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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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GPS-GPF編  第1章

約2週間にわたり開催された薔薇6も紅薔薇高校の大勝に終わった。

先輩たちの顔は一様に歓喜の表情で溢れていた。

帰路も20時間以上バスに揺られたわけだが、行きと違って皆、起きていてその口元は緩んでいる。眠ることもなくワイワイガヤガヤと話が尽きない。


 もちろん俺も紅薔薇の優勝は嬉しいし喜ばしい限りなのだが、ひとつ不思議なことがあり、それは俺を混乱の中に陥れたまま今も半ば信じられない思いで俺を包む。

最後の青薔薇マジックガンショット戦で後半に魔法のようなもので首を絞められ30分経過した後、急に魔法は消えた。

それ以降は俺に対する悪意の魔法らしきものをまったく受けていない。

それどころか、睨むような視線すら一欠けらも感じない。


 この事実を俺はどう受け止めればいいのだろう。

 犯人は、ただ単に俺の面目を潰したかっただけなのか。

 試合直後は単純にそう思ったのだが、本当は首を絞め続けて殺すのが目的だったのに、途中で止めたのではなかったか。

 もしそうだとすると犯人の思惑がうやむやになってしまうわけだが、俺としては、どうも釈然としなかった。


 誰が、何のために俺を狙ったのか。

 やっぱり、面目潰し?

 結局犯人捜しは暗礁に乗り上げ生徒会でも話題に上らなくなったという。

 亜里沙、お前、犯人がわかってるようなこと言ってたけど、実際には何も考えてなかったんだろう?

 頼りにならない幼馴染だな。


 9月の授業再開後、俺にまた災いが降りかかる様なら本格的に調べてもらわないと。

 俺は窓際の席で、皆と一線を画すように窓に頭をもたれかけて目を閉じた。



◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


俺たち魔法科生の夏休みも残り少なくなってきた。

特に俺は全日本に選出され、一から魔法を勉強したので夏休みと呼べる時間もほとんどなく、瞬く間に夏休みが終わりそうだった。

紅薔薇は前期・後期の2学期制。

8月いっぱいの休みを経て授業が始まる。9月末の定期試験を過ぎれば、後半の2学期が始まる予定だ。


 今日は8月24日。

魔法科の夏休み中の宿題は、何かひとつ、魔法を覚えること。

 簡単に思えるが、これは相当難しい宿題だと思う。

 無論、何もないところから魔法を考え出す人もいれば、誰かが極めている魔法を真似する人もいる。どちらも宿題として認められている。

 要は、自分が魔法で成長した証を見せる、というものだから。


 俺の場合、近くに逍遥(しょうよう)という存在がいて、逍遥(しょうよう)は色々な高等魔法の使い手なので真似をすれば宿題の完成。


 俺は今季の宿題をバングルなしの飛行魔法にしてみた。

 もう何度も飛んでいるし、失敗は無い。人さし指で下から上に弧を描くだけ。

地上10mくらいであれば宿題の題材としてもOKをもらえるだろう。


 というわけで、俺としてはもう、いつ夏休みが終わっても構わない。

 ただし、横浜は仙台に比べてかなり暑いので、なるべくなら涼しくなるまで夏休みが終わらないでほしい。

 なんだよ、この暑さ。

 仙台はもう少し涼しいよ。

 仙台くらいの方が過ごしやすくて俺は好きだ。田舎と揶揄(やゆ)されようが、過ごしやすいものは過ごしやすい。



 サトルは、得意な透視魔法をアレンジしたラナウェイ用の魔法。俺が全日本で使ったやつを宿題に選んだ。

 全日本のあれ、サトルは見てなかったけど、俺が1回だけやって見せたら、寸分(すんぶん)(たが)わぬ魔法を直ぐにサトルは習得した。

 サトルの魔法センスは相変わらず優れているし、見ていて惚れ惚れしてしまう。


 これで来季、サトルは全日本や薔薇6のラナウェイではスタメンに入れるだろう。

 他校(ほか)からしてみれば、あれは反則級の魔法と呼ばれるかもしれない。俺と一緒に出場したなら、勝利間違いなしのメンバーになる。



 夏休みも終わろうかという8月27日、学校に魔法科の生徒だけが集められた。講堂に集まったのは100人ほどの生徒。

 何事かと訝る俺に、サトルが情報をくれた。


 どうやら10月から始まるGPS(グランプリシリーズ)の選手選考らしい。

 これも生徒会が中心となり人選を決定するのだという。


 果たして、いかなる人物が選考会に駒を進めるのだろう。


 俺は全学年を通じた成績順から言えば男子で何番目かもわからない。もう第3Gでもないし、選出されようもないのだが。

 男子で1番に考えられるのは3年は沢渡元会長、2年は光里会長。1年では四月一日逍遥くらいだろうか。そういえば、逍遥はもうエントリーを済ませてあると沢渡元会長が俺がこちらの世界に来たばかりの頃に言っていた。


 高みの見物気分で講堂にいた俺。

 まさか、こんなことになろうとは・・・。


 南園さんがエントリー選手を読み上げ、選抜された生徒は全日本の時と同じように登壇する。

 沢渡元会長、光里(みさと)会長、四月一日(わたぬき)逍遥(しょうよう)

 俺は3人でエントリーが終わるものだとばかり思っていた。


 しかし、信じられないことが起こった。

 

 選手として名前を呼ばれたのは、6名だった。

3年沢渡剛・2年光里(みさと)陽太(ひなた)・2年光流(ひかり)弦慈(げんじ)・1年四月一日(わたぬき)逍遥(しょうよう)・1年南園遥・1年八朔(ほずみ)海斗(かいと)


 えっ?

 俺は一瞬、自分の耳を疑った。

何、今の。

エントリー選手として呼ばれたの、俺だよね、何で?

 それも、今度はサブではなく、れっきとした選手として。

 おい、それおかしいだろ、どう考えても。

 サトルの方が魔法力においてもスポーツの才能ししても上だ。

 なのに、なぜ俺の名が呼ばれる。


 俺はすっかり思い出してしまった。

リアル世界のことを。

泉沢学院で名前を呼ばれたときとまったく同じ。

 陰からこそこそとこっちを見る視線。

 すれ違いざまに大きな声で嫌味を言う連中。

 

なぜ高校に行きたくなくなったかを。

 結局、どこにいっても変わらないということを。


 同じ1年でも、逍遥(しょうよう)くらいダントツに魔法力があれば誰も何も言わない。

 でも、俺のように第3G上がりの人間はすぐ馬鹿にされる。

 何も俺が望んだことじゃない。

GPSがナンボのモンかは知らないが、行きたいやつが行けばいい。

俺は生徒会室に行って、エントリーを外してもらおうと考えていた。

こんなこと無理だ、俺には。


 ただし、今は先輩方の顔を潰さないように登壇しなくてはならない。講堂内を朦朧(もうろう)としながら歩いていると、またあの視線が俺の背中を襲った。

陰から見るだけのやっかみ視線とは違う。もう、俺を地の果てから憎んでいるといった強烈な視線。

 俺は一瞬立ち止まり、その辺をきょろきょろと見回した。特に睨まれる筋合いもないし、登壇しないわけにもいかない。

 その視線は、登壇してからも続いた。

薔薇6での対青薔薇戦でマジックガンショットが終わって以降は何も起こっていなかったので、頭の奥底で気に留めてはいたものの本当に久しぶりで、尚且つ物凄い憎しみがこもった視線だった。


 舞台上からさらりと見下ろしてみるが、2年や3年の先輩以外、知った顔はいない。1年の瀬戸さんやサトルは別としても。

 何か変だ。

 5分ほどでエントリー選手の紹介が終わり、生徒が三々五々に散らばっている。

 

 その時、急にサトルが俺の前に姿を現したので、俺は危なく声を上げそうになった。

 いや、実際に声を上げていたのかもしれない。

「どうしたの、海斗。凄く怖い顔してる」

「またあの視線を感じたんだ」

「長崎で一旦収束したんじゃなかったの」

「ああ。今日は魔法科しかいないよな」

「そういえば、宮城先輩の弟さんは魔法科だよ」

「なんだって?」


 高い壁が突然崩れて俺の方に倒れてくるような、恐怖感。

 早く逃げろ、逃げろ!と頭の中では叫んでいるのに身体が動かない。

 時間は刻一刻と迫りくる。

 早く逃げろ!!

早く逃げろ。

早く逃げろ・・・。


 俺の心の中の叫びが聞こえたのか、逍遥(しょうよう)が俺たちの方に近づいてきた。

海斗(かいと)。感じたか?視線」

「ああ、今迄で一番酷い」

「そろそろ生徒会にでもキツネを捕まえてもらうとするか」

「君はわかったの?犯人が」

「だいたいね。でも僕らが動くべきじゃない。生徒会が捕まえるべきだ」

「そういや亜里沙も“それはまだ言えない”って言ったよな。あの時点で犯人が分かってたのかな」

 逍遥(しょうよう)が大きな身振りで首を竦める。

「じゃあ3人で生徒会室に行きますか」



「その必要はないわ」

 後ろからの女子の低い声に驚いて俺は思わず振り返った。

 そこにいたのは亜里沙だった。


「あんたに嫌がらせした犯人は、もう捉えてあるの」

「捉えた?いったい誰だったんだ」

「宮城聖人(まさと)

 俺は目が飛び出るほど驚いた。

 あんなに話しかけてくれたり、面倒見のよさげな人だったのに。

「宮城先輩?じゃ、今睨んだのは、弟の・・・」


 俺は心臓をドキドキさせて亜里沙の次の言葉を待った。

「そう、宮城海音(かいと)ね。兄が生徒会に連行されたから、あんたを逆恨みしてんじゃないかしら」

「でも、俺、宮城海音(かいと)なんて顔も知らない。なんでその兄弟に恨まれるんだ?」


 亜里沙はこともなげに言ってのける。

「あんたが第3Gだったから」

「今はもう違うだろうが」

「まあ、聞きなさいよ。あんたがこっちにきてすぐに全日本に選ばれたじゃない?あの時、あんたと宮城海音(かいと)は同じ成績だったの。成績が同じなら第3Gを出場させるのが決まりだからあんたが選出されたけど、そこから恨みつらみが始まったのね」

 

 腑に落ちない。どうしても腑に落ちない。

「なんでそこで恨みが始まる?」

「1年で入学したばかりだから選考方法に納得いかなかったんでしょ。弟が恨みを兄に話して、兄はサポーターの地位を利用して嫌がらせを始めた。式神、デバイスの不調に紛失、そして身体への呪詛(じゅそ)、色々あったわよね。あれは全部宮城聖人(まさと)仕業(しわざ)だったってわけ」

「それにしたって、宮城先輩は魔法技術科だろ?どうしてそんな高等魔法知ってんだ?」

「宮城聖人(まさと)はね、元々日本軍魔法部隊大佐というエリート身分だったの。そこで西洋魔法の他、古典魔法を習得し戦っていたと聞くわ」

「待ってくれよ。そんなエリートがどうして今頃高校生やってるんだ?」


 亜里沙は少し小声になった。

「あるとき、宮城聖人(まさと)は義母である宮城海音(かいと)の実母を殺してしまった。海音(かいと)はそれを目撃したのね、黙っていてやるから命令を聞け、と兄を強請(ゆす)ったらしいの」

「なに、殺人て。首絞めたとか刺したとか?」

「飛び降りよ」

「え?押したの?」

「どうやらそうらしいわ」

「どうやら、って、宮城先輩がやったって証拠あるの」

「ないわ、宮城海音(かいと)の証言だけ」

「ふーん」

「一旦はそれで事を収めたらしいけど、弟がこれまた強欲な人間でね、兄がエリートなのを妬んで魔法部隊に匿名で密告したのよ。で、宮城聖人(まさと)は解雇。でもね、噂が流れてた、宮城は犯人じゃないって。義母は自殺したんだ、って」

「そんなら本人に聞けばいいだろ。つーか、兄弟仲悪くなってお終いだろ?」

「そこが不思議でね、犯行を自白するわけで無し、反論するわけでなし。ただ解雇には直ぐに応じたの」

 

 俺はピンときた。

「それ冤罪だろ。義母ってただの自殺じゃねえの」

「なんともわかんない。事実として言えてんのは、宮城聖人(まさと)が弟の言いなりになってるということだけ」

「やっぱり、なんか腑に落ちねー」

「結局、宮城聖人(まさと)は警察には行かなかった。宮城聖人(まさと)はいまだに母親殺しで捕まっていないの。だから自殺説が出たんだけど。その代り、なぜか弟の奴隷と成り果てた。そして去年、突然紅薔薇に入学してね。たぐい稀なる魔法力だから魔法科で欲しがったけど、本人が固辞して、魔法技術科に入学したのよ」


「そうだったのか、ってお前、どうしてそこまで知ってんの」

「あたしと(とおる)が魔法部隊にいるから」

「は?」

四月一日(わたぬき)逍遥(しょうよう)、ほとんど貴方の思った通りよ、魔法部隊の人間なの、あたしたち」


 逍遥(しょうよう)は途端に姿勢を正した。

 俺は状況がよく呑み込めないまま、腑抜けたように亜里沙の前に立ち続けた。

「で、なんでお前たち高校生やってんの」

「あんたのSPだもん」

「は?」

「今はそんなのどうでもいいことよ。それより、まだまだ続くわよ、宮城海音(かいと)の嫉妬は」

「兄貴捕まえたんなら弟の関与吐かないのか」

「あれは絶対に吐かないわ。魔法部隊でかなりの訓練積んでいるもの」

「じゃ、宮城先輩は捕まったとして、弟はどうすんだよ」


「弟の線は僕が調べてみましょうか?」

 知らぬ間に俺の前に進み出ていたサトルが手を上げた。

「僕はGPSに出るわけじゃないし、どうしても気になるから」

 いつものサトルなら俺の陰に隠れるのに、今日は亜里沙の目をきちんと見つめて話している。いくらか自信がついてきたんだろうか。

亜里沙はサトルの顔をまじまじと見た。

「気になるというと?」

「もし飛び降り自殺だとしたら、自殺しようとしてる人を助けようとして駆け寄る場合が無いでもない。もしかしたらそこを見られて殺人者に仕立て上げられた、という見方もできますよね」

 なるほど、それも有り得ないではない。

「じゃあ、俺も宮城先輩に会っていいかな」

 亜里沙は渋い顔をする。

「もう宮城兄の退学は不可避よ。それでも会いに行くの」

「だって俺当事者だもん。なんで俺を狙ったのか聞く権利くらいあるだろ」

「まあね、推奨はしないけど、会うことそのものは禁止もしないし、あんたのその気持ちも否定しないわ」



 こうして、翌日の8月28日、俺とサトルは宮城先輩が一時収監されている学内の留置場へと向かった。

 看守のおじさんに連れられて、面会室へ通される。

 TVでみる、あんな感じの面会室がなんと学校の中にある。俺にとっての紅薔薇高校七不思議になりそうだと不謹慎なことを考えながら宮城先輩が来るのを待った。


 面会室に現れた宮城先輩は、まず先に俺を見つけて、深々と頭を下げた。

「数々のこと、本当に済まなかった」

 それだけいうとまた頭を下げた。

自分からは言い訳もせず、ただ俺に向かって詫びた。サラサラの髪が、肩にかかるくらいに伸びていた。


 俺もサトルも、世間話をしにここに来たわけじゃない。

 聞きたいこと、言いたいことを全て宮城先輩にぶつけるつもりで来た。


 サトルが優しく語りかける。

「あなたが海斗に嫌がらせをしていたのは本当ですか」

「そうだ」

 それ以上、宮城先輩は何も語ろうとしなかった。

「なぜ」

 サトルの問いに対しては、口を開こうとしない。それが俺の一番知りたかったことなのに。

 

 俺は当事者として、宮城先輩に聞きたいことはあったし言いたいこともあった。それをいうつもりでこの席に着いた。

 なぜ、どうして俺が標的になった。弟が望んだからというほんの細やかな動機で、あんな酷い真似をしたのか。第3Gは俺が望んだことじゃない。それはあんただってわかっていたはずだろう。

あんたの弟は相変わらず俺に敵意を向け、あんたはこうして留置場にいる。おかしいとは思わないのか。弟のあの態度を見れば、今回の一連の出来事が全て弟の希望だったのが分る。それなら、俺を標的とした、その理由だけでも俺に話すべきだろう。

 真実は、あんたの真の心は、一体どこにある。


 しかし、少しやつれたようにさえ見える宮城先輩を前にして、俺は何も言えなくなってしまった。

 どうしてか、この宮城聖人(まさと)という人間は、第3Gなどというくだらない理由で他人を恨むような人間には見えなかった。

 やはり全てが弟に指示だったに違いないのだが、宮城先輩は黙ったまま、何も話そうとしない。まるで自分が全ての罪を負うかのごとく、その口は真一文字に結ばれていた。



 しばらくの沈黙の後、サトルは一度、背を正した。

 そしてアクリル板の面会板ごしに、宮城先輩の方に姿勢を傾けた。

「宮城先輩、いや、宮城聖人(まさと)さん。僕の目を見てください」

 それまで宮城先輩は下を向いていたが、サトルの言葉が聞こえたようで、頭を上げた。

 サトルは、宮城先輩の目を直視して、続けた。


「弟の宮城海音(かいと)さんに言われたのですよね。八朔(ほずみ)海斗(かいと)をたたき潰せ、と」


最初のうち、宮城先輩はYES・NOを言わなかった。ただ、俺を見ずにサトルだけを見たまま、大きく目を見開いた。息さえしていないように見えた。そして大きく見開いた目を俺の方に向けた。

俺とサトルを交互に見る宮城先輩。

「どうして」

 その言葉だけをようやく絞り出したように見えた。


 今だ。

サトルに続き、当事者であった俺が言わねばならない。


亜里沙との会話の中で、俺は宮城先輩を、もしかしたら弟に利用された可哀想なヤツなのではと思い始めていた。

「学校の中で、また睨まれました。弟さんの嫉妬は相変わらずです。でも、薔薇6では最後の試合が終わったら嫌がらせは全く無くなった。本当は俺に対して申し訳ない気持ちがいつも心の中にあったのでは?」


 宮城先輩はまた顔を下に向けた。今度は項垂(うなだ)れたままこちらを見ようとしない。その表情の中に、涙を浮かべたようにすら見えた。

サトルが看守のおじさんに了解をとりハンカチを差し出す。

 目頭をハンカチで抑えながら、涙で声を詰まらせる宮城先輩。

八朔(ほずみ)には、本当に申し訳なく思ってる。最後は命の危険さえあった。本当に悩みながら魔法をかけた」

 サトルが尚もアクリル板越しに宮城先輩へ問い続ける。

「悩んだならどうして・・・」


 また、沈黙が部屋を覆い宮城先輩は再び黙ってしまった。

 俺は、亜里沙に話を聞いた時から、今の宮城先輩が背負っている十字架を何とかして外したいと思っていた。

「あなたは誰にも真実を話していませんね。お義母(かあ)さん、宮城海音(かいと)の母親は、自殺したのでしょう?」


 宮城先輩は、涙を溜めながら俺の方を向く。

 一筋の涙がその頬を伝って宮城先輩の手に滴り落ちた。

 俺はなおも質問を続けた。

「なぜ弟の奴隷などに身をやつしてまで、ここにいるのですか」


 10分以上、部屋は無言の状態が続いた。

 看守さんがもう終わりの時間だと俺たちに告げる。サトルは、面会時間の延期を申し出て、その書類を(したた)めていた。

宮城先輩がぽつりと漏らした。

「俺が撒いた種だから」

「撒いた種というと」

 下を向き、今にも消え入りそうな声で、宮城先輩は話し出した。

「俺は亡くなった実母から大変可愛がられていた。ただ、俺の両親は不仲だった。なぜか離婚はしなかったが、小さな頃から母を慕う俺が、父にとっては不満であり疎ましかったのだろう。俺が10歳の頃、実母が病気で若くして亡くなると、父は直ぐに再婚した、それが海音(かいと)の母親で、自殺した義理の母だ。海音(かいと)は義母の連れ子だった。義母(はは)は俺に優しくしてくれた。まるで実子のように、弟よりも俺を可愛がった。父も弟も、それが気に入らなかったのだと思う」


「やはり自殺でしたか」

 

 俺の呟きを聞き、宮城先輩は俺たちの方に顔を向けキョトンとした表情を浮かべた。

「お前たち、義母(はは)の自殺を知っていたんじゃないのか」

 サトルが頭を下げ、宮城先輩に謝る。

「先輩、嘘をついて申し訳ありません、先輩のお義母(かあ)さんのことは、実は誰も知らないんです」

「・・・そうだったのか・・・」

「でも、だったら、なぜ弟の奴隷などに」

「岩泉、お前ならこの国の刑法を知っているだろう」

「はい、一応は」

「尊属殺人は即死刑だ」

「でも冤罪でしょう?」

「冤罪とするにはその証拠が全くない。弟は現場を目撃したと言い、俺は父と弟に殺人者呼ばわりされている」

「もしかしたら・・・」

「俺は脅されていた。弟の奴隷にならないなら、義母殺人の犯人として警察に届ける、と。それで父や弟の言うなりになっていた。俺は自分の命が惜しいただの噴飯ものなんだ」


 サトルはそこで一気に仕掛けた。

「でもあなたは、本当は殺してなどいない。先輩のお義母(かあ)さんは自殺したんですよね」

 宮城先輩はまたも下を向き、力なく頷いた。

「俺は義母(はは)を殺してなんかいない。あれは自殺だ、でも・・・」

「でも?」

「父が弟の言うことを信じて、すぐさまこのストーリーを作り上げた」

「弟の奴隷となり一生を過ごすというストーリーですか」

「そう。2人とも俺が相当憎かったんだろう。特に弟は俺に敵対心を抱いていた。そして魔法部隊にまで密告した。俺は部隊を解雇された。その続きが紅薔薇だったんだ」

「紅薔薇で魔法科の弟に尽くす兄を演じろと言われた」

「そう。何もかもお前たちの思った通りだ」


 下を向いたまま、頬を涙で埋め尽くしながら質問に答える宮城先輩を前にして、もらい泣きしながらも、サトルはしっかりと前を見ていた。

「長崎に行ったときは、あなたが何をしても弟さんには見つからなかったと思うのですが。やらない選択肢もあったわけでしょう?」

「広瀬だ」

「広瀬?広瀬先輩のことですか?」

 宮城先輩はようやく顔を上げたと思ったら、俺たちと目は合わせず、今度は天井を仰ぎながらサトルの最後の質問に答える。

「あいつは父が差し向けたんだ。俺が奴隷であり続けるための監視役さ」


 どうりで。いつも一緒にいるなと思ってた。仲良しだとばかり思っていたが、そういう絡繰りだったのか。

 なるほど、宮城先輩の父はそこまで息子を追い込んでいたのか。


 

やはり、宮城先輩は義母を殺していなかった。

 タワーマンション高層階の自宅から飛び降り自殺しようとしている義母を助けようとし傍らに寄ったところ、弟の海音がそれを見て人殺し!と騒ぎだしだ。

宮城先輩の身体が一瞬立ちすくんだ時に義母はマンションから飛び降り亡くなったという。

 自殺の理由は、普段自宅にいない宮城先輩にはわからなかった。ただ、駆け寄ったときに「海音(かいと)、この悪魔!」と低い声で叫んだという。

弟は義理父=聖人(まさと)の父に媚びて可愛がってもらっていたため、宮城先輩の主張は宮城父に受け入れられなかった。宮城先輩が義母を押して窓から転落しさせたという海音(かいと)の嘘を信じた。

だが宮城父は警察に行かず、遺体を直ぐ荼毘(だび)()す代わりに、弟の面倒を見るよう=奴隷になるよう宮城先輩は言い渡された。

家族の中だけで終わるはずだった闇のストーリー。


ところが弟の海音(かいと)は、魔法部隊に宮城先輩は殺人者である旨通報し、宮城先輩は部隊を解雇された。解雇前に部隊内で一応面談されたが、相手にしてもらえないと知り、犯行については認否を拒否したという。


魔法部隊を辞め実家に戻った宮城先輩に対し、宮城父は紅薔薇へ入学するよう指示、強要した。それも弟のため。

実際に兄弟二人で受験して聖人(まさと)だけが合格、魔法科から誘いがかかると、紅薔薇魔法科を受験し落ちた宮城弟は地団駄踏んで暴れた。

宮城父は宮城先輩の入学も取りやめようとしたが、紅薔薇からの合格通知は絶対的な権力を持っており、一度断ったら金輪際入学を認めない。そういった高飛車さがあるというもっぱらの噂だ。


結局、宮城父は聖人(まさと)に対し、魔法科ではなく魔法技術科へ入学するよう迫った。聖人(まさと)に選ぶ権利など与えられなかった。

その結果、宮城先輩は魔法科の誘いを固辞して魔法技術科に入学したのだった。



◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 これが今回の一連の事件の裏側だった。

なぜ宮城父が紅薔薇に入学するように指示したのかはわからないが、弟が魔法科で兄が魔法技術科という上から目線を楽しみたかったのかもしれない。

紅薔薇の魔法科至上主義が(もたら)した弊害。


 もちろん一連の犯行を起こし俺を苦しめたのは宮城先輩だが、実の父親にさえ事実を信じてもらえず弟の奴隷を命じられたという、あまりに哀しいストーリー。

 魔法部隊では大佐まで上り詰め満足のいく日々を過ごしていたというのに。


 かといって、俺が許したからとて、宮城先輩の犯行を絶無にすることはできないだろう。弟は罰せられず、犯行を行った兄だけが学校を追われるという最悪の結果。

 もしかしたらこれは、宮城海音(かいと)が自分の兄を潰すためだけに考えた、用意周到な計画だったのではないか。

今でも睨むくらいだから、俺に対し面白くないことはあるだろうが、実際には兄の聖人(まさと)を葬り去ろうとして起こした恐るべき事件なのではないかと思うと、体中に鳥肌がたった。


 エリートの兄を潰すためなら、宮城海音(かいと)は何でもやったに違いない。

 母の自殺でさえ、宮城海音(かいと)が自殺教唆(きょうさ)した可能性だってある。



 宮城海音(かいと)

 お前は狂っている。



 サトルと2人、重苦しい空気の中、寮までの道のりをゆっくりとした足取りで歩く。

 俺が最初に言葉を出すべきだと、ふと思った。

「なんか、切ないな」

「うん」

「俺はもう、宮城先輩を恨む気持ちは無いよ。弟が全ての元凶なんだと思ってる」

「そうかもしれないね」

「絶対そうだよ、弟の狙いは俺じゃなくて、宮城先輩を追い落とすことだったんだ」

「その可能性は大きいね」

「俺、何とかして宮城先輩が退学にならずに済むよう学校側に掛け合ってみようかな」

「海斗、それは難しいと思う。やったことがあまりに大きくなり過ぎたから。試合をぶっ壊して君の命さえ危なかったんだよ」

「そうか。何か宮城先輩が浮上できるような案がないもんかな」

「僕には思いつかない。逍遥なら・・・」

「逍遥じゃ“罪償ってから言いやがれ”とか言いそうだよ」

「そうかも。ただ、生徒会や学校側にキミとしての嘆願書を出す分には構わないんじゃないかな」

「うん、亜里沙たちに聞いてみる」

 そういって、俺はサトルと寮の玄関前で別れた。

 逍遥はその日学校から直に何処かへ行ったようで、夜になっても寮には戻っていなかった。なんだかんだ言っても逍遥の意見を聞きたかった俺としては、残念な夜になった。


 翌日8月29日の朝、まだ逍遥は戻っていないようだった。

生徒会はGPS発表後その準備に追われ、また忙しい日が続くらしい。亜里沙や明がいるかどうかわからなかったが、選手としてのエントリーを外してもらいたかった俺は、夏用の制服を着て寮を出た。



学校に行くと亜里沙がちょっと顔を引きつらせながら校門のところで俺を待っていた。


「どうだった」

 宮城先輩との会話のことだと直ぐに分った。

「全部話してくれたよ」

「どうやってはかせたの?」

「サトルが突破口開いて俺がダメ押しした感じ」

「ふーん。学校側には話さなかったのに、あんた達が行って1回目で話すとはねえ。ちょっと意外」

「俺が当事者だったのもあるし、義母の殺人が冤罪だったからだろ、きっと」

 俺は昨日の宮城先輩との会話を思い出し、涙が出そうになり下を向いた。

「哀しいストーリーだよ。俺に対してやったことは責任取らなきゃいけないけど、事件の首謀者は弟に違いないんだから」

 そういって顔を上げると、亜里沙は、やっぱりね、といったような白けた目つきをしている。たぶん、俺の考えがお見通しなのだろう。

「なあ、俺が嘆願書書いたら少しはお(とが)めが(ゆる)くなるってないかな」

「無理ね」


 一言でバッサリと切り捨てる亜里沙に、なんとかして食らいつこうとする俺。

「なんで」

「あれだけの事件おこしたんだもの」

「それだって弟の差し金じゃないか」

「たとえそうであったとしても、(ことごと)く果ては命を狙うまでの魔法をかけた。学校側だってきつい処分下さないと、また模倣者が出る、って思うわ」

「あのくらいの魔法の使い手いないって言ったろ」

「それとこれとは次元が違うの」

「どう違うんだよ。何とかして罪軽くなる方法ないのか。全部弟が仕組んだことなんだから」


 俺が段々ボルテージを上げていくのを危惧(きぐ)したんだろう。

 亜里沙は上手いこと話を変えた。


「ところであんた、なんで今日学校に来たの?まだ夏休みよ」

「エントリーを外してもらいに来た」

「エントリー?GPSの?」

「そうだよ、俺には力がない。サトルの方がよほど力があるのに、なんで俺なんだよ」

「さあねえ」

「だろ?あんたの方が魔法力が勝ってるから、って直ぐに言えないだろ?」


 亜里沙の目が泳いでいる。

 どうやって俺の行動を思い留まらせればいいのか、頭の中で言葉を探しているんだろう。

 でも、こればかりは譲れない。

 選手には、俺よりサトルの方が適してる。

薔薇6でのサトルの活躍を見た人間なら、誰だってそう思うはず。


「岩泉くんのが適してるか。まあ、そりゃそうだわね」

「だろ?なら何で俺をエントリーしたんだ?」

「世界に通用するからじゃない?」

「なんだよ、それ」

「GPSは世界各地を転々としながら、1人で戦うメンタルないといけないからね。今の岩泉はまだ1人で戦うメンタルに達してない」

「俺ならいいとでも?」

「まあ、岩泉くんよりは」


 俺はなんだか身体の力が抜けていくようだった。

 俺は決してメンタルが強いわけじゃない。

 逍遥やサトル、そして何より亜里沙と明がいるから、周囲に助けられてこちらの世界でもこうして生きていられるだけだ。

 

 読心術を使ったのか、心からそう思ったのかは分からないが、亜里沙が鼻をこすりながら呟いた。

「あたしと明はいつでもあんたの傍にいるわよ」

 急に、泣きたくなってくる俺。

 あ、だめだ。目に来た。

 この顔を見られたくないから、俺は後ろを向いて腕で涙を拭いた。

 

「だから、行きましょう。あたしと明と3人で」

 亜里沙にしては、かなり優しい言葉。

 天邪鬼(あまのじゃく)になった俺は悪態をつく。

「全日本でも薔薇6でも、生徒会役員室にこもりきりだろーが」

「何かあれば飛んで行ったじゃない」

「ホントに3人で行けるのか」

「約束する」

「なら、今回は我慢する。何かあったら、サブはサトルにするから」

「わかったわ」


クールダウンした俺は、また宮城兄弟の話を蒸し返した。

「なあ、亜里沙。宮城弟、あれ何とか罰することできないのか。兄貴だけ追い出すんじゃ余りに可哀想だよ」

 最初亜里沙は面倒だといった呆れ気味の顔をしていたが、一旦目を瞑り、誰かと離話をしているように見えた。

 そして、どうしてか、俺に向かい合って安堵の表情を浮かべながら、俺の左肩を優しく(さす)った。

 なんか嫌な予感がする。

「なあ、少しは考えてくれよ」

「でも、弟のほうは証拠がない。今も遠くから睨むだけだから犯罪にはならない。で、殺人云々はまた別として、そんなにあんたに対して文句があるなら、あんたと宮城海音(かいと)の3本勝負でもしようか、ってことになってねえ」


 俺の眉間に深い縦ジワが寄る。

「げっ、誰だよ、決めたの」

「生徒会」

「3本勝負とかって何やんだよ。俺、まだまだ魔法力ないぞ」

「授業で教えることしかやらないわ。全日本とかの種目じゃ、あんたに有利だから。透視とダーツと飛行魔法かしらね」

「ダーツって、あの人さし指で撃つ、あれか。あれなら俺も1回しか習ってないな。透視と飛行魔法は自分で練習したものを出して差し支えないんだろう?」

「ええ、それで構わない。あんたとの間にどのくらい差があるのかを見定めてもらわないとね。いつまでも恨みつらみが続くもの」

「仕方ないなあ。じゃ、受けるとするか。ホントにそれで恨みつらみのあの敵意が消えてなくなるんだろうな」

「たぶん」

「なんだよ、頼りないなあ」

「あたしに聞かないでよ、あたしは宮城海音(かいと)じゃないんだから」



 というわけで、決戦は8月31日、金曜日の午前8時と決められた。夏休み最後の日。全く迷惑な話だ。俺はもう宿題終わったからいいけど、もし終わってなかったらと思うと寒気がする。

 生徒会も、夏休み後までこんなばからしいことに付き合っていられないというのが本音だったんだろうが、なら、なぜ勝負することに決めた。

 勝負しただけで、果たして相手は納得するんだろうか。

あそこまで執念深いやつなのに。


 決戦まで中1日あったので、俺は仕方なく翌日の午前中、学校の体育館に行き3種目の練習をすることを決めた。

 寮に帰ると、逍遥(しょうよう)に会った。なんか久しぶりに逍遥(しょうよう)の顔を見たような気がする。

 俺が制服を着ていたのが不思議だったようで何事かと聞かれたが、GPSの話は長くなりそうなので、決戦の話だけを掻い摘んで話した。

 すると逍遥(しょうよう)は乗り気になって、明日の練習に付き合ってくれると言う。

 俺が頼んでもいないのに、サトルの部屋まで飛んでいき、サトルをも明日の練習に付き合わせることになった。

 休みの日まで学校に行きたくないだろうに・・・。

 でも二人は結構楽しそうに決戦の模様を想像していたりする。

 そうか、決戦に出るのは俺だから、高みの見物、というか宮城海音(かいと)の鼻っ柱をへし折って欲しいのだろう。

 

 それについては俺も異論がない。

 卑劣な手を使って兄貴を学校から追い出そうなどという不埒な輩は、紅薔薇には要らない。宮城海音(かいと)も同時に退学すればいいのに、と俺は思っている。

 でもまあ、そういう連中に限って自分だけは特別、などと勘違いしたりしてるものだ。

 明日にはその身に、甚だしい勘違いだということを嫌ってほど教えてやるよ。


 待ってろ。

宮城海音(かいと)



 翌日朝10時。

 職員室で体育館の鍵を借り、鍵を開けてガラガラ、と扉を開ける。

 

 そういえば、初めてダーツをしたときは亜里沙と(とおる)が付き合ってくれたっけ。南園さんにやり方教えてもらって、平均85点出したんだった。


「人さし指に意識を集中して、腕を直角に伸ばし、発射する。これが一連の動きです」


 そう南園さんに言われたことは今でも覚えてる。

 南園さんにもしばらく会っていないけど、元気にしてるのかな。副会長として毎日忙しくしてるんだろうな。


 とにかく、今の俺がどのくらい成長したのかは、このダーツが物語っていると思う。

 練習した一度きりは、4か月あまり前のことだから、腕が鈍っているかもしれない。でも、そういう事情で対決するのなら、俺の100%を出しきってみたい。

 体育館のダーツ場に行き、15m離れた場所から、右手人さし指に意識を集中し、親指と人さし指を開き、腕を身体に対し直角に伸ばして、的に向け発射した。

 ズシン、と肩にくる圧迫感。

 なんと、100点。

 20回以上は挑戦しただろうか、すべて100点だった。4か月前、85点で満足していたのが嘘のようだった。

 たぶん、マジックガンショットの練習が活きているような気はするが、それは言わないでおこう。

 あれとこれとは全くの別モノだし。こちらは魔法の基礎だというし。


 透視はどこまでを標的とするのか分らないが、授業でどういった透視をしているのか。サトルが教えてくれた。

「授業で行ってるのは体育館に衝立(ついたて)を3枚から7枚くらいまで立てて、どこまで見えるか練習する方法だよ。普通の人は3枚が限度。僕は得意魔法だから7枚全部いけるけど」

「そんなら、衝立(ついたて)立ててもらえるか?」

「OK」

 逍遥(しょうよう)とサトルは楽しそうに衝立(ついたて)を7枚準備した。

 逍遥(しょうよう)が、第8の衝立(ついたて)として7枚目の後ろに逍遥(しょうよう)かサトルが座っているのでそれを当てて欲しいという。

 俺は1枚目の衝立(ついたて)から15m離れた場所から人さし指でぐるりと円を描く。すると、一番奥に逍遥(しょうよう)のあっかんベーをする顔が見えた。

逍遥(しょうよう)、あっかんベーするなよー」

 笑いながら逍遥(しょうよう)が出てくる。

「ジャストミート」


 そして逍遥(しょうよう)がまた衝立の向こうに消えた。

 今度は、円を書かないで、薔薇6のとき見えたように、何もしないでどこまで見えるか試してみた。

 俺の透視力は格段に進歩したらしく、サトルが鏡を見て髪型を直している姿が見える。

「サトル、髪型は大丈夫だから。鏡が無くてもいい男だよ」

 飛んで出てきたサトル。

「すごいすごい。8枚目を射た人なんてここにはいないよ」

「そうか?このまま練習すればあと何枚か行けそうだけど」

 逍遥(しょうよう)がにっこりと笑う。ちょっと不気味な笑顔。

「それは決戦の中でわかることさ。明日の決戦でね」

 俺は基礎魔法がパーフェクトで動作していることが嬉しかった反面、明日の決戦の理由を思いだしがっかりする。

「なんかアホらしい。なんでこんなことしなくちゃいけないんだか」


逍遥(しょうよう)は俺の言葉を遮るように、右手を俺の顔の前に突き出した。

「宮城聖人(まさと)の方は?」

 俺は何も知らなかったので言葉に窮していたが、代わりにサトルが静かに声を揚げた。

「生徒会の調べには淡々と応じてるみたいだよ」

 俺もそこは興味があったというか、ぜひ知りたい情報だったので目を輝かせてサトルの話に耳を傾けながら応答した。サトルはどこでそんな情報手に入れたんだか。譲司か?

「殺人云々はどうなってるの」

「そこは否定してるらしいよ。義母が自殺しようとしてるのを発見して駆け寄ったら、弟に殺人者呼ばわりされて、父親にも真実を信じてもらえなかったって。そんで、父親からの命令で紅薔薇に来て、弟の命令で俺を狙ったと」

「誰が聞き取りしてるの」

「じゃーん。沢渡元会長。沢渡元会長って、国分事件の時も五月七日(つゆり)さんに真実喋らせたんでしょ、だから今回も真実が出てくると思う」

 逍遥(しょうよう)もその情報には非常に満足しているらしく、1回咳ばらいをして言葉を紡む。

「そうか、僕も胡散臭い弟だなと思っていたんだ」

 それなのにサトルは逍遥(しょうよう)の言葉をスルーするように一気に話を進めた。

「広瀬先輩は監視役だったみたい、父親が寄越したって」


 逍遥(しょうよう)はホーッという表情でサトルと俺に同時に見つめつつ、最後に溜息を洩らしながら一言だけ発した。

「弟の命令を忠実に熟すか見張っていたというわけか。なるほどね」

 そのあと、俺と逍遥(しょうよう)は話すでもなく互いの顔を見るでもなく、ただ空を切るように今のやり取りを心の中で反復していた。いや、確認したわけじゃないけど、たぶんそうだと思うんだ。



「ちょっとお、2人とも手伝ってよ」

 サトルが1人で衝立(ついたて)を片付けながらぷんぷん怒っている。

 ああ、一緒に片付けるから待っててくれ。


 最後に飛行魔法が残っている。

 俺たちは体育館を締め鍵を掛けてからグラウンドに移動した。俺はバングルを取ってサトルに渡し、右手には何もつけていない。

 そのまま、右手に力を込める感じで下から上に動かすと身体がふわりと浮き始め、右手を1度だけ下から上に大きく弧を描くように振りかざすと、地上10mほどまで上がることができた。前後左右、上下、宙返りもできるようになった。

うん。このくらいできれば、普通なら勝負に負けることはあるまい。


 ただ、逍遥が考えあぐねている。

「対人魔法とか、無許可デバイスを秘密裏に持たれると厄介だよね」


 どこからか亜里沙の声が聞こえる。

ここに居ないところを見ると、離話で俺たちに話しているのだろう。

「その辺は任せて。対人魔法を少しでも使う兆候があったら、その場で試合は没収。デバイスも探知機を作動させるから。これまでも対決合戦はあったの。そのたびに試合没収が何度あったことか。あたしと明が勝負みるんだけど、あたしたち永遠の1年だから、馬鹿にされてるみたいでね」

「永遠の1年?亜里沙、お前、ホントの年いくつよ」

「女性に年を聞くとは失礼千万。やだもんねー、おしえなーい」

「まあいいや。でも、相手のファウルだけは、きちんととってくれよな」

「OK。任せて」



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