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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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薔薇6編  第15章

翌日朝。

 今日から最後の対戦が始まる。

 相手は青薔薇高校。会場は薔薇大学グラウンド。青薔薇高校は薔薇6校中、一番厄介な学校だ。なんつっても、態度が悪い。他校(ほか)の薔薇高校はほとんど礼儀を(わきま)えているというのに、青薔薇は不良の集まりかと思わせるような生徒多数。学校全体の品位も地に落ちるというものだ。

青薔薇の場合、応援も品位が無いと聞く。


俺は昨日の事もあり、試合の応援はキャンセルし、身体に異変が起こらないかどうか自己検査していた。

 こうして部屋にいる分には何も起こらない。結界が張ってある部屋だということもあるんだろう。

 問題は、明日午前俺の身体に異変が見受けられるかどうか、だ。

 犯人は応援席から術を放ったのか、それとも時間差で俺の試合が始まってから魔法の効果が発揮されるのか。

 それすらわからない。

 皆はどう思っているのかわからないが、俺は元々神経質で、今も神経質細胞が身体中を(むしば)んでいる。


「ちくしょう」

 独り言を言いながら、俺は一旦部屋を出た。食堂に降りて遅めの朝食を摂るためだ。

 食堂の中はガラガラで料理の匂いが(わず)かに漂ってるだけだった。

混んでいる時の熱気はほとんど感じられない。皆、応援に行ったのだろう。

 俺も毎日のように応援に行ってたから、この時間帯の食堂を覗くのは初めて。とはいえ、 何も食べる気にはなれず、野菜ジュースを2本トレイに載せた。直後に後ろから声が聞こえ、そちらの方を振り向いた。


 後ろに立っていたのは宮城聖人(まさと)先輩と広瀬翔英(しょうえい)先輩。いつもはもっと早い時間帯に会っていたような気がするが。

「俺が寝坊しちゃって、こいつを巻き込み今日はエスケープ」

 宮城先輩の言葉に広瀬先輩が頷きながら、2人とも俺のトレイを見ている。

 やばっ、誰もいない時にしかやらない究極の食事法だってのに、よりによって、選手のサポート役であるこの2人に見られてしまった。

「なんだー?ダイエットする体型でもないだろ。もっと食えよ」

 宮城先輩が笑いながら俺の首元を見たような気がした。

 ハエでも止っていたか?

 今、やっと気づいたのだが、俺は広瀬先輩の声をほとんど聞いたことが無かった。俺の前で話さないだけなのか、それとも元々無口なのか。俺には見分けがつかない。

 サポーターとして帯同するからには、選手との意思疎通は必須だろう。たぶん、俺を前にして特段話すことがないだけか。

 その割には、目が物を語っているというか。早く消えろと言ってるようにも感じられる。


 俺は2人に丁寧に頭を下げた。

「僕、今日は午後から応援の予定ですので、失礼します」

「おう、じゃ、またな」

 

 なんて言ったが、俺は今日応援の予定はない。

 薔薇大学グラウンドでの青薔薇高校との試合だったから本当は観戦に行きたかったんだが、亜里沙以下諸々に外に出ないようお達しを受けてしまった。理由は、ホテル内での異変なら亜里沙がキャッチできるからだという。

 こいつならやりかねない。どういう魔法使えるのか知らないけど、座ったままで俺を助けてくれそうな予感がする。

 相変わらず、こっちの世界ではすげえやつだなと思う。

 いつもは昼間いないらしいが、「今日は(とおる)共々、特別あんたのためにいてあげる」との走り書きメモが部屋の前に落ちていた。

 701に顔でも出してみるか。トレイを片付けながら、俺はそんなことを考えていた。

 客用EVに乗り7階で降りる。


 701は客用EVの方が近い。

 ドアの前に立ちゆっくりと2回、ドアをノックした。

「はい、どなたですか」

 言いながらドアを半開きにする南園さんが俺の真ん前に顔を出し、南園さんは恥ずかしそうに下を向いた。

八朔(ほずみ)さんでしたか、いかがですか、体調の方は」

「至って元気。ほら」

 

 俺は万歳をしながら身体を伸ばした。

 その様子をみた南園さんの態度がガラッと変わった。

「待ってください。山桜さん!長谷部さん!」

 南園さんは、部屋の中にある机にぶつかりながらも、わき目もふらず702の部屋に飛び込んだ。

「どしたのお」

 脳天気お姉さん、亜里沙の声が響く。

「なんですってえ」

 702から、これまた机にガンガンぶつかりながら亜里沙と(とおる)が出てきて俺の真ん前にくる。

「あんた、今日ちゃんと鏡見た?」

「見たよ、髪のハネ直したもん」

「これ、そんときあった?」

 南園さんが震える手で俺に鏡を手渡した。みんな、何をそんなに驚いているのだろう。

 俺は鏡を受け取り、顔を映す。

「もっと下!」

 下?首?言われるままに角度を変えて鏡の中を覗きこむ。


 瞬間、ゾクッとして体中に鳥肌が立った。

 首に絞められたような跡というか、チョーカーを巻いたような跡というか、幅1cmくらいの赤アザが出来ていたのだ。


 さっき宮城先輩や広瀬先輩に会った時はなかったはず。だって、こんなに目立ったら何か言われるはず。いや、宮城先輩はちらっと首に視線を外した。

 でも、こんなに目立ってはいなかったんだろう。


 最後の最後で、こうきたか。

 これはなんのサインだ?

 いつ、何をやらかすつもりなんだ?


 亜里沙と(とおる)が代わる代わる破邪魔法をかけてみるが、アザが消える気配は一向になかった。(むし)ろ、色が濃くなっているようにすら感じた。

 でも、息が苦しくなるような気配もない。色だけのお飾りなんだろうか。

 2人の表情は段々険しくなり、洩らす溜息の大きさは増した。


「ダメ、あたしでも解けない。(とおる)は?」

「俺でも無理だ。こんな高等魔法、学生の身分でかけられるはずがない」

「ほんとにね、出来るとしたら・・・」

 

 亜里沙の言葉に反応した俺。

「出来るとしたら、誰なんだ?」

 亜里沙は俺の首を見続けながら愛想笑いを浮かべた。

「魔法の神様?ってところね」

「茶化すなよ、知ってんだろ、どういう人間がこんな魔法使えるか」

「怒んないでよ、海斗。今はそのことより、これがいつどういう状況でどうなるか見極めなくちゃいけないの」

「今は取り敢えず息してるけど、首が締まるって意味じゃないのか、これ」

「かもしれない」

「おいおい、他人(ひと)のことだと思って随分悠長だな」

 亜里沙が段々三白眼になっていく。まずい、また余計なこと言った。

 でも俺だって生きるか死ぬかの瀬戸際に追い詰められてんだ。座して死を待つ、なんてやってられないんだよ!

「俺がやる」

 さんざん亜里沙たちが試した方法だが、何もしないよりは何かをやる方がよほど生産的だ。

 両手で手印を結ぶ方法を教わり、『剣印の法』の九字を唱える。

青龍(せいりゅう)白虎(びゃっこ)朱雀(すざく)玄武(げんぶ)勾陳(こうちん)帝台(ていたい)文王(ぶんおう)三台(さんたい)玉女(ぎょくにょ)!!」

 そして四縦五横の格子を描く破邪の法にも挑戦した。手刀で空中に九字を切る。

(りん)(びょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん)!」


俺は最後に、

六根清浄(ろっこんしょうじょう)急急如律令キゅうきゅうにょりつりょう!」

 と唱えて、手持ちの数珠を振った。



その間、亜里沙は何やら考えていたが俺の破邪が終わると長い呪文のようなものを唱え出した。

元柱固具(がんちゅうこしん)八隅八気(はちぐうはつき)五陽五神(ごようごしん)陽動二衝厳神おんみょうにしょうげんしん害気を攘払しがいきをゆずりはらいし四柱神を鎮護ししちゅうしんをちんごし五神開衢(ごしんかいえい)悪鬼を逐い(あっきをはらい)奇動霊光四隅に衝徹しきどうれいこうしぐうにしょうてつし元柱固具(がんちゅうこしん)安鎮を得んことを(あんちんをえんことを)、|慎みて五陽霊神に願い奉る《つとみてごようれいしんにねがいたてまつる》』

 見た目は何も変わらなかったが、何か神聖な風が吹いてきたように感じた。

 何をしたのか亜里沙に聞くと、呪符を唱えたのだそうだ。

 東洋の呪詛(じゅそ)に対しては、西洋魔法は効き目がない。東洋に対しては東洋の呪符で応じる。

呪符とは、言霊のお守り・守護してくれるもの、として有名なのだそうだ。魔法とは一線を画するようでいて、どこかで交差しているように思われる数々の呪文。

「でもこれで犯人がどの方面に詳しい人物か、判断材料になったわね」

「俺はこれがいつ暴走するかと思うと気が気でない」

 そういいながら、首の紅いリング状のアザを指す。

「明日はあたしも(とおる)もベンチに入るわ。最後くらい顔出さないとね」

「俺は今晩怖くて眠れそうにない」

「あんたのビビリが始まったか。そんならここにいれば?」

「今回だけは人の傍がいい」

 亜里沙は俺の首元をじっと見ていたが、そのうち702に戻っていった。と思ったら、またすぐに俺のところに戻ってくる。

「はい、これ。冬バージョンのユニフォームなんだけど、首まで隠れるの。今日はこっち着てなさい」


 取り敢えず、部屋の片隅で着替えた。

それにしても、どこでこんなデッドリング拾ってきたんだろう、俺は。

 午前中に宮城先輩たちと会った時に何も言われないということは、こんなに色が濃くなかったに違いないから、あのあとだ。

 でもあのあとは視線を感じていないし、誰とも会っていない。


 その時後ろで急にドアが開いたので、俺は飛び上がるくらいに驚いてしまった。

 恐る恐る後ろを見ると、光里(みさと)会長と沢渡元会長だった。

 ああ、アシストボールが終わったのか。皆、昼食に戻ってきたんだ。


 2人とも怪我こそしていないように見えるものの、特に光里(みさと)会長は明らかに疲れが残っているといった様だった。MFだからだいぶタックルなどを仕掛けられたのだろう。

 俺は亜里沙にしか聞こえないような声で囁いた。

逍遥(しょうよう)やサトルに会いたいんだけど、食堂行ってもいいかな」

 亜里沙は(しば)し考え込んでいたが、OKを出してくれた。(とおる)が一緒にいることを条件に。

 俺としては願ってもないことだ。(とおる)があいつら2人と仲良くなってくれるならこんなに嬉しいことはない。

 5階に向かうEVの中で、(とおる)は何も話さなかった。嫌だったのかな、普通人と食事をすることが。

 最初に逍遥(しょうよう)の部屋に行く。

「はーい」

 ノックの音に気が付いて逍遥が出てきた。(とおる)を見るなり、背がピーンと伸びる逍遥(しょうよう)

 こりゃ、仲良くはできないわな。無理だ。

 逍遥(しょうよう)は俺たちが食堂に行くと聞くと不可思議といった顔をして、それから俺のユニフォームに気が付いた。

「どうして冬物なの?」

 俺は首のところをめくり、逍遥(しょうよう)に見せる。逍遥(しょうよう)の顔色が見る見るうちに顔面蒼白と化していく。

「なんて卑怯な」

 それだけいうと、黙り込んだ。制服に着替えている(とおる)と、バタバタと着替えを済ませた逍遥(しょうよう)と3人でサトルの部屋を訪ねたユニフォーム姿の俺。

「ハーイ」

 嬉しそうな声が聞こえる。誰かに迎えに来てもらうこと、部屋を訪ねてもらうことが嬉しいサトルは、すぐにドアを開けてくれた。

「食堂に行かないか」

「いいよー」

 制服に着替えたサトルはすぐに廊下に出た。

「海斗、どうして冬物のユニフォームなの?」

 俺はさっきと同じように首元をめくって見せる。サトルは見た途端、驚いて泣き出してしまった。泣きたいのはこっちも同じだ。サトル、泣くな。

「で、今日は(とおる)がSP役。4人で行こう」

 一度頷くと、サトルは泣くのを止め、一緒に歩き出す。4人でちょっと混んでいるEVに乗り食堂に行くと、珍しく青薔薇の生徒が多かった。

 めんどくさいことにならないよう、食堂の片隅に陣取る俺たち。

 食事中もほとんど話さず、各自早々に終わらせてトレイを片付ける。本当はアシストボールの結果とか試合の中身聞きたかったのに。

 ま、それは今晩でもできる。

 薔薇大学に応援に行くという逍遥(しょうよう)とサトルをその場で見送って、俺と(とおる)は701に戻った。

 701の中が珍しく空気が重い。

 俺のアザのことを光里(みさと)会長と沢渡元会長が知ったのだろう。

 一時はサトルや譲司を出場させる案も出たようだが、譲司が射撃得意じゃないの知っていたし、サトルは折角の評判を落としたくない。それは俺も同意見だった。

 ただ、明日、最悪俺は30分で競技を終了できないかもしれない。その場合どうするか、であろう。

あ!(とおる)絢人(けんと)を代役にできないの?と嬉しそうに聞く俺に、南園さんは首を左右に振る。サポーターは試合に出場できないのだそうだ。

 案が見つからない俺に対し、それでもいいから競技に出てくれと、半ば土下座する沢渡元会長。元会長に土下座させるわけにはいかない。

 俺は、出来るだけのことはします、と出場を約束した。

絢人(けんと)は何をしているのだろうと心配していたのだが、どうやら俺の手に特化したショットガンにあらゆる機能を組み込み、そのうえでオーバースペックにはならないように、と徹夜で仕事をしていたらしい。絢人(けんと)、心から感謝するよ。


 午前のアシストボールは、どうやら引き分けたらしい。青薔薇の反則があったからなのだが、審判はイエローカードすら出さなかったそうだ。この分では、午後のラナウェイも同じような展開になるだろう、是非、負けないでほしいと願う。

 

午後4時。全ての生徒がホテルに戻ったようで、ロビーやエントランスはバラバラの制服でごった返していた。

俺は逍遥(しょうよう)たちを探すために一旦下に降りたのだが、余りの人の多さに、いつ首元の呪術が発動するのか恐怖を感じて701に引き返した。


夜になっても、譲司たちの仕事が終わる気配はなく、俺も一緒に手伝うことになった。といっても、コピーを取ることだけだったが。

光里(みさと)先輩はこういうところに、いやに厳しい。

曲がったコピーと、ジョイントで閉じた書類が一ミリでもはみ出しているのが大嫌いなんだそうだ。

俺もすごく気を遣ってしまった。

それを200部。

コピーをとって、ジョイントで閉じるだけのカンタン作業であるはずが、目を皿のようにしてというよりも目を血走らせて行っているのだから、疲れないわけがない。

で、時間を食うという負の原理が働いている。


光里(みさと)先輩が寝た後、ようやく血走った眼は通常にもどる・・・わけないだろ。目薬指してもまだ血走ってるよ。

3人でその作業を続け、全部終わり寝たのは午前2時だった。

南園さんは7階ではなく6階に部屋を()っていたので自室に向かった。譲司は7階にある自分の部屋に。

702では亜里沙と(とおる)が雑魚寝していたので、俺も混じろうとしたら譲司に止められた。

この世界では、亜里沙や(とおる)と俺とを隔てる壁が、途轍もなく高い壁が存在しているようだ。



◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


朝陽が眩しい。

俺は701にいたので中々寝付けず、結局目が覚めたのは朝の6時半。

外を走るのも亜里沙たちから禁じられていたので、起きて机をどかしスペースを作り、ストレッチを始めた。

 泣いても笑っても薔薇6戦は今日が最後。

 今日はマジックガンショットとプラチナチェイスの試合が行われる。

 ユニフォームに着替えて下に降りる前に、俺は教わった破邪の法や呪符を唱えたり、九字を切った。


青龍(せいりゅう)白虎(びゃっこ)朱雀(すざく)玄武(げんぶ)勾陳(こうちん)帝台(ていたい)文王(ぶんおう)三台(さんたい)玉女(ぎょくにょ)!!」


(りん)(びょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん)!」


六根清浄(ろっこんしょうじょう)急急如律令キゅうきゅうにょりつりょう!」

 

 それでもまだ首の赤みは取れないままだったが、今のところ何かが発動する兆候もない。発動するとしたらマジックガンショットの試合中だということはわかりきっている。犯人は俺の体調を試合内に崩させることでひいては俺を笑いものにしたいはずだ。

 いや、不慮の事故ということで命を取りたいのかもしれないが。


 いつもなら自分のペースで射撃時間をある程度調整するのだが、今日は体調の変わり目を意識して、最初から飛ばすつもりだった。デバイスも最高のモノを絢人(けんと)に準備してもらったから。


 5階に降りて逍遥(しょうよう)の部屋を訪ねる。

 逍遥(しょうよう)も気合が入っているようだ。昨夜も力説していた。犯人を絶対に許さない、と。

 次にサトルの部屋に行き、3人で食堂に降りて一緒に朝食を摂る。

 ホットケーキと野菜ジュースという意味不明なチョイスだが、俺は結構この組み合わせが気に入っている。

 逍遥(しょうよう)は腹8分目くらいに洋食を取り、サトルは、今日は応援だけなので和食をたらふく食べていた。


 サトルと別れ、俺は逍遥(しょうよう)と一緒に、バスに乗り込んだ。

 南園さんも俺のデバイスを2丁持ってきてバスに乗り込む。最後に来たのは絢人(けんと)だった。


 午前8時、マジックガンショット、開始。

 紅薔薇は後攻だった。

「On your mark.」

「Get it – Set」

 青薔薇高校の先手が射撃を始める。

 ほどほどに良いペースで、上限100個を13分台前半で全て撃ち落とした。

 後続の選手も、皆、13分台前半。


 後攻に回った紅薔薇。

 もうすぐ射撃開始。


 ところが、青薔薇高校サイドの応援席では、大音量で音楽を流したり拍手や吹奏楽に合わせ足をドンドン踏み鳴らすなど、あからさまな妨害をしてきた。


「On your mark.」の声が聞こえない。

 大会事務局では青薔薇高校側に禁止を求めたが、一向に音楽は鳴りやまない。

「Get it – Set」

 号砲が鳴るとともに、大会事務局で用意した50cm四方ほどの赤い旗がたなびいた。

先手である南園さんの射撃が始まった。

 流れるような姿勢と正確なショット。

 今までで一番魔法陣の撃ち落としが早いような気がする。

 たぶん、次の俺を意識してるに違いない。

 だから速く、ただひたすら速く正確に。


 南園さんの出番は終わった。


 グラウンドの大型モニターは、なんと7分台ジャストという表示が出た。どちらかと言えばアウェー状態の中で、南園さんはきっちりと自分の仕事をやってのけた。

 

 次は俺。

 グラウンドの応援席では判官びいきの客層も多く、先程にも増して完全アウェーとなっている。音楽や吹奏楽もうるさい。これで集中しろという方が無理だ。


「On your mark.」の声は俺にも届かなかった。

「Get it – Set」

 微かに聞こえる号砲と、大会事務局で用意した50cm四方ほどの赤い旗を頼りに、俺も最初から飛ばしていく。デバイスは絶好調だ。

 100個出るはずの魔法陣は、あらかた出たように思う。

 もうすぐ、終了。


 ところが、やはり犯人は一番盛り上がる所で、時間差の魔法をかけていた。

 突然、赤アザの部分が締まってきたのだ。

 

いや、今現在かけ続けているのかもしれない。でもそれなら、亜里沙か(とおる)が気付くはず。


 俺の射撃は終了間際ではあったが、首が締まって息ができない。無論射撃も無理だった。

右手にショットガンを、左手には予備を持っていたが左の予備は捨てざるを得なかった。

 左手で首のところに指を押し付け、首を絞めているのが何か材質を調べようとしたが見つからない。


 徐々に徐々に首輪が締まっていくような状況になり、どうしていいかわからなくなった。

 イレギュラー魔法陣が爆発しだし、レギュラー魔法陣を隠してしまう。

 俺は左手で俺の首を絞めている糸のようなものを探すと同時に、右手でレギュラー魔法陣を探しはじめた。これだけは、これだけは何としても終わらせたい。


 しかし、俺の努力の甲斐も無く、30分は瞬く間に過ぎた。全てを撃ち落とすことはできなかった。不思議なことに、30分を経過すると同時に首を絞められる感触はすっかり消えた。

 命を狙ったものではなく、俺の選手生命を脅かすだけの手段。

 悔しかったが、それだけ俺に技術も知識もなかったということだ。

 青薔薇に負けるのも釈然としないが、逍遥が3分台でも出してくれない限り、俺たちの勝ちは無い。


 俺が苦しんでいたのが逍遥(しょうよう)にはわかったんだろう。

 ポン、と1回肩を叩いて「いってくる」と告げた逍遥(しょうよう)は、飄々とした足取りでショットガンをくるくる回しながらグラウンド中央に位置した。

 今日一番に青薔薇高校がうるさい。逍遥の4分台を気にしての策戦か。


「On your mark.」

「Get it – Set」

 微かに聞こえる号砲と、大会事務局で用意した50cm四方ほどの赤い旗。

 逍遥(しょうよう)はまるですべてがはっきり聞こえていたかのように射撃を始め、次々とレギュラー魔法陣を撃ち落としていく。この分だと、6分は堅いような気がする。

 逍遥(しょうよう)は元々レギュラー魔法陣を見ずに撃ち落としていると思われ、今回もそれは同じだったが、何か迫力が違う。もしかしたら5分台に乗るかもしれない。

 でも、5分台に乗ったとしても、俺が結局30分という有り得ない数字を出してしまったので今日の勝ちは無い。

 人生初めての「負け」を経験させてしまうと思うと、なんだか逍遥(しょうよう)や南園さんに、そして紅薔薇のみんなに申し訳なかった。


 ベンチには亜里沙や(とおる)もいて、俺に慰めの言葉をかけてくれた。

 あと少しだけ速く撃ち落としていれば、それなりの記録を出せたかもしれないし、逍遥(しょうよう)にこんな大変な思いをさせずに済んだはず。

 俺は項垂(うなだ)れ、すっかりしょげた。

 でも亜里沙が「首元のアザが消えただけでも良しとしろ」という。そうかもしれない。


 俺の反省と心配を余所に、逍遥(しょうよう)の射撃が終わった。

 今日見に来ている人たちは、逍遥(しょうよう)が何分台を出すかとても楽しみにしているのだろう。射撃が終わった段階で、逍遥(しょうよう)への拍手が鳴りやまない。

 大型モニターが、時間を知らせる。


 3分台前半、なんという数字だ!

 これは、もしかしたら、もしかしたら青薔薇高校に勝てる可能性が出てきたかもしれない!

 俺の数字で自分も変えるとは常々言っていたが、ここまでしてくれるとは思ってもみなかった!

 

 大会事務局が審査に入り、俺たちは少しの間、ベンチで待たされた。

 主審が出てきた。

 中央に立ち、俺たちの方を指さすのか、それとも青薔薇を指さすのか。


「勝者・・・紅薔薇!」

 俺はひとりでジャンプして喜んだ。

 周りから見れば「自分の体調見ないで突っ込み過ぎて最後まで持たなかった人」なんだろうが、そんなことはどうでもいい。

 逍遥(しょうよう)と南園さんを巻き込み、絢人(けんと)を巻き込み、躍り上がって喜んだ。

・・・もちろん、青薔薇に勝ったから嬉しいのもある。

だけど、一番には、一連の事件の犯人に勝てたような気がして嬉しかった。



◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 勝利の余韻に浸ったまま、俺たちはバスに乗り込んだ。

 8月に冬物のユニフォームを着ている俺は相当暑かったはずなんだが、それも忘れる程劇的な勝利だった。

 なのに、逍遥(しょうよう)はつれない。

「君の数字を見て逆算しただけさ」

「それで3分?でも逆算したところで普通は撃てやしないぞ、絶対無理だって」

「言っただろう?君の仇をとるんだ、って」

「ありがとう、逍遥(しょうよう)

「ところで君、射撃の最後、首絞まったの?随分苦しそうに見えたけど」

「ああ、でも終わったらほらこのとおり、アザまで消えた」

「いったいどんな魔法で・・・」

「亜里沙たちは魔法じゃなくて呪詛(じゅそ)だ、って言ってる」

「そうか、それも大いにあり得るか」

「みんなに迷惑かけてごめん」

「個人競技なら未だしも、団体競技だから。いいんだよ、仲間を信じれば」


 亜里沙や(とおる)は、俺が受けた呪詛(じゅそ)の正体を掴もうとしていたらしいが、突然アザが消えてしまい呆気にとられていた。犯人は高等魔法の使い手であるとともに、仏教や陰陽道など様々な教えを取捨選択し呪詛(じゅそ)を行っている、というのが亜里沙たちの見解だった。

 しかし、犯人の足取りはそこでぱたりと途絶えてしまった。

 

 その日の午後から、ピタリと嫌がらせは止んだ。

 嫌がらせをしていたのは、八朔海斗(ほずみかいと)そのものに対してではなく、どうやら競技会に出場する八朔海斗(ほずみかいと)だったのかもしれない。

 別に俺は自分から挙手して好きで代表選手になったわけではないので、この後は学校でも寮でも普通に生活ができるのかと思ったら急に力が抜けた。


 ホテルの部屋も転々としていたわけだが、(とおる)が707でも大丈夫だとお墨付きをくれた。式神から悪霊まで一挙に出くわしたので半信半疑ではあったが、隣には光里会長や沢渡元会長などもいる。安心して泊まっていられる。

といっても、泊まるのは今晩だけだが。


 今日は午前のマジックガンショットのあと様子をみるため俺はホテルに引き揚げたが、午後からは薔薇大学のグラウンドでプラチナチェイスがあった。

 因縁の青薔薇戦。

 1年の全日本新人戦で俺たちが受けた仕打ちをどうしてくれようか。


 今回もまた青薔薇高校は危険なタックルや意識的な陣形への干渉など、前にも増して危険行為を繰り返したようだが、光里(みさと)会長と沢渡元会長がそんなことで崩れるわけもなく、ましてや逍遥(しょうよう)は審判から見えないよう自分も意図的に反則を行っていたと試合後ホテルに戻ってから笑って話していた。

逍遥(しょうよう)、君はやっぱり強い。

 

 結果は勿論紅薔薇勝利。

速攻で勝負を決めたらしく、疲れている様子さえ見せなかった。

 

さっきの意図的反則の件は、先輩に知れるとお小言を食らうので507の逍遥(しょうよう)の部屋で、サトルや絢人(けんと)も一緒に。譲司は明日の閉会式に向けて最後のひと仕事があるらしく、507に来ることはできなかった。

 ホント、こき使われてる。可哀想な譲司。あのとき逍遥(しょうよう)が推薦さえしなければ・・・でも本人は至って楽しそうなので、これでハッピーなのだと思う。


 明日は閉会式の後、各校それぞれが祝勝会や反省会などの名目で近隣のホテルなどでパーティーを行うのだという。そして、自由解散となる。

紅薔薇では夕方、バスに乗り横浜へ帰郷する予定だ。

 また20時間以上かかるのかと思うと閉口してしまうが、今回はダントツの優勝なのだから嫌な顔もできない。


 全ての競技が終わり、安心したのだろう。皆一様に顔から白い歯がのぞいている。

俺も夜は久々に何も考えることなく、何かが起きることなくベッドに向かいスマホ片手にTシャツと短パンで寝相悪くしても、イビキかいても歯ぎしりしても気にせず寝ることができた。

 なんという幸せ。

 普通に寝ることがこんなに幸せだなんて、俺は15年生きてて初めて知ったよ。



 翌朝7時。

 何も考えずに眠った結果、俺は少々寝坊した。

 閉会式は午前10時から長崎市営競技場で。この日は皆が一堂にバスに乗り競技場へ向かった。

 事務的なことをしていた譲司と南園さんもようやくその任からはなれることができたようで、2人ともバスの中ですやすやと寝息を立てていた。今朝までなんやかやと働いていたらしい。

 事務局は白薔薇高校なんだけどね・・・。


 長崎市営競技場には、競技を終えた120人からの選手とそのサポーターたちが集結した。開会式とは雰囲気が全然違い、笑顔の学校もあれば、伏し目がちに悔しさを(にじ)ませる学校もあった。

紅薔薇は常勝校としていつも凛とした行動が求められている。その旨、閉会式前、バスの中で譲司から簡単なレクチャーがあった。

 

 午前10時。

閉会式が始まった。

 今年の優勝校は紅薔薇高校、勝ち点58。

準優勝は白薔薇高校、勝ち点32。

3位紫薔薇高校、勝ち点29。

4位桃薔薇高校、勝ち点25。

5位青薔薇高校、勝ち点21。

6位黄薔薇高校、勝ち点13。

 しかし黄薔薇高校は礼儀正しさや所作の美しさではダントツの1位ともいえる学校で、紅薔薇は到底足元にも及ばない。勝つことだけが価値ではないと強烈な印象を残した学校でもある。


 優勝校のメンバーには、大会事務局から金メダルが授与された。準優勝校には銀メダル。3位以下はメダルなし。え、銅メダルはないの?と首を捻る俺だったが、こちらの世界は優勝か準優勝に価値があるらしい。

 そうすると、地の利で今年は白薔薇高校に有利だった可能性もあるよなあと考えてしまった。ま、次期開催は黄薔薇高校というし、来年の薔薇6は、また違った景色を見せてくれるのだろう。


俺にとっての薔薇6戦が終わった。

すごく色んな経験したけど、結果オーライということで。

9月からは、紅薔薇での高校生活が俺を待っている。


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