魔法W杯 全日本編 第41章
翌日、俺たちは国際陸上競技場のメインスタジアムで閉会式に臨み、ポイント順で8位までの高校が表彰を受けた。
総合優勝 紅薔薇高校、準優勝 紫薔薇高校、3位、札幌学院高校、4位 能登高校、5位 高知学院高校。6位 青薔薇高校、7位 京都嵐山高校、8位 開星学院高校
閉会式では沢渡会長が総合優勝旗を高らかに掲げ、全ての行事が終了した。
その後、全員が横浜市国際会議場に移り、昼にかけて懇親会が始まった。
どちらかというと、同じ高校の生徒同士がくっついて話してる風景が目に飛び込んでくるのだが、逍遥は知り合いが他校にもいるらしく、あっちから声を掛けられこっちにも声が掛かるという超人気ぶり。なぜか俺にメガネケースを託しテーブル周りを始めた。普段メガネ姿など見たこともないのだが、本当は視力に難有なのか?
しかし、こうして壁際から中央を見ているのは結構楽しい。
俺は今日も人物観察を行っている。
ほら、あそこの生徒があっちを向いて別の学校の女子に一目ぼれしてる。なるほど、相手も美人には違いない。1年かな?
こっちでは自慢合戦が花開いてる。
自慢したって何にも良いこと無いのにね。
すると、隣に譲司が現れた。
「僕は元々魔法実技方面じゃないから、全然知り合いがいないよ」
「第3Gの俺もさ」
と、誰かがこちらに寄ってくる。
「やあ、八朔くん、また会えた。こちらは確か、プラチナチェイスで遊撃をしてた栗花落くんだよね」
この顔は・・・ああ、確か京都嵐山高校の神藤、玉城、逢坂、1年生だ。名前は覚えたんだけど、何で戦ったんだっけ、マジックガンショット?それともラナウェイだったかな。あまり突っ込んで話をすると覚えてないのがばれるから、慎重に慎重に・・・。
「やあ、あの試合以来だね。譲司、こちらは京都嵐山高校の神藤くん、玉城くん、逢坂くんだよ」
「初めまして、栗花落譲司といいます」
「君たちの陣形は見事だったねえ」
「先陣と後陣が優秀だったからさ」
「先陣と後陣の彼と彼女はここに居ないの?」
「彼の方は至る所から引っ張りだこで。彼女はこのイベントの手伝いじゃないかな」
「残念、電話番号聞こうと思ったのに」
神藤くんとやらは、隠し事をしないタイプとお見受けする。
玉城くんと逢坂くんは、譲司が魔法技術科だと知り、とても驚いていた。
そこで10分程話しただろうか、神藤くんたちは自分の学校のたまり場に行くと言って姿を消した。
代わりに姿を現したのが五月七日さんだった。
子猫のように真っ黒い瞳孔が何とも言えず猫らしい。猫じゃないけど。
「ね、中に入らないの?」
「俺も譲司も知り合いがいないんだ」
「私もー」
「同じ中学から来てる人とかいれば未だしもね」
「第3Gの亜里沙か明がいればなあ」
譲司が目を丸くしてる。
「え?同じ中学だったの?」
譲司に教えてなかったっけ。
「そうだよ、あいつらとは小さな頃からの付き合いなんだ」
「そうなんだ、知らなかった」
五月七日さんが呟いた。
「そういえば、サポーターは帰っちゃったもんね」
ここで譲司は弥皇先輩に呼ばれ、イベントの手伝いを任せられたようだ。
しきりに向こうから“ごめん”という合図を送ってくる。
俺は五月七日さんと何を話していいかわからず、少し2人とも黙ってる時間が流れた。いかんいかん、こりゃマズイ。
「急に言われたにも関わらず、デッドクライミングは見事だったね」
「あれは得意なの。スポーツクライミングとかボルダリングやってるから」
「そうなんだ。僕は運動系が苦手だから昇れないと思う」
「そうなの?それにしちゃラナウェイとかプラチナチェイス、すごかった」
「ラナウェイはかくれんぼみたいなものだから。プラチナチェイスは飛んでただけ」
「またまたご謙遜を。4種目出たんだよね」
「うん。謙遜というより事実だよ。僕の運動レベルでよくついていけたと思ったもん」
「じゃあ、見合う人がいたら出なかったの?」
「もちろん」
「うちってサブメンバー少ないし、途中交代もないよね、アシストボールとかプラチナチェイスとか」
「そういえば・・・そうだね」
「他校のように、サブメンバー充実させればいいのに」
「僕もそう思うよ」
五月七日さんも、瀬戸さんから呼ばれテーブルを変えた。
俺もそろそろイベントの手伝いにでも行くかなあ、と思っていると、八雲くんが寄ってきた。
「何、1人なの?」
「まあね」
「みじめだね」
「はあ?なんていった?」
俺、聴力はいいんだよね。でも、思わず聞き返してしまった。
八雲くんはクソ意地悪な顔をしている。目は吊り上り、鼻息も荒く口元は裂けているかのように感じた。まあ、感じ方は人それぞれだから、本当はそんな顔してなかったのかもしれないけど。
八雲くんは繰り返した。
「みじめだね、って言ったの」
「どうして僕がみじめなのかな」
「パーティーの場に1人壁際に突っ立ってるなんて、みじめそのものじゃない」
俺、思わず吹き出してしまった。
「それは君の価値観だよ。僕に押し付けないでくれ」
「負け惜しみ言うなよ。どうせ第3Gだから誰にも相手にされないと思うけど」
「それも君の価値観だよ。僕は別に今を楽しんでいるからそれでいいんだ」
「どこまで強情なんだか、お前は」
さすがの俺も表情が変わる。
声も1オクターブ低くなった。
「お前呼ばわりされる筋合いはない。君がここにいるのなら、僕が場所を変える」
立食パーティーだったんだが、俺はちょうど生徒会役員が見えない位置にいた。
癪に障ったので、今度は沢渡会長が真横に見える位置に動いてやった。もちろん、壁際ね。これなら八雲も意地悪そうな顔はできまい。
もう、お前はくん付けしなくていい。呼び捨てだ。心の中でだけど。
俺の思ったとおり、沢渡会長にゴマをすりたい八雲としても、さきほどのような真似は出来ず、当たり障りのない会話を2,3交わして俺から離れていった。
バーカ。
八雲が来てから俺の表情がいかにも不満を抱えているように見えたのだろう。いつの間にか逍遥が俺の隣に立っていた。
「さっき、八雲がいただろ。何言われたの」
先程の会話を思い出し、俺は鼻で笑った。
「みじめだってさ。おまけに、お前って言われて、さすがにキレた」
「へえ。ちょっとメガネケースの中身見てみなよ」
「預けていったコレ?」
逍遥に促され、メガネケースを開けると・・・そこには小さなレコーダーが入っていた。
「これってまさか」
「そう、そのまさか」
会場内で俺たちは声にならない声をあげ、2人でアイコンタクトを取る。先程の会話が皆、録音されているというわけだ。
これを効果的に使い、沢渡会長に提出する機会が必ずあるはず。
一義的には、副会長への推薦があった時だが、W杯予選か薔薇6の大会エントリー時にも一定の効果があるだろう。
逍遥がなぜ懇親会会場で俺を1人にしていたのか、ようやくわかった。
誰が俺に近づいてきて何を話すのか、気になっていたのだ。だからレコーダーを持たせ壁際にロックオンした。
◇・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
明日から俺は自由になれる。W杯予選にエントリーされるかどうかもわからない。国分くんの犯人探しも始められるかもしれない。
彼が退学していたなんてショックだけれど、早く犯人を見つけて彼を安心させてあげようと強く思う。
たぶん、犯人は今日俺のところにきた3人、八雲、五月七日さん、譲司に絞られたと感じていた。
譲司は元々魔法技術科志望で、スタメンに入りたかったわけではないから犯人になり得ないのはわかっているけれど。
今日ここにいない岩泉くんの線が100%消えたわけではないけれど。
国分くんの自作自演、これはもうない。彼は退学に追い込まれたのだから。
懇親会は2時間ほどでお開きとなり、俺と逍遥、譲司の3人は連れ立って寮への道を歩いていた。俺は迷子にならなくて済んだと冷や汗を拭った。
逍遥が鼻でフフンと笑っている。
「八雲の野郎、今度こそ地獄に叩き落としてやる」
譲司は事の経緯を知らない。なぜ逍遥が八雲を嫌うのかも依然として理解していないらしい。
「どうしてそんなに嫌うの?結構良い人だと思うけど」
「騙されているんだよ、譲司は。あいつの本性は途轍もない悪人だ」
「そうかなあ」
「なら、これ聞いてみなよ」
そういって、逍遥はレコーダーを譲司の前で再生した。
譲司の顔がみるみる赤みを帯びる。
「なに、これ。八雲くんの声だよね」
逍遥はまだふふんと鼻息も荒い。
「そ。これ聞いてもいい人、って思えるかい」
譲司は俺の方を向いて頭を下げた。
「いや、前言撤回。大変だったね、海斗」
俺も首を竦め逍遥に肩入れする。
「仲良くもないやつにお前呼ばわりされたのは初めてだ。完全に見下してさ。これが先輩方なら仕方ないよ?明なら許すよ、あいつは旧友だし。それに輪をかけて“みじめ攻撃”だろ、笑っちゃうよ」
「みじめって言われたこと、気にしてないの」
「リアル世界でこんなこと起こったら、まず間違いなく登校拒否だね。事実似たようなことはあったけど、ここまであからさまじゃなかった」
逍遥はまだ怒ってたが、俺のリアル世界の話を始めて聞いたらしく、いや、言ってなかったからだけど、彼なりに俺に同情してくれたらしい。
「どの世界にも嫉妬に狂うやつはいるんだな。海斗はなんとなく目立つんだよ。運動神経以外では」
「運動神経の話はしてくれるな。こっちきて前よりは真面になったんだから」
あははと2人は笑う。
俺も次第に可笑しくなってきて、吹き出した。
亜里沙、明。
お前たち以外に、こうやって笑える友人ができたよ。こっちの世界という解釈はつくけど。
こうして、俺の全日本高校選手権は幕を閉じた。




