魔法W杯 Gリーグ予選編 第1章
魔法W杯全日本高校選手権は神奈川県横浜市において13日間の熱戦が繰り広げられ、1年こそ優勝を逃したものの、優秀な成績で紅薔薇高校が総合優勝の栄誉に輝いた。
それが6月半ば。
総合優勝した紅薔薇高校は、7月に行われる魔法W杯Gリーグ予選への出場が大会事務局により正式決定したとの一報が入ったらしい。
昨年はGリーグ予選で予選敗退したので、今年こそは予選突破!と2,3年の先輩たちは目の色を変え、皆、鼻息も荒いときている。
1年はまだしも、2,3年にとっては去年の雪辱を晴らすための大一番である。1年にとっても、世界を見るいい機会になると先輩方は言う。
でもさー、俺のような人間観察大好き第3Gからすると、外国人の体格と比較対象として紅薔薇の全日本スタメンラインナップをみても、アシストボールやプラチナチェイスは、か・な・り、分が悪いと思うわけ。
先輩たちの意気込みはとても素晴らしいことだと思うけど、あの日本サッカーですらGリーグ予選を勝ち抜いて本選Tに出場できる機会はそうそうない。
ましてや、Gリーグ予選や決勝Tで実施される競技は、背が高く体幹のしっかりした欧米人に断然有利と思われるアシストボールやプラチナチェイス、外国人でも日本人でも特段の違いは出ないマジックガンショットとラナウェイ。
競技の半分で相手に好都合と思われる体格面での径庭があるわけだから、どう頑張っても勝てるわけがない。
沢渡会長あたりは、“そんなときこそモチベーションを高く持ち、常に維持していくのだ”とかいいそうだけど。
ロストラビリンスがあれば、俺も出場してイイ線いけるかもしれないのに、ロストラビリンスは種目にない。なぜかといえば、迷路を作るのが面倒だからと聞く。
そうだよなあ、あんな迷路たくさん作って取り壊して、コストパフォーマンスが非常によろしくない。というわけで、Gリーグ予選に関しては、俺は出る幕無しだと思う。
今回の出場選手エントリーは、まだ俺たち下々の者には知らされていない。
俺はもうお役御免でリアル世界に戻されそうな気がしてるんだけど、まだこっちの世界にいられるのなら、応援くらいはしたいよね。
逍遥は必ず選手にエントリーされると思うし。
そうそう。
魔法W杯は、Gリーグ予選と本選Tを含め、1年・2年・3年が分れて競技に臨むと思ってたんだけど、どうやら俺の勘違いだったようで、1~3年を混成して臨むらしい。
そりゃそうだよね、100を超える国々がリーグ形式により予選を戦うわけだから、学年をミックスしないと7月中に終わらない。
というわけで、なおさら俺は高みの見物ができるというものだ。
リアル世界に戻されない限りは。
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2日後、スターティングメンバーとサブメンバーが正式にエントリーされたとの情報が譲司経由で俺の耳に入った。逍遥の耳にも入ったことだろう。
マジックガンショットは、3年上杉憲伸、1年四月一日逍遥、1年南園遥が出場。
アシストボールは、2年光里陽太FW、1年四月一日逍遥DF、2年六月一日健翔MF、3年沢渡剛GKという、俺にして見れば紅薔薇高、超豪華メンバー。
ラナウェイは、3年勅使河原晋、3年八月十五日梓、3年定禅寺亮。
プラチナチェイスは、先陣3年沢渡剛、後陣2年光里陽太、チェイサー四月一日逍遥、遊撃2年設楽聖都、3年斎田工。
サブメンバー
3年 九十九翠、2年光流弦慈、2年羽生翔真、2年三枝美優1年八朔海斗、1年五月七日紗羅、1年魔法技術科栗花落譲司、1年魔法技術科八雲駿皇。
計、23名。
サポーター
1年八神絢人、1年山桜亜里沙、1年長谷部明、2年広瀬翔英、2年宮城聖人、3年若林正宗、3年千代桜。
計、7名。
全日本の時は自分のことで頭がいっぱいで気付かなかったのだが、どうして1年だけサポーターが3名なのか不思議だった。
1年はまだ経験が浅いので3名なのだろうと当たりをつけた。
亜里沙と明だもんな、魔法とは縁もゆかりもない2人。たぶん、2人で一人前なんだろう。
ていうか、なんでまた、俺の名前がサブで入っているんだろう。俺の入る余地なんてなさそうなのに。
アシストボールは天地がひっくり返っても出場機会はないはずだし。
マジックガンショットも出場するスタメンは9~10分台で上限100個のレギュラー魔法陣を消し去る。俺は頑張っても上限13分がやっと。俺が入ったりしたらその時点で勝ちは無くなると思って間違いはない。
ラナウェイはマルチミラーが無くとも魔法で隠れている敵味方を見つけられるようになったけど、今度は世界が相手だよ?単純な力比べじゃ俺が勝てっこないのは、みんな知っていると思うんだが。
プラチナチェイスは、逍遥の言葉を借りれば、俺は遊撃しかやれない。
いや、逍遥に怒っているわけじゃない。
ぱっと考えてもじっくり考えても、答えはそこにしかないということだ。飛行魔法を加えればスタミナはなんとかなるかもしれないが、あのボールにぶつかった時の痛みといったら、言葉では言い尽くせないほど、痛い。
というわけで、余程のアクシデントが起こらない限り、俺がW杯Gリーグ予選に出場することはない。
岩泉くんは、サブとしてのエントリーが消えた。
沢渡会長の温情というか、ペナルティというか。
でも、フラットなところから始めるべきなんだと思う、岩泉くんは。
そこから魔法で這い上がってのし上がってくるべきなんだ。
彼なら必ずサブやメインにエントリーされるようになると思う。それだけの能力があるんだから。
いつになるかわからないけど、岩泉くんがエントリーされる側に戻ってきたら、彼とはうまくやっていけそうな気がする。
俺たちは互いに人間の弱さを知っているから。
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魔法W杯Gリーグ予選まであと1週間。7月に入るとすぐに国内外の50近い会場で競技が開催される。
アジアエリアでは、運よく横浜国際陸上競技場メインスタジアムとサブグラウンドがアシストボールとプラチナチェイス、マジックガンショット、ラナウェイのアジア方面予選A組のメイン会場となることがW杯事務局から発表された。
予選を1位通過すると、本選決勝Tへの出場切符が手に入る。本選に出場できるのは、16チーム。予選で各国が競技を戦い、その合計ポイントで16チームが選ばれ決勝Tにいくことができるわけだが、100ヶ国余りの参加国から16チームに入るのは並大抵のことではない。
決勝Tに進むためには、世界を5エリアに区分して行われるGリーグ予選を勝ち抜く必要がある。
日本はアジアエリアに属することになっているそうだ。他にも、世界中を見渡すと北南米、欧州、中東、アフリカという各エリアがある。
エリア内で実施される国々は、A組からC組に分かれ実施される総当たり戦で勝ち点を争う。
同率の場合は少しややこしくなる。各組とも、同率で1位に2チームが並んだ場合は、得失点差でベスト16への出場国が決まる。もしも得失点差でも同率の場合は、アシストボールのPK合戦を行い、順位を決める。
最後の1チームは、全エリアの敗者復活枠となり、北南米、欧州、中東、アフリカ、アジアの各エリアで2位となったチームのうち、一番勝ち点の多かった国が出場機会を得ることになる。そこでも同率の場合が出てきたときは、あらためてアシストボールのPK合戦が組まれるのだそうだ。
先輩たちの目標は、まず、Gリーグ予選を突破し決勝Tに進むこと。
今までの長い歴史の中、全日本高校チャンピオンが決勝Tに進んだ例はないという。
講堂に集まって発表を聞いた連中から湧きあがる歓声は、俺の耳を劈くほどだった。
俺の素直な感想。
えー、海外行けないのかあ。
いや、サブでも遠征のチャンスはあるはずだが、今年は国内、それも横浜開催だから遠くに行けないだけ。俺のような神経質人間は海外に行ったらいったで水がマズイだのなんのかんのと文句ばかり言うに決まってる。
海外行くべき人間じゃないんだよ、俺は。
応援組はみんな海外なんて行けるはずないし、これでよかったのかな。
日本はGリーグ予選A組に入ったから、横浜市内での対戦となる。横浜市内なら、岩泉くんや瀬戸さんも応援に来てくれるだろう。国分くんも調子が戻ればどこかで見ていてくれるかもしれない。
でも俺は、このときとても嫌な予感がしていた。
何をどう、とはっきりした言葉で言い表すことができなかったが、なんか頭がクリアでないような気がする。
どうぞ、何事も起こりませんように・・・。
翌日から、予選を突破すべく各競技の練習が始まった。
各種目とも、薔薇大(薔薇大学。薔薇6から進学できる大学のこと)から稽古をつけてくれる大学生が何名か来て、容赦のない練習が繰り広げられている。
アシストボールではファウルスレスレの行為は日常。さすがの沢渡会長でもボールをキャッチできないほど、前に出てきて顔面アタックしていく。
ぎょっとする俺に練習後逍遥が教えてくれた。
予選で外国と戦うということは、如何に自分が怪我をしないようにプレーすることなのだと。だから自分に対する自己修復魔法が許されているのだと合点がいった。
プラチナチェイスも同様に、当たりが強い。
遊撃の選手など、簡単に吹き飛ばされている。高校レベルでは決して弱くないはずなのだが、やはり、まだまだ高校生は身体的能力がベストな状態には仕上がっていないのだろうと身につまされる。
身体がピークを迎えるのは20~25歳だというから。
それでも、沢渡会長や光里先輩、逍遥は相手の動きを見切って素早く逃げたり、一度ボールを自陣に入れたら間髪入れずにラケットに押し込む逍遥の動きは、大学生をもってしても抑えられない程、素早く手強かった。
ラナウェイはどちらかと言えば工夫をした鬼ごっこだと思っていたのだが、英知のピークも20歳過ぎなのだという。高校生のお遊びでは、到底大学生には敵わないということか。
向こうの策戦は巧妙で、出るふりをして足だけが動くのでこちらが出てみると、こっちの足下を撃ってまた隠れたり、動きも俊敏であと少しのところで逃げられたり、いいとこなしの練習風景だった。
俺が使った魔法ができれば、足下にマルチミラーを使うだけなので戦術も立て易いが、皆が皆、あの魔法を使えるわけではなかったようだ。
もし俺がメンバーチェンジできるとしたら、ラナウェイくらいですかね。
なんせ、元々“運動神経マイナスの男”ですから。
余り俺に期待しないでください。
それに比べて、マジックガンショットに出場する上限9分台の上杉先輩と10分台の逍遥や南園さんは、黙々と自分たちのペースで調整を進めていた。
でも俺は気付いた。
逍遥は、本気になればもう少し速く撃てるのではないかと。逍遥に聞いてもはぐらかされるだけなので聞いていないが。
前に対人魔法と言ったことがある逍遥。今の状態でいえば、たぶん、マジックガンショットが一番対人魔法に近い。撃つか撃たれるかの戦場になれば、速く確実に撃った方が勝つ。
だから逍遥のマジックガンショットは正確無比だし、速さもそれなりに撃っているのだ。本気を出せば、上杉先輩をも抜き去る速度で撃てるに違いない。
四月一日逍遥、君は一体何者なんだ。




