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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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薔薇6編  第11章

サトルが戻ってきて、俺と逍遥(しょうよう)、3人でホテルを出たのが昼の12時過ぎ。

 ゆっくりと地図を見ながら歩く。

 逍遥(しょうよう)に道を聞いても、「バスで移動したからわからん」の一点張り。

 よもや逍遥(しょうよう)も方向音痴ではあるまいなと勘繰りを入れたくなる。


 でも、さすがは2回目。

 どうやらサトルは午前中に歩いたときに方々に目印を付けていたようで、難無く競技場へと近づいていく。

 逍遥(しょうよう)はさすがに疲れたのか、時々欠伸(あくび)しながら俺とサトルの後ろを歩いていた。しょっちゅう後ろを気にしているサトルに()かされながら。

 飛行魔法で進めばもっと速いだろうなと思いながら、俺ものろのろ歩いている。サトルは飛行魔法飛べるんだろうか。逍遥(しょうよう)は今疲れているから仕方ないとしても、帰りは飛行魔法で帰れるかな。

 

 競技場に着くと、ラナウェイは競技場脇の施設を使ったルートを組んでいた。競技場では特大モニターにラナウェイの様子が映し出されることになっている。

 この古い施設をルートに組み込むということは、白薔薇にとって大きなアドバンテージを与えることになる。競技場付近の施設でラナウェイの実地練習を行っていただろうから。向こうに見える白薔薇の選手たちは、飛び上がって喜んだりガッツポーズをギャラリーに見せつけていた。

 

 紅薔薇はと言えば、譲司がラナウェイに出場する準備をしている。紅薔薇色のユニフォームに着替え、ストレッチに励んでいた。

 特に危ない競技でもないし、俺たちがベンチに降りる程のこともないだろう。今はベンチに絢人(けんと)がひとりで座っている。絢人(けんと)に声を掛けてから、俺たちは他のギャラリーに交じって観客席に向かった。

 ラナウェイは2種類のデバイスを必要とするからだが、サポーター軍団は誰一人としてギャラリーの中に姿が見えない。PV会場に足を運んでいるのだろうか。それとも、これからくるのか?

 それにしたって、2年の選手は出場していないから、広瀬先輩と宮城先輩は時間があると思うのだが。明日のプラチナチェイスに必要な(さば)きでもしているのだろうか。


 号砲とともにラナウェイの競技が始まった。俺たちは3人のランナーに声援を送る。ついつい相手の居場所を教えてしまいがちになるけど、ランナーには届かない。

 もどかしくもあり、冷静に見れる部分もあり。


 おっと、勅使河原(てしがわら)先輩が、隠れる間際の相手を1人倒した。こちらはまだ倒された選手はいない。定禅寺先輩が一度危ない目に遭ったが、どうにか魔法陣を作って相手の追撃を(はば)んだようだ。

 マルチミラーの使用法が、この競技の勝敗に少なからず影響しているのは確かだ。

譲司は、初めてのラナウェイで緊張しているのか、いつもより動きが鈍く感じる。マルチミラーを上手に操れていない。魔法陣を作ることで一杯一杯になっているように見受けられる。

あ!譲司が建物の陰付近で敵の手に落ちた。マルチミラーを巧みに使いこなせなかったのだろう譲司は、悔しさの入り混じった顔で建物から離れ競技場に戻ってきた。


俺のような魔法が使えれば、マルチミラーを魔法陣作製にのみ使用できるのだから、ここは俺が出る方が良かったんだよなあ。


でも、勅使河原(てしがわら)先輩は以前怒られてからというもの、九十九(つくも)先輩同様少し怖い存在としてしか認識できなくなっていたので、俺があの2人の中に入ったとしても中途半端な技しか出せなかったかもしれない。

やっぱ俺、競技としてはマジックガンショットが一番性に合ってるような気がする。先輩方とのチームワークは、どんなに良い先輩だったとしても、ちょっぴり苦手だ。

 

 おお、今度は定禅寺先輩が立て続けに相手を倒した。ここでタイムアップ。


 よし!

 ラナウェイ白薔薇校戦は、3-1で紅薔薇が無難に勝利した。


 3日目のプラチナチェイスを残し、現在白薔薇戦3種目を終了。種目の勝利ごとに勝ち点3ポイントが加算されるので、合計勝ち点は9で紅薔薇が勝利している。

 明日4日目もここ、長崎市営競技場で試合が行われるらしい。電光掲示板にその旨が明記されていた。


 俺とサトルは気を良くしながら帰路に着いた。

 ホテルに着くと、バスは今着いたばかりだったらしい。逍遥(しょうよう)がバスから降りてきた。ホテルの中に入ると、珍しくロビーに亜里沙が1人で立っている。

逍遥(しょうよう)の顔を見るなり、亜里沙は逍遥(しょうよう)の前に出て仁王立ちになる。

四月一日(わたぬき)くん。プラチナチェイスの策戦会議があるから、701に来てちょうだい」

「了解しました」

「丁寧語や敬語は、あたしと(とおる)には無用よ」

「そうですか、では、これ以降はフラットに」

「そうね、そうしてもらえると助かるわ」


 それだけいうと、亜里沙は俺たちに背を向けEVの方へ消えた。


 俺には元気かの一言もなく立ち去った亜里沙。

 もう、俺は幼馴染でもなんでもない、仕事上のクライアントだったのだと痛感させられる。

 こっちは今日の出来事とか、話したいことがたくさんあるのに。

思い出を共有するだけのクライアントなんて、おかしいよね。


 さすがに、これはボディブローのようにじわじわと効いてくる。

 俺は深く深く呼吸を整え、泣きたくなる自分を抑え込んだ。


 どうやら、競技場までの2往復と日差しのなかでの応援が身体に効いたらしい。

 俺は先程の亜里沙を見たショックで食べ物が喉を通らなかった。なのに、廊下を歩いていると猛烈な眠気に襲われた。サトルは食べ過ぎて眠いという。

逍遥(しょうよう)や譲司は701に缶詰めで策戦会議とやらが長引いている。

 俺とサトルは、他の人には悪いけど、早めに床に入ることにした。


 誰にも見つからないようにホテルの奥に位置している従業員用EVに乗って、サトルは5階で降りていった。

「おやすみ、サトル」

「うん、おやすみ、海斗。明日は朝7時半に迎えに来て」

「了解」


 そして俺は7階で降り、712の部屋に向かった。鍵を開けてドアを押すと、熱気で部屋が蒸し暑くなっている。ほんと、蒸し風呂のようだ。エアコンをつけながら、部屋の中に何も変化がないことを確認した。ジャージに着替えてベッドに居たいところだが、熱すぎる。

俺は一応持ってきていたTシャツと短パン姿になり、ベッドに転がった。


そのまま、深い眠りに落ちていった。


◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 俺は滅多に夢を見ない。

 化け猫のようにクリアな夢をみる機会なんて早々ない。

 しかしこの夜はやけにリアルっぽい夢を見ていた。


 簡単に言えば、俺が戦場にいて、逍遥(しょうよう)や沢渡会長、亜里沙、(とおる)と協力しながら敵を倒していたのだ。

 VRゲームではない。

正真正銘、夢の中で俺がいたのは本物の戦場だった。

夢の中で俺は、日本軍魔法部隊の一員として敵と戦っていた。


俺が暮らしていたリアル世界では中華人民共和国として厳格に統治されている国が、北京を首都とする北京共和国と、香港を中心とし上海市をその手に治めている香港民主国にと2分割されていた。

敵は、日本のレアアース資源をつけ狙う北京共和国だった。


向こうの魔法部隊も結構な人数の魔法兵士が空母に待機しており、次々と兵士が日本に上陸を試みる。

対する日本は、長崎県、石川県と新潟県、北海道西部の日本海側を中心とした4道県に拠点を置き、敵を迎え撃っていた。


亜里沙や(とおる)、沢渡元会長や逍遥(しょうよう)と俺の5名は新潟県に派遣され、敵に止めを刺す役目を任じられていた。

亜里沙と(とおる)は、日本側の海岸から2kmは離れていると思われる空母に、ショットガンと人さし指で息つく間もなくマジックガンショットのイレギュラー魔法陣のような魔法を撃ちこんでいた。敵船の上で魔法爆発が起こり、その場にいた敵の命はみるみるうちにこと切れていった。


対して敵も、空母上にて俺たちの魔法を撃ち砕かんとして広域防空用の地対空ミサイルシステムを稼働させていた。

逍遥(しょうよう)が俺たちを中心とした半径5km以内に迎撃魔法弾を準備し、向こうからのミサイルに対して空中で迎撃を行っている。

沢渡元会長と俺は、ボートで空母から海に降りて上陸しようとする敵兵士を狙い、ショットガンを殺傷OKに改良したような武器で敵の息の根を止めていく。


俺は人の命を奪うということが最初は怖かったはずなのに、いつの間にか慣れた自分がいた。戦争とは、こうまで人の感情を、感覚を鈍らせるものなのかと哀しく思ったが、途中からそんなことすら考える感情をどこかに置き忘れたようにショットガンを敵に向ける。


 亜里沙や(とおる)は空母に対する魔法だけではない。

逍遥(しょうよう)の迎撃魔法をバージョンアップさせ守備半径を広げていく。

俺と沢渡元会長が担っていた最後の砦でも、どんな魔法を使ったのかわからないが一瞬にして周囲の敵を葬り去るという荒業。


亜里沙や(とおる)の繰り出す魔法は逍遥(しょうよう)や沢渡元会長のそれを遥かに超越していて、俺は目を疑ったほどだ。

 逍遥(しょうよう)が大佐殿と畏まって言った意味がはっきりとわかった。

 

 結局、敵はすぐに制圧され、生き残ったものは捕虜として日本軍魔法部隊の捕虜収容所に収容された。

 俺はすぐそこにいた亜里沙と(とおる)に声を掛けようとして、逍遥(しょうよう)に止められた。

 何で話しかけちゃいけない?

そこで目が覚めた。

 

 

 目を覚ました時、どうやら俺は涙を浮かべていたらしい。起き上がった俺の頬を伝う涙がやけにリアルだった。

 亜里沙と(とおる)は、もう俺の幼馴染ではなくなったのかもしれない。俺に友人ができるまでの繋ぎ、だった可能性はある。俺が泉沢学院に行っても友人を作ろうとしなかったから、仕方なく(そば)にいただけ。

 こちらにきて、友人ができた。

 逍遥(しょうよう)や、譲司にサトル。他にも俺を心配してくれる人は増えた。

 だから亜里沙たちの役割はその比重が減り、関わらなくても良くなったのだろう。

 悲しいけど、こちらの世界を選んだ段階で、遅かれ早かれこうなる運命だったんだ。


 そうでも思わないと、神経質細胞が脳内で暴れている俺の中では、カラ元気すら出なかった。


◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 涙を手で拭った俺は部屋の時計を見た。

 朝5時。

 もしかしたら正夢になるのだろうかと少しばかり不安がよぎる。

 だって、明け方の夢は正夢ともいうじゃないか。


 戦争もそうだけど、亜里沙と(とおる)に、遠くに行ってほしくなかった。

危ない真似はして欲しくなかったし、何より、話しかけることすら禁じられる生活を強要されたら途方に暮れてしまう。

 俺の中では、どこでもいつまでも幼馴染の2人でいて欲しかった。



 夢のことを忘れようと、俺はジャージに着替えて走ることにした。

 夏の朝、この時間だけは少しひんやりしていて、走るのには好都合だ。部屋の中で軽くストレッチ運動をしながら夢のことを思い出す。夢とはいえ、戦争という非現実的な設定、シチュエーション。前に逍遥(しょうよう)が“この世界は平和ではない”と言った言葉を頭の片隅で記憶していたのだろう。

俺は夢のことを振り切るように、お気に入りのシューズを履いてホテルを出た。

 

 迷子にならないよう、市営競技場を目指し少し息が上がるくらいのスピードで走ってみる。俺にとっては少々キャパを超えているのだが、自分の限界より少し頑張るという名言を残したスポーツ選手がいる。そうだ、今日は限界より少しだけ頑張ってみよう。

 いつもなら小走りくらいで疲れも溜まらない程度にしか運動しない俺にとっては、未知の領域とでもいうべきか。


 競技場までオーバースペックで走り続けたら、息も絶え絶えになり目眩を起こしそうになった。持っていたドリンクを口から身体に浸透させ、動悸が収まるのを待った。

 半分だけドリンクを口に含み、息を整えたところでほんの少し身体を伸ばしてみる。

やっと落ち着いた。あとは来た道をそのまま戻るだけ。

 帰り道は途中までいつものとおり小走り程度に歩幅を狭くしてゆっくりと走る。ホテルが近づいてきたあたりから、また歩幅を広くして走った。


 ホテルに着いた時は息が苦しくて話すことすらままならない状態だった。

 残ったドリンクを一気に飲み干し、なんとか息を整える。

 ロビーに飾ってある時計を見ると、まだ朝の6時前だった。シャワーを浴びるため、一度712の部屋に戻ろうと従業員用EVの方に歩いていったのだが、廊下の方から何か嫌な視線を感じたような気がした。

 712の部屋は知る人ぞ知る、秘密の宿泊所なはず。

 夢のことで嫌な気持ちになったから視線を感じたように錯覚したのかもしれない。


 ホテルの従業員さんが同じEVを使おうとして一歩下がった。お客と一緒ではまずいと思ったのだろう。

 軽く会釈して一緒にどうぞと話しかけたが、向こうは乗ってこなかった。

 申し訳ない気持ちではあったが、早くシャワーを浴びたい気分だった俺はひとりで乗り込み、くるりと向き直ってもう一度従業員さんに頭を下げた後、7階のボタンを押した。



 部屋で最後のストレッチを行って身体をクールダウンさせた後、俺はシャワーを浴びて紅薔薇の制服に着替えた。

 今日は白薔薇高校との最後の試合、プラチナチェイス。

 鉄板のメンバーが集結しているから、もはや勝利は揺るがないだろう。青薔薇のように反則級のタックルしてこない限りは。

 そういえば、何日か後には青薔薇との直接対決がある。

 俺は、青薔薇にだけは負けたくない。

 全日本の時の借りは、今回の薔薇6で返してやりたい。


 そんなことを考えながら部屋の時計を見ると、もう朝7時。

 あと少ししたら、5階までサトルを迎えに行かなくちゃ。

 今日も俺の分のドリンクを持っているかもしれない。サトル。いい加減、ドリンク類を他人(ほか)に渡すのは止めてくれ。退学になってしまう。

 サトルがまたそんな真似をしたら、今度こそ言わなくちゃ。他人(ほか)に渡したらまた禁止薬物入りだと誤解されて最悪退学だと。

 本当にいい奴だからこそ、俺も逍遥(しょうよう)も心配するんだよなあ。

 

 俺は自分のドリンクを2本、部屋に備え付けの冷蔵庫から出しリュックに詰め込むと、712のドアを開けて周囲をきょろきょろ見回した。よし、誰もいない。

 鍵を掛けて、そのまま従業員EVの方に向かう。少し早い時間だけど、サトルの部屋に上がり込んでしまおう。

 EVの前に来て、また周囲をチェックする。よし、いない。


 たぶん、夢見が良くなかったからそちらに気を取られて、階段方面をを見ていなかったのだと思う。実際には、今日もあの視線はあったのだ。それと感じないくらい視線が弱かったか、俺が考え事をし過ぎて感じる間もなかったか。

 こういうときこそ周囲に気を配っておかなくてはならないというのに。


 これは大誤算だった。


 サトルの部屋に着いた俺。多分時間は午前7時20分くらいだったと思う。

 ドアを3回、立て続けにノックする。

 応答がない。

 おかしいな。サトルは部屋にいるはずなのに。

 もう一回、大きな音がするようにドアをノックする。

「サトル」

 やっと出てきたサトルは、昨日の疲れでまだ寝たままだったらしい。

「あ、海斗。早いね、もう着たの」

「もうって、朝の7時半になるぞ」

「えっ」

 サトルは部屋の時計を探した。俺の言った通り、部屋の時計は午前7時25分を指していた。

「ぎゃーっ、何てことだ。寝坊しちゃったよ」

「早く着替えろ、廊下で待ってるから」

「ごめん、少し待ってて」


 サトルの部屋の前に立ち、俺は周辺の部屋のドアを眺める。逍遥(しょうよう)や譲司たちの部屋はサトルの部屋の近くにあったが、2人とももう部屋を出ただろう。逍遥(しょうよう)はプラチナチェイスの選手だし、譲司は生徒会の役目で忙しい。


 俺はそちらに回ることなく、サトルが部屋から出てくるのを待った。

 5分、10分。何をしてるんだ?まさか・・・ドリンク・・・。

 俺はまた大きな音をたててサトルの部屋をノックする。

「サトル、開けてくれ」

 そして、開いてるはずのドアを少しだけ開けた。マナー違反だけどね。

 備え付けの冷蔵庫の前にサトルは座り込んでいた。

「おいサトル、またドリンク類運ぶつもりか」

「え、だってみんな暑いと思って」

「逍遥にも言われたんじゃないのか。ドリンク類運ぶなって」

「言われたけど、周りの人が飲んでないのに僕だけ飲むのが申し訳なくて」

「止めておけ。今度やったら退学処分食らうかもしれないんだぞ」

「どうして?」

「言いたかないけど、どうしてサブ落ちしたのかわかってんだろ。それなりの理由あったはずだよな」

「うん・・・」

「今度やったら、また始まったと思われかねない。絶対にやめろ。自分でドリンク準備しないギャラリーが悪いんだ」

 サトルは黙りこんでしまった。

 ちょっと言い過ぎたかもしれない。

「ごめん、言い過ぎたよ。でもサトルが周囲に気を遣う必要はないよ。魔法で自己アピールすれば済むことだから」

「うん・・・」

「沢渡元会長と約束しただろ、魔法で頑張るって。それだけでサトルの価値は上がるんだから、周囲に気を遣わないでいいんだ」

 サトルは少し納得がいかないようだったが、俺の言葉を理解はしてくれたのだと思う。ほとんどのドリンク類を冷蔵庫に戻し、自分の分だけ小さ目のリュックに入れて立ち上がった。

「自分の分だけ持ったよ。じゃ、1階の食堂に行こうか」

 俺たち2人は、やっとサトルの部屋を出た。時計の針は午前7時45分を指していた。


 食堂のバイキングで食したのは、2人ともコッペパンと牛乳に野菜サラダ。

 なぜサトルも軽食にしたかと言えば、時間がなかったからだ。

 もう、午前8時になる。

 試合開始は午前8時30分。

長崎市営競技場まで早くとも15分はかかる。


食べたばかりで動くと俺は腹痛を起こすので、ゆっくりと歩かねばならない。

ゆえに、ちょっとしたものしか口にできない。


俺たちは5分で食事を平らげると、ロビーに向かい、そこに置かれた椅子に座って胃に優しい行動をとる。いうなれば、ぐーたらとロビーの椅子に座っていただけだったが。

午前8時15分。

サトルと俺は同時に立ち上がり、ホテルを出て長崎市営競技場を目指した。

 競技場までのルートはもう、俺の頭の中にインプットされている。3次元を映像と捉える脳ミソが、やっと働き出した。

 なぜ、こんな特技があるのに俺は迷子になるんだろう。

 インプットされたものがアウトプットされるまでに時間がかかるのかもしれない。

 大事な時に役に立たないものだとがっかりするのも確かだ。


 競技場に着くと、もうギャラリーが集まっていて、応援席は一杯になっていた。

 ほとんどが白薔薇高校の応援に来た人らしい。俺たち紅薔薇は完全アウェーで戦うことになる。まあ、完全アウェーだとしてもあの5人が試合中抜けを生じさせるとは考えにくいが。ミスのあった方の負け、と言われているこの組み合わせ。


 午前8時半、時間通りに試合は始まった。

 全日本と同じルールで試合は続く。W杯では5分ルールがあったが、薔薇6では5分ルールを適用していない。

 だが、ちょうど5分後、沢渡元会長と光里(みさと)会長が一旦離れ新たに陣形を組み直したところで、紅薔薇の陣形にボールが入ってきた。

 ボールを追う逍遥。もう試合は決まったようなものだ。

俺の考えていた通り、1分もしないうちに逍遥(しょうよう)がラケットを上下に振りボールはラケットの中に吸い込まれていく。

「よし!」

 俺とサトルは飛び上がらんばかりに喜びを爆発させた。


白薔薇高校戦、全勝で勝ち点12。

 幸先の良いスタートを切った。


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