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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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魔法W杯 全日本編  第31章

身体はベッドにあるものの、心が疲れすぎて眠るのに時間がかかった。

 枕元の時計を見ると、午前1時。

 明日から3日間は3年の先輩たちの試合だから、いくらかの寝坊は許されるだろう。


 それにしても。

 やはり俺はここの世界に相応しくないと思い知らされた。

 何が嫌かって、俺は誰かと比べられるのが一番嫌だ。自己肯定感が低いから。

 嘘をつく奴や媚を売る奴も嫌いだが、それはそれで、見なければ済む。

 でも、俺を誰かと比べたり、ラインを引いて俺が上か下かを論ずる態度を見るとやる気が無くなる。

 何かに似ている・・・ああ、そうだよ。両親が偏差値を基準に受験する高校を決めた時と同じだ。


 もう、こんなこと辞めたい。

 リアル世界に帰って母さんの小言を毎日のように聞きながら泉沢学院にでも行こうか。

 今ならまだギリで留年しなくて済むかもしれない。留年したら・・・どうしようかな。


 そうだ。

 帰ろう。

 大丈夫、俺一人いなくたって、岩泉くんがいる。彼がもしダメでも五月七日さんがいる。誰でもできる遊撃なら、こちらの世界のみんなだって困ることはない。


 そうとなれば行動は早い方がいい。皆が起きてくる前に、姿を消そう。

 沢渡会長なら、俺をリアル世界に戻す魔法だって知っているはずだ。あの人が俺を連れてきたんだから。


 沢渡会長は今何処にいるんだろう。もう話し合いは終わったんだろうか。 

 右手人さし指に力を込めて、501に向けてくるりと円を描く。

 どうやら、沢渡会長はまだ帰っていないようだった。


 まだ601か。

 なるべくみんなと顔を合わせたくはないのだが、善は急げという言葉もある。

 そう。この場合の『善』は、俺がここからいなくなることだ。

 沢渡会長がいるかどうか見るために、601に向けて円を描いた俺。

 午前1時を過ぎたというのに、まだ話し合いは続けられていたようだった。

 みんないるのか。めんどくさい。

 

 と。

「どうした、八朔」

 沢渡会長の声が聞こえてきた。

 

 えっ?

 会長、俺が透視してるのわかってるの?

「ここまで透視できるとは大したものだ」

「あ、あの・・・」

「先程のことを気にしているのか」

「はい・・・」

「八雲はプラチナチェイスに出さない。四月一日にへそを曲げられたのでは困るからな」

「そうですか」

「他に何かあったか」


 俺は沢渡会長が怖い。

 いざとなると、言いたいことが言えないでいた。

「あの・・・実は・・・」

「八雲と比べて済まなかった。お前の一番嫌いなことだったろう。お前は自己肯定できない性質たちだからな」

 

 本質を突かれて、俺はどうしようもなく驚いた。俺の声は、1オクターブ低くなった。

「どうしてご存じなのですか」

「自己肯定できない。でもプライドは高い。それらを他人に言われることを何よりも嫌う、といったところか」


 俺は半ば絶句していた。実は、全て当たっている。どうして俺の心の中までわかるんだ?この人は。

「大したことではない。お前が来る前に簡単な調査をしただけだ。とにかく、済まなかった」


 ここまで言われて、生徒会長直々に謝られて、リアル世界に帰りたいと即座には言えなかった。

「お時間頂戴し申し訳ありませんでした。失礼します」

「よく休め」


 また、耳鳴りがする。

 沢渡会長の声は、耳鳴りのキーンという音にかき消され、透視していたはずの601も消えた。

 透視して魔法力を使い果たしたのか、俺は知らないうちに眠り込んでいた。


◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇


 目覚ましの音がうるさい。

 どこで鳴っているんだ。

 枕元にあるはずの時計を、両手を広げて探すが、すぐには見つからなかった。

 頭の上に手をやると、時計があった。

 俺はようやくアラームを止めて、ゆっくりと目を開けた。


 自分の部屋の天井ではない。

俺はまだ、こちらの世界にいた。


 ああ、そうだ。

 沢渡会長に言いそびれたのだ。『リアル世界に帰りたい』と。


 今日から3年生の試合が始まる。

 俺は、昨日の出来事があるまでは、先輩方の応援に行こうと思っていた。

 でも今は応援にすら行く気になれない。

重い腰を上げて応援に行くか、ここでこうしているか、リアル世界に戻りたいと伝えるか。

俺にとっては3択ではなく、2択だった。


 ドアをノックする音が聞こえる。

 誰なのかわからない。透視しようかとも思ったが、魔法を使うのが面倒だった。

「おはよう、八朔くん。まだ寝てた?」

 声の主は四月一日くんだった。


 寝たふりをしようか、このままベッドから起き上がろうか。

 でも、四月一日くんは魔法で透視して、俺が目を覚ましていることに勘付くだろう。

 嘘つきは嫌い・・・。

 昨夜の四月一日くんの言葉を思い出した。


 起きよう。

 嘘つきのまま、ここを去りたくはない。

 昨夜はジャージ姿のまま寝てしまったらしくヨレヨレのジャージ姿ではあったが、俺はドアに向かって歩き出す。

 四月一日くんはいつもの爽やか少年に戻っていた。

「やあ、おはよう。昨夜は眠れたかい」


 俺は無理矢理声を1オクターブ上げて元気少年を演じた。これだって、ある意味嘘なのかもしれないが。

「疲れが出たのかな、この格好のままベッドに直行したよ」

「ごめん、昨夜引っ張り回したから」

「大丈夫、気にしないでいいよ。ただ、この格好で下に降りるのは恥ずかしいから、最初に食堂で食べてて」

「OK。僕もユニフォームに着替えて食堂に行くよ」


 四月一日くんを部屋に戻らせたあと、仕方なく、部屋の窓際に掛けてある紅薔薇高校のユニフォームに着替えることにした。

 もしかしたら、今日で終わりになるかもしれない、このユニフォーム。

 大事に扱わなければ。


 ゆっくりと時間を取りながら着替えに入る。生成り色のシャツを着てパンツに脚を通してからノーカラーのジャケットを羽織り、ネクタイを締める。ネクタイはよほど華美な物でない限り、自由にセレクトできる紅薔薇高校。

 今日俺は、藍色とオフホワイトのストライプ柄をセレクトした。水浅葱色の上衣に良く似合っているような気がして。

 

 俺はわざと時間をずらすように、部屋を出るのを少し遅らせた。でも、透視術を使えばみなバレバレだ。

 そうだ。姑息な手は使わず、堂々としなければ。

 早歩きで食堂に向かう。

 四月一日くんが食堂の窓際に陣取って、俺に手を振っている。


 細かいところで傷つき、現在激オコ中な俺なわけだが、反省点は自分の中にもあるような気がしてきた。

 言いたいことがあるなら、自分の言葉ではっきり言えばいい。その相手が先輩であれば躊躇もするところだろうが、同期なら遠慮はいらない。

 亜里沙や明に話しかけるように、普段語で話せばいい。


 この時点で、リアル世界に戻るという選択肢はなぜか消えていた、


「お待たせ」

 四月一日くんは目を見張ったような、不思議な物を見ていると言った風情で俺の顔を見ている。

「八朔くん、なんかあった?イメージがいつもと違う」

「変わんないよ。それよりさ、俺のことは『海斗』でいいよ。普段から亜里沙や明はそう呼んでるし」

「あ、八朔くんの地が出た」

「だから、海斗」

「ごめんごめん。僕のことも『逍遥』で構わない」

「OK。逍遥」

「だいぶイメージが変わるよねえ、名前で呼ぶと」

「それが俺の地ずらだからさ。そういえば、栗花落くんや他のプラチナチェイスメンバーはどこ?」

「向こうにいるよ、僕たちより早く着たみたい」

「あとで集まるんだろ?」

「うん、集まって攻撃耐性の話をしないと。そうやって集まれば、八雲を入れたい会長に対抗できるかもしれないし」

 俺はにやりと口元を緩め、逍遥の目をじっくりと見た。

「メンバーのことなら大丈夫。八雲くんは外すってさ。あのあと会長と話したんだ。逍遥に鼻曲げられたくないから止める、って言ってたぞ」

「あの後行ったの?」

「いいや、601を透視したら、会長が話しかけてきた。会長の魔法力、すごすぎ」

「え?601を透視できたの?」

「人がいるいない程度だけど」

「3階から6階だろ?すごいじゃない」

「そうなのか?でも、昨日会長は俺が八雲くんより実力がないって言ってた」

 逍遥は突然立ち上がった。

「そんなこと無い!海斗の力は本物だよ!」

 余りに目立つ。俺は逍遥を座らせた。

「おいおい、座ってくれよ。逍遥だって、万が一八雲くんが入ったら遊撃しかやらせないって暴言吐いた。俺も遊撃なのに」

「ごめん、あの時はすっかり頭に血が上ってしまって。遊撃は運動量が多いから実際には大変なんだけど、あいつのことだ、チェイサーやりたいって会長に泣きつくんじゃないかと思って」

「彼がいくら泣きついても、逍遥には勝てないってさ。大丈夫だよ、会長は嘘をつく人じゃない。ただ、少し後輩を見る目がないだけで」


「誰が人を見る目がないって?」

 俺の後ろで声がする。振り向こうとすると、両耳を後ろから押さえられ身動きが取れなくなった。仕方なく、目前にいる逍遥にアイコンタクトで誰か教えてくれるように頼む。

 逍遥が立ち上がり、俺の後ろにいる人たちに挨拶した。

「沢渡会長、勅使河原先輩、九十九先輩、おはようございます。今日はお三方でラナウェイに出場ですか?皆で応援に行きたいところですが、ギャラリーが認められていないのでパブリックビューイングの前で応援させていただきます」


 逍遥。ナイスフォロー。


 なるほど。3年の先輩方がいたか。

 俺の耳を掴んでいるのはたぶん勅使河原先輩で、さっき喋ったのは九十九先輩だ。沢渡会長はこういう時、動く人ではないだろう。


 勅使河原先輩が、俺の耳にそっと口を近づけて他の連中に聞こえないように囁いた。

「何を言いたいか分るけど、場所を考えろ。自分の部屋でいくらでも話せばいい」

 俺は前を向いたまま動けない。逍遥は頭を下げながら勅使河原先輩たちに謝った。

「申し訳ありません、口が過ぎました」

 九十九先輩の声が、また後ろから聞こえた。

「今、ここには紅薔薇しかいないからまだいいが、これがW杯予選や決勝T、薔薇6になると各校がホテルで一緒になることがある。そのときに情報戦が展開される。少なくとも、今の会話では相手に情報が漏れるぞ。それに加えて、紅薔薇は上意下達じょういかたつを徹底している。簡単にいえば、上級生に従わない下級生は各大会のエントリーの対象外になるということだ」

 

 俺にはあまり関係のないことだが、逍遥にとっては違う。これからが大事だ。1年生のうちから先輩に目をつけられたのでは困るだろう。

 俺たちはもう一度、謝ることを試みた。

「気が付かずに、本当に失礼いたしました」

 すると、沢渡会長が他の先輩たちに声を掛けるのが聞こえた。

「許してやれ、勅使河原、九十九」

「会長。いいんですか。礼儀を知らないままでは示しがつきません」

「あとで事情は説明する。今はこの2人を解放しよう」


 やはり、3年の先輩方は優しそうでいて、怖い。

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