魔法W杯 全日本編 第36章
俺たちは一度宿舎で昼食を摂り、3階に上がった。
逍遥が、自分が泊まっている301の部屋で、601の様子を透視したいと言い出したのだ。
逍遥は少し意地悪そうな目つきで俺を見る。
「これで601に八雲がいたら笑っちゃうね」
「まさか。1年のサブごときが入れる部屋じゃないだろ」
「見て見ないとわかんないな、こればかりは」
「俺、前に透視した時会長に見つかったよ、大丈夫なの?」
「“とっておき”があるから」
「君の“とっておき”は、いくつあるんだ?」
「さあねえ」
事実、逍遥の魔法力は3年の先輩方を凌駕しているのではないかとさえ思う。
本来なら、来年は逍遥が生徒会に入り副会長の役目を任されるべきなのだろう。女性副会長は南園さんでほぼ決まりだから。
逍遥は生徒会に興味がないようだが、この魔法力とメンバーを統率する力、ひいては全体の最終決定を行う判断力を持ち合わせた品性は、この男を将来的に生徒会長に据えた方が良いのだと物語っている。
逍遥が生徒会に入らないのだとしたら、それは紅薔薇高校にとっての損失に繋がると思う。
沢渡会長は、誰を副会長に選ぶんだろう。
そんなことを考えながら、俺は隣で601を透視しようとしている逍遥に目を向ける。
鼻歌を歌いながら右手をくるくる回している逍遥。
くれぐれも、沢渡会長には見つかってくれるな、と俺は願っている。
しばらく、ふんふん、ほーと独り言を呟いてた逍遥が、ピタリと言葉を発しなくなった。
どうした。
沢渡会長にでも見つかったか。
その後、何故か挑戦的な目つきになった逍遥は、黙ったままじっと一点を見つめている。
何事かと聞こうとした俺の顔の前に右掌を当てた逍遥。何も聞くな、というサインだ。
俺は俺で、透視すればすぐに会長に見つかりそうなので、逍遥の部屋の中を観察していた。
俺の部屋とは違い、整頓されている。バッグも放り投げられておらず、ジャージ類もベッドの上に投げ出されていない。
ってか、俺の部屋が汚いだけか。それでも明に比べれば俺の部屋は綺麗なはずだ。
そういえば、明、今頃何処で何してるんだろう。
この頃全然会っていない。
PV会場にも姿を現していない。ロストラビリンスはデバイス関係ないと思うんだが。透視できるデバイスなんてあるのかな。
それとも、午後のマジックガンショットの調整があるのかな。
逍遥といるのも別に嫌じゃないけど、たまには幼馴染の顔も見たいもんだ。
しばらく息もせずに一点を見つめ続けていた逍遥が急に笑い出したので、俺は吃驚した。
「何かあったの?急に笑い出して。吃驚した」
「いやー、悪い悪い。いろんなものが見えたなと思って」
「何が見えたのさ」
逍遥は、目をくるくると見開き悪戯っぽい少年のような顔つきで俺の目を見る。
「知りたい?」
「そりゃもう」
「まず、君の幼馴染がいた」
「亜里沙?それとも明?」
「2人とも」
「なんでだ?逍遥は601の会話聞こえたの?何話してた?」
「会長が他のブレーンを退出させてまで話してた。声までは聞こえなかった」
「声を消す魔法なんてあるのか?」
「ないかな。たぶん、障壁を作る魔法だと思う。ほら、国分くんの家に行くときに僕が使っただろ、あれさ」
「“とっておき”か」
「そう。口元にも障壁が2重3重に巡らされてて、読唇術も使えなかった」
「あいつらが会長と懇意とは知らなかった」
「でなければ、直属で指揮系統があるのかもね」
「あいつらに何かさせるってこと?」
「うーん。どうだろう、1年の、それも第3Gのサポーターでしょ?もしかしたら、君が突然消えないように何か策を練ってるのかも」
結構、第3Gを下に見る傾向がある逍遥。
ま、仕方ないッちゃ仕方ないけど。亜里沙と明は俺のせいでこっちに来てるんだから、あまり馬鹿にしないでほしい。
で、突然黙ったのは話が聞こえるんじゃないかと耳を澄ませた行為だったわけか。
じゃあ、最後に笑ったのは?
これも透視した本人に聞くしかあるまい。
「最後、なんで笑ったのさ」
「ああ、八雲が入ってきたんだ、601に」
「八雲くんが?」
「皆さんでどうぞ、お裾分けです、って差し入れ持ってね」
「あれ、それって目上に対して使わない言葉じゃないの」
「お福分けならまだしもさ。あいつ、やっぱり馬鹿だ」
「すっかり生徒会メンバーにでもなったつもりでいるんじゃないか」
「ホント、馬鹿嫌いの沢渡会長が、すっかり籠絡されてるんだから」
この部屋で話すなら、いくらでも上級生の悪口言っていいよ。
どっちかっていうと、俺は先程の亜里沙たちの話の方が聞きたいんだけど。
でもここは逍遥に合わせることにした。なんでかな、こう、逍遥も怒ったら凄いような気がして。
「副会長狙うなら、沢渡会長には阿諛しとかないと」
「阿諛ってなんだっけ」
逍遥が人にモノを聞くのはとても珍しい。
俺は簡単な言葉を選んで説明する。
「相手にへつらうことさ。この場合、八雲くんが沢渡会長に媚びへつらってるだろ」
逍遥は再び目をくるくるさせる。
「そう言う意味なのか。初めて聞いた」
「で、その後は会長と八雲くん、何か話してんの」
「すぐ八雲を601から追い出した。ミーティングあるから、って。本当にミーティングがあるのかは謎だけど」
「じゃ、生徒会メンバーはまた部屋に入ったんだ」
「うん。入った。ポイント計算してたのは事実みたいだから」
601の話はそこで終わった。
逍遥は八雲くんのことを大嫌いだというのも、あらためて理解した。
うん、袖の下使うのは反則だろうと俺も思う。ずる賢いというか、なんというか。
そういえば、昨今袖の下を使って裏口入学などという話も聞かなくなったが、今でもあるのだろうか。
でもでも。
裏口入学がばれたら、子どもはもう学校にいけないだろ?恥ずかしくて。
そうなれば退学する。
退学時に何年生かは計算に入れないとしても、子どもの人生狂わせた馬鹿親ということになる。
やっぱり、裏口入学なんてするもんじゃない。
ぼーっと考えてる俺の耳を、逍遥が引っ張る。
「それじゃ、午後の部の応援に行きますか」
「岩泉くんはどうする?」
「今の状態では応援も無理なんじゃないか。さっき本人を元気づけはしたけど、沢渡会長は決定事項だと言ったんだから、僕らがどう足掻いても全日本における決定は覆らないと思う」
「じゃあ、本人が可哀想じゃないか。俺たちが嘘吐いたことになる」
「本人だってわかってるさ。それに、僕は八雲が入るくらいならもう一度会長に直訴するよ、八雲より岩泉くん入れてくれ、って」
「岩泉くん、また凹みやしないかな」
「それも含めて、努力という形で更生させるんだよ。これからは変な真似しないように」
「大丈夫かなあ」
「心配ない。彼は気付きを得たから。海斗はそう思わない?」
「思うけど、ちょっと心配なだけ」
「たぶん、努力を続けて更生したと見做されたら、まず薔薇6でスタメンないしはサブにエントリーされると思う。いや、W杯の予選かな。どちらかでエントリーされるはずだ」
「結局は本人次第ということか」
「そう。それだけ、彼の行った罪は重いということ。退学処分にならなかっただけでもありがたいと思わないと」
「そうだなあ。入間川先輩なんて生徒会室から追い出されてすぐに普通科に転科したみたいだし」
「転科といえば、国分くんも普通科に転科したそうだよ」
「え?まだ詳細を調べてもいないのに?」
「学校にとっては、薬物を摂取した学生がいるってだけで邪魔なんだよ。普通科に滑らせて退学を待つ。もう、一種の退学勧告さ。一部の強情な人間は普通科に通い続けるし、休学しながら無実を訴え続ける生徒もいるらしいけど」
「国分くんの性格から言って、退学?」
「うん、彼はメンタリティが弱いんだ。練習を見てて思ったよ」
「勿体無いなあ、あの魔法力は」
「岩泉くんと双璧を成すくらいだったからね。岩泉くんはなんだかんだでメンタル強いっていうか、よく普通科に転科させられなかったと思うよ」
「誰も被害に遭ってないからだろ?」
「それは大きい。もうあんな馬鹿げたことはしないだろうから、魔法科のままいられると思う」
正直、ショックを隠せなかった。
あんなに泣いてた国分くん。それを思うと、何とも言えない気持ちになる。
そのたびに、今、俺たちが何もできないことを痛感した。
閉会式が終わったら、国分くんに会った方がいいのだろうか。それとも、彼が嫌がるかもしれない。
神経質な性格が災いしているのか、悩み始めるとどこまでも悩む俺。
逍遥は、ドライというか冷たいというか。
PV会場に行こうとまた俺の右耳を引っ張る。
「いで、いでで・・・引っ張らないでくれよ、俺も行くから」
「よろしい。さ、ここを出よう」
301に鍵を掛け、俺たちは階下に降りる。
逍遥はフロントに鍵を預けると、エントランスにいた俺に向かって手を振った。
「お待たせ。さあ、午後の部はどうなるか、楽しみだな」
「少なくとも、優勝して欲しいって顔じゃないな」
「いやー、是非とも優勝して欲しいと願ってるよー」
逍遥は、たまに不気味な笑顔を見せる。
今日の逍遥、いつにも増して笑顔が不気味だ。何を考えている、逍遥!




