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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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魔法W杯 全日本編  第34章

やはり、あの視線は岩泉くんではなかった。彼は1人になるのが怖くて、食堂に顔を出せなかっただけだ。

 誰なんだろう。

 あの、俺の全身に絡みつくような、ぞくっとする視線。

 それも、2回も。


 それとも、2回とも俺の思い過ごしなのか。

 透視で何とかなるものなら何とかしたと思う、咄嗟とっさに。でも透視できるようなシチュエーションでもない。同じ空間に居るのだから。


 しかるに、あの目は、俺に恨みを持つような視線だった。

 なんだろう、やはり、第3Gを葬り去りたいのか。

 俺が原因でサブにも選ばれなかった生徒が俺を恨むならわかる。

 実際、少なくとも1人はいたはずだ。サブになり損ねた生徒が。

でも、あの食堂にはサブを含めた選手とサポーター、生徒会役員、事務局関係者しか参加してなかった。

 俺を恨むべき人間は、あそこにいるはずがなかったんだ。


 疲れた。

 このところ、俺の神経質細胞がまた活発化してきてるような気がする。

 そうだよ、岩泉くんには言わなかったけど、俺は強くもないし、ただ単に神経質なだけなんだ。

 亜里沙や明には昔から言われてた。海斗は神経質だ、って。

 仕方ないべよ、それが俺、八朔海斗って人間なんだから。


 こうしてると、またなぜなぜ時間が押し寄せてくる気配が蔓延中まんえんちゅう

 ここは素直に・・・寝るとするか。

 いつもより寝るのが早いけど、明日早く起きたらストレッチとジョギングでもしてくるさ。

 過去の俺には考えられなかったことだ。ストレッチとジョギングなんて。

 ただでさえ運動神経マイナスの男だったからな。


 眠りに就こうと部屋のライトを消した時だった。

 コンコン、コンコン。

 ドアをノックする音が聞こえる。

 こんな時間に誰だ?逍遥か譲司?それとも、亜里沙か明?


 ともかく、一度ライトを点けてベッドから起き上がった。

 ドアノブを引っ張って廊下を眺める。


 ・・・誰もいない・・・。


 止めてくれ、自慢じゃないが、俺は幽霊とかお化けのたぐいは大の苦手なんだ。

 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・。


 怖くて俺は、部屋のライトを点けたまま布団を被る。あのゾクリとするような視線が俺を縛っているわけでもない。

 身も心も疲れていたのだろう。

 幽霊が怖いとかほざきながらも、俺はすぐに眠りに就いた。


◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 翌朝。

 今日は5時に目が覚めた。

 

 今日は3年の競技2日目。俺たちは軽い調整だけで、今日も練習はない。

先輩たちが挑む競技は、ロストラビリンスとマジックガンショット。

 ロストラビリンスは3年の女子の先輩方が出場すると聞いた。やはり、優勝候補なのだという。

 マジックガンショットは、定禅寺先輩と斎田先輩、上杉先輩が出場する。こちらも何の心配もいらないだろう。何かアクシデントでもない限り、優勝という位置づけは揺るがない。


 俺は朝食を摂る前にジョギングに勤しもうと、パジャマ代わりの黒のジャージからお出かけ用ヘザーグレーのジャージに着替えた。

 お気に入りの黒いシューズを履いて、フロントに降りた。リアル世界から持ってきたやつだ。

鍵を預けようと思ったが、これは元々リアル世界にあった俺の部屋の鍵。フロントに預けたら戻ってこないような気がして、止めた。


 外に出て、空を見上げる。青い空。まだ早い時間なのに、遠くには白い入道雲の赤ちゃん雲がこれから大きくなるぞと告げている。


もう、夏がそこまで来ている。


 俺は宿舎を足早に出ると、5分ぐらい速足のウォーキングをしたのち、徐に走り出した。

 ホテルの周りを周回して、次に横浜山下公園の方に足を向ける。

 俺の走る速さはといえば、ゆっくりとウォーキングを楽しむ皆さんよりも少し速い程度。それ以上速くは無理だ。

 ここらが運動神経マイナスの男たる所以ゆえんでもある。

 

 汗をかくのは苦手だけど、何も考えずに走れるから、悩み事があるときにはちょっとした気分転換にもなる。昔だったら「ジョギング?やだよー」と思ったものだが、今は身体が慣れて、たまのジョギングを楽しむ自分がいた。

 継続は力なり。

 お蔭様で、デバイス2つを組み合わせれば飛行魔法で飛べる時間も以前より長くなっている。まあ、未だにひとっとびでは30分が限度だけど。


 まだ早い時間帯。

 横浜山下公園の中でも走っている人はいたけれど、俺は逍遥に言われたバングルなしの飛行魔法を試してみようと思った。

 右手に神経を集中させて、下から上に人さし指で線をなぞるように静かに動かす。

 すると、身体に揺らぎを感じた。

 しかし浮き上がるまででもない。


 授業で先生が言っていた言葉を思い出した。

 そうだ、助走付けてからジャンプして浮き上がるって言ってた。

 俺は少しダッシュで助走をつけてジャンプすると同時に右指を動かす。

 ダメだ。ジャンプするための助走と手の動きが合わない。


 何度か助走しながら試してみたが、上手くいかない。

 逍遥は魔法力があるからすんなり飛べるのだろうか。それとも練習の賜物たまものか。

 助走しての飛行が俺には合わないのか。


 俺は助走するのを止め、息を整えながら身体の力を抜く。

 そしてもう一度、立ったままで右手に力を込めた。

 身体に揺るぎを感じるとともに、地面から10cmほど浮き上がった。浮き上がったまま、もう一度逍遥のように右手で下から上に指で倣う。

 

 今度は1メートルほど浮き上がった。右へ左へ、前に後ろに、指を動かして浮き上がった身体を移動させた。

 狙い通りに身体が動く。


 よし。

 あとは、もっと高く飛ぶだけ。

 下から上に指をなぞると、3mほどまで浮き上がった。プラチナチェイスは地上5mほどの高さで行われるので、あと少し。

 何回か下から上に指を動かし続けると、5mほどまで届いた。

 その場で上下左右に動けることを確認し、俺は一旦地上に降りた。


 地上に降りてから、再度挑戦する。

 今度ははなから5mまで浮き上がることができた。もう少し。

国分くんの家に行った際には、逍遥は一度に地上10mほどまで浮き上がったから、俺も真似してみようと思った。


また地上に舞い降りる。

そして、今一度指を動かした。

今度は勢いが増し、一発で地上10mくらい浮き上がることに成功した。

空中で上下左右前後の動きを確認し、動きに無駄な力が入っていないことを再確認して、ゆっくりと地上に降りた。


 よっしゃ。

 成功。


 俺はもう一度浮き上がり宿舎を目指そうと思ったが、俺の場合、飛行魔法で飛んでいると下から見える。逍遥は“とっておき”の魔法で下から見えないようにしていたから2人とも無事に動けたけど、今の俺にはまだ無理のようだ。

 “とっておき”の魔法を、あとで逍遥に教わってから飛行魔法を試そうと思う。


 俺は来た道を引き返し、ゆっくりとしたジョギングで宿舎まで戻った。

 宿舎に戻ると、起き出してきた人たちが多かった。足早に303に入ると、スマホの文字は7時を指していた。

 もう、皆起きて食堂に向かっている頃だろう。

 俺は軽くシャワーを浴びて汗を流し、ジャージ姿で食堂へ向かった。

 

 宿舎にきたばかりの頃はバイキング形式の朝食もほとんど摂れなかった俺だが、この頃は、やっと真面まともな飯をセレクトできるようになっていた。

 とはいえ、今日も、パンとレタスサラダと野菜ジュースだけではあるけれど。

トレーを持って辺りを見回した。逍遥や譲司は、いない。自分で適当に席を選び、食堂入口が見えないところに座った。

 入口が見える席だと、どうしても出入りが気になって入り口を凝視してしまうから。

 あるよね、そういうこと。


 ゆっくりとパンをかじっていると、後ろから肩を叩かれた。

 誰だろうと振り返ると、そこには岩泉くんがトレーを持ちながら立っていた。

「おはよう、八朔くん。隣、いい?」

「おはよう、岩泉くん。どうぞ、空いてる」

 岩泉くんは最初にトレーをゆっくりとテーブルに置いて、自分は立ったまま辺りを見回す。

「今日は早いんだね、他のメンバーと一緒じゃないの?」

「朝早く目が覚めたから外に出ていたんだ。みんなもう着てるモノだとばかり思ってた」

「四月一日くんたちはもっと遅いよ。僕は皆と会わない時間帯を選んで食べに来ていたから・・・」

「そういえば、食堂で君を見たのは初日くらいだったかも」

「皆に合わせる顔が無くて」

「そう必死に考えることもないさ。要は、これから何をするかだよ。お互い、己の技を磨いていこう」

「うん・・・。本当に、君は強いね」


 俺は“そんなことはない”と口から出かけたが、声に出すのは止めた。

 岩泉くんは自分で壁を突き破らなければならない。俺が強そうに見えるのなら、真似ればいい。俺が岩泉くんにしてあげられるのは、ここまで。

1人で行動することが苦手な俺だけど、それ以上に仲間意識だけでいつも一緒につるんで歩く高校生は嫌いだった。嫌いというより、ホントは泉沢学院でやろうとしたができなかった、の誤りだな。

 事実、中学までは亜里沙や明とつるんでいたわけだし。


 岩泉くんは食欲もないのか、トレーの上には野菜ジュースだけ。

 さすがに心配になる。

「それだけで大丈夫?」

 俺も誰かに言われたような気がするフレーズ。

 岩泉くんは力なく頷く。

「食欲が湧かないんだ。こっちに来てから」

「そうか。ああしろこうしろとは言えないけど、身体を調子のいい状態にしておくことは大事だと思うから、食べられるときは食べなよ。お菓子でもなんでもいいからさ」

「ありがとう、心配してくれるのは君だけだ」

「そんなことないよ。みんな、君のトレー見たら同じこと言うと思うよ」

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