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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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GPS-GPF編  第2章

同じ1時間でも、時間を短く感じる時、長く感じる時がある。

 例えば、授業の1時間は凄く長く感じるけれど友人との茶話会は1時間なんてあっという間に過ぎていく。


 8月31日。俺にとっての決戦の金曜日がやってきた。

どちらかといえば、ここに至る時間が短く感じたと思う。いや、決戦決めて数日だからどっちかなんて関係なく短い。

 事実、決戦を前にしたせいもあるのだろうが、時の流れが早いのは、GPSに出たくないと駄々をこねていたのも大きかった。

GPSについては、エントリーを外してほしかったのは山々だが、正式エントリー済みだと我儘を許されるわけもなく、出場種目の最終調整に入らされていたのだ。

9月に入ったら、午後の授業ではGPSのためにトランポリンで体幹を真っ直ぐにしたり、基礎運動を学ぶ予定になっている。

GPS組は通常組と熟すメニューが違うのだ。



 俺は朝5時に起きて、宮城海音(かいと)との対決を前に、寮の周囲をゆっくりと走っていた。

 雑念を消すため、そして決戦に勝利するため。


 走りながらコンビニを探し、総菜コーナーと飲み物コーナーを回り、野菜ジュースと焼きそばパンを手に取った。お金は毎月振り込まれる奨学金の中から遣り繰りしている。大事なお金だ。

夜は寮の食事を食べているからほとんどお金もかからない。


 コンビニで思い出した。こちらの世界では24時間営業の店がない。遅くとも11時には閉まってしまう。

若者たちの夜間行動を抑制するためか、元々需要が無いのかはわからない。俺はリアル世界に居る時だって夜遅くにコンビニに行ったことはない。

うちの両親が許すと思う?だよねー。

 

 話が逸れた。

 普段なら朝から何も胃に入れない主義ではあるが、朝に何か食べると力が(みなぎ)るのが手を握ったときの力だけでも判る。

 

 てなわけで、コンビニ袋を引っ提げて寮に戻り、自分の部屋でゆっくりと食す。

 うん、今日もどうにか身体に力が(みなぎ)ってきた。


 このまま戦場に突入したかったが、最後のストレッチを忘れていた。

身体を伸ばし、背伸びをしてから床に座り足を90度に開き右左と足の親指を掴む。

 最初は身体が固くて、これすらまともにできなかった。親指に全く届かなかったのだ。

 今は徐々に身体もしなってきたようで、なんとか親指に触ることができる。

 継続は力なり。


 さて。

 時計を見ると、もう午前7時半。ゆっくり時間をかけて食事を摂ったから、胃や腸の調子もいい。

 俺は早めに寮を出て、単身、学校の体育館に向かうつもりだった。

 宮城海音(かいと)にどれほどの取り巻き、いや失敬、友人がいるのかはわからないが、俺一人でも決戦はできる。

 間に入るのは亜里沙と(とおる)だと聞いたから、安心感があったのも確かだ。


 寮のシューズクローゼットに手を伸ばし、自分の靴を掴んだ時だった。

「1人で行くなんて水くさい」

 後ろから聞こえる逍遥(しょうよう)の声とともに、サトルが肩越しに俺の顔を覗きこんだ。

「そうだよ、いつ声がかかるか楽しみにしてたのに」


 少し焦った。

 2人を置いていくつもりは毛頭なかったが、もし、向こうが1人きりだとしたら、俺が学年No1とNo2を率いて体育館に行ってもいいものかどうか、悩ましかったのが事実なのだ。

 でも、こいつら2人はそんなこと気にしていないらしい。

「僕らも一緒に行くから」

「そうだよ、だから1分待って」

 そういって、2人はシューズクローゼットから自分の靴を取り出した。


 学校までの5分。

 誰が主になるわけでなく、取り留めもない話をしながら魔法科の教室へと急ぐ。

 急いでいたのは俺の心だけで、実際には足取りもゆっくりを保っていたかもしれない。

 魔法科の教室には誰もいなかった。

 たぶん、宮城海音(かいと)は、もっと早く着て体育館で練習しているのだろう。

 

 俺も、ジャージに着替えるとすぐに魔法科の教室を出た。

元第3Gとして、全日本に選ばれた者として、負けられない戦いになる。


◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 体育館まで、逍遥(しょうよう)とサトルが制服のままついて来た。

 体育館に入った時刻は午前7時55分。体育館の時計を見たから間違いない。

 俺以外の、宮城海音(かいと)や亜里沙、(とおる)はとうの昔に姿を見せていたようだ。

宮城海音(かいと)の周りには、3人ほど友人らしき生徒が立っていた。

 

 俺の方を振り向いた亜里沙からゲキが飛ぶ。

「遅い、海斗(かいと)

「まだ午前8時になってないだろ」

「午前8時ジャストに着たらあんたの負けにしようと思ってたわ」

「なんだよ、それ」

「3年が言えないならあたしが言ってあげる。もう少し時間に気を付けなさい」

「5分前じゃダメってことか」

「試合開始が午前8時。5分でストレッチとか前運動完了できる?ミーティングにしたって同じ。開始時間10分前くらいまでに部屋入りしてないと、資料とか読めないでしょ」


 でた、必殺鬼婆攻撃。

「わかったわかった。もう午前8時だぞ、始めよう」

 宮城海音(かいと)は、終始無言でストレッチ運動を行っていた。


 亜里沙との会話で時間が押してしまったため、俺はストレッチなしで対戦に臨むことになった。でも、朝にジョギングして軽くストレッチも行っていたので心配はない。

 

 亜里沙が体育館中央に移動して、俺と宮城海音(かいと)の名を呼ぶ。

「八朔海斗、宮城海音(かいと)、こちらへ」

 俺と宮城海音(かいと)は呼ばれるままに体育館中央へ移動した。宮城の友人らしき奴らが何やら騒いでいる。

「そんな第3Gあがり、やっつけろ!」

「力もないくせに生徒会に(おもね)りやがって」


 その時だった。

「うるさい!黙れ!」

 (とおる)がギャラリーの方を向いてドスの利いた声で怒鳴った。

 生まれてこのかた、(とおる)が怒るのを、怒鳴るのを聞いたことがない俺はとても驚いた。

 お前でも怒ることがあるんだ、と。

 いや、これが(とおる)の真の姿なのかもしれない。

 俺が全てを知らなかっただけ。

 この場にきて、正直複雑な思いを胸に抱かざるを得なかった。


 しかし、そんなことを気にして落ち込んでいる暇はなかった。

 目の前に、対戦相手がいる。

 俺に対しずっと妬み僻み続けてきたこの相手。

 兄貴まで巻き込んで、俺のショットガンに細工をさせ、古典魔法をかけさせたせいで、俺は命の危険すらあった。

それも、普段の授業の中でならまだしも、薔薇6という威信をかけた戦いの中で。

 そのせいでお前の兄貴は捕縛され、たぶん、強制退学になるだろう。


 初めて宮城海音(かいと)と顔を突き合わせてみてわかった。

 一見飄々として見えるが、そばかすのある頬に薄い唇。三白眼にも似た冷たい目。目の中に温もりが全く感じられない。

 お前は誰にも何も感じぬままここにいるのか。

 お前には、情けという心が無いのか。

 今、お前の心にあるのは、兄である宮城聖人(まさと)が連行されたことへの逆恨みではないだろう。兄を完全に追い落としたことへの歓喜ではないのか。

八雲にも似た、自分ファーストの自己愛性概念。


 宮城先輩、いや、宮城聖人(まさと)もまた、こいつの犠牲になった1人なのだ、そう確信した。



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