薔薇6編 第8章
今日朝のミーティングでは、各薔薇高校の紹介、平たく言えば情報収集の結果を纏めたワンペーパーが配布された。
サトルが集めた情報とほとんど変わりがない。
どうやって高校ごとの戦い方を変えるかが示されていた。
この戦術を亜里沙と明が作ったのかあ。
まったく、最初から話してればいいものを。
でも、いいか。
必要悪だったのだろうから。
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白薔薇高校
今年の薔薇6事務局。
長崎県長崎市。
全体的に基礎魔法力の高い学校。6校の中での実力は中の上。
アシストボールが得意種目。
DFとGKの働き如何で試合の勝敗を決することになるので、カウンターを放ち縦パスを有効に使うことで相手を攪乱し点数に繋げること。
ラナウェイは土地勘に勝るため今回白薔薇高校は有力校になる。
マルチミラーを効果的に使用し、相手の足元を注視しながら競技を有利に進めること。
その他は特に注意事項無し。
青薔薇高校
長野県アルプス市。
アウトローな学校で、ラフプレーを得意とする。
特にアシストボールやプラチナチェイスではレギュレーション違反が多く、相手校に怪我人を出すこともしばしば。
こちらもイエロー寸前のラフプレーで応戦のこと。
そのためには、レギュレーション違反を取られない程度のイエロー寸前のラインがどこにあるか、練習によって確認すること。
また、相手のレギュレーション違反により怪我をする確率が高いので、プラチナチェイスやアシストボールについては、怪我をしないよう都度自己修復魔法を掛けるか、事前に無効魔法をかけておくこと。
自己修復魔法や無効魔法の掛け方が分らない選手は、サポーターに確認しておくこと。
紫薔薇高校
鹿児島県指宿市
青薔薇に次ぎアシストボール等でのラフプレーが多い学校で有名。
ただし、こちらはレギュレーション違反よりも、相手校にレギュレーション違反をさせるよう仕向けている。
この学校に相対したときはラフプレーよりもルールに沿った王道プレーで対抗すること。
特に強い種目はないが、どこでラフプレーが出るか分らないので注意しながらプレー続行のこと。
その他の種目では目立った箇所無し。
桃薔薇高校
愛知県名古屋市。
再来年の薔薇6事務局。
薔薇6対抗戦では決して目立つ方ではないが、全日本には連続5年出場している。
得意種目はなし。まんべんなく種目をこなす学校と言える。
しかし、油断は禁物。知らぬ間に自分たちのペースに持ち込みプレーする傾向が見受けられるので、全ての種目につきペース配分をしっかりと構築すること。
黄薔薇高校
兵庫県神戸市。
来年の薔薇6事務局。
薔薇6の対決では下位に甘んじることが多いが、全日本にシードで連続出場できるくらいの力を持つ学校。
得意種目は特にないが、時折畳みかけるように攻撃してくるときがあるので注意。
一瞬での立場逆転形成にならないよう、周囲に目を配ること。
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全体ミーティングは1時間ほどで終了し、正選手のみが集められ午後からの日程に沿った形で個別ミーティングに割り当てられた。
逍遥は午後の試合に合わせ、早めに昼食を摂るらしい。
俺とサトルはお腹が空くわけでもなかったが、逍遥に合わせ軽く食事を摂ることにした。
俺は深く考えることなくスパゲティに手を伸ばした。
そこで今度はスパゲティ談義が始まる。
初めに話し出したのは逍遥だ。
「試合の前に食べるなら、クリームスープ系は止めた方がいい」
正しくクリームスープスパゲティに手を伸ばそうとしてた俺は、逍遥の一言で手が止り、悩むことになる。
「どうしてさ」
「口や胃の中にクリームスープが充満する」
その言葉を馬鹿にしたわけではないのだが、あまりに根拠のない発言にちょっぴり閉口した。
「じゃあ君なら何を食べる」
「ボンゴレビアンコ」
「油脂分を考慮に入れれば、それだっておかしい」
「スパゲティはすぐに血糖値を上げないから、スポーツ選手にとって試合前の昼食にはスパゲティが一番適してるのさ」
「ホントか?」
「記憶は曖昧だけど、小さな頃にTVで観た」
「ソースは記憶にない、か。でも考えてみれば、朝と違ってスパゲティの種類は多いな」
そんな俺たちの会話など露知らず。サトルはひとり悠々とサンドイッチと牛乳、トマトサラダをチョイスしている。
悩んだ末に、俺はスパゲティコーナーを離れた。
「俺もそっちにするわ」
「海斗、朝もパンだったのに昼も?少し米類食べた方がいいんじゃない?」
「腹に入ればなんだって同じさ。米は夕食で賄うよ」
俺の食べることへの執着のなさに呆れ顔のサトル。
そこに、譲司が入ってきた。顔を見るのはいつ以来だろう。
「久しぶり、海斗。こちらは・・・岩泉くんか」
「譲司、紹介するよ、こちらはサトル」
譲司は頭の中にクエスチョンマークが並んだような、いかにもぽけっとした顔をする。
「サトルが君を譲司と呼んでもいいか?」
我に返った(と思われる)譲司は、サトルを歓迎する、といった顔をしてあははと笑う。
「OK。ところでサトル、明日の午後辺り、アシストボールに出てみないか」
サトルは顔を紅潮させて目を見開いた。
「いいの?僕が出ても」
「光里会長と沢渡元会長の許可はとってある。君の練習風景は素晴らしかった。明日の午後は黄薔薇高校が相手だし、気楽にできるんじゃないかな。ポジションはDFで構わない?」
「どこでも!僕が役に立つのなら!」
「よし、っと。海斗はマジックガンショットの練習に励んでて。君が出るとすればそれになると思うから」
「OK。ところで、食堂で話してていいのか?」
「大丈夫。スクランブルかけてこの部屋との回線を遮断してある。紅薔薇高校魔法技術科十八番の基礎魔法さ」
譲司は俺たちのテーブルから離れ、他のテーブルに交渉しに行った。生徒会副会長とは、本来、こき使われる立場なのだな、大変そう。
それに比べ亜里沙や明はフィクサーよろしく701で踏ん反り返っているんだろうな。ブレーンだって。なんか可笑しくなってくる。
「ね、DFのスタメンって光流先輩だよね。練習見ててもシュート止めたりしてすごかった。僕が入ってあんな風に連携できるかな」
サトルは基本神経質なんだろう。昔の俺によく似てる。
「サトルなら大丈夫さ。DFの働き、わかってんだろ」
「基本的に守備だよね。ボールを追いながら相手陣地に入ることもあるけど」
「それが判れば大丈夫。八雲は酷かったからなあ」
「Gリーグ予選のこと?内緒だけど、あれは内部からかなり顰蹙かったみたい。普通科の生徒がPV見てて生徒会を罵ってた。なんであんなやつ出場させるんだ、って」
「そりゃそうだと思うわ、俺も。逍遥なんて退学覚悟で進言しに行ったんだぞ」
「何を進言しに?」
あ、ヤバイ。
俺と逍遥がサトルのことを進言して返り討ちに遭い、逍遥と沢渡元会長が喧嘩腰になって八雲を出場させたあの事件をサトルに知られてはならない。
だって、いまですらこんなに蚤の心臓なのに、あの当時のこと話したらまた泣き出しかねない。
サトルよ、もう少しだけ自分に自信を持ってくれ。頼む。
なんか。本当、サトルの中にこれまでの自分を見てしまう。俺も周囲から見たらこうだったんだろうなあ。
亜里沙や明は中学の時毎朝迎えに来てたっけ。よほど俺が蚤の心臓に見えたに違いない。
俺自身、毒親から逃げ出し今はこっちの世界にいるわけだが、親と俺、どっちが正しいとも言えないような気がしてきた。
俺が生きてきた世界では魔法なんて超常現象に見られてただけで、信じる人はまずいない。でもこっちでは魔法が当たり前。
俺は魔法が使えるのをいいことに、こっちの世界に逃げた。
逃げたことそのものに後悔はないけど、泉沢学院という高い高い壁にぶち当たった時、なぜ越えられなかったのか、なぜ越えようとしなかったのか、悔いが残らないと言ったら嘘になる。昔の俺なら色々と屁理屈こねていたんだろうけど、今の俺は段々悔いることを覚えてきた。
今夜は、久々のなぜなぜ時間が始まりそうな予感がする。
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午後からのアシストボール。
俺はリアル世界のサッカーW杯で、日本が他国にオフサイドトラップを仕掛けた場面を見て、驚愕と歓喜の思いで叫びたい気持ちになったことを思い出した。
当時はもちろん夜中。スマホでの視聴。
テレビは部屋に置いてもらえなかったし、夜中に起きてサッカー見てるなんて知れたらそのまま朝までお説教パターンが待っていた。
色々とリアル世界のことが思い出される今日この頃。
決してあの親の元に戻りたいわけではないのだが。
「あんたのことだもん、あとから後悔するに決まってるでしょ」
離話で亜里沙の声が聞こえた。
悪趣味だな、また透視していやがったか。
「ご挨拶だな、亜里沙。ところで明は?」
明とは近頃本当にご無沙汰していて、話がしてみたかった。
「久しぶり」
明の声が聞こえた。何というか、亜里沙よりも音声がクリアな感じ。明の方が離話は得意と亜里沙が言っていたことは本当なのだろう。
「おう、久しぶり。元気だったか?」
「お蔭様で。そっちは?」
「なんとかなってる。お前たちブ・・・」
「ブ?」
危ない危ない。絢人から口止めされていたんだった。ブレーンの話は内緒にしてくれと。
「いや、何でもない。今回は俺が出ないからお前たちも出番はなし、か?」
「そうだね、細々とした調整はあるけど、基本的には自由」
「対白薔薇戦、グラウンドで一緒に応援しないか」
「ごめん、先輩方から預かったプログラミングの処理しないといけないんだ」
まーたまた。
本当は、7階会議室にPVあるからグラウンドに足運ぶまでもないのだろうが。
ま、そのうち真実は明らかになるのだろうから、度重なる嘘も許してやるよ。
「そうか、じゃ、またあとで」
明との会話が終わってから、ハタと気付いた。
俺は心の中で『戻りたいと思っていない』と思っただけなのに、亜里沙は開口一番、『あとから後悔するに決まってる』そう言った。
まさか亜里沙と明、俺の心の中が読めるってのか?
離話どころじゃねーぞ、お前たち。
今まで俺の心を読みながら幼馴染続けていたと?
清水の舞台から突き落とされるような衝撃を受けた俺。
でも、あんなに消極的で神経質な俺を見守り続けていてくれたのかもしれない。
そう思うと、不思議と騙された感はなく、早く自分たちの正体を明かしてほしいなどと勝手に思ってしまう。
でも、正体を明かしたら、もう今までどおりには付き合っていけないのだろう。
なんとなく、立場の違いを明確に突き付けられたように思う。
やはり、ずっと知らんふりしていよう。
それが俺自身のためになるのだと頭の何処かで理解している俺がいた。




