。
どこまでも自分本位でうるさいやつなので、仕方なくもう1枚衝立を用意し、その後ろに宮城海音の友人に何か書いてもらい立たせることにした。向こうの友人なら、俺は誰なのか知らない。紙に書いた名でしか分らないというわけだ。
8枚の衝立を覗くのは初めてだが、知らない人物が持ってる紙に『八朔海斗 消えろ by宮本』と書いてあるのが見えた。
失礼な奴らだなと思いつつ、光里会長が後ろに回り込み紙を回収したタイミングで答えた。
「八朔海斗 消えろ by宮本」と、書いてありました」
光里会長が苦笑いしながらギャラリーに近づいていく。
「宮本はどいつだ?」
手を上げた1年に拳骨をかまし、前に出る光里会長。
「OK,正解だ」
宮城の方も、同じ条件でという沢渡元会長の指示で、1枚衝立を追加し、奥に逍遥が立った。「はやく帰りたい 四月一日逍遥」という紙をデカデカと掲げている。
俺も透視していたので、逍遥が呆れ果てているのがよくわかった。
宮城海音は8枚の衝立では向こうが見えなかった。
1枚、また1枚と衝立が外れさていく。
3枚しか衝立が無い状態になってようやく逍遥を認識することができたようだが、紙に書かれた文字を読むことはできなかった。
逍遥が先程の定位置から動かなかったためだ。
ダーツの基本魔法であれじゃ、普通なら紅薔薇の魔法科には入れない。透視力だって並。どうやって魔法科に入れたのか俺としては謎だった。
ああ、並なら入れるのかもしれない。そこから反復練習で魔法力をつけていくのだから。
時間も押しているし、もう先輩方も早くこの騒動を止めたかったらしく、最後の飛行魔法を実施するため、俺たちは体育館を出てグラウンドに向かった。
グラウンドに到着すると、沢渡元会長が俺と宮城海音の方を向いて告げた。
「どんなデバイスでもいい。高く長く空中浮遊した方の勝ちとする」
「最低浮遊時間は何分ですか」
俺の問いに、沢渡元会長はきゅっと口元を結びもう一人の挑戦者、宮城海音にも分る様な大声で返答してくれた。
「最低10分。長ければ長いほどいい」
俺は、宮城海音の方を見ると、これ見よがしに手に嵌めていたバングルを外して亜里沙にポンと投げ渡した。
そしてわざとらしく光里会長に身体検査してもらったあと、人さし指で下から上にシュッと大きく弧を描いた。すると、練習通りに身体が10mほど空中に浮いた。そこから前後左右、上下宙返りと皆に見えるようゆっくり動き、そのままふわふわしていた。
宮城海音はバングルを重ね付けしたらしく、3mくらいの高さを飛んでいる。
おい、5m飛ばないとプラチナチェイスは出れないぞ。
俺と宮城海音は10分ほど自由に飛んでいたが、10分を超えると違いが出てきた。
無論、俺が落ちていくわけがない。
落ちていったのは宮城海音の方だった。
10分以上も上を見ている人たちも疲れただろうが、降りてこいと言われるまでは降りるつもりもない。
15分、20分と時間が経過する。
タイムアップ。
下から亜里沙の声がする。
「降りていいよー」
亜里沙と明、サトルが大きく手を振っていた。逍遥は満足そうに頷いている。
光里会長と沢渡元会長、南園さんも満足げに手を振っていた。
俺は上から宮城海音を探したが、何処に行ったのか姿が見えない。
逃げたか。
人騒がせな奴だ・・・。
結局その日を境に宮城海音とは連絡が取れなくなり、夏休みが明けてからは学校にも来なくなった。
学校側では、8月1日付けで兄の宮城聖人を、8月31日付けで弟の宮城海音を、ともに強制退学の措置を決定した。




