魔法W杯 全日本編 第37章
PV会場についた俺と逍遥。
中には、瀬戸さんと五月七日さん、譲司が勢ぞろいしている。南園さんは生徒会役員だから601にカンヅメになっているはずだ。
「こっち空いてるよ!」
瀬戸さんが俺たちを呼ぶ。
逍遥と二人、顔を合わせて頷く。
「やあ、今行く」
俺は館内がなんとなく異様な空気に包まれているのを感じた。
「結構な応援団の数だな」
譲司がそっと耳を近づけて俺に教えてくれた。
「マジックガンショットは競技としても人気があるからね」
2年の時の応援団はもっと静かだったように思う俺。
「2年の先輩の時は静かだったよな」
「3年生にとっては最後の大会になる学校も多いからね、それで3年生の応援はこんなに熱くなってるのさ」
なるほど。
それに、カッコよく見えるよな、3年生って。
凛々しく見えるといえばいいのかな。
第1試合まで、俺はずっと人間ウォッチャーを楽しんでいた。
悪趣味だって?
面白いじゃない、人間観察。
相手の顔が美形か否かに関わらず、どういう思考回路してんのかな、とか。
それでも俺は人を見る目がない。国分くんの犯人を明らかにできない段階で、それは白日の下に晒されているも同義だ。
試合が始まった。
ベスト8を巡る対戦相手は高知学院。
紅薔薇高校の選手は3人、俺に指導してくれた上杉先輩、定禅寺先輩、斎田先輩。
特に上杉先輩と定禅寺先輩はマジックガンショットの細部までを知り尽くしている感じで、負ける気がしない。
3人ともサブとして登録されているのが不思議なくらいだ。
案の定、速さを競うこの競技において、上杉先輩は10分の間に上限である100個のレギュラー魔法陣を撃ち砕き上限に達し、射撃終了。定禅寺先輩も12,3分間で100個、斎田先輩も15分で上限まで達し、早々とベスト8を決めた。
2時間後、今度は準々決勝でベスト4に名乗りを上げるために戦う相手は聖バーバラ学園に決まった。
上杉先輩はまたしても10分以内に上限100個を達成した。定禅寺先輩も10分台に乗った。斎田先輩も15分台と安定した力を見せている。
それにしても、逍遥と南園さんの10分は反則級の実力ではないのかと俺は感心を通り越して腕に鳥肌が立つ。
逍遥曰く、1年と3年ではレギュラー魔法陣の出るスピードが違う、というのだが。
そんなことはないと思う。30分一本勝負なのだから・・・あれ?やっぱりそうなのかな。俺と斎田先輩が同じスピードでレギュラー魔法陣を撃ち砕けるわけがない。
今度は準決勝。
相手は能登高校。
3人の先輩方はサブエントリーが不思議なくらい、安定した動きを見せている。もしかしたら、この種目のみに特化したサブエントリーということなのかもしれない。
3人とも、10~15分台で上限の100個を撃ち砕いた。
決勝が始まる少し前。
PV会場の盛り上がりはピークを迎えた。
優勝をかけての大一番、対戦相手は去年の決勝カードである紫薔薇高校。
紅薔薇も安定して10~15分台だが、紫薔薇もこれまで10~15分台で勝ちあがってきている。
どちらが優勝してもおかしくはない。
ブザーの音とともに、試合が始まった。
最初、あんなに調子の良かった上杉先輩の手数が伸びていないことに気付いた俺。逍遥も頷く。
その代り、定禅寺先輩と斎田先輩が10分台に乗せてきた。
紫薔薇高校では、途中まで、3人とも10分台をキープしている。
逆転で優勝を持っていかれてしまうのか?と心配し、大声で声援を送る。俺の喉は、もうかすれ気味になっている。逍遥に、明日プラチナチェイスがあるから喉を使うなといわれるんだが、どうしても応援する声が出てしまう。
俺たちの声援が聞こえているのか?どうか、途中から上杉先輩の射撃スピードが猛烈な勢いで上がってきた。たぶん、5分台くらいまで上がったと思う。
どちらが優勝するのか。こればかりはわからない状況になってきた。
掲示板に、速さと撃ち砕いた個数が表示される。
優勝はどちらだ?
上杉先輩は、途中から上がった射撃スピードで9分台前半に持ち込んでいた。
定禅寺先輩は10分台前半、斎田先輩が10分台半ば。
それに対し、紫薔薇高校では全員が10分台前半。
すぐに号笛はならず、審査に持ち込まれたようだった。
その結果、約0.7秒差という僅差で、勝利の女神は紅薔薇高校に微笑んだ。
PV会場では歓喜の声と残念がる溜息が交差し、これまた異様な雰囲気となっていた。
俺たちは抱き合って喜んだ。
これで、明日のデッドクライミングとアシストボールの出来如何で、総合優勝に向かって大きく前進するに違いない。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
翌日。3年競技2日目。
デッドクライミングでは、やはり女子生徒中心のトリオで勝負。ホールド作りや相手のホールド壊しなど、素早い行動でどんどん壁を登っていく3年女子の先輩。
南園さんも相当早かったが、こちらも負けじと登って行く。
もう、相手の稲尾高校は比べ物にならず、早々と紅薔薇が勝利した。
ベスト8を勝ち取り、次の相手は去年準優勝の紫薔薇高校。
紫薔薇高校は、速い。
ホールドをいじるよりも速さを競う戦術で、紅薔薇高校に迫ってくる。
しかしそこは老練な3年の先輩たち。
ホールドを消し去る魔法を駆使し、紫薔薇の追随を許さない。
圧勝というわけにはいかなかったが、ここでも無事に勝利を収めた。
ベスト4まで進み、準決勝の相手は札幌学院。
何故なのか戦術がバラバラで、紫薔薇よりも弱いイメージがあった。もちろん紅薔薇が勝利を収めたことに違いはない。
決勝は開星学院との勝負になった。
チームワークとデッドクライミングとどう関係あるのか俺にはわからなかったが、ホールドを奪う戦術に長けていた開星学院。
紅薔薇の3人は速力に勝っていたため、タッチの差で勝利した。
これで、デッドクライミングは紅薔薇の優勝が決定した。
勝利後、頭を掻く先輩たち。開星学院の戦術に驚いたのだろう。
それでも、余裕を持ってPVカメラの方に手を振る先輩たちが頼もしく感じられた俺だった。
昼食を挟み、アシストボールが始まった。
紅薔薇から出場する3年は、沢渡会長、勅使河原先輩、九十九先輩に定禅寺先輩。
どの試合もボールの保有率、シュート数で勝っていた紅薔薇だったが、九十九先輩は少し元気がないようで、相手の攻撃を防ぎきれない。
GKの沢渡会長が全てキャッチしていたので相手に点数を入れられることはなかったが。
というか、今初めて気付いたのだが、この競技はどこに魔法を使えば・・・あ、そうだ。自分の身体に重ね掛けにならないようにひとつだけ掛けられるんだった。GKも魔法使って盾もってるし。
俺自身アシストボールは苦手だから、すぐにルールを忘れる。
九十九先輩を敢えて使い続ける沢渡会長。
サブとのメンバーチェンジもできたはずなのだが。サブメンバーを準備していなかったのか?
ま、俺が口出すことでもない。
なんか、どこか、段々とこのメンバーの応援に熱くなれない自分が大きくなりつつあった。
たぶん、九十九先輩たちから注意されたことを引きずっているのだと思う。
逍遥は全然気にしていないようだが。
上意下達、か。
上級生の言うことは絶対。下級生は命令に従うのみ。
それって学生の運動部では往々にして見受けられるものだとは思うけど、果たして、あるべき姿なんだろうか。
俺は第3Gで、あとはおさらばする人間だからいいけど、別に今だって先輩を敬う気持ちがあると思ってるから関係ないはずだけど・・・。
先輩方の試合中にこんなこと考えちゃあかん。考えちゃあかん。考えちゃあかんがな。
俺の思いはこの際別にして、ここは応援するべきだろ。
今日の紅薔薇は全てにおいて九十九先輩だけに関わらず、動きが鈍いように感じられた。
準決勝も決勝も、ディフェンスがうまく機能していないように思われた。
どちらの試合も決して相手が強いはずではないのに、点数を稼げないまま30分が過ぎ、PK戦に持ち込まれてしまった。
沢渡会長のキャッチなら安心して見ていられるのだが、さすがにPK戦2戦続けてはまずいかもしれない。
それでも、沢渡会長は常々“アシストボールの優勝はこの手でもぎ取るもの”と豪語して憚らない。
決勝のPK戦ではその言葉どおり、沢渡会長が力技で相手のボールを弾き飛ばし、辛くも優勝をもぎ取った。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
「あー、終わった―」
逍遥が大きく背伸びする。
「帰ろうか、海斗」
「そうだね」
宿舎への帰り道。ゆっくりとした足取りで俺たち2人は歩いていた。
先に口を開いたのは逍遥だった。
「今日の午後は散々な出来だったね。あんなんで勝ったとしてもW杯予選ですぐに負けちゃうよ」
「アシストボールでは皆、元気が無いように見えたな」
「個人技に頼りすぎた結果じゃない?あれじゃ僕と瀬戸さんを責める資格ないよね。やっぱりアシストボールはチームワークの競技だ」
「ディフェンスに問題あり、と感じたけど」
「皆が点を入れようとして動きがバラバラになったんだよ。一番まずい動きだったのは九十九先輩」
「おいおい、外で悪口いうと誰が聞いてるかわかんないから止めてくれ」
「海斗はホントにヘタレだなあ。どういう戦況だったかは別として、今日は優勝できたからいいけどさ」
「俺、途中でこないだの『上意下達』思い出した。W杯は学年別に競技があるからいいとして、薔薇6は学年関係なくチーム組むんだろ?先輩の戦術に異議唱えたらメンバー落ちするのかなーって。そんなんおかしくないか?」
「まあね、馬鹿馬鹿しいよ。僕は別に薔薇6出なくてもいいし」
「ああ、逍遥はGPSにエントリーされてるんだっけ。あんまり上層部批判してるとGPSのエントリー取り消されるぞ」
「いいよ、別に競技会なんて興味ないから」
俺は首を傾げつつ、その場に立ち止まった。
「自分の魔法がどれくらい周りに通用するか試したくないのか?」
逍遥も足を止める。
「どうかな、実戦で使えればそれでいいと思ってる」
「実戦?」
「この世界は平和そうに見えるけど、そうじゃない。不測の事態に陥った時、自分の魔法で敵を退けられればそれでいい。対人魔法は学校じゃ教えないからね」
「不測の事態ってなにさ?それに、対人魔法?」
「対人魔法はねえ、学校では教えないから知らない生徒がほとんどだけど。不測の事態は、色々あるさ。戦争とか」
「戦争?そんなの全然聞いてないよ」
逍遥は少しだけ微笑みを俺に返す。
「もしそうなれば、第3Gである海斗は元の世界に帰されるはずだから大丈夫」
「いや、そう言う問題じゃないだろ。俺がどうなるかより、皆がどうなるか心配だろうが」
「心配ないさ。全日本高校選手権、なぜ全国でやるか知ってる?どこに戦争の火種が出現してもいいように、なんだ。全国的に魔法技術を高めようというのが、この選手権を開催する側面的なオブジェクトというやつさ。当局は否定してるけどね」
「万が一にもそうなったら俺は残るよ、邪魔になるなら別としても」
「海斗、君の優しさは時に相手に付け込まれ火傷しかねない。充分に気をつけて」
「ところで、逍遥は何でそこまで知ってるんだ?」
「明日は僕らの試合だ。お互い頑張ろうじゃないか」
逍遥は俺の言葉には答えず話を逸らし、きりっとした顔で真っ直ぐ前を向き、速足で宿舎に向かい歩きだした。
もう、この話題はこれで終わり、と告げられたような気がして、俺も黙って逍遥の後を追うのだった。




