薔薇6編 第1章
8月1日。
学校は夏休み真っ只中だが、普通科、魔法技術科、魔法科の全校生徒が講堂に集まっている。
今日は生徒総会の日だった。
いつもなら、薔薇6のエントリー発表だけがあって、他は何事もなく終わる一日だと聞いた。
ところがその日、沢渡会長が全校生徒の前で突然退任を発表したから講堂の中は騒然となった。
生徒会役員全員も同時に退任するという。
後任の生徒会長は光里陽太先輩、2年。
弥皇企画広報部長の後任は、普通科の麻田弥央先輩、2年。
六月一日副会長の後任には、魔法技術科の栗花落譲司。1年。
女子の副会長は三枝先輩が退任し、魔法科の南園遥、1年が選出された。
当分の間、書記は置かないことが総会で了承され、ここに光里体制が発足した。
光里先輩は逍遥の願いどおり、魔法科だけの生徒会役員体制を改めた。
魔法科からは若干抗議の声も出たが、何より魔法技術科と普通科の連中が光里会長に親しみを覚えたようだ。
人心掌握、OK♪
続いて、光里会長の下で早速薔薇6のエントリー選手が発表された。
スターティングメンバーは、Gリーグ予選とほとんど同じ。
今年の場合、練習不足や不協和音があったものの、新しいメンバーではなくGリーグ戦メンバーをエントリーしたという説明がつけ加えられた。
マジックガンショットは、3年上杉憲伸、1年四月一日逍遥、1年南園遥。
アシストボールは、1年四月一日逍遥FW、2年光里陽太MF、2年光流弦慈DF、3年沢渡剛GK。
ラナウェイは、3年勅使河原晋、1年魔法技術科栗花落譲司、3年定禅寺亮。
プラチナチェイスは、先陣3年沢渡剛、後陣2年光里陽太、チェイサー四月一日逍遥、遊撃2年設楽聖都、3年斎田工。
サブメンバー
3年八月十五日梓、3年九十九翠、2年羽生翔真、1年八朔海斗、1年岩泉聡。
計20名。
サポーター
1年八神絢人、1年山桜亜里沙、1年長谷部明、2年広瀬翔英、2年宮城聖人、3年若林正宗、3年千代桜。
計7名。
午後は麻田弥央先輩から、薔薇6の詳細説明があるということで、エントリー発表後に解散した生徒たちの中で、エントリーされた生徒が再集結し、講堂に集まることになった。
昼休み。
ほとんどの生徒は学校を後にしたが、エントリー組は学校に残り食堂で昼食を摂っていた。
俺と逍遥、岩泉くんは揃って焼肉定食にありついていた。譲司と南園さんは、新規生徒会の副会長ということで、色々と業務があるのだろう、姿が見えなかった。
亜里沙や明、絢人もまた姿が見えない。どこか別のところで昼食をとっているのか。
本当に、この頃ご無沙汰というやつだ。
「ふう、今回はベタなエントリーになったな」
俺の言葉を待っていたかのように逍遥が声を上げる。
「八雲なんて入れるからチームがガタガタになったんだよ。あいつは疫病神だ」
「おいおい、また上意下達の先輩方に知れて一悶着になるから、大声で話すのはよしてくれ」
「海斗は相変わらずヘタレだ、ね?岩泉くん」
岩泉くんは少々困惑した表情で俺たちを見る。
「ヘタレって、それなら僕はヘタレ以上だ」
「じゃあ、映す価値なし?」
「おいおい逍遥、それは余りに酷だろ」
「ごめんごめん、冗談のつもりだったけど、通じなかった?」
「いや、いいんだ。実際、今の段階でサブにエントリーされるなんて思っても見なかったことだから」
「逍遥はたまに爆弾発言するから、俺は気が気じゃないよ」
岩泉くんが小首を傾げる。
「逍遥って、四月一日くんのこと?八朔くん、すごく仲良しになったんだね」
「うん。俺のことは海斗でいいよ」
「僕は逍遥で構わない」
「じゃあ、僕のことはサトルって呼んで」
「OK、サトル」
「じゃあ俺も。サトルでいいんだな」
「僕、中学の時から傲慢な性格になってしまって、名前呼びとかしてもらったことなくて。憧れだった」
「誰でも黒歴史はあるさ。リアル世界じゃ、俺は黒歴史まっしぐら」
「そうなの?」
「1人でいるのが怖かった。でもこっちに来てからは1人でいられるようになった」
「僕はまだ1人が怖いよ。でも、受け入れないといけないね」
ふふふと逍遥が不気味に笑う。
その、たまーにやらかすその裏で、君は何を考えているんだ、逍遥。
その時だった。
またもや、俺はあの突き刺すような視線に見舞われることになった。
誰だ。俺をターゲットとしているのは。
また、立って後ろを振り向くが、そこには2年と3年の先輩方がいるだけ。
エントリー組しかここには残っていないはず。
「どうした、海斗」
挙動不審な俺を見て、逍遥から声が掛かった。
「いや、強烈な視線が背中に突き刺さるんだ」
「視線?今日が初めてか?」
「いや、全日本の宿舎にいた時からだ」
「何回くらいあった、そういうこと」
「3~4回くらいかな」
「僕は感じない、サトルは?」
「特には」
「じゃあ、やっぱり海斗がターゲットか」
俺は軽く首を竦め分らないといった風情で席に座る。前に逍遥たちに話したような気もするが、皆覚えていないのだろう。自分のことでない限り、人は忘れるようにインプットされているものだ。
さて、本当に、睨まれる意図がわからない。
第3Gを嫌う人が多いのも事実だから、それで睨まれるのだろうか。
それにしたって、俺、今回はサブであり。
ああ、サブに入り損ねた魔法科組は1年から3年まで合わせると75人近くになる。
いやいや待てよ。
入り損ねた生徒は、今、ここにはいない。
段々気が滅入ってくるので、視線のことは頭の隅に追いやることにした。
午後から俺たちはまた、講堂に集められた。
薔薇6のことを良く知らない1年生に向けた丁寧な説明。2,3年はもう勝手知ったる我が家状態なのだろうが、特に、俺のようなこの世界を知らない第3Gは、詳細を聞かなければ訳が分からない。
薔薇6対抗戦は、夏休みの8月中旬に約2週間の予定で開催される、薔薇姉妹校6校の対抗戦だ。別名、6校祭りともいうらしい。
競技種目はマジックガンショット、ラナウェイ、アシストボール、プラチナチェイス。ちょうどGリーグ予選と種目が重なるため、紅薔薇としては練習量も試合勘もあるので幸運に他ならない。
Gリーグ予選と同じメンバーを選出するのも凡そ理に適っているわけだ。
紅薔薇、白薔薇、黄薔薇、桃薔薇、紫薔薇、青薔薇の6校総当たり戦での勝ち点により各々の競技の勝敗が決まり、4種目を合わせた勝ち点で1位になった高校が薔薇6の優勝校と呼ばれる。
夏休みということで、ギャラリーの数は全日本と比べても遜色ないほど多いという。
各種目は3カ所の会場に分かれて1日当たり午前と午後とで2試合、予備日を合わせ、約2週間に渡り熱戦が展開される。
出場するメンバーは学年を問わず、3学年が混じった混成チームとなる。ただし、1種目につき1人は1年を入れることが定められている。
えーと。
前にもこの話は聞いたことがあるような気がするのだが。
6校が総当たりで、1種目につき合計15試合が行われ、4種目の総試合数は60試合になるはずだ。
合ってるか?俺はこの試合数を数えるのが凄く苦手だ。
もし間違えていたら、ゴメン。
スタメンの人数は、マジックガンショット3名。ラナウェイ3名。アシストボール4名。プラチナチェイスは5名。
スタメン・サブは20名以内でエントリーを終了する。
全体で5~7名のサポーターの帯同が許される。
スタメン15名に対し、サブは5名。メンバーが全体で20名しか選出されないということを考えると、メンバーチェンジは、ほとんど行えないことになろう。
ギリギリの感じもするが、帯同するサポーターの仕事を考えると、これがMAXの数字になるということだった。
薔薇6事務局は年度ごとにスライドする。今年は長崎にある白薔薇高校が担当校。来年度は兵庫県神戸市にある黄薔薇高校が担当予定であるとのことだ。
競技に参加する以外にも、ギャラリーについて教えてくれた。
全競技とも競技場にて観戦ができるが、ラナウェイだけは施設を必要とするため、競技場に特大モニターを設置し応援ができるのだという。
PV会場も市内3カ所に設けられ、一般人や競技場に入れなかった生徒も応援することができる。
もうひとつ、薔薇6戦は、そのほとんどが市内中心部の競技場や校内のグラウンドで大会を行う。競技場での太鼓や笛、吹奏楽などの高校生お定まりの応援はできない。
周囲の環境に配慮してのことだという。
PV会場はドーム型の球場や体育館が主となるため、そこでは太鼓や笛、吹奏楽、チアガール等々、何でもありなのだとか。
だから競技場へは行かずにPV会場に応援に行く生徒も多い。
薔薇6の話は噂には聞いていて、ある程度のことは知っていたからだが、麻田企画広報部長は、きめ細かな配慮ができる人なのだなと感じた。
でも、思うことがある。
六月一日先輩だって、最初からあんな物言いをする人ではなかったのではないか。だから同級生からの信頼も厚かった。
弥皇部長だって、あの様子を見ると配慮の出来る人で、人徳を認められ生徒会に入ったと思われる。
人は、一旦権力を得ると人柄や考え方さえも変わってしまうのか。
確かに、六月一日先輩が逍遥に言い放った言葉と、沢渡元会長が六月一日先輩にぶつけた言葉は同じだったにもかかわらず、六月一日先輩は魔法科に拘りを見せた。
たぶん、紅薔薇という高校では魔法科が最上で、普通科が最低の評価なのだ。
皆、心の奥では線引きをして生きている。
俺には分らないし、分りたくもない。
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Gリーグ予選とほとんど変わらないメンバーだったが、八雲と六月一日先輩は強制終了させられ、三枝先輩は生徒会を辞めたためかわからないが、薔薇6への参加を辞退した。
ラナウェイはGリーグ予選で1年が入っていなかったため、譲司がスタメンに選出された。ラナウェイには俺の方が合ってると思ったので、そこは意外だった。
それよりなにより、なんといっても嬉しいのが、サトルがサブとして復活したことだった。薔薇6は学年関係なしに戦うので1年が試合に出ることは少ないと思われるが、サブとして認められた功績は大きい。
ひとえに、四月一日マジックとでもいうべきか。
その日の夕方、俺とサトルは、今度は生徒会のミーティング室に呼び出された。また先輩たちに何か言われるのだろうか。
今日は逍遥抜き。
俺は弁達者ではない。熱くなると仙台弁が出そうな気もするが。今のところ標準語で話せている。
違う違う。今はそういうことが問題なんじゃない。
サトルはすっかり意気消沈しており、見ている俺も辛いほどだ。
生徒会ミーティング室に入って待つこと10分、姿を現したのは、沢渡元会長だった。
「久しぶりだな、八朔、岩泉」
サトルは、サブエントリーを外されると思ったのか、身体が震えているのがわかる。
そんなサトルを前にして、沢渡元会長は椅子に腰かけ、間髪置かずに話し出した。
「岩泉。俺は例の噂により全日本時からお前を国分事件の犯人扱いしてきた。事実、お前を嫌いだったと言ってもいい。しかし四月一日とこの八朔がお前の未来を変えてくれた。もちろんそこには、お前の持って生まれた力と人知れぬ努力があったと解する。その努力を活かすためにも、今後、姑息な真似は一切止めろ」
サトルは目に涙を浮かべている。
「お前は捲土重来を期するべきなのだ」
俺は四文字熟語に弱い。
「会長、捲土重来とはどんな意味なのですか」
「何だ八朔、知らないのか。物事に一度失敗した者が、非常な勢いで盛り返すことを指す。今の岩泉に必要なものだ」
「勉強不足で申し訳ありません」
「構わない。ところで、今回お前たちはサブでエントリーするが、場合によってはメンバー交代も有り得るから、きちんと修業に励め」
俺とサトル、2人の声がシンクロする。
「承知しました」
生徒会ミーティング室を出る際、ドアの前で部屋に向き直り、もう一度深々と頭を下げるサトル。
あたふたと俺も同じように頭を下げる。
ミーティング室の中から、沢渡元会長の笑顔が俺たちを見送った。
俺たちは揃って1年の魔法科教室を目指し足音も緩やかに歩みを進める。
「海斗、本当にありがとう。君のおかげだ」
「俺は何もしてないよ。逍遥が君を守ったんだ」
俺とサトルは、お互いの顔を見つめてふふふと小声で笑い、肩を組んで夕方の廊下を占領した。




