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異世界にて、我、最強を目指す。  作者: たま ささみ
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魔法W杯 全日本編  第3章

講堂らしきところに集まった生徒は、300人ほどいると思う。

 1学年に換算すると100人。

 泉沢学院よりは少ないけど、ま、いいところだろう。

 

 ところで俺はあの本をきちんと読み切っていなかったので、これから何が起こるのか、さっぱりはっきりわからない。

 隣にいるやつに声を掛けて聞いたら馬鹿にされそうな気がして、そのまま突っ立っていた。


 学校の教師たちが次々と講堂らしきこの場所に集まってくる。

 驚いたことに、登壇して発言する教師もおらず、司会進行する教師の姿もなく、もちろん校長の長話もない。


 最初に登壇したのは、体格が良い男子生徒と、ゆるふわ髪の女子生徒。

この二人は同じ水浅葱の制服を着ていた。こんな色の制服は、市内では見たことがない。

 講堂の中でも、同じ色味の制服を着た生徒が大勢を占めたが、所々に、俺みたいに違う制服を来た人がいた。


「これより魔法W杯全日本高校選手権に参加する方々を紹介します。名前を呼ばれた方は、登壇願います」

 ゆるふわガールは、少々高めのキーで、とても聞きやすい声をしていた。

「1年。瀬戸綾乃(せとあやの)さん、南園遥(みなみそのはるか)さん、四月一日逍遥(わたぬきしょうよう)くん、国分龍之介(こくぶりゅうのすけ)くん。最後に、八朔海斗(ほずみかいと)くん」


 

 自分には関係のない世界だし、関係ないイベントだし、ほとんど聞いていなかった俺。

 ただ、自分の名前を呼ばれたのが、耳の鼓膜を通して脳に行き渡った。


 ・・・魔法W杯全日本高校選手権、参加?・・・


 俺がっ?

 何かの間違いじゃないの?

 ああ、そうだよ、これは夢なんだ。夢だから自分も目立ちたくてそういうストーリーになるんだよ。 

 そうさ、太陽が地球の周りを回り始めたに違いない。


 だから、俺はそのまま突っ立っているだけだった。

 そしたら、周囲から声を掛けられた。

八朔(ほずみ)くん、呼ばれたよ」

「登壇しないと」

「早く早く」


 ゆるふわ女子の可愛らしい声が、また講堂内に響く。

八朔海斗(ほずみかいと)くん、登壇してください」


 俺は完全にビビった。

 魔法W杯?

 自慢じゃないが、魔法なんて使えない。

 それも、全日本高校選手権?

 この人たちは何を言っているんだ?


 余りのことに動揺して、足が震える。


八朔(ほずみ)、登壇しろ」

 マイクを通して、体格のいい男子が俺を呼ぶ。


「は、はい・・・」


 これはきっと、何かの間違いかもしれない、そうだ、間違いだ、間違いであってくれ・・・。


 俺はゆっくりとした足取りで前に歩き出すと、壇上に上がるため、舞台脇の階段を上った。

 足が震えていたので、一度コケそうになった。

 それでも、300人の前でコケるのはカッコ悪い。

 何とか、5~6段ほどの階段を上りきった。


 300人が俺一人を見つめているような気がして、気恥ずかしくなる。

 いったい、どうしたらいいんだろう。


 ゆるふわ女子が俺に近づいてくる。

 そして小声で告げた。

「あとでミーティング室へ」


 極度に緊張しているはずなのに、何も考えられないはずなのに、口から言葉がついて出た。

「ミーティング室はどこですか」

 ゆるふわ女子はにこっとお茶目に笑った。

「その時が来たら、私についてきてください」


 壇上には、15名の選手と、2~3人の執行部らしき人たちだけが見える。

 多分、壇上に上がった生徒の中で、俺だけは顔を真っ赤にしてものすごくカッコ悪かったと思う。

 みんなが自分の方だけを見ているような気がして、早くこの講堂イベントが終わってほしかった。

 登壇してからの状況は、ミーティングのことを除いて、本当に何も覚えていない。

 それだけ緊張していたのだと思う。

 生徒主体による講堂イベントは思ったより長くて、俺の足は震えっぱなしだった。


 

「さ、行きましょうか」

 ゆるふわ女子に声を掛けられて、ようやく講堂イベントが終了したのだと知った。

 なんともカッコ悪い限りだ。

 今からミーティング室に行くと言う。

 何をするんだろう。


 その前に、自分が選ばれるのはおかしいと伝えなければ。

 魔法など使えないと話さなければ。


「あ、あの」

「はい?」

 ゆるふわ女子に後ろから声を掛ける。

「何でしょう」

「あの、俺・・・」

「ミーティング室でお聞きしますね。少しだけお待ちください」


 そしてそのまま、ゆるふわ女子は振り返ることもなく、どこかへと導く。

 何回も曲がり、階段を下り一旦校舎を出てまた入り直し、階段を上って行く。

どうやらミーティング室は、講堂よりも随分と離れた場所にあるらしい。

さすがに、寮とやらに戻るとき、俺は絶対校舎を出られず迷子になると思った。


 そうこうしながら、どうやら、ミーティング室についたようだった。急に、ゆるふわ女子が歩みを止めたので、俺はぶつかりそうになってしまった。

 ゆるふわ女子がとある部屋のドアノブに手をかけた。

「どうぞ、お入りください」

「は、はい」

 これから何が始まるのかと思うと、また緊張してくる。

 下を向いていたかったが、断らなければいけない案件だから、まっすぐ前を見ることにした。

 

 ミーティング室には、男女合わせて5名ほどが座っていた。

「ようこそ、八朔(ほずみ)くん」

 さきほどの体格良い男子が笑みを浮かべる。

 怖い。

「君はこちらの世界が分らないから、びっくりしたことだろう」

「こちらの世界?」

「そうだ、君の元いた世界と、こちらは背中合わせの世界だ」

 俺は半信半疑だった。いや、100%疑ってかかる。これっぽちも信じちゃいない。

 だって、そんなことあるわけがない。

「そんな世界があるんですか」

「無理に信じなくてもいい。君がこのイベントに最適だったから来てもらった、それだけだ」


 ますます頭が混乱してくる。

 頭の中が一般にいうところでの、星で満たされそうな気分になってきた。


 皆から何か言われる前に、言ってしまわないと。

「あの、お、いえ、僕は魔法など使えません。この大役には最適どころか不向きです」

「皆、来たばかりの頃はそういう。自分の『可能性を否定する』。皆、色々な可能性を秘めているというのに」

「皆、とは?」

「君のように異世界からきた人々は、そう口にするのだ」

「異世界から?そういうことができるんですか」

「できる」

 

 女子生徒がコーヒーを準備すると、皆に渡して歩く。

 俺にも座ってくれと言うのだが、年上らしき先輩方を前に座れるほど、俺の心臓は強くない。


 ゆるふわ女子が皆の紹介をしてくれた。

 時計回りに、今発言した体格良い男子は沢渡剛(さわたりごう)3年。生徒会長。

 次に、ちょっといけ好かない顔をした男子が入間川準(いるまがわひとし)2年。生徒会副会長。

 次に並んでいた男子は、好意的に考えているようで、笑顔が絶えない。弥皇広夢(みかみひろむ)3年。企画広報部長。

 次は女子。ゆるふわ女子に負けない程、可愛い。南園遥(みなみそのはるか)1年、生徒会書記。

 最後はゆるふわ女子。三枝美優(さえぐさみゆう)2年、生徒会副会長。


 こんなところであらぬ発見をする俺も俺だが、南園さんと三枝さんは、推定Fカップ。女性の胸を計る眼だけは自信がある。それでもって可愛いのだから、言うことなしだ。


 っと、そんなことを考えている場合じゃない。

 

 沢渡会長がざっと説明する。

 紅薔薇高校では、異世界からきた生徒を第3Gグループと呼んでいる。

 俺が見た本が転移のきっかけになるそうだが、力の無いものは、いくら本を読んで行きたいと願い騒いだところで、こちらに渡ってくることはできないのだそうだ。


 何かしら得意分野でもあればそちら系で魔法に適した素地でもあるんだろうが、俺は運動神経マイナスときている。頭脳だって、勉強しなけりゃすぐに成績が落ちる普通の高校生だ。


 なんでも、魔法W杯全日本高校選手権総合優勝校は、日本代表として、W杯ワールドカップに進める。それゆえに、優勝をかけた戦いは熾烈を極めるという。


 思い出したように、沢渡会長は自然な笑みを漏らした。

「君に良い知らせがある。第3Gのサポート役として、山桜亜里沙くんと長谷部(とおる)くんが君の面倒を見てくれることになっている」

  

 はあ?

 

 驚いたなんてものじゃない。

 あいつら、学校サボって大丈夫か。てか、なんでこの世界に入って来られる。

 そんな疑問を持ちながら眉間にしわを寄せていると、ドアの向こうから、ひょっこりと顔を出した泉沢学院桜ヶ丘高の2人。

「はろ~」

 亜里沙の緊張感の欠片もない挨拶に、俺は辟易とする。

「お前ら、学校大丈夫なのか」

「大丈夫、大丈夫」

「サポートって何やんだよ」

「ひ・み・つ」

「怪しいな」

「俺たちもまだ何も聞いてないから」


 脇から口を挟む明。いつもの亜里沙、(とおる)のパターン。どうやら、偽物ではないらしい。


 桜ヶ丘高校は普段私服なので、2人は紅薔薇学園の水浅葱の制服を着用していた。

 亜里沙、背が伸びたかも。胸は間違いなくGサイズに移行したと思われる。スタイルはいい。これで顔が好みだったら幼馴染との恋もあり得るんだが。

 (とおる)は身長180cmですらりとしたイケメン。170cmそこそこの俺と歩いていると、女子はほとんどが(とおる)を指さし目がハートマークになる。


 その時、はっとした。

 こいつら二人なら、運動神経マイナスなのを知っているはず。そうだよ、こいつらに真実を話してもらえば、魔法の大会に出なくても済むじゃないか。

 チラチラと二人を見ながら、アイコンタクトでサインを出す。

(俺の運動音痴(うんどうおんち)をここで披露してくれ)


 なのに、二人とも俺を見ようともしない。

 結局、魔法を使えないことを5人の生徒会役員らに力説できずに終わってしまった。


 本当に、大丈夫なのか、俺。


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