魔法W杯 Gリーグ予選編 第4章
翌朝。
腰が痛い。
練習の為せる技かと思ったりしてみたが、どうやら昨夜の化け猫騒動でベッドから転げ落ちたところが痛むらしい。
あー、カッコ悪いったらありゃしない。
洗面所で逍遥に会った。
クイクイと親指を立てて、自分の部屋を指し示す逍遥。
この期に及んで秘密の話でもあるんだろうか。
「1年のサブ選手が1人減っただろう?岩泉くんをサブに推薦してみようと思うんだ。まだ彼には内緒にしてくれよ。会長がOKするとは限らないから」
そうだった。岩泉くん、元気にしているんだろうか。いるのはわかっているのだが、学校の授業も別メニューなんだよね、エントリーされてる人とされてない人では。
「いいんじゃないか。岩泉くんは魔法力が鈍ったわけでもないからね。八雲に出られるより余程マシだろ」
「余程マシだは、聞かなかったことにしておく」
あ。すみません、暴言でした・・・。
「ごめん、言い過ぎた」
「僕は本人じゃないからいいよ。今日の放課後生徒会に行こうと思うんだけど、付き合ってくれない?」
「いいよ。特に練習らしい練習ないし。君こそ忙しいんじゃないの」
「別に構わないさ。いくら練習したところで、勝てっこないからね」
「問題発言だな」
「お互いさまということで」
あははと乾いた笑いをかます俺たち。
未だに畏怖が消えたわけじゃないけど、沢渡会長が岩泉くんの更生にOKを出したことで、俺は会長の懐の広さを見たような気がした。
その日の授業は、何故か長く感じた。早く生徒会室に行って岩泉くんを推薦してあげたいという気持ちが強かったのだろうか。
試合やそういったものとはまた別で、なぜか心が急いていた。
鉛筆を転がしたり、少し寝てみたり。
教員から見ても、今日の俺は特段に変な生徒だっただろう。
先生、ろくでもない生徒で、ごめんなさい。
やっと、終業のチャイムが鳴った。
俺はすぐにバタバタと音をさせて教科書をカバンに仕舞う。
周囲の生徒が比較的ゆっくりと行動していたので俺のドタバタは非常に目立ったと思う。
先生を見ると、もう呆れ果てたような顔をして、俺と目をあわせようともしない。
先生、本当にゴメン。
放課後。
カバンを魔法科の教室に置いたまま、逍遥と2人で生徒会室を目指した。
今だからいうけど、もう慣れたからだけど、最初通った頃は迷ってばかりで泣きそうになったもんだ。
誰にも言わなかったけどな。
今は1人でも大丈夫。
でも、会長と2人だけであの部屋にいるのはどうしても避けたい。
逍遥は道に迷うということがないのか、速い速い。
俺が小走りになるときすらある。
決して俺の歩幅が狭いわけじゃないと思うんだが。逍遥が速すぎるんだ。
逍遥だってやはり急いているんだろう。
他にサブを見つけられたら嫌だし。
俺は必死になって逍遥の後を追いかけた。
あっという間に生徒会室の前に着いた。
逍遥がいつもより大きい声で叫びながらドアをノックする。
「失礼します、1年魔法科四月一日です」
会長にもその大きな声は一発で聞こえていたようで、すぐに返事をもらった。
「四月一日か、入れ」
ゆっくりと生徒会室に入る俺たち。
中には、沢渡会長と六月一日副会長、三枝副会長、弥皇企画広報部長が揃い踏みだった。
沢渡会長は手元の資料を読みながら俺たちを見ることなく、逍遥に言葉を返す。
「用件を手短に頼む。今、策戦会議中だ」
「今回のGリーグ戦サブエントリー選手に、我々1年として、1年の岩泉聡くんを推薦したく伺いました」
「その件か」
「はい。今回の国分事件でサブが1人いなくなります、是非岩泉くんを入れてください」
「その件、今回は動くことができない。本人に通達してからまだ2週間。せめて1か月は様子を見ることになるだろう。薔薇6からなら構わないが」
「では、今後もしメンバー変更がある場合、八朔くんと栗花落くんを入れて頂きたいのですが」
「八雲もいるではないか」
「彼は役に立ちません」
「どうしてそんなにあいつを嫌う」
「前にも申し上げました、実力がないからです。岩泉くんがどうしてもだめなら、瀬戸さんを推薦します」
今まで俺たちに背中を向けていた六月一日副会長が痺れを切らしたように逍遥の方に向き直る。
「推薦は生徒会の案件であり、お前の出る幕ではない。エントリーを外されたいのか」
「八雲を出場させるのであれば、僕はエントリーから外していただいて結構です」
ここで空気の流れが一気に変わった。
おいおい逍遥。
ほんとにエントリー外されたらどうすんだよ、3種目もスタメンで入ってるのに。
「生意気な。それでは、お前のエントリーを外す。学年とフルネームを言え」
「僕は1年魔法科の四月一日逍遥です」
逍遥は俺をも引きずりこむ意向らしい。右肘で俺の身体を突く。
仕方ない。
別に出たいわけでもないし。
ここは逍遥に同調しよう。
「同じく1年魔法科第3Gの八朔海斗です」
弥皇部長が俺たちと六月一日副会長の間に入ってきた。
「六月一日。確かに推薦は生徒会案件であり、誰も僕たちの決定に意義を唱えることはできない。しかし、この2人は沢渡会長が直々にエントリーしている。まして第3Gのことにお前は口を出してはいけない。いいか。お前も胆に銘じておけ。会長のお考え如何では、お前の副会長職も取り消せるのだぞ」
そういって六月一日副会長を叱りつけたあと、弥皇部長は俺と逍遥を交互に見た。
「四月一日に八朔。ここは引け。八雲を出したくない気持ちはわからないでもない。でもそれはやはり会長が決めることだ」
「上級生に逆らったらエントリーを外すと3年生の先輩に教わりました。それでしたら、僕と八朔くんのエントリーを外して八雲をスタメンにしてください。彼の実力が分るはずです」
六月一日副会長は怒ってシャープペンを逍遥に向かって投げつける。
第3Gの俺に向かって口出しできないから、魔法科生の逍遥に当たったのだろう。
ここで、真打ち登場。
「お前たち、いい加減にしないか」
俺から見てると、会長はこっちを怒っているのか、先輩たちを怒っているのかわからない。
でも、ここまできちゃったし、後戻りできない。ね、逍遥。
「沢渡会長ともあろうお方がなぜ八雲に騙されるのか、僕には理解ができません」
おーっと、それをいったらお終いだよ、逍遥。交渉決裂どころか停学や退学もあり得るぞ。俺はリアル世界に帰るだけだからいいけど、逍遥、最悪退学の憂き目にあったらどうする。
沢渡会長もさすがにカチンときたらしい。
「そうか。では、今回はお前たちのエントリーを外して八雲をスタメンにエントリーしてみよう。それで八雲が結果を出せたなら、四月一日、お前は普通科に転科させるし、八朔は元の世界に戻ってもらう。これでどうだ」
「承知いたしました。僕としては異論ございません」
俺は母さんとのバトルに思いを馳せていたので少し反応が遅れた。
「どうだ、八朔」
「あ、すみません。僕も異論ありません」
沢渡会長は立ち上がり俺たちの方に寄ってきた。
「それから、南園も体調を崩しているのでGリーグ予選でのエントリーを外す」
逍遥は前を見ていて、会長とは目を合わせようともしなかった。
「南園さんは僕らとは一切関係ありません」
「気にならないのか、誰が出るか」
「上杉先輩並の力を持った先輩が大勢いるでしょうから。マジックガンショットは」
「これはまた。ブラックジョークか」
「僕たちはこれで失礼します。お忙しいところ申し訳ございませんでした」
逍遥が先に生徒会室を出る。俺は慌てて生徒会役員に挨拶しながら逍遥の背中を追った。
来る時とは違い、ゆっくりとした足取りで廊下を歩く逍遥。魔法科の教室に戻ると、逍遥はさっさと帰り支度を始めた。俺はもう帰り支度を済ませてあるのでカバンを手に取っただけ。
支度をする間、一言も口にしようとしない逍遥。
うーん。まだ怒っているのか。
そうだよな、自分のエントリー外されて八雲がスタメンなんて、脳内ストーリーには無かった展開だろう。
なぜそこまで逍遥が八雲を嫌うのかはなんとなくわかるけど。お前呼ばわりするやつだし。みじめ発言するほんっとに嫌な奴だし。それでいて、実力ないし。
俺が不思議なのは、なんで沢渡会長が八雲を認めているかなんだよね。媚びへつらっていますってんのわかんないものなのかな。あの会長さんが。
ああ、あれくらいの権力持つとそういう媚びへつらいとか、方々からあるんだろうな。で、感覚がマヒしていく。
一度マヒした感覚を正常に取り戻すのは、並大抵の心理じゃできないだろう。
惜しいよねえ、そこさえなきゃ立派な生徒会長なのに。
って、第3Gとして可愛がられている俺が言っても何の役にも立たない。
ふと我に返り逍遥の様子を見る。
逍遥は机の中やロッカーまで整理している。
おいおい、このまま学校からいなくなる気か?
「帰るのか?」
俺の問いが全然聞こえていないかのようだ。
こりゃすっかり頭に血が上ってるなと解釈した。
「おい、逍遥。寮に戻るのか」
「寮ですら直ぐに出て行きたい気分だ」
「そこまで怒らなくても・・・」
逍遥はひとつだけ心残りがあるという。
「君を道連れにして済まなかった」
頭を下げられた俺は、心配性の性格が表に出た。
「俺は元の世界に戻るだけだから別にいいけど、逍遥は退学になったら困らないのか」
「行くとこあるからいいんだ」
「家に帰るってこと?」
「違うよ」
「じゃ、転校?」
「ま、そんなところ」
「逍遥ってば、怒るとおっかねーもんな」
「おっかねーって、何?」
「怖い、ってこと。元の世界の方言さ」
「いいね、それ。別に僕は紅薔薇なんておっかねくないし」
「そこ、おっかなくない」
「そうなの?方言って難しいんだな」
笑いまではせずとも、ようやく逍遥の怒りが収まってきた。
あとは寮の中でまた怒りをぶちまければいい。
俺、いつまでこっちに居られるかわかんないけど。
あー。逍遥のことだから、リーグ戦の応援にも行かないな。でも、俺だって逍遥や南園さんが行くから応援行きたいだけで。譲司はどうするんだろう。スタメンにあげるのかな。でも、さっき会長は逍遥の代わりに八雲を入れると言った。
それなら譲司のスタメン入りはないだろう。
ま、人間万事塞翁が馬。
人生何事も結果オーライ。なんとかなる。
というわけで、授業が終わると俺たちは寮に真っ直ぐ帰ってあーでもないこーでもないと、どうでもいいような話題で盛り上がる日々を過ごすことになった。
これって、高校生活そのものだよなあ、部活に入れば一昨日までと同じように練習三昧の日々になるのかもしれないけど、たまにはのんびりするのもいいじゃない。
譲司はサブとしての練習が待ち構えているらしく、俺たちと会う機会がめっきり減っていた。
もう、俺は腹を括っていた。
リアル世界に戻ることも厭わない。
亜里沙や明にも生徒会から連絡が行くだろう。
俺が問題起こすと亜里沙は吹っ飛んでくるはずなのに、今回は姿を見せようともしない。
もしかしたら、亜里沙や明は、普段リアル世界に戻っているのかもしれない。
桜ヶ丘は楽しそうだもんなあ。
俺はまだ考えあぐねていた。
泉沢学院は退学することは既定路線。問題はその後。
嘉桜高校を受験し直すか、最初から桜ヶ丘1本で行くか。それとも高校自体行くのを止めて大学入試にスライドするか。
なんか、今の生活送ってると何でもできそうな錯覚に捉われる。
魔法についても考える。
主体的に俺が動かしてるのか、それとも魔法に動かされてるのか、それすらもわからないが、俺は徐々に魔法を自分のモノにしつつある。このペースでいけば、かなりの魔法を習得できるのではないだろうか。
というところまで、逍遥と語り合ったわけです。
逍遥は俺のこと全然知らなかったから。
そういう逍遥は、自分のことを話すことは話すけど、大事な部分は隠してる。
でもね、いいの。穿り返されたくない生活だってあるだろうし。
俺が必要なら、必要だと言ってくれるし。
俺にとっては、今が一番幸せなのかもしれない。
やっぱり親友が欲しかったのかな、泉沢学院で。
でももう、あそこに行くのは嫌だし親友を作ることも諦めた。
神様。
リアル世界において、泉沢学院のような大勢の中に居て、ひとりでも生きていける本当の強さを俺にください。




