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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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魔法W杯 全日本編  第35章

時間も良いくらいになったのだろう。食堂には人が増えてきた。

「それだけで大丈夫なの?」

 そういいながら俺たちの前に立ったのは逍遥だった。

 自分は俺の前に席を取りながら、岩泉くんのトレーを見て、俺と同じフレーズを繰り返す逍遥。

「いつもはもっと食べてたじゃない。寮でも」

「うん・・・」

 岩泉くんは逍遥の顔を見ると、反射的に下を向いたようだった。


「それじゃプラチナチェイスのサブになれないから、もっと食べなよ」


 逍遥は結構な爆弾発言をかます。おいおい、大丈夫か?

「万が一スタメンに何かあったら、サブで加入するのは君なんだから」

 岩泉くんが顔を上げた。

「え?」

 逍遥は満面に笑みを湛え、岩泉くんを鼓舞するように語った。

「八雲なんかにメンバーに入られてたまるか。君は充分に反省してる。だから、僕は君を強く推薦するつもりでいる」

「そんなことできるの?会長が人選を決定するんでしょう」

「もちろん、スタメンがうまく機能すれば君に出場の機会はないかもしれない。でも、100%でない限り、サブは必要なんだ。さっきも言った通り、僕は君を強く推薦する。ね?海斗」


 俺に話しを振ってきたか。

逍遥は俺がリアル世界に戻ってしまいかねないことを知っている。だからこそ、岩泉くんにはいつでもメンバー入りできるくらいの体調でいて欲しいのだと思う。

俺は隣の岩泉くんの方に身体ごと向き直った。

「そうだね、君がいないと、サブは五月七日さんしかいなくなる。俺も逍遥も、八雲くんのメンバー入りには強く反対しているんだ」

「どうして?」

 逍遥は眉を吊り上げて、滔々(とうとう)とまくし立てた。

「彼の性格や、あの胸くそ悪いアピールを差し引いても、結局彼には実力がない。実力がない上に自分一人でメンバー全員をかき回す。自分が一番だと思っているんだよ、彼は。昔の君のようにね」


 おいおい。そこまで言っていいのか?

 俺にフォローしろってことなのね、はいはい、わかりました。

 おどおどしている岩泉くんに、静かに告げる俺。

「俺は君の過去をあまりよく知らない。人づてに聞いた程度。でも今の君は違うと思ってる。今の君はメンバー入りするのに必要な条件をクリアしてると思うよ」

 岩泉くんの目には涙が溜まり、今にも溢れそうだった。

「あんなことをした僕を許してくれるの」


 逍遥は吊り上げていた目を元に戻していた。

「もちろん、犯した罪は消えないから償わなくちゃいけない。でも、改心して二度としないなら、そこには更生の道が開かれるに値する」

 俺も逍遥の考えに賛成だった。

「俺も逍遥の言うとおりだと思う。罪を認めて償いながら、魔法という技を極めていくべきだ。君には才能があるんだから、こないだも言った通り、会長の前で全て話し謝罪することから始めればいい」

「才能なんて・・・」

 また、下を向く岩泉くん。


 俺は隣の岩泉くんを見ながら続けた。

「努力なしの才能なんてこの世に有り得ないだろう?逍遥だって、陰では努力してると思うし、俺だって今自分に出来得る限りの努力をしてるつもりだ。君は努力という形で更生していくべきじゃないのかな」

 逍遥も向かいで激しく頷いている。

「そうだよ、だからスタミナつけないと。今は無理でも昼。昼は無理でも夜。今日がダメでも明日。明日がダメでも明後日。すぐには無理でも近い未来。そうやって、前を向こうよ」


 ついに、岩泉くんの顔は涙でぐちゃぐちゃになった。

 何度も俺たちに謝りながら、頷く岩泉くん。


 逍遥も俺も言わなかったけど、沢渡会長の決定は覆らないかもしれない。八雲くんが見て見てアピールを続ける限り、会長は騙されたままかもしれない。その確率はかなり高い。

 でも、焦らず腐らず努力することで、岩泉くんはきっと更生できる。そうすれば、周囲から認めてもらえるようになるはず。

 もし俺がこの世界から急に消えても、みんなが困らないように・・・。


 気が付けば、逍遥は自分の朝食に手を付けていなかった。

「逍遥、君も落ち着いてそれ食べないと」

 俺の指摘に、逍遥も気が付いたようだった。

「ほんとだ。今何時?」

「8時」

「いけないっ、今日もこれから3年の応援に行かないと。ね、君らも行くだろう?」

 俺は軽く頷いた。

「俺は行くよ。岩泉くんはどうする?」

 

 岩泉くんは目を真っ赤にし、泣き腫らしていた。

「この顔で皆の前に出るのも恥ずかしいから、行くなら午後からにする」

 逍遥は手を止めながら頷く。

「そうか。出れるときには君もPVの会場に出ておいでよ」

「うん・・・。ホントにありがとう」


 岩泉くんはトレーを返却口に返すと、少し肩を落としながら前屈みになり食堂の出口に向かった。

 今日、岩泉くんがPV会場に現れるかはわからない。

 でも、これから彼が変わっていってほしいと心から願う俺がいた。


 岩泉くんがいなくなってから逍遥は急いで朝食を平らげ、俺と逍遥は県総合体育館内のPV会場へと向かった。

 試合は午前9時から。PV会場は今日もお祭り騒ぎだった。



 ロストラビリンス。

 この種目は紅薔薇高校が優勝候補の筆頭に数えられていたのだが、ベスト8を決める試合とベスト4を競い合う試合では、毎回30分ギリギリでの通過になっていた。

 生徒会役員はPV会場に来ていない。

 たぶん、601で透視をしているか、試合の様子がわかるモニターが設置されているのだと思う。俺たちの時もそういうことはなかったので、離話で話しているとは考えにくいが、やろうと思えばできるんだよね。沢渡会長。

 結局、準決勝で紅薔薇は敗退し、ベスト4止まりになった。

 試合を終えた3年生の表情は一様に硬く、悔しそうに下を向く先輩や涙を流す先輩もいた。優勝候補の筆頭だったからこそ、この結果を受け入れ難かったのだろう。


 俺と逍遥は一度会場を出て、歩いて宿舎へと向かう。

 午後の試合開始は1時。

 それまでに昼食を食べる予定だ。


 宿舎へと歩きながら、逍遥は首を傾げてばかりいた。

「なんでああいう戦法を採ったんだろう。あれじゃ迂闊うかつに前に進めないよ」

 実際に試合に参加した俺でも、戦法に疑問は残る。

「3人が3人ともバラバラなのが裏目に出たような気がする」

「だよね、その間に2人一緒の組は難無く迷路を抜けてしまった」

「こういうこともあるんだなあ。先輩たち、悔しいだろうなあ」

「生徒会役員たちは今頃慌てて順位計算をやり直してると思う」

「総合順位のこと?」

「そう。これで午後のマジックガンショットは必ず優勝しないと、ぶっちぎりの優勝から遠のく」

「ギリギリだって優勝すればいいのでは?」

「いや、総合優勝した学校は、秋に予定されてるW杯ワールドカップに出場しなけりゃならない。日本でギリギリの勝利じゃ、W杯は予選で負けちゃうよ」

「魔法W杯って毎年あるんだ」

「うん。今回のポイントで予選のグループが決まって、予選を勝ち抜いた国が決勝ステージに行く。予選の参加国は100以上あるから予選を勝ち抜くのも大変だけど。去年は予選敗退したし」

「あれ、そういえば、GPSって大会と被るんじゃないの」

「いや、GPSは10月から始まるけど、W杯は予選が7月で、決勝トーナメントは9月に行われるから」

「ん?薔薇6はいつ?」

「薔薇6は夏休み中の8月だから被らないよ」

「結構タイトなスケジュールなんだね」

「休めるのは4月と5月くらいかな。それだって試合がないというだけで。4月の入学時と5月の最初に魔法テストがあって、そこで各競技会のエントリー選手を決めるんだ」


 俺は目を丸くした。スゲー、タイト過ぎるスケジュール。

「まったく休む暇がないの?大変じゃないのかな、特に1年は」

「試合がないだけでも、4月5月は天国だよ」

「1年って、まだ魔法力が定まらないんじゃないの」

「魔法高校に入る輩は、小さい時から魔法を勉強してるから。魔法力もある程度は安定してる生徒がほとんど。君のように短期間で魔法が上達する例は稀有けうだね」

「第3Gは引き抜いてみないと実力がわからないんじゃないのか」

「そりゃそうだ。今年のように5月に1年生を引き抜いて、試合に出場させるのがまれなんだよ。普通は2年とか3年まで魔法練習したりするんだって」

「そうなんだ」

「君は異例中の異例というわけさ。沢渡会長直々に引き抜いたという噂だし」


 今度は俺が首を傾げる。

「直々?」

「生徒会で推薦して、最終的に会長が判断するのが通例。でも、今年は会長が直々に君を見つけて、生徒会で最終決定したらしい。とはいっても、会長に意見することはできない。この世界では、会長の権限が絶大なんだ。だから八雲のような阿呆が出てくるのさ」

「外で上級生の悪口言うなと脅されたぞ」

「怖くなんかないさ。僕は別に生徒会に入りたいわけでもないし」

「八雲くん、副会長の座でも狙ってんの?」

「たぶん。あいつが副会長なんて笑わせてくれるよ」


 ようやく俺は合点がいった。

 入間川先輩は魔法力に長けていたわけではなく、ごますりで前生徒会長に気に入られただけなんだろう。そして副会長に任命された。沢渡会長は、そんな入間川先輩を信用していなかった。で、競技会に出場する選手としてのエントリーを見送った。

 そんな沢渡会長が見つけてきたのが俺だったから、入間川先輩は俺に辛く当たったのだ。


「なーんだ」

「どうかしたの」


 俺は入間川先輩との確執をざっと逍遥に話した。

「なるほどね、あの副会長もそういう輩だったわけだ。来年は六月一日副会長が生徒会長になると思うから八雲のいいようにはできないと思うけど、今年度中に来年度の体制が決まるから、沢渡会長がどう動くかで変わってくるんだよ。情けないよね、八雲が生徒会に入る様じゃ」

「それ以上は僕らの部屋で語ろう。ここではマズイ」

「了解。君はよほど沢渡会長が怖いんだな」

「そりゃもう。蛇に睨まれたカエル状態」


 あははと笑う逍遥。

 俺からしてみれば、どうしてそんなに怖くないのか聞いてみたいほどだ。聞かないけど。

 聞いたところで俺の沢渡会長への畏怖が無くなるわけじゃない。

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