魔法W杯 Gリーグ予選編 第2章
その頃の俺の日常はといえば、ラナウェイのメンバーチェンジを仮定して、走り込みと透視魔法の練習だけ。
九十九先輩のいうとおり、Gリーグ予選では各出場校の情報合戦も頻繁になっているようで、特に魔法については他の国に漏れないよう、室内で行ったりしている。
俺の透視魔法もその一つ。
特定魔法だと逍遥は言うんだが、何が特定で何が通常なのか、その線引きは俺にはわからない。
今の俺に使えるのは、透視魔法と飛行魔法だけ。一番最初、南園さんに教わった射撃魔法も加えると3つだけだ。ああ、離話もできるから、4つか。
それだけでも凄いと譲司も舌を巻いている。
まあ、こっちにきてまだ1ケ月くらいだということを踏まえれば、通常よりも覚えるペースは早いかもしれない。
この魔法が様々な面で使いこなせれば、の話だが。
練習には譲司や八雲、五月七日さんも参加しているわけだが、予選においては、俺たちサブ1年の出場機会はないと思う。
2年の光流弦慈先輩や、同じく2年の羽生翔真先輩がいる。2人の先輩方は全日本では目立った活躍こそなかったものの、来年に向けた策戦の見直しにより、サブメンバーとしてエントリーされているようだ。
事実、プラチナチェイスやアシストボールの練習風景では、センスの良いところを見せている。
タックル時の切り込みだったり、飛行魔法の遊撃としての動きだったり。遊撃選手は上下左右に前後、その上宙返りも必要だ。
運動って、センスが必要だよね。俺にはセンスというものがないと腹の底から豪語したい。
まあ、なんだね、俺が運動神経マイナスの男だなんて・・・そんなことはどうでもいい。
俺、全日本が終わってからというものの、何となく呆けている。
別に練習をさぼりたいわけでもないんだが、何かが頭の奥の方で俺を呼んでる気がする。
ああ、そうだ。国分くんのことだ。
忘れてんじゃねえっ!!
俺は、早く犯人見つけて国分くんに報告したかったんだ。
結構な確率で犯人と目されるのは、今のところ二人。
八雲と五月七日さん。
瀬戸さんは絶対に八雲だ、五月七日さんであるわけがない、100%五月七日さんは有り得ないと俺に向かって吠える。
瀬戸さんが吠えると、それはそれで怖い。
だって、俺より背高いし。
姐さんみたいなとこあるし。
しかし、五月七日さんは今のところ重要参考人から外すわけにはいかない。
ただ、今まで俺たちはサブにエントリーされている1年の人間ばかりピックアップしてきたわけだが、もしかしたら、推理があさっての方向を向いている可能性が無いでもない。
前に言ったよね?
俺や国分くんがスタメンに入ったせいで、(俺は特に第3Gだ)魔法科の誰かがスタメンはおろかサブからも外された可能性がある。
その人間も、学校にいたときは同じ食堂を使っていたはずで、俺たちのカレーに薬物を入れるという非道的な真似を行うことができたはずなんだ。
でもそうなると、宿舎で譲司が大会事務局に連れて行かれた理由がわからない。あのときだって、誰かが事務局にリークしていなければ譲司に嫌疑がかかるわけがない。
夜中の食堂にいたという目撃情報なんて信用ならないけど、事務局ではそれをもとに譲司に疑いをかけ、結局譲司自身の身体からは、薬物はこれっぽちも見つからなかった。
譲司が他の誰かに薬物を摂取させるために食堂にいたのなら未だしも、あのとき食堂には食物の類いは置いていなかった。飲み物だって、普通の人間なら自分で用意した物しか飲まないから、万が一譲司が食堂に飲料水を置いてきたとしても、それを拾っていく人は99,9%いない。
今回エントリーされている人ならば、基本中の基本として実行していることだ。
総合的に勘案すると、俺の疑問に合致する人間、それが八雲と五月七日さんなのだ。
逍遥は練習に忙殺されていたが、国分事件を相談できるのは逍遥しかいない。
譲司には相談できない。
だって、それこそ99%白なのはわかって入るけど、残り1%の確率で重要参考人にならないとは言い切れないから。
疑っているわけではないけれど、今、絶対的に信用為る人間は逍遥だけだった。
俺は夕方の練習が終わり、逍遥が寮に帰ってくるのを見計らい、彼の部屋のドアを軽くノックした。
寮で他の生徒の部屋に入るのは初めてかもしれない。俺の記憶が正しければ。
「はい、どうぞ」
逍遥の声は疲れている様子も見受けられない。やっぱり、手を抜いているに相違あるまい。
まあ、いいや。その方が俺としては話がしやすい。練習で疲れ切った相手に国分事件を語るのは気の毒だから。
「俺、海斗。入っていい?」
「いいよ、学校でシャワー浴びてきたし」
「お疲れ、今日は何の練習してたんだ?」
「プラチナチェイスとアシストボール両方。人使い荒いよね、入ったばかりの1年相手に」
「3年と同等の力あるってバレてるんじゃないの」
「おや、僕はそんな力を持っていないよ」
「嘘つけ」
「言ったじゃないか、僕は嘘が嫌いなんだ。身体的な能力は3年や大学生には届かない」
「逍遥の場合、身体的というより、何て言ったらいいのかな、全ての能力が3年と同等か大学生並なんだよね、いや、大学生をも凌駕しているように思える」
逍遥は、俺の目をじっと見つめ、ふっと軽い溜息を吐いた。
「褒め言葉として頂いておくよ。それで海斗、今日は例の件で来たのかい?」
「わかった?ごめんよ、疲れてるときに」
「大丈夫。人使い荒い中でもうまく手を抜いてるから」
「君らしいな。さて、早速本題に入るとするか。俺さ、今回の重要参考人は八雲か五月七日さんしかいないと思ってるんだ」
「譲司には疑いかけないの」
「俺の勘では、99%、白だと思ってる」
「なぜ?」
「だってさ、逍遥。夜中に宿舎の食堂にいたという目撃情報が信用ならないことと、譲司にとってあの段階で国分事件を起こすメリットがどこにあったのかということ、なんだ」
「でも、譲司はスタメンになったよ」
「それは譲司が望んだことではないよね、元々魔法科を蹴って魔法技術科に入学したんだし」
「それはそうだね」
逍遥の腹の中がうまく読み切れない。ここは素直に聞くしかない。
「逍遥、君はどう考えてる?」
「僕も八雲か五月七日さんが重要参考人だとみてる」
「譲司のことは」
「僕はね、事実を積み上げて考えるタイプなんだ。その時々の感情で事実に蓋をしてはいけない。その僕が考えるに、譲司に有利なことが無いんだ、国分事件は」
「腹の中で魔法科に嫉妬してるとか、ないかな」
「そりゃないだろう。君の言うとおり、やりたいことがあって自ら魔法技術科に行ったわけだし、魔法技術科での評判も頗るいい。生徒達からも、教員からも。今まで満足の日々だったと思う」
「そうなると、やはり2人に絞られるのかな」
逍遥はうーんと唸りながら右手をこめかみに当て、口元を上げた。
「岩泉くんも白だと証明しておかないとね」
「彼は難しいんじゃないか。カレー事件の時はフリーだったはずだ」
「うん。ただ、岩泉くんはドリンクやサプリに軽い薬物を入れてただけだから。アンフェタミンを入手しうるルートもない」
「そういえばそうだな、こっちではインターネットとかないから海外からの個人輸入とかできないよな」
「インターネット?」
「パソコンやスマートフォンっていう機械や電話機で色々な情報を知ることができるんだ。例えば、“アンフェタミン 入手”で検索かければ、色々な入手方法があることがわかる、ってな感じで」
「君の元いた世界は、ハード的な部分ではこちらより進化してるね。魔法みたいなソフト的要素になるとこっちの圧勝だけど」
「まさか魔法の使える世界があるなんて夢にも思わないさ。リアル世界では」
「互いにないものを補い合ってる感じだねえ。さて、本題に戻ろうか」
「俺、どうしたら犯人を捕まえられるか考えてるんだけど、いい案が浮かばなくて」
逍遥はさっきよりも口元を上げた。もう、完全に笑っている。
「ごめんごめん、馬鹿にしたわけじゃないんだ。あのときにプレイバックすればいいじゃないか」
「プレイバック?」
「そう、皆で毎日カレーを頼む」
「待ちなよ、途中でアンフェタミン入れられたら身も蓋もないだろ」
「犯人はいつもアンフェタミンを持っていると見て間違いないよ、あの時だって、見事なまでの素早さかつ冷静さだった」
「今スタメンにいるのは君と南園さんか」
「うん、二人で話してたんだ。そのうちカレー頼もうかって」
「というと、またスタメンに上がりたいという不埒な思いを犯人が抱えていると」
「そう、君の推理どおりだよ、またスタメンに上がる腹積もりなのさ。実力のない人はお断りなんだけどなあ」
逍遥は考えるのが面倒だと言わんばかりに大きく背伸びをした。
俺はまだ心配だった。
「でも、こっちにとっても危ない橋だよ」
「食べずに検査に回せばいい」
「なるほど。で、現行犯で捕まえると」
「僕たちだけが動いても証拠にならない可能性もあるから、一番証拠能力があるモノを使う」
「なんだ、それ」
「内緒。秘密」
「教えてくれ」
「海斗はすぐ顔に出るからアウト」




