魔法W杯 Gリーグ予選編 第5章
逍遥はあの騒ぎのあと、絶対にグラウンドに行こうとはしなかった。その代り、現地の様子は譲司が知らせてくれた。
大体が八雲の様子だったが。
アシストボールでは、DFのくせにMFの役目を果たそうとしてみたりFWの邪魔をしてみたり、守備には全然参加しなかったり、要は目立つことが非常に好きらしい。
GKなんてカッコ悪いとそこかしこで言いふらして歩いてるのだとか。
あー、沢渡会長、どう思うのかね、それ聞いて。
俺たちには関係のないことだけど。
プラチナチェイスでは念願のチェイサーになったようだが、まるっきりボールを拾えず自陣に入れてから30分経ってもまだ飛び続けているという。
挙句の果てに、陣形がおかしいのだと責任転嫁する始末。
マジックガンショットでは、上限100個を30分経過しても撃ち落とせず、ってか、イレギュラー魔法陣の洗礼に遭っているらしい。
これも、レギュラー魔法陣が全然現れないからだと周囲に吹聴しているというのが言い訳らしいんだが、腹の底から笑える。上限100個は必ず現れるの。数を数えることもできないのか?
結果、残りの日数ではどうにもならないと先輩たちも気付いたらしく、会長に申し入れを行ったようだが、会長はどうしても首を縦に振らなかったという。
意地、なんですかね。
それとも、最初からGリーグ予選突破など念頭にないのか。
逍遥の『ボロ負けするよ』予言もあるし。
八雲が出場して世界中から笑われるのは紅薔薇高校であり、生徒会長と生徒会であり。
先輩たちが心配して逍遥のところに来るらしいのだが、逍遥も今回だけは譲れないと頑なに拒んでいるのだとか。
ところで、八雲が役に立ったなら、俺たちはお払い箱になるわけだが、もしも八雲が役に立たなかったらどうするのか。会長を始め生徒会役員は俺たちに土下座でもして謝るんだろうか。
このぶんでは、土下座でもしない限り、逍遥は生徒会が関わる今後一切の競技、試合に出場しないだろう。
彼の言い分によれば、こんな甘っちょろい試合など腕試しにもならないという。
なぜ試合に出場するかと言えば、自らの力の還元なのだそうだ。
何を還元しているんだ?
自らがそうあったように、魔法を術として体系化していく。そして比類なき能力を秘めた1人の人間に、全てを伝承する。そのためにだけ、試合に出て自分の魔法を見てもらう。
ただ、それだけ。
俺にはわかりづらい説明だったが、それ以上聞いても逍遥は話をしないはずだ。話さないことがわかっているので、俺はそれ以上何も聞かなかった。
さて。
困った困った。
何も俺が困ることもないんだけど。
最悪、強制終了でリアル世界に戻されるだけのこと。
いつも言ってるが、もう腹は括っている。
あとは残された亜里沙や明が心配なだけだ。
リーグ戦があるからだろう。前にも増して亜里沙たちに会う頻度が少ない。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
こんな時ほど、時間の流れは速い。
1週間が瞬く間に過ぎていく。
季節は夏、7月に入った。
2日後にはGリーグ予選の試合が始まる。
相変わらず、逍遥は学校と寮を往復する生活が続いている。俺も別に用がないので、同じく寮生活組。
今じゃもう、逍遥の部屋にまで先輩たちの土下座参りがあるらしい。
会長を説得するから試合に出てくれ、と。
それに対し、逍遥の答えは決まっている。
頭を上げてください。エントリーを外された自分が出るのはおかしいのでエントリー内で会長と相談してください、と。
そういった経緯もあり、今年は2,3年の先輩たちと生徒会連中との不仲にまで発展したまま、Gリーグ予選を迎えることになった。
別に、僕が悪いわけじゃないし、言い出したのは向こうだから、と逍遥はつれない。
本当に逍遥はどこまでもドライだ。
性格は無慈悲。非常に冷たい。
俺なら先輩に土下座された時点で戻るような気もするけど、逍遥にしたって大凡退学の危機なわけだから、ただやみくもに先輩に向け邪険な態度を取っているわけではないと思う。
どちらに軍配が上がるかは、試合が始まる前から分りきっているんだけどね・・・。
紅薔薇高校は高校生日本代表としてGリーグ予選アジアエリアA組を戦う。
A組で戦う相手は、オーストラリア代表、インドネシア代表、台湾代表。どこも決して弱くはないが、強くもない。イメージとしては、オーストラリアが突出している感じだ。欧州の血を受け継いだ戦術を取っているからだろう。
昨年も紅薔薇はGリーグ予選で敗退したはずだが、今年はどんな戦いを見せるのやら。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
Gリーグ予選に出場する紅薔薇の選手団は市内のホテルを宿舎にし、そちらに移った。
寮から選手団に加わった先輩も多い。
逍遥は最後まで自分を貫いた。もちろん、逍遥の態度に文句を言う先輩もいた。でも逍遥は気にしていなかった。
彼にとっては、沢渡会長との約束が一番大事だったのだ。
俺たちが勝てば、いや、勝ち負けという表現はおかしいかもしれないが、俺たちの言うことを事実認定してもらえれば、八雲に実力がないのに然もあるかのような振舞いを止めてもらい、魔法技術科に戻して二度と競技には出場させないことを約束してほしいと願い出るだろう。
で、6月に俺が録ったあの場面を再生する。これであいつの本性がわかるはずだ。
逍遥はそこまで計算して悪者の名を背負い込んでいた。
まったく。俺に言わせれば器用そうでいて本当は不器用なやつだ。四月一日逍遥という男子は。
Gリーグ予選では各国1日1種目の試合を行うということで、全12日の予定を組んでいた。
ようやく逍遥も試合内容に興味を持ったのか、はたまた八雲の働きぶりをチェックするためか、俺と一緒にPV会場に足を運ぶことにした。
まず、オーストラリアとの対戦。
1日目はマジックガンショット。
誰もが予想した通り、時間内に八雲がレギュラー魔法陣を消し去ることができず、また南園さんも競技に参加しなかったことから、3人平均の時間は上限100個に対し、20分台と大幅に出遅れた。急遽エントリー外から出場した3年女子も20分台。八雲が上限を仕留めることができずに終わったため、マジックガンショットでは負けなしの紅薔薇高校が、ポイント0という紅薔薇史上最悪の結果をもって終わってしまった。
上杉先輩も、自分は10分台を死守したというのに他の2人が足を引っ張ったお蔭で、かなり凹んでいた。4日後の試合、8日後の試合で盛り返せばいい、という応援団の慰めもあったようだが、先輩自身、逍遥に土下座参りをしていたひとりで、もう、八雲には話しかけようともしていない。
チームの雰囲気が最悪なのを俺だって感じたのに、八雲は謝るどころか、また自分だけレギュラー魔法陣が出なかったと沢渡会長に泣きついていた。
2日目はアシストボール。
八雲のオウンゴール3発による得点を含め、0-7という大差でオーストラリアに完敗を喫した。主に、八雲がDFとしての仕事をしなかったからだが、沢渡会長の目にはどう映ったのか。
ポイント0。
この数字が齎す意味は大きい。
3日目、ラナウェイ。
ここは八雲が出ない唯一の種目。
先輩方もこの種目だけは落とせない、という意地もあったのか、早々に相手を攻略し、3人の先輩方は勝鬨を上げた。
3-0。ここでやっと3ポイント。
先輩方はやっとオーストラリアに勝利し安堵の表情を見せた。
4日目。プラチナチェイス。
今日でオーストラリアとの試合が終わる。
やはり、といっていいものかどうか。
陣形を組むことは容易にできたが、八雲がチェイサーの役目を果たせずボールは陣形を離れていく。
Gリーグ予選と決勝Tのプラチナチェイスにおいては、陣形に5分以上ボールが居続けても捕まえられない場合、陣形はリセットされ相手方にボールが渡るのだそうだ。
俺は練習にも参加していなかったので全日本とルールが変わることに気が付かなかった。
なんで陣形がリセットされるのだろうと不思議に思っていたら、PV会場で試合を観ていた逍遥が隣で大笑いしている。
逍遥、君なら5分もかからずボールを手中に収めているからね・・・。
結局ボールはオーストラリアが奪ってしまい、またもやポイントは0。
いくら相手が格上のオーストラリアとはいえ、散々な滑り出しだった。
4日目からはインドネシアが対戦相手となった。
オーストラリアよりも与しやすいとの前評判を早々に裏切り、インドネシアは善戦した。
紅薔薇の成績は、マジックガンショットはまたも20分台、アシストボールは0-3、ラナウェイは0-0、プラチナチェイスも0-1。
ラナウェイでポイントを稼げなかったのが痛かった。
八雲というやつは、反省するということが頭の片隅にも無いのだろう。
オーストラリア戦とまったく変わりがなく、特にアシストボールではMFやFWの先輩に邪魔者扱いされて相手ゴール近くで同じチーム同士がタックルをかけるという珍事が見受けられた。
先輩方は沢渡会長からお叱りを受けたらしいが、先輩方としても、どうやら堪忍袋の緒が切れる状態までに至ったようだ。光里先輩が何やら八雲に向かって叫んでいるのがPVに映ったが、どうやら「もう出るな!」と怒鳴ったように見えた。
そりゃそうだ。
反省の色も無く、それでいて実力もない。ともに戦う先輩方としては、頭が沸騰しかけてるのではないか。
みなさん、熱中症にご用心。
結局、インドネシア戦はこれまたラナウェイで稼いだポイント1に終わり、生徒会連中がバタバタと情報収集に明け暮れる時間を作ったという噂だ。
8日目からの台湾戦。
台湾は一番日本とプレースタイルが似ているということでPV会場にも楽観的な空気が充満していたが、1日目のマジックガンショットからして、それは毒ガスへと変貌した。
台湾の選手3名が放ったマジックガンショットは、上限100個を平均15分台で撃ち抜いたのである。
それに比べ、こちら日本は上杉先輩が他の2人への不満や怒りをセーブできず調子を崩し、3人平均が25分と今までで一番遅い結果となってしまった。
アシストボールは0-1、ラナウェイは1-1、プラチナチェイスは0-1。
ここでも八雲が邪魔になり、アシストボールなどは特に荒れた。
DFの八雲がどうして自陣ではなく敵陣のゴール前に張り付いているのか、不思議に思っていた観客も多かったと見え、日本チームは失笑を買い、八雲自身はブーイングを浴びた。
プラチナチェイスでは最後までボールをラケットに押し込むことができず、これまた観客席はブーイングの嵐と成り果てたのだ。
それでも自身のプレーを変えようとしない八雲は、ある意味図太い神経を持っている。心臓に毛が生えているに違いない。
競技の全日程を終え、わが日本の結果は、わずか5ポイント。
日本チームは無様な形でアジアエリアA組の最下位に沈んだ。
昨年度をも上回る大惨敗だった。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
紅薔薇の大惨敗には、国内のW杯全日本参加校からもクレームがついたらしく、大会事務局日本支部はおろか、紅薔薇高校の事務方にもクレーム電話が鳴りやまないらしい。
宿舎から学校に戻った生徒会役員らは、その後始末に忙殺されていた。それ以上に、一般の生徒からも激しいクレームの嵐で、校内でデモ運動が展開された。
そう。生徒会役員一掃を叫ぶ生徒が続出したのだ。
そんなある日のこと。俺と逍遥に対し、生徒会に来るよう命令が下った。
「何を今更」
逍遥はにべもない。
ただ、上意下達の高校生活、命令には従うということで、俺たち2人は生徒会室に向かった。
乱暴にドアをノックする逍遥。
「あれ、持ってるね」
「持ってる」
俺がポケットから出したのは、あの時のレコーダーだった。
「入れ」
沢渡会長の声がする。
入ると、俺たちがエントリーを外されたあの日に戻ったのかと思うように、皆が寸分たがわぬ同じ席について俺たちを待っていた。
沢渡会長が机に肘をつきながら口を開いた。
「お前のいうとおりになったな、四月一日」
「僕は結果を知りませんので」
言うに事欠いて、逍遥はずらっと嘘八百を並べ立てる。
おい、嘘きらいなんじゃないのか。
それとも、これも必要悪ということか?
「そうか。結果を知らない、か」
「今日はどういったお話でしょうか」
「Gリーグ予選は、お前の言った通りの結果になった」
「僕は何も。エントリーを外していただいただけです」
「八雲の件も知らないと?」
「今の僕には関係のない話です。八雲の正体については証拠がありますが」
そういうと、逍遥は俺の手から乱暴にレコーダーを奪って再生ボタンを押した。
“みじめ”“お前”といったNGワードが並ぶ音声データ。
聴いている沢渡会長の眉間の間が段々狭くなってくる。
「これをどこで」
「全日本の懇親会のときに八朔くんに預けていました」
「なぜレコーダーを?」
「国分事件について情報が得られるかもしれないと思ったからです」
「そうか。あの時こんなことを・・・」
逍遥はまだ怒っている。
誰かに何も聞かれないから、逍遥も俺も何も言わない。
そうやって5分ほどが過ぎただろうか。
「済まなかったな、お前の言い分を聞くことすらしないで」
沢渡会長が、徐に立ち上がって俺たちの方に向かい頭を下げた。
他の役員が会長を止める。それは六月一日副会長だった。
「会長、こんな1年に頭を下げる必要はありません」
ん?こんな1年?
なにすや。
「お前たちも頭を下げろ。最後に四月一日と話した時、我々は何と言った?」
「それにしたって、頭を下げるべきではありません」
「謝れない者は生徒会に必要ない。我々はもう、生徒会の体を成していないことに気が付かないのか」
「それは・・・」
今度は弥皇部長が沢渡会長を止める。
「3年はもうすぐ生徒会を去りますから、何度頭を下げても構いません。しかし2年は来年度があります。ここで上意下達の慣習を破ってはなりません」
沢渡会長は、弥皇部長の左肩に自分の右手を載せた。その手は少しだけ、震えていた。
「だからこそ、全員を変える必要があるのだ」
「全員?」
「そうだ。六月一日。お前は入間川に代わってよくやってくれたと思う。しかし、俺の間違いを正しもしないで下級生を責めた。この生徒会に必要なのはそういう人材ではない。正しいことを正しいと言える四月一日のような人材が必要だ。弥皇、お前も同じだ。我々はもう卒業するからと上意下達を簡単に目下の者に任せるのではなく、正しいことを正しいと言える下級生を探さなくてはならない」
逍遥は、自分に関係のないことをいつまで話し続け、俺たちを拘束するのかと思っているに違いない。
「では、僕たちはこれで失礼します。次回以降、八雲は絶対に試合に出さないでください。魔法技術科に戻していただいて結構です」
六月一日副会長は逍遥に対し良いイメージが無かっただろう。自分も生徒会を追われることになった事実を内心承服しかねていたのか、また逍遥を相手に怒りだした。
「こいつ、まだそんなことを」
「僕なら、エントリーを全部外していただいて結構ですから」
「生意気な奴だ。お前など普通科に転科させてやる」
「どうぞ、なんなりと」
「止めろ!!」
途轍もなく低い声。怒った。沢渡会長が・・・怖い。
「六月一日、お前はもうここに必要ない。生意気とかそういう問題ではない。我々は間違いを冒し日本中から責め立てられているんだぞ」
「しかし会長」
「それなら、お前が普通科に行くか」
途端に六月一日副会長は怯えた目をして床に座り込み、会長の左腕にすがりついた。
「お許しください。普通科への転科だけは、お許しください」
沢渡会長の目つきが変わり、こめかみがヒクヒクと動いている。
いつも落ち着いた目をしている会長の目に、炎が見え隠れする。これは・・・怒り頂点に発したのだろう。声も1オクターブ下がっていた。
「貴様、今同じ言葉を四月一日に言ったではないか。なんというやつだ。貴様は地位さえあれば何でもできると思っていたのだな。これが貴様の本性か。見たくもない、出て行け」
反対に六月一日副会長は震えだし、身体が一回り小さく見えた、
「お許しください。何でもしますから」
「ダメだ。もう本性を見切ったからには、ここには置いておけない。教職員に相談し転科もやむなしとする」
沢渡会長は、六月一日先輩の腕を取って立ち上がらせると、生徒会室のドアを開け、そのまま追い出してしまった。
あっちゃー。
内部抗争激化。
逍遥はといえば、俺たちを早く解放しろよとばかりに頭を振り、足を踏み鳴らしている。
おいおい、逍遥。落ち着け。
俺だって入間川先輩のときにこういった場面に出くわしたんだ。これが生徒会長の力というやつなんだよ。
「弥皇。お前も今日は出て行ってくれ。俺はこいつらに対して謝らなければならないんだ」
「会長・・・。わかりました。自分は会長の言葉を信じますし、今回の問題に対するせめてもの償いとして、出来る限りのクレームに対応します」
「そうか、では教員室に向かってくれ」
「承知しました」
「三枝、お前も教員室へ」
「かしこまりました」
カシコマリマシタ、って。
1年しか学年変わらないのにその言葉遣いってどうよ?
紅薔薇の生徒会って、すごくない?高校の生徒会ってみんなこんなもんなの?
沢渡会長は他の役員を外に出すと、もう一度俺たちに頭を下げた。
「済まなかった、俺も人を見る目が落ちたな」
逍遥の声は相変わらず冷たい。生徒会長に対しての言葉とは思えない。
「いえ、会長でなくても、六月一日先輩は評判が良かったと聞いていますから」
「四月一日、そろそろ矛を収めてくれ。八雲は金輪際競技会には出場させない。魔法技術科に戻そう。岩泉の件も、薔薇6からサブで起用しよう。お前と八朔もエントリーするから薔薇6に出場してくれ」
逍遥はまだ何か言いたげだったが、もうこの辺で一段落させよう。
俺は逍遥を押しのけて前に出た。
「ありがとうございます。八雲の件は、これからもそのように願います」
「あれだけのプレーだったからな、クレームも物凄い数だと聞いた」
「ところで会長、のちの会長はどなたを指名されるおつもりですか」
「会長には光里を考えている。副会長は人選を任せる。光里も八雲起用に反対していてな。六月一日と試合中にも関わらず対立していたんだ。そんなことも手伝って、今回のような失態を冒してしまった」
「そうでしたか」
「本当に試合を観ていなかったのか」
「はい。こうなることはわかりきっていましたので」
俺もいけしゃあしゃあと嘘をつく。
「わかりきっていた、か。お前は懇親会のこともあっただろうに、よく、あの時我慢したな」
「腹が立ったのは本当ですが、僕を怒らせるのが彼の真の目的だったと思っていましたから。僕は高校に通わなかったので上意下達が全高校で行われているのかわかりませんが、やはり正しいものは正しいと言える学校生活でありたいと願っています」
「光里にはその辺もきっちりと引継ぎしておく」
「ありがとうございます」
俺は渋る逍遥にギリギリ頭を下げさせ、生徒会室からやっとの思いで抜け出ることができた。なんで俺、いつも権力争いの中にいるんだろう。
生徒会室を出た逍遥は、いつもの切れ者逍遥に戻っていた。
「逍遥、相当怒ってたな?」
「別に~。でもお家騒動は僕らのいないところでやってほしいよね」
「確かに。俺、前も副会長追い出した時生徒会室にいたんだよなあ、さっき思い出したよ」
「紅薔薇の生徒会長は力がありすぎる。他校ではこんなに力を持っていないんだ。教員をも上回る力は危険だよね」
「そうだな。教員の言うなりも困るけど、六月一日先輩みたいな人が会長になったらと思うと寒気がする」
俺たちは学校を出て寮へと向かい歩き出す。
次期会長候補の光里先輩の腹積もりも知らずに・・・。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
翌日のこと。
Gリーグ予選で紅薔薇が負けたことにより、沢渡会長名義で、7月後半は薔薇6の準備に、9月はGPSの準備に充てることが発表された。
薔薇6はGリーグ予選と同じ種目で争うため、誰がエントリーされるのか、皆の興味の集まる所だった。ただしエントリーが発表されるのは8月1日だ。
夏休み前の昼間の食堂は、生徒たちが集まりその話題に花を咲かせる。
俺や逍遥、譲司も何の気なくその話題には触れている。
そんなある日の事。
またもや俺は昼の食堂であの刺さるような視線を感じた。
後ろを振り向くが、俺に対し嫌な顔をしている生徒はいない。
もしや八雲では?と思っていたのでちょっと意外だった。
逍遥や譲司は何も感じないと言うから、俺に向けた視線なのだろう。
いったい誰が俺を見ているんだ?
そんなことを俺が考えているところに、光里先輩が顔を出した。
「よう、四月一日。元気そうだな」
逍遥は光里先輩がどういう人だか知っているらしい。
俺なんぞ、2年と言えば入間川先輩や六月一日先輩のような、先輩風を吹かせる人しか知らないので、少し身構えた。
「なんだ四月一日、俺の事周りに話してないのか」
逍遥は相手が先輩なのにいつものように冷たくあしらっている。
「ええ、まあ」
光里先輩は腰に手を当てて、笑いながら逍遥の顔に自分の顔を近づけた。
「お前、今度の生徒会、副会長やらないか」
どーん。
俺、八朔海斗にしてみれば、なんという爆弾発言。
逍遥が副会長ねえ、生徒会がぶっ壊れそうだ。
それをアテにしてのことのなのかどうかわからないが、光里先輩は逍遥に知らん顔されても、何度もアプローチを繰り返す。
「なあ、頼むよ」
「僕は生徒会を壊しそうですから」
「だからいいんだよ」
「僕より、栗花落はどうでしょう」
「栗花落?」
「こちらにいるのが栗花落、栗花落譲司です」
「見たこと無いな」
光里先輩も、物事をはっきり言うタイプとお見受けする。
「栗花落は請われて、全日本以降魔法技術科から選手に選ばれているんです。魔法科だけが生徒会じゃないと僕は思っています」
「それもそうだな」
譲司が顔を赤らめて手を顔の前で右手を振る。
「そんな大役、僕には務まりません」
「そうなのか?」
また光里先輩は俺たちの方を向く。
俺と逍遥は、ニヤリと笑って譲司を指差した。
逍遥が続ける。
「光里先輩、こいつは魔法科に入れる技術があるのに、わざわざ魔法技術科を選んだ変わり者ですが、とても真面目です。でも、これでいて、言いなりにはならないタイプなんですよ」
「へー、興味湧くな」
まだ譲司は右手を振っている。
「僕など副会長は無理です」
光里先輩が、譲司の右手を止めた。
「お前デカいなあ。力には自信あるか?」
「力?ええ、まあ」
「じゃ、お前、生徒会に入ってくれよ。力仕事が多いんだ、生徒会は」
「力仕事?」
「ああ。俺を助けると思ってさ、手伝ってくれよ」
「力仕事で済むのでしたら」
「じゃ、決まりな。8月1日の生徒総会で発表するから」
口笛を吹きながら光里先輩は俺たちの元を離れていった。
先輩もお上手だこと。
俺の知る限り、生徒会に力仕事は無い。
それとともに、逍遥がもし生徒会役員に選ばれていたらどうなっただろうと考える。
んー。
想像がつかない。
逍遥は一般の生徒でいるからこそ、輝いているのかもしれない。
こうして、俺にとって初めてのGリーグ予選は、思いもかけない方向で、あっけなく幕切れした。




