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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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薔薇6編  第3章

「海斗、立ちなさい」

 目の前に現れた父さん。そして、その横で憤慨した顔をしている母さん。

 俺はまた、リアル世界に戻ったというのか。

 兆候などなかったというのに。

いや、前回のときだって戻り際にこういった兆候はなかった。前回は寝落ちしてリアル世界に戻り、耳鳴りがして向こうの世界に行ったんだった。


「海斗、聞いてるの?」

 母さんのヒステリックな声が頭の中をぐるぐると回る。

 その頃には、目眩も耳鳴りも止んでいた。


 俺はのっそりと立ち上がる。

 黙ったまま、相手の出方を待った。


「海斗」

 父さんの声を聞くとともに、俺は時計を探した。

 時計の針は、11時を指している。

 父さんが仕事から戻った時間なのだろう。


 あ、時間の流れ。

 気になった。

 父さんが何か言ってたけど聞き取れず、俺は時計を凝視していた。


 俺は突然、父さんたちに聞いた。

「今日、何月何日」


「海斗、話を逸らすんじゃありません」

 母さんのキンキン声。

 父さんは何を言っていたんだろう。

「何?ごめん、聞こえなかった」


 俺としては普通に話したつもりだったんだが、両親にとっては不良になった子どもくらいの認識だったに違いない。

 父さんは、少し怒鳴り気味に声を荒げた。

「どうして学校に行かないことを黙っていたんだ」

 

 ここは家の中で、どうやら俺はリビングにいるらしい。

 今日がいつなのか気になってカレンダーを探したが見つからなかった。

 仕方ない。父さんと話すしかあるまい。

「言えば『学校に行け』しか言わなかったでしょ」

「じゃあ、どうして行かなかった」

「あの学校が嫌いだったから。自分で決めて入った学校じゃない。父さんと母さんが勝手に決めて『入らされた』学校だ」

「入らされた?」

「そうだよ、最初は嘉桜に行きたいって言った。次は桜ヶ丘に行きたいって言った。どっちも蹴られて泉沢に入らされたんだよ。忘れたの?」

 

 父さんは一瞬、目を伏せた。母さんも視線を脇に反らした。

 でも父さんは、やおら俺を敵視するような目つきで見返してる。

「どうするつもりだ。明日から行くのか」

「どこに」

「泉沢学院に決まってるだろう」


 俺は深く息を吸い込んだ。

 もう、嘘は吐かない。

「泉沢学院は辞める」


 母さんがキーキーとまるで烏が泣き叫ぶような声を上げる。

「あんた何言ってるかわかってんの。泉沢辞めてどうするの、高校中退なんてみっともなくて周りに話せやしない」

「それは母さんの都合でしょ。俺は来年嘉桜か桜ヶ丘受けるよ」

 すると父さんが、ホントに、ホントに驚くようなことを言った。

「親のお金で高校に行かせてもらってるお前が意見できるとでも思うのか」

「は?」

「お前に選択の自由などない。お前は親のお金で高校に通う身分なんだ。明日からちゃんと泉沢学院にいきなさい」


 あまりの言い草に、俺は腹が立つよりも涙が出てきた。

 選択の自由がないだって?

 どうしてこの人たちはそんなことが言えるんだ?

 自分たちの玩具(おもちゃ)だとでもいうのか、俺が。

 俺の意志、俺の個性、俺の未来。

 全部含めて俺なのであって、選ぶのは俺じゃないのか?


「そう。俺の意志はどうでもいいわけだ。2人とも、自分たちの玩具(おもちゃ)があればそれでいいんだ」

「言葉が過ぎるぞ」

「そうですか。もう部屋に上がってもいいですか?」

 俺は腹の底から怒りが増していた。梃子(てこ)でも泉沢学院に行くとは言わなかった。何が悲しくて、自分の親に丁寧語で話さなけりゃならない。

 俺は父さんたちの返事を待つことなく、2階にある自分の部屋に向かった。


 もう、決めた。

 この家で必要としているのは俺じゃない。言うことを良く聞く従順な人形。

 さっきの会話で全て理解した。

 今、俺が決めて泉沢学院に行くのなら孤独も我慢できる。でも、俺は泉沢学院だけは嫌だ。

 親の金で行く高校を親が決めるってのは解り易い屁理屈ではある。でも、高校に行かない選択肢はない。おかしいだろ、それって。

 親の金云々の話になるなら、高校に行かない選択肢があって然るべきだ。

 

 俺は部屋に入るとスマホで今日が何月何日かを見た。

 5月15日。

 向こうの世界に行く前、ちょうど亜里沙が俺に連絡を寄越した日だった。

 やはりリアル世界の時間は動いていなかった。


 スマホと金の入っていない財布をリュックに入れた俺は、ジーパンと厚手のジャンパーに着替え、紅薔薇高校が舞台となった本を探したが、どうしても見つからなかった。

 中から鍵を掛けて、仕方なく別の本を部屋の中で読む。

 下で両親が寝静まったら、家を出るつもりだった。 

 ここにいても、俺は人形のように生きる(しかばね)になるだけ。

 そんな(しかばね)などまっぴら御免だ。


 スマホのアラームを午前3時にセットし、俺はベッドに横たわった。20時間以上眠っていなかったから、もう、疲れ果ててしまった。

 もし俺がいなくなったとしても、首を吊ったとしても、あの両親は俺を無視して外向けの理由を探し続けるだろう。

 早く向こうの世界に行きたい。

 でも、簡単に行ける世界じゃないのも知っている。このまま俺はこちらのリアル世界で家出し浮浪者になる運命なのかもしれない。

 こういう時に限って、時間の進みは遅かった。

 俺はウトウトとベッドの上で船を漕ぎながら時間が来るのを待ったが、余りの疲労に少し眠ってしまったらしかった。


 午前3時のアラームが鳴った。慌ててアラームを消す。

 暗闇の中、音を立てないようにスリッパを履かずに靴下だけで移動する。

 鍵を開け、そっと廊下に出た。

 

 

◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 部屋から出た俺を待っていたのは、広々とした、ライト輝くホテルの廊下だった。


 ああ、またこちらの世界に来ることができた。

 今回は耳鳴りも何もなく、こっちに戻ってきた。

 一言でいえば、なんだかとても嬉しかった。



「戻ってきたのね、こちらに」

 後ろに誰か立っていた。いや、声でわかる。亜里沙だ。俺は後ろを振り向いた。

「おう、亜里沙」

「あんたの波動が複雑になっててね、境界がアンバランスになってたから、もしかしたら、って思ったのよ。大丈夫、チェックインは(とおる)がしといたから」

「悪いな、(とおる)はいないのか」

「波動をチェックに行ってる」

「今度はスゲー展開だったよ。俺に高校決める意志はいらないんだとさ。まったく。俺は玩具(おもちゃ)じゃないつーの」

「家出するつもりだったんでしょ」

「まーな。第3Gの期限が終わっても、戻る家は無いわな」

「そう。なら、こっちで暮せばいいじゃない」

「俺はいいけど、お前と(とおる)は困るんじゃないの?」

「困らないわ。あたしたちは昔からこっちの人間だから」


 はあっ?何気に爆弾発言なんすけど。

「何言ってんだよ、保育園の頃からの付き合いだろ、俺たち」

「あたしと(とおる)はあんたのSP役になるために魔法で身体を小さくしたの」

「なんだ、それ」

「あんたの第3G入りは生まれた時から決まってたのよ」

 そうか、沢渡元会長がいやに俺を買い被っていたのは、亜里沙と(とおる)から話を聞いていたのか。それでこいつらが全日本の601にも簡単に出入りしてたわけだ。

亜里沙がいつになく真剣な顔をしている。

「それで、どうする?」


 俺はこっちでも俺の意志ではなかったのかと思いつつ、半分呆れ、半分笑いが込み上げてきた。

「何をどうするってのさ」

「リアル世界に戻る気はあるの?」

「いや、向こうはもういい。戻ったところで泉沢学院に行かせられるだけだ。親の金で通う限り意見もしちゃいけない家なんて、戻る価値もない」

「そう。なら、壁を埋めるわ。もう二度と戻れない、それでいいのね?後悔しない?」

「後悔したとしても、それは自分の意志で決めたことだから」

「第3Gとしての特権も無くなる。それでも構わない?あんたの両親の顔も忘れる。それでも後悔しない?」

「特権なんてあったっけ?それに、どうやってあの親の顔忘れんだよ」

「あんたが知らないだけで特権はあるのよ。あとで徐々に教えてあげる。それとね、薬があるの。チオペンタール。元はリアル世界でテロリストが開発した薬と言われているけど。記憶喪失になるの」

「俺の記憶はまだしも、親の記憶は?」

「向こうの記憶も抹消するわ。あんたの部屋ごと消す」


 スゲー荒業。

 でもまあ、玩具(おもちゃ)がいなくなって寂しがるより、最初から玩具(おもちゃ)なんてなくていいんだ。

「OK。それでお願いするわ」

「じゃ、あとで薬持ってくるから」


 亜里沙は踵を返して去っていく。今までの亜里沙の歩き方とはどこか違う。

ここにいるのはもう一人の亜里沙のような気がした。


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