魔法W杯 全日本編 第28章
試合時刻が迫ってきた。
今回の相手は、加計高校。近年全体優勝からは遠ざかっているが、新人戦では滅法強いらしい。毎年、それなりの成績を修めているのだと栗花落くんが教えてくれた。
俺はストレッチでアキレス腱を伸ばしながら、加計高校の生徒を見る。
ひとり、とんでもなくデカいのがいる。推定、195cm。本当に1年生か?
どちらかといえば小柄な方がラナウェイには向いていると思うのだが。大柄な身体は、隠れるのに不向きではないかと考えていた俺。
でも、栗花落くんの例もあるし、一概には言えないのかもしれない。
四月一日くんは俺より少し背丈が大きいくらい。たぶん、175cm前後だろう。
試合前にそういう雑談を考える俺って、どうなんだ?
緊張が無いと言えば嘘になるが、もう、ここまで来たら自分の力の全てを出し尽くすしかない。
緊張してるのに、皆、俺の中身をわかってくれない。
そうこう考えているうちに、ピストル音の号令とともに、今日初めての試合開始。
今日の俺は、緊張のせいかマルチミラーが思ったように活用できず、魔法陣を作るタイミングもいつもより遅かった。
走りながら敵を探すのだが、敵もさるもの、うまい具合に出て来てくれるわけもない。
俺はあのデカい1年生に見つかってしまい、建物の陰に隠れるのがやっとだった。それでも、俺たちの様子を見た四月一日くんが、相手の足下目掛けてショットガンを発射する。
栗花落くんも、案外足が速い。敵の後ろを取り、2人も倒した。
敵チーム全員を倒した瞬間、号笛が鳴る。
幸先の良いスタートを切った俺たち。
俺自身は、一昨日のマジックガンショットよりも疲れが半端ない。
向こうが走ってくるスピードが速すぎた。撃たれそうになって固まってしまった俺を助けてくれたのは四月一日くんだった。
栗花落くんは見事に後陣の役目を果たした。
デバイスの使い方にしても、元々のセンスなのだと思う。
安心して見ていられた。
一番ヒヤヒヤしたのは、やはり俺自身だった。マルチミラーを巧く操れず相手を視認することで精一杯。
本来なら自分に魔法陣をかけることが有用な役割のデバイスだと言うのに。
大いに反省した。
でも、これでラナウェイは1勝。
ベスト8に進んだ。
俺は汗を拭きながら日程表を見た。
2時間後に、ベスト4をかけて、稲尾高校との試合が始まる。
◇・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・◇
俺たち3人は、身体を休めるためアリーナの中にある休憩所に向かった。
四月一日くんは、生徒会役員部屋に行くといって姿を消した。
そこに、亜里沙と明が姿を現した。
「はあい、海斗。栗花落くんも久しぶり」
「やあ、山桜さんに長谷部くん」
俺はこいつらが栗花落くんと知り合いなのかと驚いたんだが、考えてみれば、魔法技術科で一緒のクラスなのだろう。
いや、魔法技術科のクラスは一つしかないのだから、栗花落くんとはクラスメイトのはずだ。
亜里沙は毎度のように痛いところを突いてくる。
「折角のマルチミラー、使いこなせてなかったじゃない、海斗」
明も神妙な顔をして俺に近づいてきた。
「緊張から、どうしても視認することにだけ使いがちだとは思うけど、魔法陣を作ることはとても重要なんだ。魔法陣の中ではデバイスによる相手の魔法が効かない。魔法陣だけは重ね掛けすると角逐を起こして魔法がサボタージしてしまうから」
え、魔法でも怠けたりすんの?
栗花落くんもうなずき、俺にアドバイスしてくれる。
どっちがサブでどっちがスタメンなんだかわからない・・・。
「魔法陣は、円柱のようなものだと思えばいい。お互いに魔法陣を組んでいる時は角逐を避けるためにどちらが最初に走り出すことになる。そのタイミング。最初に走り出せばもちろんショットガンが飛んでくるけど、瞬間的に相手の手を狙えばショットガンを撃ち落とすことができるよね。無論、別の誰かが近くに来ている時には、相手2人に自分を視認させて、二人とも倒すこともできる」
そう言えば、勅使河原先輩と九十九先輩の試技の時は、九十九先輩が手を撃たれてショットガンを落していた。
俺は少し自信を失くして項垂れる。
「全然巧くいかなかったよ、反省だ」
「初めての試合だから、緊張もするさ。デバイス2つを同時操作するのは、かなり難しい。僕は元々魔法がある世界に生きてきたからだけど、八朔くんの世界には、魔法がないんだろう?」
「そうなんだよ、丸っきりの素人というわけさ、な、亜里沙、明」
栗花落くんが「おや?」とでも言いたげに、首を傾げると不思議そうな顔つきで押し黙った。
そして栗花落くんはその顔つきのまま、亜里沙や明の方に目をやった。
「ねえ、君たち・・・」
栗花落くんに話しかけられた亜里沙がさささと移動し、俺の横に張り付いて自分の左腕を俺の右腕に絡ませてくる。
「でもまあ、ベスト8じゃない。今度の相手は稲尾高校なんでしょ。日学大付属だし、結構強いって噂よ」
亜里沙にしては珍しい行動だと思いつつ、俺は次の試合に興味が移った。
「ああ、聞いたような気がする」
栗花落くんも、いつもの真面目な栗花落くんに戻った。
「あそこは本当にゲリラ戦が得意でね、デバイスの操作性能を上げていかないと」
「次の試合まで2時間か。マルチミラーとショットガンの操作をもう一度確認しておくとするか」
「そうそう、その意気よ、海斗」
「俺たちも一段落したら、といいたいところだけど、ラナウェイはギャラリー入れないんだよなあ、残念」
亜里沙と明は、連れ立ってサポーター室に向かうといいながら走っていった。
栗花落くんがくすっと笑う。
「あの二人はいつも一緒だ」
「そりゃもう。向こうの世界じゃ中学卒業まで3人一緒に過ごしてたくらいだし、あいつら同じ高校に入学したから。僕だけ別の高校にいったんだ」
目をくるくると回した栗花落くんが、わははと笑った。
「なんだ、そういうことだったのか」
そういうこと?
どういうこと?
だがしかし。俺にはやらなくてはならないデバイスの操作確認がある。
そう深く考えることもなく、俺は栗花落くんと一緒にお互いに操作確認を続けていた。
そこに四月一日くんが戻ってきた。
紅薔薇高校生徒会から、何か伝達事項があるらしい。
「2人とも、ああ、やってたね。次の日学大稲尾高校はゲリラ戦が得意だからデバイスの同時操作の精度をあげるよう仰せつかってきたんだ」
「やっぱり?」
俺は先程の試合で巧く使いこなせなかったことを悔やむ。
四月一日くんはにやりと口元をあげて左手を振る。
「大丈夫だよ、さっきので実戦は一度経験しただろう?あとは今までの練習の成果を出すだけだ」
俺はほんの少し、冷や汗が出た。




