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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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魔法W杯 全日本編  第40章

俺にとって、3時間の休憩は、あんなことがあったからあっという間に過ぎた。

 譲司は試合の1時間前に解放され戻ってきた。

 お腹が空いたと大きな身体を揺らす。

「ほら、向こうにサンドイッチとおにぎりがあるから、食べてきなよ」

 俺の言葉を聞くか聞き終わらないかのうちにサンドイッチのあるテーブルに走っていく譲司。

 良かった。あまり気にしていないようだ。


 試合前の軽いストレッチ。

 逍遥と俺は並んで行っていたのだが、2人とも、何も話そうとはしなかった。

俺には逍遥の考えが分る気もする。


というか、俺がわかっているつもりなだけかもしれない。

逍遥には逍遥なりの推理があって、それが俺と同じとは限らない。

少なくとも、俺は譲司を疑ってないし、岩泉くんも犯人から除外してる。

疑わしきは八雲と五月七日さん。

俺の頭の中での前回の国分事件と今回の栗花落事件未遂の犯人は、2人に絞られた。

でも、それが真実とは限らない。

俺が背中合わせの世界からこちらにきたように、もしかしたら、真実は2つあるのかもしれない。


 ダメだ、試合に集中しなければ。

 両頬を手のひらでパンパン!!と2回叩く。

 目が覚めたようなそうでないような。

 とにかく、この決勝戦をものにして優勝を果たさなければ、犯人の思うつぼになる。

 頑張れ!俺!


 

 決勝戦が始まった。

 

 青薔薇高校は、逍遥がふっと先陣の動きを乱した途端、強引に逍遥と瀬戸さんにボディブローを浴びせて自分たちの陣形にボールを入れた。

 ちょっ、待てよ!

 それ、レギュレーション違反だろうが!


ルールなどお構いなしに襲い掛かってくる青薔薇。向こうの先陣と遊撃が3人がかりで、逍遥に顔面パンチやキックを入れてくる。

 逍遥は暫く我慢していたが、とうとう腹に据えかねたようで、自己修復魔法を使った。逍遥の顔やむこうずねにあった赤あざが流れるように消えていく。

 授業で習っていたしルールにも違反しない魔法とは聞いていたが、自己修復魔法を誰かが使っているところを確認したことが無いので驚いたどころの話ではない。

 やはり、逍遥の魔法力は凄いのだとあらためて感心する。


 さて。そんなことをのんびりと考えている暇はない。

 俺と譲司は青薔薇の遊撃と幾度となく激突し、譲司は額から血が流れ出ていた。俺も膝から血が出ている。いつのまにか青薔薇の連中に食らったのだろう。少なくても俺はテンションMAXでいたものだから、気が付かず痛みも忘れていた。

 

 なんかすごく腹が立ってきた。

 レギュレーション違反スレスレの行為でも、審判に見つからなけりゃそれでいいという考え方に。

 俺もパンチを浴びせようかとも考えたが、止めた。

 運動神経マイナスの俺がパンチを繰り出しても、当て損なった上にルール違反でイエローカードをもらうのがオチだ。


 何が一番かって、ボールを南園さんが捕まえることが一番なんだから。俺は譲司と一緒にボール探しに集中することにした。

 3分くらいかかっただろうか、ボールが俺の足下を泳いでいる。

 譲司に声を掛けボールの行方を見張るとともに、逍遥に声をかけ陣形を立て直す手段に躍り出た。

 瀬戸さんによって陣形が組まれボールを陣形内に落とし込んだ瞬間、南園さんが素早く前に出てラケットを振る。

「よし!」

 可愛い声で叫ぶ南園さん。

 どうやら、この血塗られた決勝戦も終わりを告げたらしい。


「やった!優勝!」

 俺の声に、青薔薇の連中は皆、下を向き悔しそうに歯を食いしばっていた。歯を食いしばる前に、謝れよ。俺たちみんなあんたらの極悪プレーで血ぃ出てんすけど。


 優勝セレモニーの際にも、譲司は額から血を出したままだし、逍遥の身体はあざだらけだし、女子の瀬戸さんも背中や腿が腫れていた。

 これで準優勝チームなのかと、俺は相手を見下したい気持ちになったが、薔薇6でまた会うことになる。その時に今日の非礼をたっぷりと後悔させてやることにしよう。

 もっと魔法を上達させなければ。

 


 今日の競技はこれにて終了となった。

 俺たちは一度テントに寄り、怪我の応急処置を受けた。

「いで、いでで」

「何語、それ」

「仙台弁」

「意味は?」

「痛い痛い」

「なるほどね」

「逍遥だって全身あざだらけだろ、なんだよ青薔薇の連中、いきなり攻撃しやがって」

「ボディブローはレギュレーションに違反してたのは確かだ。瀬戸さん、大丈夫?」

「あたしは体幹強いし少しずつ攻撃から身体ずらしてたから、モロには食らわなかった。それにしてもあからさまだったね」

「何が何でも優勝したかったんだろう。だから、反対に何が何でも勝ってやる、って思ってた」

「あたしもー。負けたら悔しいもん」

 逍遥は自己回復魔法を使ったことを話さない。

 たぶん、話してほしくないんだろう。だから口にはしなかった。

でも、いつか教えてもらおう。

 俺が強くなったなら、俺が前に進んだら。



 その夜は、宿舎に戻ってすぐに爆睡した俺。誰が誰をどう思おうが、今晩だけは考えさせないでくれ。

 明日になったら、真面目に考えるから。


 

 翌日は2年、3年のプラチナチェイス。

予備日があるので、次の日までずれ込んでも大丈夫とは思っていたが、1年の試合が長引いたため2、3年は11日目の予備日に突入した。

  


 2年では、光里陽太みさとひなた先輩が先陣、後陣に控える設楽聖都したらせいと先輩、チェイサーは六月一日健翔くさかけんしょう副会長。遊撃には光流弦慈ひかるげんじ先輩、羽生翔真はぶしょうま先輩が出場。


 ベスト8を決める1回戦から、青薔薇高校と激突した。

 昨日の俺たちがやられたように、今日も血なまぐさい試合が続く。

しかし設楽先輩の身体はびくともせず、光里先輩もボールを追いかけることに終始していた。

なんと秒殺で勝利。

 昨日の借りは返してもらった。よし。


 準々決勝の札幌学院、準決勝の開星、決勝の京都嵐山と危なげない試合を繰り広げ、紅薔薇は断トツの優勝を飾った。



 午後からは3年の試合が始まった。

 沢渡会長、勅使河原先輩、九十九先輩、定禅寺先輩、上杉先輩の5人が空中に陣取る。

 途中チェイサーの九十九先輩がボールを逃してしまうなどヒヤッとする場面は何度か見受けられたが、概ね堅実な試合運びで、3年も優勝旗を手中にした。


 


◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 11日間の熱戦が幕を閉じた。

 総合優勝は紅薔薇高校、新人戦はアシストボールの初戦敗退が仇となり、優勝を逃し準優勝に終わった全日本高校選手権。

 

 夕方の食事時、俺たち選手は一斉に食堂に集められた。

紅薔薇高校の面々に明日の閉会式の時間と概要が企画広報部から伝えられた。最重要事項は「眠るな」ということらしい。

 全ての競技が終わり、総合でベスト8以上の結果を収めた学校だけが閉会式に臨むのだが、皆熱戦と応援に疲れてしまい、式典の最中に立ちながら眠る生徒が少なからずいるのだそうだ。

 サポーターは一足早く帰ったため、表彰式には出席しない。

 

 昨日は早く寝たから、夜に亜里沙や明に会いに行けなかった。今日になったら、朝から1年サポーター3人とも姿消してるし。

 この頃、神経質細胞暴れまくりだから、あいつらとゆっくり話す時間が欲しかった。

 残念。

 

 その日は先日のように祝勝会が行われるでもなく、いつもの夕食と同じパターン。

 ただ、明日の閉会式終了後、横浜市国際会議場という場所で、参加校の懇親会が行われるということだった。


 俺は逍遥と夕食を食べながら、思案していたことがあった。

「なあ、逍遥。今晩のうちに岩泉くんを沢渡会長に会わせないか」

「どしたの、海斗。急に」

「学校に戻ったら、他の生徒の手前岩泉くんは生徒会室に行きづらいと思うんだよ」

「確かにそうだね」

「会長に謝罪するなら今日しかないんじゃないかなと思って」

「岩泉くん次第だね」

「俺、岩泉くんに声かけるわ」

「了解。その時は僕も付き合うから声かけて」

「おう」


 俺は小走りに宿舎の中を走り、308の岩泉くんの部屋の前に立った。

 コンコン、とドアをノックする。

 返事がない。

 もう一度ノックしようと右手を上げた時だった。

 右手を通じ、岩泉くんが泣いている光景が俺の脳の中に広がった。

 これではノックしても出てくるはずがない。

 俺は離話に踏み切った。

「岩泉くん。君にはつらいかもしれないけど、沢渡会長のところに会いに行こう」

「八朔くん。もうダメだよ、明日は閉会式だし、式にだって出られない僕を沢渡会長が許すはずない」

「今許してもらう必要はない。謝罪に行くだけだから」

「謝罪・・・」

「そうだよ、これから君がどうするのかを会長に語らなければ、会長ほか生徒会の連中はわからないだろう?明日になる前に、行こう。僕と四月一日くんも一緒に行くから」

 

 ようやく岩泉くんは涙をハンカチでぬぐい、ゆっくりとした動作ではあったが紅薔薇のユニフォームに着替えた。

 そして、部屋の鍵を開け、俺の前に姿を現した。

 目は泣き腫らし、頬は学校にいるときよりやつれていた。

「四月一日くんと3人で行こう」

 301をノックすると、ユニフォーム姿の逍遥がすぐに部屋から顔を出す。

「今、会長は601にいる。どうする?」

 俺はなるべく501で会長が1人の時を狙いたかったが、今日はポイント計算やW杯予選のことでまた集まっていたのだろう。話が尽きるわけがない。

「601に行く」

 岩泉くんは震えていた。

「皆の前で謝罪するの?」

 逍遥が岩泉くんに告げた。

「会長はそんなに悪趣味じゃないよ、大丈夫」

 逍遥は天井に向かい指をくるくる回しながら、しばらく目を瞑った。


「さ、これで大丈夫」

 俺も岩泉くんも、逍遥が会長と離話したことはわかったが、内容まではわからない。

 とにかく、会長は俺たちの訪問を許したということだけが事実として今ここにある。

 俺たちは連れだって、6階まで階段を上った。

 踊り場のところで岩泉くんは立ち止まりかけたが、俺が背中を支え、6階に着いた。

 601の部屋をノックする。

「入れ」

 沢渡会長が1人で椅子に座っていた。

「失礼します」

 逍遥はさっさと入っていったが、如何せん、岩泉くんは動きが鈍くて中々入ろうとしない。最後には俺がぐいぐいと背中を押しながら部屋に入り、ドアを閉めた。

「それで、用とは何だ」

 逍遥は淡々と言ってのける。

「岩泉くんの謝罪を聞いていただきたく、お忙しいところ失礼とは存じましたが伺った次第です」

「謝罪?」

 会長の目つきが変わる。

「岩泉、何を謝罪するというのだ」


 もう、岩泉くんはマンモスに睨まれたアリ状態。

 緊張と畏怖が入り混じって、口を開くことができない。

 会長は息を吸って岩泉くんに向け息を吐きながら右手を翳した。

「ゆっくりでいい、話してみろ」

 岩泉くんは落ち着きを取り戻したように見えたが、どうやら会長が口を開き話しやすくする魔法をかけたと推察した俺。これって、罪人の告白にも使えるのじゃないか?

 でも、そんなこと岩泉くんには絶対に言えない。

 岩泉くんはそんな会長の魔法によりようやく話し出した。

「僕は、入学後すぐに、薬物入りのドリンクやサプリを1年の同級生に渡していました」

「それで?」

「普通科転科も退学処分も受け入れます。本当に申し訳ございませんでした」

 会長が俺と逍遥を見る。

「お前たちはどう思う」

 まず、逍遥が口を開く。

「岩泉くんの才能は1年の中でも突出していますし、本人も自分の行いをとても悔いて反省しています。国分くんの件にも関わってはいません。努力し魔法に磨きをかけて更生して欲しいと思っています」

 俺も続けた。

「更生の道を開くに値すると思います、努力することで罪を償い、再起してほしいと願っています」


 沢渡会長は目を閉じて何かを考えているようだった。

 隣の岩泉くんの震えが伝わってくる。


 やっと、沢渡会長が目を開け、立ち上がった。

「この件は噂として流れていただけだったが、事実であれば間違いなく退学勧告せねばならなかった。しかし個々人が自分の身をきちんと守った結果、誰かが被害に遭うこともなかった。運がいいと言うより他あるまい。

ただ、国分事件のように誰かを実際に追い落としたわけでもない。反省もしているならば、

更生したかどうかをこの眼で見せてもらうとしよう。俺が生徒会を去るまでに更生の道筋が認められるとしたならば、魔法科に据え置くこととする。今度罪を犯せば、問答無用で退学とする。いいか、わかったな。本件は六月一日にも引き継ぐこととする」


 岩泉くんは震えながらも沢渡会長の言葉を聞き、また涙した。号泣したと言っていい。

ありがとうございます、と感謝の言葉が聞き取れないほど、彼は涙で何もかもぐちゃぐちゃだったが、必死に何度も頭を下げていた。

 

 沢渡会長は、俺たちが部屋を出る直前、岩泉くんに向かって声を掛けた。

「岩泉、お前は仲間に恵まれたな」

 そして俺と逍遥にも。

「国分は退学するそうだ。だが、もし真犯人が見つかれば、薔薇校ネットワークに乗せて他の薔薇校に転学することができるはずだ。お前たちなら、国分を助けてくれると信じている」

 

俺は退学したという言葉をしばし受け止めきれずにいた。

逍遥はすぐさま振り返り、会長の目を見た。

「本当ですか?」

「国分の言うことが本当であれば、どうしようもなく卑劣な犯人が1人、学内を今も闊歩かっぽしていることになる」

「僕たちは国分くんの冤罪えんざいをきっと晴らしてみせます。彼は薬物などに手を染める人間ではありません」

「国分も岩泉も、良い仲間に恵まれた。今年の1年は期待できる」

 沢渡会長は、満足したように、いつもは引き締めている口元を緩め、笑みを浮かべた。


 俺たち3人は、601のドアを引き、廊下に出た。

「遅い時間に私用で申し訳ございませんでした。失礼します」

 逍遥がそう述べてドアを閉める。

 途端に岩泉くんが廊下に土下座して涙ながらに俺たちに謝った。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい」

 前から言っているが、逍遥はドライだ。

「そう思うなら、一日も早く魔法で更生してくれることを願うよ」

 俺はいつでもフォロー役。

「立ってくれ。何があっても焦らず腐らず、それを忘れないで」

 泣きながら頷く岩泉くん。

「うん・・・」


 まだ1人で生きる選択ができない岩泉くんは、これから辛い日々が続くだろう。

 それでも頑張ると決めたからには、やり抜いてほしい。

 俺は心からそう願っている。

 岩泉くんが俺たちを手招きし、小さな声で告げた。俺も逍遥も何事かと耳を傾ける。

 閉会式には出席せず、このまま宿舎を出て寮に帰るという。

今の自分は晴れがましい席に身を置く立場ではないから、と。


 俺も逍遥も賛成も反対もしなかった。

 総ては岩泉くんが選択し決定し、行動を起こすべきだと知っていたから。

 

 ただ、“気を付けて”とだけ言って送り出したのだった。

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