魔法W杯 全日本編 第38章
逍遥のいうとおり、今、こちらの世界はとても平和に見える。
これが虚像だという逍遥の言葉を信じる向きは少ないだろう。果たして、その真意はどこにあるのか。
それに、ソースはどこなんだろう。軍関係者に知り合いでもいるのだろうか.
逍遥自身が軍に属してる、という小説みたいな展開が有り得ないでもないか。
俺は一旦303の部屋に入って紅薔薇校のユニフォームを脱ぎ窓際に掛けると、ジャージに着替えベッドに転がった。
心はもう、明日のプラチナチェイスに移っていた。
確か最初の対決は日本学院大稲尾高校。
1年生のうちから日学大の学生と一緒に練習していると聞く。スゲー。
こっちはいいとこ3年生が練習相手。3年生はやはり薔薇大学の学生と練習するとは聞いたが。
ま、そういうことが大切なのではない。
プラチナボール奪取のため、動けるだけ動く。それが俺に与えられた役目だ。
夕食の時間だったので、一度軽くシャワーを浴びて、食堂へ急いだ。
ざっと中を見渡すが、岩泉くんの姿はなかった。たぶん、また人が少ない時間帯を選んでここに着ているのだろう。
でも、ここに来るだけでもまだいいかもしれない。
部屋に閉じこもりきりになられたら困る。
動ける状態のサブは、五月七日さんしかエントリーしていないはず。八雲くんは絶対に出さない、出すなら競技をパスするとさえ息巻いている逍遥。
沢渡会長。逍遥は絶対、裏に何かある男子生徒です。下手に刺激しないでください。こないだ約束しましたよね・・・?
1年の4人がまた同じ机に陣取って、夕食を食べる。南園さんは生徒会で行われているポイント計算で忙しかろう。
譲司が大きい身体を揺らして逍遥の前に陣取り、小声で話しかけた。
「こないだ先輩たちの悪口言って怒られたんだって?」
「ん、そうなんだ。だからここでは明日のフォーメーションのことしか話さないつもり」
瀬戸さんは豪快に笑って俺の脇腹を突いた。
「授業じゃ習わないもんねえ、そんなこと」
俺はまたヘタレ虫がモゾモゾと動き出す。
「逍遥。情報戦になるから下手なことは話すなって言われただろう」
逍遥はどこ吹く風。先日の一件はすっかり頭から抜け落ちているらしい。
「そうだっけ。じゃあ、明日の天気でも占うとするか」
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
競技10日目。
今日からプラチナチェイスの試合が始まる。
1年から始まり、2年、3年と1日で決する予定だ。プラチナチェイスだけはボールを捕まえるまで試合続行なので、試合が長引くことも予想される。もし当日中に試合が終わらないときは予備日を使って行われるということだった。
早く捕まえなければ、自分自身の首が締まる。運動量が乏しい俺なんぞ、かなりヤバイ。
メインスタジアムを2つ使いながら、試合が行われていくという。俺たちはAスタジアムのグループに入ったので準決勝までを行い、決勝はAスタジアムで行うらしい。
午前9時。
第1試合の号笛が鳴る。
ベスト8を決める重要な試合が始まった。
相手は日本学院大稲尾高校。
逍遥と南園さんのコンビはパーフェクトで、陣形をほとんど乱すことなくボールを追いかける。陣形の中には瀬戸さんが今か今かとボールが入ってくるのを待ち構えていた。俺たちは陣形の周囲を飛びながらボールを探していく。
試合開始4分。
いた!プラチナのボール。
大会で使われるボールの大きさとラケットはラクロスに近く、ボールの材質がゴムではなくプラチナになる。ラクロスでは、ラケットではなくスティックと呼ぶのか?金属製の棒の先に網がついたような感じ。
そういえば、俺はハンドボールが一番速いシュートスピードだと思っていたのだが、どうやらラクロスの方が速いらしい。時速160kmを超えるシュートなどザラにあるんだとか。
ハードすぎる・・・。
なんて考えている場合ではない。
ボールから目を離さないようにして、前に飛びながら逍遥に向かって叫ぶ俺。
「逍遥!右45度にボール!」
逍遥は気付いていなかったと見える。右に舵を切りボールを陣形の中に入れていく。
後陣の南園さんは逍遥の動きに合わせ自分の飛行位置を決める。瀬戸さんが動きやすいように。
瀬戸さんも俺の声が聞こえていたらしい。
動き回るプラチナボールを必死に追いかけるのだが、ラクロスのゴムボールと違って、真っ直ぐには動いてくれない。
練習ではゴムボールに魔法をかけて動き回るようにするのだが、プラチナボールとでは動きに差があるように見えた。
2,3分、瀬戸さんはボールを追いかけていただろうか。俺たちはボールが出て行かないようにボールを確認しつつ周囲を回る。
ボールが陣形から出ていこうかというときに、ぐるりと外側から回り込んだ瀬戸さんがラケットを持った右手を伸ばす。
ボンッ!!
ラケットの中にボールが収まる音がした。
それとともに、瀬戸さんの広い背中が(ごめんなさい)俺の目の前にあった。
あっぶねー、瀬戸さんとよもやの衝突事故だけは避けたい。このメンバーで、誰が脱落しても、あとは大騒ぎの元になるから。
でも、やった。ベスト8進出、決定。
次の試合に勝てばいよいよベスト4だ。
試合後、逍遥が傍に寄ってきた。
「幸先良いね」
「そうだな、でも最後焦った―。瀬戸さんとぶつかりそうになった」
譲司と瀬戸さんも汗を拭きながら俺たちの周りを囲む。南園さんは生徒会役員テントに走っていったのが見えた。
「ごめんねー、瀬戸さん。ぶつかりそうになったよ」
「大丈夫。体幹はあたしの方が強いから」
みんな笑ってる。
ううう。俺は女子にも負けてしまうのか・・・。
1時間後、号笛とともに次の試合が始まった。
相手は稲尾高校。
大学生相手に練習を積んでいるだけあって、動きに無駄が無かった。
南園さんを攻撃して俺たちの陣形を壊そうと目論んでるかに見える。
しかし、あの体からどうしてあんなパワーが出るのか分らないが、南園さんはびくともしない。
5分後、南園さんを見かねた瀬戸さんが前に進んで逍遥に向かって叫び、俺たちの陣形を保ったまま場所を移動する。
移動途中に、譲司はボールを見つけたようだった。
譲司も前に進んで逍遥に声を掛ける。
前進移動が功を奏し、俺たちの陣形にボールが転がりこんできた。
すると、南園さんが執拗にタックルを受ける。陣形を壊す以前の行為で、とてもフェアプレーとは思えない動きだったが、ファウルの笛は鳴らなかった。でもブーイングの嵐だったよ。
俺たちの叫びを聞き左右に陣形を揺らす逍遥。南園さんも大変そうだったがなんとかついてくる。
あとは、瀬戸さんがボールをラケットの中に収めるだけだ。
っと、ボールが陣形の右側スレスレに移動し始めた。このままだと陣形から逃げてしまう。
俺と譲司は右側に移動し、ボールに向かって体当たりする。
いってぇ。
瞬間的に金属製のボールが身体に当たり、物凄い痛みを感じた。でもそのお蔭でボールはまた陣形の中に戻っていく。
今回は稲尾高校のタックルで中々陣形が定まらなかったが、怒り爆発の瀬戸さんが3度目の挑戦でラケットの中にボールを捕えた。
歓声とともに、号笛が鳴り響く。
よし。ベスト4、進出。
痛みを感じた左腕をまくり上げてみると、アザになっていた。
スゲー当たりだったもんな。
でも、南園さんが受けたタックルに比べればなんということもない。稲尾高校の監督とコーチ、あとでチクってやる。
準決勝の相手は、紫薔薇高校。
昔から新人戦のプラチナチェイスでは優勝回数が半端ないらしい。
さすがの紅薔薇も、五分五分なんだとか。
俺はあまり燃える方ではないんだが、どうせなら、このメンバーで優勝したいじゃないか。
俺がストレッチで身体を解していると、逍遥が生徒会テント内にいる沢渡会長の下に走って行くのが見えた。
どうした、逍遥。
何か逍遥が捲し立ててる、会長は黙って頷くだけ。と、会長は立ち上がり、大会事務局の方に歩いていく。
逍遥がグラウンドに戻ってきた。
「どうしたの、逍遥」
「海斗、さっきのアレ、酷くなかった?」
「うん、南園さんが気の毒だった」
「完全にルールから逸脱してたし。その文句と、あとはメンバーチェンジを願い出てきた」
「あれ、誰か替わるの?」
「後陣を瀬戸さんに任せて、南園さんをチェイサーにする」
「当たりが酷かったからねえ。本人たちには伝えたの?」
「瀬戸さんから申し出があったんだ。南園さんをチェイサーにするものいいかなって思って」
「南園さんは納得したの?」
「少し不満げだったけど。チェイサーにも向いてるからね、彼女は」
「そうか。瀬戸さんは男子にも引けを取らないもんな。俺的には納得」
準決勝でいきなりのメンバーチェンジがどうでるか。どんな結果をもたらすのか。これは一種の賭けでもあった。
1時間後。
これを勝てば決勝に行ける。
5人で円陣を組んで、逍遥が声を出した。
「よし、いくぞ!!」
飛行魔法で5人とも高く飛び上がる。
紫薔薇高校の陣形は最初からボールを取りにいく。俺たちは一歩出遅れてしまい、ボールを易々と取られてしまった。
逍遥が向こうの後陣にプレッシャーをかける。
紫薔薇の後陣は意外にもろく、陣形が乱れてきた。
そしてとうとうボールが陣形から飛び出した。
すかさず真横につける逍遥。そしてそのまま紫薔薇の陣形から離れていく。俺と譲司が紫薔薇との間に入り、ボールが相手側に逃げないように邪魔をする。
いや、邪魔といっては言葉が悪いな。自分たちの陣地を確保しているんだ。
俺たちがバタバタしているうちに、南園さんが手からラケットを伸ばしボールをラケットの中に入れた。あっという間だった。
逍遥の思惑は当たり、結果は大成功。
さっきよりも大きい歓声がスタジアムの中に鳴りはためく。
よし!
これで決勝進出。




