薔薇6編 第5章
今回の薔薇6戦。
瀬戸さんのようにある程度の知識を持った人間がいないから戦いにくいなと思っていたんだが、どうやらサトルはそういう方面にも長けているらしく、各校の情報を集めていた。
今回の開催校白薔薇高校は、全てにおいて中より上の力を要している。
土地勘もあるため、ラナウェイでは他校に対し、その力を遺憾無く発揮すると考えられた。
マジックガンショットは、白薔薇はおろか、どこも紅薔薇には勝てないだろうと言われている。
俺もそれは方々から聞いていた。
そもそも、マジックガンショットは紅薔薇のお家芸のようなものだ。これは逍遥が常から豪語している。
逍遥、ホントは10分切ってレギュラー魔法陣消せるだろう。それも上杉先輩よりも速く、驚異的な7~8分台で。なぜ力を抜くのか分らないが、本来の姿を見せたくないという秘密主義の表れか。
ああ、還元という言葉を前に使っていた。
だとすれば、還元するために必要でないから10分台という微妙な線で落ち着かせているのかもしれない。
サトルからの情報に戻ろう。
アシストボールも紅薔薇強しの声が上がる。
紅薔薇の鉄壁のゴールを破れるかどうかがキーとなる。
沢渡元会長は1年の時からGKに就いていて、腕はかなりのモノだと他の学校同士、2年前から噂しているらしい。
白薔薇高校のディフェンスも、突破するのは中々難しいと言われている。
紫薔薇と青薔薇には要注意。
この2校は、レギュレーション違反スレスレ、あるいは違反していることを知りながら攻撃をしかけてくる。
自己修復魔法を効果的に使用し、怪我を負うことの無いよう試合を長引かせずに決戦することが大事。
ラナウェイはどこが勝ってもおかしくない。
効果的な透視魔法があれば勝利に近づくのは確かだが、余所でそういう魔法を使える生徒がいるとは聞こえてこない。
紅薔薇が情報を外に漏らさないようにしているのと同様、各校でも情報管制を敷いている可能性は大きく、常に周囲を観察するよう心掛けること。
プラチナチェイスは、これは沢渡・光里の自陣を崩せるか、時間との戦いになる。逍遥は一発でボールを仕留める人間だから、各校とも、紅薔薇に自陣をキープされるのが一番嫌な展開になるだろう。
だからといって、白薔薇を初めとした他校にチャンスが無いわけでもない。
紫薔薇や青薔薇のように、激しいタックルや、ゲームが自陣合戦と化して反則しながら自陣を競り合う場合、総合力として紅薔薇を上回る可能性が無いでもない。
サトルからの情報を掻い摘んでいえば、そういうことらしい。
俺も思い出した。
全日本のプラチナチェイスでもそうだった。青薔薇の態度は不遜で、健全な高校生が行うスポーツとは言い難かった。
それが持ち味といって開き直られればそれまでだが、到底許せない範囲であり、チームとしての存在を問題視してしまうような部分も大いにある。
勝ちにこだわることと、傷害まがいのプレーをすることは同義ではない。
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翌日、借りたグラウンドで紅薔薇御一行様がさらっと各競技の通し練習をした。
そこで、サトルの実力は本物だということが判明した。俺が想像してた以上に身体が動いている。一人で黙々とトレーニングを積んできたのだろう。それに加え、180cm近い身長に60kgという、ぱっと見に痩せ型のサトルは、脱ぐと筋肉質で胸板が厚く、男の俺から見てもカッコいい。この胸板。ああ、俺が女子だったらイチコロだ・・・。
って、そんな冗談を飛ばしている場合ではない。
逍遥は体格等を別にしても魔法力が別格だから比較のしようもないのだが、サトルは1年魔法科の中では逍遥に次ぐ第2の位置をキープしているのではないかと思わせるものがあった。
だからこそ、あんな真似をしてまで一番でいたかったのかは不明だが、サトルの場合、少なくても先読み・ポジショニングに秀でており、ラナウェイに出場すれば勅使河原先輩以上のモノを披露してくれると俺は信じている。
アシストボールでも自分の役割を淡々と熟し、八雲のような自分勝手な動きは見受けられない。プラチナチェイスでも、チェイサーを任せてもいいくらいボールを探す時間はおろかラケットでボールを捕まえる動きも俊敏で、逍遥とは違ったタイプながら直ぐにでも実戦投入できそうだった。
マジックガンショットだけは少々苦手のようだったが、それでも上限100個の撃ち落としは15分台。並以上の力を有していた。
八雲なんて入れないで逍遥とサトルを出していれば、もしかしたらGリーグ予選、結構いいところまで行ったかもしれないのに・・・。
つい、タラレバを論じてしまう俺。
いかん。あのGリーグ予選があったからこそ、今の生徒会体制が発足し新たな紅薔薇が生まれようとしているんだ。
起きるべくして起きた、一種の事故みたいなものだったんだ、あれは。
ところで、俺はといえば、マジックガンショットで上限100個の撃ち落としが11分台前半まで成績が伸び、あと少しで10分台に乗る可能性が出てきた。俺の動きというよりは、デバイスの正確性が上がったのだと思っているんだが。
俺の透視術はあまり披露したくないと沢渡、光里間で合意しているらしく、ラナウェイで声がかかることは無くなったとみていい。ラナウェイに出場できるとすれば、先読み・ポジショニングに秀でたサトルだろう。
アシストボールでは俺は走れなくて役立たずだし、プラチナボールに出場の機会があるだろうか?出るとすれば、遊撃しかあるまい。陣形争いにはどう頑張っても加われない。吹き飛ばされてしまうと思う。
近頃は、練習しているときでさえあの視線が背中を裂くように動く。選手かサポーターに違いない。ギャラリーもいることはいたが、他校の選手たちが多く、彼らは単純に紅薔薇の情報収集を行っているのだと思われる。
やだやだ。
俺に対して言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいのに。
「お前は下手くそだから辞退しろ」
入間川先輩のようにはっきり言われる方が余程マシかもしれない。
傷つくけど。
そんな俺に近づいてきたのが、ギャラリーの中にいた本校のサポーター軍団。
俺はそのときマルチミラーをホテルに置いたまま練習場にきてしまったのでショットガンしか持っていなかった。
デバイスを見せてと言われた俺は、即座に1丁手渡した。特に変わったデバイスを持っているわけではないんだが、みんな俺のショットガンを手にとっては「へー」とか「ほー」とか声にならない声を発している。
たぶん、マジックガンショットで一定の成果を上げて段々記録が伸びていることで、デバイスが気になったのだと思う。自分の担当する生徒に使ってもいいかな、という先輩もいて、俺が休憩中は4人のサポーターの先輩がとっかえひっかえデバイスに触っていた。
亜里沙と明は、普段忙しいのは先輩方から頼まれたプログラミングを実行しているだけだと言ってた。でも今の状況を見ると、先輩方と俺のショットガンの間には何のかかわりも無いように見受けられる。
亜里沙も明も、解り易い嘘吐くようになったもんだ。
ただ、亜里沙に秘密裏に言われていたことがある。
「誰にでも見せるデバイスは2つ。あと1個、万が一の時に使うショットガンは絢人とあたしたちがプログラミングするから、絶対に人前で見せないこと」
亜里沙の考え過ぎのような気もするが、あの狂気とも呼べる視線は今回長崎入りした誰かが発していることを思えば、誰をも疑ってかからなければならない。
人を疑ってかかるのは、それだけで疲れる。
俺はあの両親に育てられた割には、脳天気なところがある。神経質と脳天気は両立しないって?
チッチッ。
これが両立するんだな。
たぶん俺、小さな頃は両親に可愛がられていたのだと思う。
保育園で亜里沙や明といるときは泥まみれで遊んでいたくらいだから別に神経質と言うわけでもなかったし。
それが、小学校のころかな、少しばかり偏差値が高いという事実に母親が気付き、そこから受験戦争に巻き込まれ、大学付属の中学や公立私立の中高一体型の学校を目指せとばかりに、小学校3年の時だったかな、塾に通うようになった。
そのあたりから母親は猛烈な教育ママになり、父親も母親に引きずられる形でそれを許容したんだな。俺が神経質になったのは其処からだったと記憶している。
ま、中学は全部落ちて公立に進んだけど。
昔話を今更語ってもどうにもならない。両親はもう、俺のことなど覚えていないのだから。俺の部屋ごと両親の記憶を消したと亜里沙が言ってた。俺もそうなるはずが、薬が効かなくて今までのことを全部覚えている。
でも、別に取り乱すようなことでもないし、俺は俺としてこれから生きていくわけだから、記憶が残ったままで良かったんだと思う。
そういえば、沢渡~光里間で俺の透視術を隠したがっているようだが、どうしてなんだろう。別に、全日本のロストラビリンスやラナウェイではそういう戦い方をしていたわけだし、それ以上もそれ以下もないと思うのだが。
ああ、第3Gで無くなった生徒がそういう技を繰り出すのが国内競技では禁止されているのかもしれない。
俺はもう、こちらの人間で、紅薔薇の一員になったのだから。
と、サブも入れて総合練習をするとグラウンドの向こうから指令が飛んでいる。
俺はやはりと言っていいのかどうか、マジックガンショットのグループに入れられた。サトルはアシストボール。
ばらばらにグラウンドに向かい、個々のグループに属する俺たち。
サトルの横顔を見ると、とても緊張しているように見えた。
先輩たちにばれないかちょっとヒヤヒヤしたが、サトルに向かって離話する。
「サトル。いつもどおりの力を出せばいいから、心配するなよ」
「海斗?さすがだね、ここまで届いてる。先輩たちに見つかりそうだからもう切るけど、君たちのお蔭で今があるから、出来る限りのことをするよ」
反対側のグラウンドを見ると、沢渡元会長が少しだけ口元に笑みを浮かべて俺を見ているような気がした。
やばっ、見つかったかな。
「離話は適当にして練習に励め」
遠く離れた場所にいる沢渡元会長の声。
やっぱり見つかっていた。
沢渡元会長の力は半端ない。俺は逍遥をいつも見てるからレベルに関しては目が肥えてる方だと思うが、沢渡元会長の魔法力は、逍遥と同等かそれ以上かも、といつも思っていた。全ての力を出し切っていない逍遥と、たぶんこれまた全ての力を出していない元会長を比べるなんて、ペーペーの俺には烏滸がましい限りではあるんだが。
俺は本校サポーター軍団からショットガンを返してもらい、総合練習している場所に向かった。
ギャラリーチームに交じり、今日も視線が熱い。と言うより痛い。
なるべくそっちの方向は見ないで、黙々と魔法陣探しに熱中する俺だった。




