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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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魔法W杯 全日本編  第39章

もうひとつのトーナメントグループでは、結構試合に時間がかかっていたようで、決勝戦は3時間後と決められた。

 俺を含めた紅薔薇1年の選手たちに自由時間が与えられた。

 

 最初は生徒会で用意した軽食だけで昼飯を済ませ、テント内で休息を取る予定だった。南園さんは生徒会業務に携わるため俺たちから離れテントに向かう。

 逍遥が残った3人に聞いた。

「どうする?僕たちもテント内で休む?」

 俺は異論がなかったし、譲司と瀬戸さんもそのつもりだったらしい。


 ところが、事件が起きた。


 大会事務局の人間が2人、俺たちの目の前に現れ、譲司のところに歩み寄った。

「栗花落譲司君、だね」

「はい、そうですが」

「今から少し時間を欲しいのだが」

「なんでしょうか」

「君が薬物を摂取しているという情報が入った。検査をさせてもらえないだろうか」

 

 逍遥が事務局の人間に食って掛かる。

「栗花落くんは今日、ずっと僕たちと一緒でした。薬物を摂取する時間などなかったはずです」

「情報によると、昨日の夜、ということだった。君たちは夜10時以降、彼と一緒にいたかね」

「夜10時以降?それこそ情報源はどこでそれを知ったというのですか」

「夜中の食堂で彼を見た者がいる」

「情報源を明かしてください」

「情報源は明かせない。規則だ。さあ、問題ないなら検査をさせてくれ」


 譲司は納得がいかないといった表情だったが、これが抜き打ちというやつなのだろう。黙って事務局関係者の後をついていく。

「譲司!行かなくていい!」

 逍遥の言葉に譲司は首を横に振った。

「僕は薬物など摂取していないから。昨夜だってずっと部屋にいた。食堂にも降りていない。それを証明しに行ってくる」

 

 残された俺たち3人、逍遥と瀬戸さんと俺は、昼飯どころではなくなった。

 瀬戸さんが首を捻る。

「情報源はうちの学校関係者だよね、昨夜の話を事務局にチクるくらいだから」

「生徒会だけは違うだろ。601に集まってたはずだし」

俺は南園さんを想定しての話をしていた。

逍遥は憤慨しきっていてまだ収まらない。

「あの言い方、まるで譲司が摂取してます、みたいで失礼極まりない。ね、海斗」

「譲司が夜中に起きれば俺か逍遥が気付くはずだ。部屋が隣なんだからドアの開閉音で分る。たぶん、犯人は国分くんを陥れたやつと同一だ」

 逍遥がじっと前をみながら呟いた。

「揺さぶり、だね」

「揺さぶり?」

 俺も瀬戸さんも、逍遥の言わんとしていることが分らないでいた。

「僕たち全員を揺さぶって、午後にある決勝で動きを封じたいんじゃないかな。そうすれば出場の機会を得られる」

 瀬戸さんが身を乗り出す。

「それなら、犯人きまってくるじゃない」

「そうだね、八雲か・・・五月七日さん」

「まさか、五月七日さんは10時の消灯まであたしと一緒にいたよ。八雲くんじゃないの、犯人」

「一番怪しいのは八雲に違いないな」

 俺もそう思うのだが、なぜそこで五月七日さんの名前が出たんだろう。

「逍遥、どうして五月七日さんの名前が出たの」

「彼女も横流し薬を買える立場にいたからさ。国分くんは、身体から薬物反応が出たけど薬の売買ルートがはっきりしなかったはずなんだ。彼女、確か昔海外に住んでたよね?」


 話をふられた瀬戸さんは逍遥の考えに賛同しかねる、といった表情だった。

「住んでたのは聞いたことあるけど、だからって彼女がどうやって栗花落くんに薬を飲ませられるの」

 瀬戸さんの質問には答えず持論を述べる逍遥。

「今回の犯人は国分事件と同一だ。ただ、今回は僕らに動揺を与えるためだけに事務局に嘘をリークした。なんのため?譲司はおろか、僕たちにも揺さぶりをかけることで試合に出ることができないメンタルにしたいんだ。特に譲司と海斗はメンタルに変化が起きかねないから」

「俺?」

「そうだよ、犯人にとって、君はある意味邪魔な存在だからね」

「また、はっきりいうよなあ、逍遥は」

 瀬戸さんが今度は答えてと言わんばかりに逍遥に顔を近づける。

「あたしと四月一日くん、南園さんのメンタルの強さはわかる。でも栗花落くんや八朔くんが絶対にメンタル弱いとどうして言い切れるの?」

「2人とも遊撃だろ?遊撃はメンタルの強さが求められないけど、他は違う。先陣にしても後陣にしてもチェイサーにしても、強固なメンタルが必要とされる」

 俺もだんだんと分ってきた。

「なるほど、強いやつはほっといて弱い者いじめするわけか」

「そう言うことさ」


 譲司がいなくなって1時間が過ぎた。

 逍遥は軽食を食べようと言うんだが、俺は何も口にする気すら起きなくて、テントの前でじっと立ちすくんで譲司の帰りを待っていた。


「ほら、食べなよ」

 瀬戸さんがサンドイッチを皿に置き、野菜ジュースと一緒に持ってきてくれた。

「いらない」

「青薔薇との試合、体力使うよ。栗花落くんのためにもここはこっちがデーンと構えてないと。栗花落くんだって心配するじゃない」


 ・・・考えて見れば、そうだな。俺は譲司の代わりにはなれないけど、励まし一緒に戦うことができる位置にいる。

 周囲が浮足立つと、抜き打ちで連れて行かれた譲司だって浮足立つだろう。

 瀬戸さんから皿とジュースを受け取り、まずジュースを一気飲みした。

 ついでサンドイッチを頬張る。

 トマトとチーズのマリアージュが何とも言えない優しい味を醸し出し、俺はひとときの幸せを感じた。これでワインがあったなら、亜里沙や明が飛んできそうだ。


 あれ。

 そういえば、サポーターの3人がいない。

 昼飯を食うなら今しかないんだから、3人ともテントに居ていいはずなのに。


 なんか変なんだよなあ。

 こっち来てから会わない時の時間が長い。もちろん授業中は仕方ないけど、寮に帰ってからも仕方ないけど、試合のときくらい近くで応援してくれてもいいのに。

 プラチナチェイスはバングル以外のデバイスを必要としないから、3人とも怠けているのかな。それとも他の何かに駆り出されているんだろうか。


 こんな時だからこそ、亜里沙や明に会いたかった。


◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 譲司が連れて行かれて1時間半。

 俺は心配で、大会事務局に行こうかどうか迷っていた。

 逍遥や瀬戸さんはいつもと違った行動はするなという。犯人に付け入る隙を与えるから。

 そうは言われても、足が言うことを聞かず、するすると紅薔薇高のテントを抜け出していく。

 そこに、亜里沙がやってきた。

 明と絢人も一緒に。


 亜里沙が俺を一喝する。

「あんたまさか、事務局行く気じゃないでしょうね」

「足が勝手に動くんだよ」

「勝手に動くわけないじゃない。ダメよ。栗花落くんはもうすぐ戻るから。我慢しなさい」

「譲司がどうなったかわかるのか」

「学校関係者の同席を求められるのよ、抜き打ちは。事務局が金積まれて勝手にやったらまずいからね」

「じゃ、お前らが同席したのか」

「明と八神くんが同席したわ」


 俺は明の方を向いて、かなり必死な顔をしたらしい。

「で、どうだった」

「結果は白だったけど、夜中になぜ食堂にいたか何十回と聞かれてた」

 絢人が脇から口を出す。

「あれって、国分事件の犯人にしたがってるようにも見えたよね」


 なんだって?

 国分事件?

 そんなまさか。

 譲司が国分事件に関わりがあるだって?


 いや、大会事務局がそう思っているだけで、譲司はそんなことしていないはずだ。現に、薬物摂取は白だと結果が出ているというじゃないか。

 でも、待てよ、心をフラットにして考えろ。

 譲司はサブメンバーには選出されていたが、それは元々譲司自身が望んだことではない。入試の成績を重視した学校側が、生徒会側が科の垣根を越えて選らんだ結果だ。それは八雲にも言えることではあるが、本人が出場を望んだか否かは、今回重要なファクターとなり得る。

 そうだ、譲司は自分でなくともいいという意志表示をしていたはず。

 となれば、国分事件に関わっているとする今回の大会事務局の捜査は冤罪の可能性が高い。


 俺や逍遥が考えていた国分事件重要参考人は2人。

 八雲と五月七日さん。

 どちらもアンフェタミンを横流しできるルートを持っていると考えられ、それを実行に移す理由もある。

 2人とも今のところサブのままで、スタメンに起用される可能性は薄かった。


 それに対し譲司はスタメンに起用されている。国分事件を受けてのことではあったが。スタメンに起用されたのだから、もう地位は安定したとみていいだろう。

 そんなときに、薬物混入事件などにわざわざ首を突っ込むか?

 黙っていれば自分は疑われないのだから。


 もやもやとしたものが心の中をかき乱す。

 

「ちょっと!海斗!」

 亜里沙が横で吠えているのが微かに聞こえる。

「あんたってば、大事な決勝戦前に何考えてんのよ」

 俺はハッと我に返った。

「栗花落くんはもうすぐ帰ってくるから安心しなさい。国分事件は大会終了後に動く、って決めたはずでしょ」

 明も亜里沙を支持している。

「今、海斗がすべきは対青薔薇のミーティングに入ることじゃないか?ほら、向こうで始めるそうだよ」


 集中して考え過ぎていて、周囲の状況が分らなかった俺。

「おう、悪かった。譲司に会ったら、ミーティングに参加するよう伝えてくれ」

 八神くんがにこやかに微笑み、右手でOKのサインをくれた。


 俺はテント内で行われているミーティングに参加するため、テントに向かって走り出した。


 テントの中では、逍遥を初めとし瀬戸さんや南園さんが集まっていた。

「で、どうだった」

「今回は白という結果だったけど、夜中に食堂に居た理由を何回も聞かれてるらしい」

「隣のドアが開いたら、僕は絶対に分るよ。眠りも浅いから」

 俺は頭を掻く。

「すまん。こっちは爆睡系なんだ。でも昨夜は起きてた。結構気になってたから、今日の試合」

「譲司は夜中に食堂には降りてない」

 瀬戸さんが逍遥と俺を小突く。

「今はそれより、青薔薇との試合。もうすぐ栗花落くん来るんでしょ?」

「うん、来るみたい」

 瀬戸さんが、皆を纏める役割を逍遥から奪い取った。

「抜き打ちの事は忘れて、試合のこと考えようよ」


 逍遥も気にしてないと言えば嘘になるんだろうが、自ら平静を保ってるように見える。俺も見習わなくてはならない。


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